第22話 ティンクの○○
グレイクから出て数時間
『メルク』と言う都に到着した
来るときもここの宿を利用した、今回もここの宿を利用する
「では宿を取って参ります」
「あぁ、頼む」
ヤンユが宿のカウンターに向かう
「…………」
ティンクは落ち着かないのかそわそわしている
「…………」
オルベリンは周りを警戒している
「それにしても……凄いところだな」
この宿だが……内装に鉱石を使ってるのか光っている
いや本当に光ってるのだ……壁の鉱石や床、天井にもある鉱石がランプの灯りを反射している
金かけてるな……宿泊費も高めだし……
「……」
「ティンク?寒いのか?」
さっきから震えている……
「い、いえ……」
俯いたまま答える……うーん、心を開いてくれないな
まあ、今日出会っていきなり結婚だもんな……
誰だって不安だろうな……彼女に選ばせたつもりだけど……よく考えたら彼女はああ答えるしかなかったんじゃないのか?
…………
「カイト様、少し面倒なことになりました」
ヤンユが戻ってきた
「どうした?部屋が取れなかったのか?」
「いえ、2つ取りました」
なら良くないか?俺とオルベリン、ティンクとヤンユで……
「何故かカイト様がティンク様と結婚された話が広まってまして……」
「……なに?早すぎないか?」
俺達は直ぐにグレイクを出て真っ直ぐメルクに来たんだぞ?
「それで店主が夫婦で別の部屋かと聞かれまして……」
「……厄介だな」
カイト・オーシャンは妻と不仲って話が広まるだろうな
メルセデスの耳に入ったら面倒なことになりそうだ
「それで……カイト様とティンク様を同室にしてしまいました……」
「仕方ないさ……あーまあ、うん」
まあ12歳の子供に何かする俺じゃないぞ?
・・・・・・・
宿のレストランで食事を取る
「ここら辺だとエスカルゴが多いな」
俺は料理を見る
「雪国ですからね、作物が育てにくいのでしょう……自然と生命力の強い生き物を食料としたのでしょうね」
オルベリンがそう言ってカエルのステーキを見る
「ベススと違って領土は広いから食料には困ってなさそうだがな」
雪国なのはグレイク周辺だ、ヤークレンの南側なら普通に農業も盛んだろう……その食料を雪国の方に運ぶ……だから野菜も豊富に提供されている
「…………」
「ティンク?さっきから全然食べてないけど具合が悪いのか?」
ティンクは料理が運ばれても食べようともしない
「えっ?いえ……あの……食べても良いのですか?」
「当たり前だろ?」
何言ってんの?
「で、でも皆さんが食事中なのに私なんかが……」
「…………ティンク、君はグレイクでは食事はどんな風に食べていたの?」
「え、えっと……お父様やお兄様やお姉様の食事が終わって……将や兵士様達の食事が終わって……メイド様達の食事が終わって……それから」
「もういいわかった……うん、気にしないでいいから食べよう?なっ?」
「は、はい……」
ティンクはエスカルゴを口に運ぶ
「……温かい」
やめて!!辛くなる!!君の扱い酷すぎない!?
「美味しい?」
「はい……美味しい……です」
涙目になりながら答えるティンク
「…………」
「……ぐす」
オルベリンが穏やかな顔でティンクを見ている
ヤンユはティンクを見て涙目だ
……さっきの話を聞くとティンクは王族どころか兵……召し使いよりも下の扱いを受けていたみたいだ
12歳の王族が?何故だ?
最初に浮かんだのはティンクが何かをやらかした可能性だ
例えば外交で重要な会議をぶち壊したとか、メルセデスの大事な物を壊して怒りを買ったとか
……それでもそんな扱いになるか?
てかそれをしたらメルセデスの性格なら処刑とか容赦なくしそうだよな……
なら他に何かあるか?
「…………」
「……んっ」
ティンクは料理を食べている
テーブルマナーとかしっかりしてるよな?ミルムよりも上手だぞ?
うーん……わからん
・・・・・・・・
食事を終えて俺達は風呂に入る
といっても部屋に付いてるシャワーを使うだけだがな
因みにティンクと俺は形式では夫婦とはいえ、流石に問題がある気がしたから……
俺はオルベリンとヤンユの部屋のシャワーを使ってる
オルベリンは風呂の扉の前で警護してる
ティンクはヤンユと一緒に俺とティンクの部屋のシャワーを使っている
「ふぅ……」
あーさっぱりした……メルセデスとの謁見はやはり精神的にキツかったな……汗をかきまくってた
「オルベリン、もう大丈夫だぞ」
俺は寝間着を着て扉を開ける
「坊っちゃん」
「んっ?」
オルベリンが俺を見る
「坊っちゃんはティンクをどうするのですか?」
「これからの事か?」
「ええ、彼女の境遇はある程度予想できます」
「ああ、かなり酷い扱いだったんだろうな」
召し使いよりも下の扱い
更に体罰……もしかして虐待か?
「だから誰にも心を開ききれない……」
「ヘイナスに戻ってもそんなままでしたら……」
「オルベリン……それを何とかするのが夫である俺の役目だ……ヘイナスに着くまでに……何とか受け入れてもらうさ」
取り敢えず遠慮はしないでいいって覚えてもらおう……
「それにレリスが何と言うか……」
「えっ?俺が嫁に決めたって言ったら受け入れてはくれるだろ?……納得はしないだろうが」
「坊っちゃん……今だから言いますが、レリスは坊っちゃんのお見合い相手を探していましたぞ?」
「……えっ!?」
「毎日毎日遅くまで坊っちゃんに相応しい相手を探して、調べて、ワシにも相談して……」
「マジか……気づかなかった……」
そうか……レリスには悪いことをしたな……
「そんなレリスがティンクの事を聞いたら……」
「……あーどうしよ……」
むっちゃ怒る……絶対に怒る……
滅多に怒られないからかレリスに怒られるのは怖いな……
今回は俺が全面的に悪いから言い訳にしようがないし
「オルベリン……」
「今回は手助けしませんぞ?レリスの苦労を知っていますからね」
「うぁぁ……腹くくっとこ」
コンコン
扉がノックされる
「誰だ?」
オルベリンが聞く
「ヤンユです、入浴が終わりました」
「わかった、入ってくれ」
俺が答える
「失礼します」
「お前の部屋なんだからそんな畏まらなくても……」
「そんなわけにはいきません」
「そうか……それでどうだった?」
俺はヤンユに聞く
実はヤンユにティンクの身体を調べるように言っておいた
……厭らしい意味じゃないぞ?
「ええ、吸い付くようで綺麗な白い肌、まだ未成熟ですが膨らみのある胸……充分に殿方を満足させる事が出来るかと」
「そんな事を聞いてるんじゃないからな!?」
「冗談です」
やめてよ?変に意識しちゃうだろ?
本当にやめてくれよ!?
「カイト様の考えの通り……身体中に鞭や棒で殴った傷がありました」
「やはりか……」
「頻度はどれくらいかわかるか?」
「1番新しい傷は一昨日のものですね、古いので4ヶ月ほど前のが……日常的に暴力を振るわれているようです」
「…………」
「それと……」
「んっ?」
「今まで身体は冷水で清めていたようです」
「……冷水?この寒い地方の寒い季節に!?」
窓を開けたりしたら室内でも凍死するぞ!?
「お湯を浴びて驚いていました……そして、ぐすっ、温かいと震えながら……」
ヤンユが泣き出す
「わかった……もういいから休め」
俺は部屋を出ようとする
あ、そういえばオルベリンに答えてなかったな
「オルベリン」
「はい?」
「ティンクのこれからだがな……俺が彼女を守るよ……必ずな」
「……それが坊っちゃんの答えですな?」
「ああ」
俺はそう言って部屋を出た……そして隣のティンクのいる部屋に向かった
・・・・・・・
部屋に入って目に入ったのは白だ
雪と全く一緒と言ってもいいくらいの白
真ん中辺りに桜色が見えて
少し上には更に白よりのピンク
そこから更に上には銀色が
あーもう変に言うのはやめよう
ティンクだ、ティンクがベッドの上で座っていた
…………裸で
「なんで裸なんだ?」
俺は冷静に聞く……ゆっくりと近寄る
「あ……あの……わたし……まだ幼いですけど……カイト様を必ず……その、喜ばせて見せます……だから、その……なんでもします……だから、あの、わたしを……」
「ティンク」
「っ!」
ビクッと震えるティンク
てか寒いだろうに
「よっ!」
「あっ……」
取り敢えず俺はもうひとつのベッドの毛布をティンクに被せる
そしてティンクの隣に座って目を合わせる
「誰かに何を言われた?」
「いえ、あの……」
「言いなさい」
強めに言う……ティンクを怖がらせてしまうけどこれは聞いておかないといけない
「お父様が……夫に尽くせと……役にたてと……」
「……そういうことか」
メルセデスはティンクを最初から道具として使うつもりだったと
自分の娘を外交の道具として!!
それで、夫になる存在……この場合は俺だな、ソイツに取り入り……外交の役にたてと言われてきたのだろう
だから俺に身体を使って……全てを使って取り入ろうとしたと……
「ティンク、俺は君を抱かない」
「っ!?で、でもそれでは……」
「ティンク、安心しろ、君はちゃんと妻として迎えるさ……でも抱かない……こういうのは愛する者同士がやることだ、誰かに言われたからやることじゃない」
「でも……でも……」
「……はぁ」
ギュウ
「っ!?」
俺はティンクを毛布越しに抱き締めた
「ティンク、もうメルセデスに怯えるな、ヤークレンの連中に怯えるな……ここには居ないし、これからは俺が君を守る」
「でも、でもお父様は強くて……」
「それでもだ!俺はもっと強くなって、守ってみせる!もう君を傷付けさせない!」
「っ!!」
「だからもうこんなことはしなくて良いからな?」
「……ごめ、なさ……」
「謝らなくて良いし、泣かないでほしい……ほら服を着て?」
………………
ティンクが服を着る、俺は着替えが終わるまで外を見ていた
部屋を出ようとしたのだがティンクが居てほしいと言うからそうした
「もう、大丈夫です」
「そうか……」
振り向くとティンクは寝間着を着ていた……うん、良かった良かった
「さて、明日も速いし休もう、オルベリンやヤンユが交代で警護してるから安心して寝よう」
俺は2つあるベッドの右のベッドに腰掛ける
「は、はい……」
ティンクが左のベッドに入る
「消すぞ?」
俺はランプを消す
部屋が真っ暗になる
さて、寝よう
俺はベッドに入る
………………………
はぁ……はぁ……
んっ?なんだ?
はぁ……はぁ……うっ……
乱れた呼吸の音
(ティンク?)
はぁ……はぁ……
これってあれか?1人で……
はぁ……はぁ……ぐすっ
いやこれ泣いてない?
うっ、はぁ……はぁ……
なんかおかしいぞ?
「ティンク?」
俺はランプを点ける
「あ……」
「ティンク!?」
明かりが灯り、ティンクを見ると顔色が真っ青だった
「おいティンク!?どうした!?やはり具合が……」
「だ、大丈夫です……」
「大丈夫じゃないだろ!?真っ青じゃないか!何かの病気じゃないのか!?医者を……」
「大丈夫です!その……暗いのが……怖いだけなので」
「……えっ?」
「坊っちゃん!どうしましたか!?」
オルベリンが入ってきた
「…………」
「…………」
ティンクを抱き締めてる俺を見るオルベリン
「……ゴホン、失礼しました」
「あっ、ちょ!違うからな!?」
オルベリンは部屋を出た
明日誤解を解こう
「それで?暗いのが怖い?お化けとか信じてるのか?」
「い、いえ……その……城にいる間はずっと地下室でしたので」
「地下室?」
詳しく聞いたらティンクはグレイクの城の地下に住んでいたそうだ
真っ暗な空間、出るのを許されるのはメルセデスの教育の間だけ
そんな空間に居たから暗くなると思い出してしまったらしい
そうだよな、今日もその空間で過ごしていたんだろうな
「だから……大丈夫です……思い出さないようにすれば」
「大丈夫じゃないだろ……」
トラウマだ……暗所恐怖症……
「……仕方ないか、ティンクおいで」
「えっ?あ……」
俺はティンクを抱き締めて一緒にベッドに入る
「あ、あの、カイト様!?」
「こうしてたら怖くないだろ?」
「……あ……はい」
俺も子供の頃は暗いところが怖かった……
夜も震えて眠れなかった
そんな時は父か母が俺を抱き締めて一緒に寝てくれた
「ほら……寝よう」
「はい……」
明かりを消す……
少ししてからティンクの寝息が聞こえてきた
よし、安心してくれたな
「俺も……寝るか……」
誰かと寝るなんて子供の頃以来だな……
温もりが心地よくて……ね……む………
・・・・・・・・
翌日
「昨夜はお楽しみでしたな」
「違うからな?」
オルベリンの誤解を解くのに苦労した
まあ収穫もあった
「カイト様、あの……」
「ティンク、様なんてつけなくていいからな?夫婦なんだから」
「で、ではカイトさん……」
「よろしい!でっ?どうした?」
「あの……今夜も一緒に寝てもらえませんか?」
「……………ティンク、それは別に構わないが……なんだ、うん……今言うのは不味いかな……」
オルベリンが俺をスッゴく見てる……やめて!視線が痛い!!
まあある程度は心を開いてくれたかな……それで良しとしよう!
うん!オルベリン!本当に視線が痛い!!