第233話 嵐の日に
外は嵐だ
雨は激しく
風も強い
そして、雷がうるさい
ドン!
ドン!
ドン!!
うるせえ!!
そんな訳で、本当は今日は数人程、俺との面会があったのだが……
「この嵐の中、城に来るのは大変でしょう……一応使者を送っておきますので、今日の予定は中止にしましょう」
っと、レリスに言われた
それで、俺は数枚程度の書類に目を通してから、今日は休日にした
……外にも出ない、完全な休みって久し振りだな
そんな訳で、俺はティンクと図書室に来ていた
ここに来た理由は、自室だと雷がうるさい
中庭には出れるわけがない
応接室や、俺の執務室は寛ぐ場所ではない
そんな訳で図書室だ
広くて、窓から離れていれば雷も……気にならない筈
それに、たまにはのんびり読書しても良いじゃない?
こんな時間も必要よ?
…………必要だよな?
「♪」
ほら、ティンクも俺の隣でご機嫌だし
「…………それにしても、雨ひどいな……」
サルリラやメビルトは近いから、帰れてると思うが……
他の奴等は大丈夫なのだろうか?
・・・・・・・・
ーーーその頃のブルムンーーー
「うわぉ……」
ブルムンは護衛の兵士達と共に、メールノ平原に建てた砦に居た
「これは凄まじいな……」
外を見ていたブルムンに話しかけたのは、ゲルドである
ゲルドとモルスは、カイトに頼まれてブルムンと共にカイナスに向かっていた
ゲルドはアルスを鍛えるつもりでいたのだが
そのアルスはまだ完治してない
それなら、治るまでは出掛けても大丈夫だろうと判断した
「ヒヒ、まあ、食料は持っているのと、砦に備蓄していた分で余裕はある、気楽に嵐が去るのを待とう」
ブルムンはそう言ってゲルドを見る
「そうだな……それにしても、こうしてお前と過ごすのは久し振りだな」
ゲルドは懐かしそうに呟く
「あー、あの時の事を思い出してるか?」
ブルムンの記憶には心当たりがあった
ゲルドとブルムン
彼等は同期であり、兵士の時は同じ訓練を受けていた
ある日、彼等は1週間、森の奥で過ごす訓練を受けていた
3人1組となり、ゲルドとブルムン、そして『ナルキッサ』という男性と3人で組んでいた
最初こそ、順調に進んでいた
ブルムンが配給された食料から、一度の消費量を計算し、1週間の間持たせる量を導いた
ナルキッサは川や潜伏出来る洞窟を見つけて、1週間の間に暮らす拠点を決めた
ゲルドが獣を狩り、食料に更に余裕が出来るようにした
この3人はバランスが良かった
この3人なら、これからも戦っていけると思った
しかし、悲劇が起きた
訓練を始めて5日目、嵐がやって来た
ゲルド達は洞窟の奥で嵐が去るのを待っていた
食糧も水も余裕があった、2週間は過ごせるくらいの余裕があった
そんな洞窟に1人の男がやって来た
ゲルド達と同じように、訓練に参加した他の組の兵士だった
しかし、彼はボロボロだった、酷く弱っていた
話を聞くと、獣に襲われ、仲間は死に、彼も3日ほど必死に逃げ回っていたそうだ
それを聞いたゲルド達は迷うこと無く、彼に食料と水を分ける事にした
組は違うが、同じ主に忠誠を誓った兵士だ、仲間なのだ、迷うわけがなかった
ナルキッサが食料と水を持って男に近付く
だが、次の瞬間、男がナイフを取り出し、ナルキッサの胸元に突き刺した
ゲルドもブルムンも、刺されたナルキッサも訳がわからなかった
ナルキッサが倒れた時、ゲルドは男を殴り倒した
ブルムンはナルキッサの止血を始めた
ゲルドが男に気絶される為の一撃を叩き込もうとした時、男が叫んだ
『お前達も、俺達を騙すつもりだろう!!?』
ゲルドはその言葉の意味がわからず、そのまま男を殴り倒した
ブルムンはナルキッサの刺された部分を見て焦った
心臓の位置……出血の量から、心臓に届いてるかもしれない
そう決めたブルムンは決断が速かった
『森を出て、近くの村で医者に見せよう』
それは自分達の訓練の失敗を意味する
しかし、ゲルドは男を縛りながら、その意見に同意した
仲間が死ぬくらいなら、訓練の失敗なんて苦ではないと考えた
こうして、ゲルドがナルキッサを背負い、ブルムンが先導して森を抜けた
「あの時は焦ったよな……ナルキッサの血は止まらないし、自分達も危なかったし」
ブルムンは水を飲みながら言う
「そうだな、だが……あれがあったから、小生はお前が情に熱い男だと知ったぞ?」
ゲルドはそう言って干し肉を噛る
「情に熱い男が、主を裏切るか?」
「ケーミストよりも家族を護りたかったのだろ? そして、民も助けたかった……カイト様はお前のそういう所を見抜いたのだろう」
「だから、最初に自分に寝返りを提案してきたのかね……」
ドォン!
雷が落ちる
「……ナルキッサはどうしてる?」
「元気だよ、司書の仕事は合ってるってさ」
結果的にナルキッサは助かった
奇跡的に治療が間に合った
しかし、心臓に傷がついた、その傷はいつ開くかわからない
激しい運動など、もっての他である
ナルキッサは兵士を辞めるしかなかった
現在は、ゲルナル城の図書室の司書を任されてる
余談だが、ナルキッサを刺した男は、訓練の後、投獄された
尋問の後、彼を騙し、追い詰めた兵も投獄された
その後、刺した男はナルキッサが許した事で、牢から出れた
兵の方も牢から出れたが、除隊処分を受け、自分の故郷に帰っていった
「ゲルナルに着いたら会ってみたら?」
「そうだな、久し振りに会うとしよう」
「あまり興奮させるなよ?」
「わかってる」
2人は笑い合った
そんな2人のいる部屋の前で……
「は、入りずらい……」
モルスが入りにくそうにしていた
・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
本を読んでいたら、いつの間にかアルスが来ていた
アルスも本を読んでいる……あれは、八龍神話か……
「……ねぇ、兄さん」
「……んっ?」
アルスが本を読みながら、話し掛けてきた
「さっき、レイミルに診てもらって、ある程度の遠出はして良いって言われたんだ」
「おっ、予定よりも回復が速いな、良いことだ」
「うん、それで……なんかマーレスに一緒にパルンに来ないか誘われたんだ」
「マーレスに?」
俺はアルスを見る
アルスも本から俺に視線を移した
「うん」
「……マーレスから、テリアンヌと一緒に里帰りしたいってのは聞いていたが」
アルスを誘うなんてな……なんのつもりだ?
まぁ、何か考えがあるんだろうが……
「珍しいことだな、マーレス1人ならともかく、テリアンヌも一緒だと、2人っきりで行動したかったろうに……」
マーレスはハッキリ言ってシスコンだ
ベタベタしてる訳ではないが……テリアンヌには滅茶苦茶甘い
テリアンヌが白と言えば白になるってくらい甘い
そんなマーレスが、大好きな妹との2人旅を諦めてアルスを誘うなんてな
「うん、僕もそう思う……でも、折角だし行ってみようと思うんだ」
「行くのか?」
「10日くらいらしいし、ゲルドも出てるし……駄目かな?」
「いや、構わないよ……息抜きしてくるといい」
アルスは帰ってきてから、悩んでる事が多かったからな……
……もしかして、マーレスもそこを気にしてくれたのか?
もしそうなら、礼を言っておくべきだよな?
「良かった、じゃあ、3日後に出発するよ」
「ああ、わかった……まあ流石に無いと思うが、まだ嵐が落ち着いてなかったら駄目だからな?」
「わかってるよ、でも流石に止むでしょ? 3日もあるんだから」
「普通はな、でも念のためだ」
元の世界では本当に稀だけど、そんな事があったし……
まあ、大丈夫か……
『…………』
皆黙った
皆がのんびりと読書に集中していた
いや、俺は隣のティンクが、冒険譚を読みながら、表情をコロコロと変えるのを見て、楽しんでいたのだがね……
それにしても……静かだな
いつもなら、こんな時は元気な声で騒ぐのがいるんだが……
「あれ? そういえばミルムは? こんな時こそ元気に動き回ってないか?」
「えっ? 僕は見てないよ?」
「わたしも見てませんよ?」
『…………』
嫌な予感がした
結果的に言うと、嫌な予感は的中していた
ミルムは珍しい嵐にテンションが上がって、外に出て居た
そしてずぶ濡れで帰ってきた……
「ミルム、流石にお転婆が過ぎるぞ? 風呂に入ってこい、出てきたら説教な?」
「えー!?」
最近は大人らしく振る舞って居たと言うのに……
取り敢えず、嵐の時は外に出るなと厳しく言っておこう……
・・・・・・・・・
ーーー???ーーー
「うひゃー、これはヤバイねぇ!」
1人の男が小船で海に出て居た
小船には釣りの道具があった
「まさか、こんな嵐になるとは……おっととと!?」
大きな波が来る
「あーらら、ボクちゃんアウト!!」
そう言って男は小船にしがみつく
小船は波に飲まれて大破した
「ぶー!! やれやれ、こりゃ死ぬかもな!!」
男は笑いながら、小船だった木片にしがみつくのだった