第228話 3人の思い
ーーーユリウス視点ーーー
アルス達が帰ってきてから一週間が経過した
漸く、アルスの面会謝絶が解除されたから、僕と同じ時間に兵の訓練を終えたレムレと2人で医務室に顔を出した
そして医務室に入って真っ先に目に入った光景が
「おにいざまよがっだよぉ~~~!!」
「ムググ!! ムグ!」
ミルムちゃんに抱き締められて、顔を胸に埋められて苦しそうにしてるアルスの姿だった
ファルちゃんが後ろで止めるべきか慌ててる
女性の胸に顔を埋めるなんて、男としては嬉しい出来事だと思うが
流石に実の妹だと、そんな風には感じないんだろうな
てかそろそろ限界が近いのか、アルスがグッタリしてきた
「ミルム様、アルス様が苦しそうですし、一度離れましょうね?」
レムレがそう言うと、ミルムちゃんは頷いて離れる
「ゲホッ! ゴホッ! はぁ、はぁ! し、死ぬかと思った……」
アルスは噎せながら僕達を見る
「助かったよ、レムレ」
「いえいえ」
2人は微笑み合う
「調子は良さそうだな」
僕は椅子を人数分運んで、ミルムちゃんとファルちゃんを座らせてから座る
「ああ、身体はもう平気だよ、レイミルのお蔭で大分楽になった……まあ、後、半月は安静って言われたけどね……明日には自室に戻っていいって
さ」
「そいつは良かった、それはカイト様には言ったのか?」
「僕もさっき言われたからね、まだだよ、まあ、さっきレイミルが報告もあるからって言ってたから、一緒に伝えるんじゃないかな?」
そう言ってアルスは水差しからコップに水を入れて飲む
「長旅は苦労したみたいだな」
「うん、とても……安全に水が飲めるってありがたいことだよな……」
シャルスからも事前に聞いていたが、道中は色々大変だったらしい
まあ、隠れながらの移動だったからな、道中の村も利用できなかっただろうし
「そう言えば、シャルスやゲルドはどうしてる?」
「2人ならもう復帰してますよ」
レムレが答える
「それで、最近のシャルスはモルスさんと訓練をしてますね、あの敗戦が悔しかったみたいで……」
「オイラはもっと強くなぁぁぁる!! って張り切ってたな」
「やっぱりか……あれで何も思わない奴は、僕達の中には居ないだろ?」
アルスは僕とレムレを交互に見る
「帰ってきたらお前達も強くなってたし、正直僕も焦ってるよ」
「だからって無理するなよ? お前のやるべきことは身体を直すことだろ?」
僕は警告しておく
アルスの事だ、無茶して鍛えようとするだろうからな
「わかってる、焦ってもろくなことにはならないからな……治るまでにどう鍛えるか、それを考える事にしとくよ」
「手が必要なら言ってください、僕も協力します」
「ありがとう、レムレ」
さて、そろそろお暇するか
ミルムちゃんがまたアルスに抱きつこうとしてるしな
・・・・・・・・・
ーーーシャルス視点ーーー
「おらぁぁぁぁ!!」
「ふん!!」
「ぐはっ!?」
オイラは訓練場でモルスと模擬戦をしていた
挑んでは負け、挑んでは負け
「くっ! 勝てねえ!!」
オイラは地面に倒れながら叫んだ
いや、ほんと、モルス強すぎ!!
「シャルス、お前の速さは脅威だが、ある程度戦うと流石に慣れるぞ? それに一撃一撃が軽い、もっと強力な一撃を叩き込めるようになった方がいいぞ?」
モルスがオイラの顔に覗き込みながら言う
「強力な一撃……どうやってやんの?」
「さあな、俺は獣人じゃないから勝手がわからん」
「やっぱオイラと人間じゃ違う?」
「少なくとも肉球は無いぞ? 筋肉の付きも違うしな……今度シャンバル達が来たら、そこら辺聞いてみたらどうだ? 何かの切っ掛けになるかも知れないぞ?」
「ん~……」
「俺がお前に教えられるのはちょっとした技術くらいだ、それを活かすにも、お前は自分の身体の事を理解した方がいい、こうやって模擬戦ばかりしても意味ないと思うぞ」
「そっか……次に叔父さん達が来るの何時だったかな……」
次の戦までに強くならないと……
足手まといには、なりたくないから!
・・・・・・・・・
ーーーゲルド視点ーーー
アルス様は完治まで療養、シャルスは暫くモルスに任せた
小生はある仮説が浮かんでいた
オーシャンに帰還して、レムレとユリウスを見て、その仮説が確信へと変わった
オルベリン殿に鍛えられた彼等は、まだ訓練を終えていないのだと
恐らく、オルベリン殿は何段階かに分けて、彼等を鍛えていくつもりだったのだと
彼の訓練は酷しいものだ、一気に鍛えるのは、まだ成人したばかりくらいのアルス様達には負担が大きすぎる
「最初の訓練は、これからの訓練の為の身体作りだったのだろうな……」
次の訓練を始める前に、オルベリン殿は逝ってしまった
……それならば、残った小生達が彼等を鍛えるしかない
「小生も他国にはオルベリン殿と同等の脅威と思われた身だ……必ず、成し遂げてみせる」
それが、小生達に課せられた使命なのだから……