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第231話 コイシュナにて……

 

 ーーーコイシュナーーー


「…………」


 コイシュナの将バンダルフ、彼はメイリーの策に敗れ、主の怒りをかい、現在は謹慎を言い渡されている


 そんな彼は、今は自宅である屋敷で退屈そうに本を読んでいた

 謹慎の為、屋敷の外に出るのが難しいのである

 本来は外出しても問題はない、しかし、彼は今、民からも馬鹿にされているのだ


 大軍を率いて、弱ったオーシャンに挑んだのに、多くの犠牲を出して帰ってきた情けない将だと


 その話はあっという間に西方に広まった

 話は人に伝わる度にドンドン酷くなっていた


 バンダルフは兵を見殺しにした、とか

 オーシャンの連中に泣きながら命乞いした、とか

 食糧が尽きたから、兵を殺して食った、とか


 そんな噂が広まり、彼は屋敷から出れなくなったのだ

 幸い、雇っていた使用人は、バンダルフがそんな人間ではないと理解している

 噂など下らないと、今まで以上に彼に尽くしている

 たまに、使用人達に絡む者が居るが、そんな者は無視して彼等は役目を果たす


「バンダルフ様、紅茶の御代わりをお持ちしました」

「あぁ、ありがとう……」


 バンダルフはメイドに微笑む

 その笑顔は、疲れきっていた


「……バンダルフ様、せめて夕食は取ってください」

「んっ? まだ昼だろ?」


 バンダルフはそう言って、窓に近付き、カーテンを開ける


「むっ……」


 外は暗かった

 バンダルフはまだ昼のつもりだったが、外は完全に夜だった


「これは駄目だな……時間の感覚が狂ってきた」

「バンダルフ様……」

「ああ、すまない、食べるから運んできてくれるか?」

「かしこまりました」


 メイドは部屋を出た


「…………はぁ」


 バンダルフは溜め息を吐く

 謹慎生活が始まり、外に出れなくなり、気分が徐々に滅入ってきた


「このままでは、狂ってしまうかもな」


 そう呟いて、また凹む


「落ち込んでますね」

「っ!?」


 いつの間にか、男が部屋の扉を開けていた

 仮面で顔の上半分を隠している男


「なんだ、『イヤーナ』何の用だ?」


 彼はイヤーナ、バンダルフと同じ、コイシュナの将である


「そろそろ限界かと思いまして、気晴らしの相手をしようかと」


 そう言ってイヤーナは持って来たワインを見せる


「そうか……それは助かるな、そこに座ってくれ」


 バンダルフは向かいの椅子を指す

 イヤーナはそこに座り、ワインを開けて、一緒に持って来たグラスに注ぐ


「綺麗なグラスだな」

「運良く手に入りましてね、差し上げますよ、見舞品です」

「良いのか?」

「その為に持って来たので」

「……ありがとう」


 イヤーナとバンダルフはワインを飲む

 そうしていたら、メイドがバンダルフの夕食と酒のツマミを持って来た


 些細な宴が始まった


 ・・・・・・・・・


「…………」


 バンダルフは混乱していた


「イヤーナ! もっと飲め!!」

「いや、これ以上は……ぐっ!?」


 イヤーナが男に酒を飲まされる

 男は『バイヤン』、コイシュナの将であり、バンダルフの見舞いに来た男である


「これ美味いな……」

「こっちもいいよな」


 更に2人の男、『リンスカ』と『マッド』

 彼等もバンダルフの見舞いに来た将である


「お前達、どうしたんだ? 急にやって来て」


 バンダルフは4人の将を見る


「たまたま見舞いが被っただけだ」


 リンスカが答える


「だが、俺は……」


 バンダルフは4人の事を気にする

 西方中に広まってる自分の噂

 そんな自分の見舞いに来て、彼等の名誉が傷つくのではないのかと


「あんな噂、お前の事を知ってれば信じないだろ」


 マッドが答える


「そうそう、下らない噂なんかにびびんなって!」


 バイヤンはイヤーナにワインを飲ませながら言う

 イヤーナは口に突っ込まれたワインの瓶を飲み干し、ふらつきながら頷く

 そして酔い潰れた


「…………」


 バンダルフは少し戸惑いながらも、自分を励ますために来た彼等に感謝した


 その時だ


「随分と騒がしいな」

『!?』


 1人の男が部屋に入ってきた

 酔い潰れてるイヤーナ以外が驚く


「意外と元気そうだな」


 男はバンダルフの前に立ち、見上げながら言う


「はっ!」


 バンダルフは跪く


「ここは城じゃない、そんな畏まらなくていい」


 そう言って男……『ヒール・ワン・コイシュナ』はバンダルフに袋を差し出す


「こ、これはいったい?」


 バンダルフは聞く


「……見舞いの品だが?」

「あ、ありがとう、ございます……」


 袋の中身は酒だった


「じゃあな」


 ヒールは部屋を出ようとする


「帰るんで?」


 バイヤンが聞く


「ああ、それを渡しに来ただけだからな、それにお前らが居れば充分だろ? 羽目をはずし過ぎるなよ?」


 そう言ってヒールは出ていった


「…………」


 バンダルフはまだ混乱していた

 謹慎を言い渡した本人が見舞いに来たのだ、戸惑うのは仕方ない


「た、多分、噂の事、気にしてるんですよ」


 酔い潰れていたイヤーナが、ふらつきながら立ち上がり言う


「噂を?」


 バンダルフが、ふらつくイヤーナを支えながら聞く


「今日、昼頃に……あの、噂を……ちょっとすいません、水ください」


 マッドが水を渡す

 イヤーナを水を飲む


「ふぅ……昼頃に例の噂を話していた民にキレてましたよ、あの人」


 イヤーナが話す、自分が見た光景を……


 ・・・・・・・・・


 バンダルフへの見舞いを買おうと、酒屋に向かっていたら


『バンダルフってのも情けないよな! 命乞いして帰ってきたんだぜ? 何で除隊されてないんだか!』


 昼間から酔っ払った男が、友人であろう男に大声で話していた

 イヤーナは内心、 (何を知った風に言ってるんだ酔っ払い)なんて思いながら歩いてると


『おい貴様、貴様がアイツの何を知ってるんだ?』


 聞き覚えのある声が……怒気を含んだ声が聞こえた

 振り向くと……


『ひぃ!? ちょ、ヒール様!? な、何を!?』


 ヒールが酔っ払いの襟元を掴んでいた


『貴様がバンダルフの何を知って言っているのか聞いている! 答えろ!!』

『ひ、ひぃぃぃぃ!?』


 ヒールが酔っ払いを揺さぶる


『部下の為に自分の命を差し出す男を、お前は馬鹿にしたんだ! 相応の報いを受けると知れ!!』


 ヒールは酔っ払いを地面に投げると剣を抜いた


『ひぃ!? た、助けてぇぇぇぇ!!』


 酔っ払いが泣きながら叫ぶ


『っ!!』


 バキッ!


『ぎゃあ!!』


 ヒールは酔っ払いの顔を蹴る


『今の貴様の姿の方がずっと情けない!! 失せろ!! 次は殺す!!』

『ひ、ひぃぃぃぃ!!!』


 酔っ払いは全力で逃げていった


 ・・・・・・・・


「ってことがありました」

「剣抜くのはやりすぎじゃね?」


 バイヤンが言う


「まあ、それだけ怒ったって事だろ……でも珍しいな、あの人、キレても水をかけるとか、怒鳴る程度で、殺そうとまではしないのに」

「噂に思うところがあるんだろ、あの噂も、ボロボロで帰ってきたバンダルフを見た奴が広めたらしいし……」


「…………」


 バンダルフはそれを聞いて思った

 あの人は、短気で、打算的な所があるが……将の事を理解しているのだと


「…………凹んでる場合じゃないな」


 バンダルフは決める、謹慎が解けて復帰したら、改めてヒールに忠誠を誓おうと

 そして、彼の期待に答えて見せようと










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