第23話 ヘイナスの将達
暗い空間
縛られてる自分
周りには下品に笑う男達
ああ……今日も始まるのか……
・・・・・・・・
ーーーサルリラ視点ーーー
「ん~?」
朝日がちらつき目を覚ますっす
「朝っすか……ふぁ~」
えっと……今日の予定は……あっ
「今日は休みだったっす……」
もうちょっと寝れば良かったすね……
「まあ起きちゃったのは仕方ないっす!」
あっしはベッドから降りる
「ん~?おっ!やってるっすね!」
そして窓から外を見る
外ではメイドさん達が走り回っている
……あっしはヘイナスの城の部屋の1つに住んでるっす
小隊長以上からは個室で軍団長は屋敷が与えられるんすけど
あっしは屋敷で住むのとか慣れないっすからね!個室にしてもらったっす!
まあお風呂が付いてる特別仕様っすけどね!
よし!シャワーを浴びてさっぱりするっす!
・・・・・・・
ーーーヘルド視点ーーー
「あ~」
俺はヘイナスの城を歩いている
向かっているのはサルリラの部屋だ
サルリラは今日は休みだが廻ってきた書類に不備があってな
本来なら部下の兵に持って行かせるのだが……今回は俺が直接行った方が早いと判断した
「せっかくの休日に悪いと思うがな……」
しかし今はカイト様はヤークレンに行っている
レリスも忙しそうだ……だからこういうのは早めに処理しないとな
「っと、ここだったな」
俺はサルリラの部屋に着く
「お~い!サルリラ!起きているかぁ?」
ドンドン!と扉を叩く
『あ、旦那っすか?ちょっと待つっす!』
なんだ?声がこもってるな?
ガチャ
部屋の中で扉を開く音
トイレか?
ガチャ
部屋の扉が開いた
「どうしたっすか?」
サルリラが出てきた……頭をタオルで拭きながら
……裸で
「……サルリラ、風呂上がりだったか?」
「そうっす!」
「そうか、悪かったな、待ってるから服を着ろ」
「あっしは問題ないっすよ?」
こいつは……羞恥心は無いのか?
「言い方を変える、俺が気にするから服を着ろ」
「わかったっす!」
そう言ってサルリラは部屋の奥に進む
……扉を閉めろよ
俺が閉めようとしたら
「旦那!」
「んっ?」
「セクシーすか?」
裸でポーズをとるサルリラ
「……阿呆」
そう言って俺は扉を閉めた
アイツに羞恥心を教える必要があるか?
・・・・・・
サルリラが服を着たのを確認してから部屋に入る
「それでどうしたんすか?あ、ひょっとしてあれっすか?休みのあっしに会いに来て……」
「記入漏れだ、さっさと書け」
「……ああ、うっかりっす」
サルリラに書類を渡して記入させる
「これだけっすか?」
「そうだが?」
「あっしに会いに来た訳じゃないっすか?」
「いつでも会えるだろうが」
お前は城に住んでるんだから
「そうっすけど……」
「それより、お前は羞恥心を持て!普通人前に裸で出ないからな?」
「別に見られても平気っすよ?」
「お前には尊厳とか恥じらいとかないのか?」
山賊を捕らえるときも裸になったよな……あの時は身を犠牲にしてでも民を助けようとした奴だと思ってたのに
「そんなの子供の頃に無くしたっす!!」
「今すぐ見つけてこい!!」
「あいた!?」
サルリラに拳骨する
「そんな事してるといつか襲われるぞ」
「旦那、心配してくれるっすか!!」
「あぁ、心配してるぞ?お前を襲って返り討ちにあって罪人になる男の方をな」
「酷いっす!?」
「じゃあ俺は戻る、まあゆっくり休め」
「はーいっす!!」
全く……朝から疲れたぞ
・・・・・・・
ーーーサルリラ視点ーーー
「旦那に怒られたっす……」
あっしは庭を歩いていたっす
「あ、サルちゃん!」
「サルリラさん!!」
そこに紅茶を飲んでいるミルム様と日傘を持ってる
ルミルちゃんが居たっす
「ティータイムっすか?」
「そうだよ!サルちゃんも座って座って!」
ミルム様に促されて向かいの椅子に座るっす
「あ、サルリラさんなら経験ありますか?」
ルミルちゃんが聞いてくる
「経験?なんのっすか?」
「恋!」
……コイバナっすか?
「あっしの恋っすか?ミルム様とルミルちゃんは?」
「私はカイトお兄様が好き!」
うん、ミルム様のは恋じゃ無いっすね
もし恋なら色んな人が止めるっす
あっしも止めるっす
「私は特に無いんですよね~村に居た同年代はレムレだし」
こっちも出会いが無いっすね
「だからサルリラさんに聞いてるんです!旅をしてたそうですしありますよね?」
「うーん……あっしは初恋をずっと引きずってるっすから」
『詳しく!』
食いつかれたっす
「そんな面白い話じゃないっすよ?……昔、山賊に捕まって死にかけたのを助けてくれた人に惚れたって話っす」
「へぇ~白馬の王子さま?」
「王子さまでは無いっすね……ただ、強い人だったっす……あっしはその人に憧れて……惚れて……強くなろうと思ったっす……」
「その人とは今でも会ってるんですか?」
ルミルちゃんが聞いてきたっす
「ん~?内緒っす♪」
これから暫く2人質問攻めされたっす
・・・・・・
ーーーレルガ視点ーーー
「よおレルガ」
「……ヘルドか」
ヘルドに声をかけられる
「しっかり働いてるか?」
「見ればわかるだろ?」
「……」
「……なんだよ?」
「俺はまだ信用してないからな?」
ヘルドがそう言う
「だろうな、信頼はこれから取り戻すさ」
ベルドルト様が亡くなって、まだ成人したばかりのカイト様が領主になったとき
あの人の慌てっぷりや頼りなさを見て……俺を含めて5人の将が彼を見捨てた
……本来なら支えるべきだった俺達がカイト様を見捨てたのだ
残ったヘルド達が怒るのも当たり前だ……
「ヘルド……」
「うん?」
「もう俺はカイト様を裏切らない……救われたこの命……あの方の為に使うさ」
「……へっ、当たり前だろ」
そう言うヘルドは笑っていた
・・・・・・・
ーーーレリス視点ーーー
「全部の村の備蓄は確認しましたか?」
「はい! 全ての村に充分な食料や水があります!」
「医者などは足りてますか?」
「はい! 薬も問題ありません!」
「ワールの消息は掴めましたか?」
「いえ! ガガルガ領にて見失いました」
「はぁ……うまくいきませんね」
私は報告を聞く
「さて、もう下がっていいですよ?」
『はっ!!』
兵達が下がる
「ふぅ……流石にくたびれましたね」
私は椅子に座る
「レリス様」
メイドが入ってくる
「どうしました?お茶なら必要ありませんよ?」
「いえ、その……お客様です」
嫌な予感
「誰ですか?」
「『マイルス』様です」
「ちぃ!!」
「ひっ!?」
私の舌打ちにメイドが驚く
「ああ、すいません、気にしないでください……あー通していいですよ……それと兵を何人か呼んでくれます?」
「か、畏まりました!」
メイドが執務室から出る
少しして
「よおレリス」
マイルスが入ってきた
「何の用ですか?貴方の相手をしている暇は無いんですよ」
「おいおい、父親に向かってそれは酷くないか?」
…………マイルス……『マイルス・オーシャン』
ベルドルト様の弟であり……私の父だ
つまり私とカイト様、アルス様、ミルム様は従兄弟になります
「父親なら父親としての役目を果たしたらどうですか?ベルドルト様が亡くなって……領主として頑張っていたカイト様を助けることもしなかった人が!!」
本来なら処刑されてもおかしくないのに……カイト様の温情で生かされている男が!
「まあそういうな、それよりカイトは今ヤークレンに行っているそうだな?」
「様をつけろ無礼者が!!」
「……ふん、すっかり心酔しやがって……まあいい、そのカイト様が無事に帰ってこれると思うのか?」
「カイト様なら必ず戻って来られます!」
「どうだろうな?メルセデスは身内には甘いが他人には厳しいからな~」
不快……こいつと話すのはただ不快だ
「レリス様!お呼びですか!」
兵達が入ってきた
「そいつを叩き出せ!!」
『はっ!』
「そんな事しなくても帰るさ、お前の顔を見に来ただけだからな」
そう言ってマイルスは執務室から出る
「カイトが無事に帰ってこれるかね?」
ボソッと呟くマイルス
…………まさか
「貴様!何か仕掛けたな!?」
私が執務室から出ると
マイルスは既に居なかった……
「…………カイト様」
『レリスが居なくなるのはやだぁぁぁ!!』
『カイト……居なくなんてならない……ずっと君を支えるから』
思い出すのは子供の頃の記憶
私がカイト様に忠誠を誓った時の記憶
「こうしてはいられない!!」
こっちも手を打たないと!!
・・・・・・・
ーーーヘルド視点ーーー
「ではカイト様のお迎えを?」
「ええ、サルリラと一緒に国境まで行って下さい」
「大丈夫なのか?」
「ええ、兵は沢山居ますし……他の領が動く気配はありませんからね」
「わかった……ではサルリラを呼んでくる」
「彼女の休みを潰してしまいますね」
「帰ったら休みと報酬を渡せばいいだろ?」
「そうですね」
さて、サルリラを呼びに行くか……部屋か?
・・・・・・・
部屋には居なかった
庭を探すと
「見つけた!」
「もっと話してよー」
「ダメっす!あっしだけの思い出っす!」
なんかミルム様とルミルに捕まっているが
「サルリラ!」
「んっ?あっ、旦那!どうしたっすか?」
「休みを潰すが仕事だ!ヤークレンとの国境まで向かうぞ!」
「何かあったんすか?」
「あるかもしれんから行くんだ!」
「わかったっす!!」
サルリラは部屋に戻っていった
準備するんだろうな
「もう!ヘルド!サルリラの初恋を聞けなかったよ!」
ミルム様に怒られた
「初恋ですか?」
サルリラにも恋心とかあるんだな……
「なんでも子供の頃に助けてくれた人らしいです!」
ルミルが言う……
「ほぉ……」
アイツにもそういう感性があったんだな
・・・・・・・・
ーーーサルリラ視点ーーー
「なんか旦那にあっしの初恋を話されてる予感がするっす……」
早く準備するっす!
鎧を着て!
剣を持って!
暗器は……忍ばせてる!!
「よし!……っと!これは忘れたらダメっすね!」
あっしはペンダントを取るっす
それを鎧の下の服の左胸のポケットに入れるっす
「今回も守って欲しいっす!」
あっしを助けてくれた彼が持っていたペンダント
『痛い!やめて!離して!』
『暴れるな!』
痛かったっす
『もう……やめて……』
『黙ってろ!』
辛かったっす
『…………』
『おい、こいつ死んだんじゃねえのか?』
死にたかったっす
でも……
『大丈夫か!?』
その人は来てくれたっす
『助けるのが遅れてすまなかった……もう大丈夫だ……』
『あ……うぁぁ!!』
あっしを助けてくれたっす
『もう帰るの?』
『ああ、寂しいのか?』
『……うん』
『なら、これをやるよ』
『ペンダント?』
『お守りだ、持ってろ』
『……うん!!』
彼はもう忘れてるみたいっすけど
「あっしは忘れないっすよ……」
そう呟いて部屋を出たっす
・・・・・・・・
ーーーヘルド視点ーーー
「行くぞサルリラ!」
「了解っす!!」
俺とサルリラは2人で馬を走らせる
カイト様……無事でいてください!!