第225話 西方からの脱出 2
時間軸は第196話から3日後です
ーーーアルス視点ーーー
夜遅く……
「本当に……行かれるのですか?」
ジャックスが心配そうに僕を見る
「うん、一応歩けるくらいには回復したし……今のオーシャンの状態も知りたいからね」
僕はそう答えて、今着てる服を見る
「服まで貰っちゃって……本当に助かるよ」
「いえ、この程度しか手を貸せないのが残念です」
「充分すぎるよ、これ以上を望んだら罰がくだりそうだよ」
僕とジャックスは笑いあう
「猫ちゃん……」
クランがシャルスの袖を引っ張る
「あー、なんだ……落ち着いたらまた遊びに来るから、ほら、そんな寂しそうにするなって」
シャルスは困ったように頬を掻く
「うぅ~」
クランは泣きそうだ
「クラン、お兄さん達を困らせたらいけないよ?」
ジャックスがクランの頭を撫でる
「でも、寂しいよぉ……」
本当に気に入れられたなシャルス
「あ~じゃあ、これやるから……ほら」
シャルスがクランに時計を手渡す
「……?」
クランが首をかしげる
「それをオイラだと思って大事に持っててくれよ、また会った時に代わりの物をあげるから、それはその時に返して貰うからな? それで我慢できないか?」
「……わかった、我慢する……また遊んでね?」
「おう!」
クランがシャルスからやっと手を離した
「じゃあ、ジャックス……今日までありがとう……あ、会った事を兄さんに伝えても良いかな? 心配してたし」
「そう……ですね、では、『幸せに暮らしてる』とだけ」
「わかったよ……じゃあ、また会おう!」
僕とシャルスはジャックスの家を出た
真夜中だから村人の姿は見当たらない
今のうちに村を出る
これからオーシャンまでは、夜のうちに進んで、明るい時は隠れて休む
これを繰り返すことになる……少しでも見つかる可能性を減らすために
「シャルス、君の鼻と耳が頼りなんだからね?」
「任せろ、人の匂いがしたら、すぐに知らせる」
こうして僕達はオーシャンに向かって歩き出した
・・・・・・・
村から出て数時間後……山の向こうが明るくなってくる
日の出が近い
僕とシャルスは予定通り、近くの森に入り込む
そして、シャルスの手を借りながら木の上に登り、枝葉で姿を隠す
「眠れたら良かったけど……ここで寝たら落ちそうだな」
「そこの方なら寝れるんじゃないか? 枝が密集してるから、そう簡単には折れないと思うぞ?」
「そうか?」
ちょっと試しに移動してみると
ピシピシ
っと不吉な音がしたから僕はすぐに戻る
「駄目だ、枝が細い、乗ったら折れそうだ」
「うーん、なら木にもたれて……いや、これも危ないか」
「まあ、3日くらいなら眠らなくても何とかなるし……頑張ろう」
徹夜で行軍したりとかもしてたし……これぐらい平気平気
「そう言えば、シャルスはクランに渡した時計ってどうしたんだ? 初めて見たけど」
「んっ? あれ? 両親の形見」
「!?」
なにアッサリと言ってんの!?
「おま、そんな大事な物を!?」
「ちゃんと返して貰うって言ったろ?」
「言ってたけど……てかやっぱりシャルスの両親は……」
「ああ、死んだよ……もう何年経つかな……」
シャルスの登り始めた朝日を見る
「…………」
「気になる?」
シャルスが僕を見る
「話したくないなら無理に話さなくていいよ?」
「別に、もう遠い昔の話だし……まあ、あれだ、夜までの暇潰しに話そうか」
そう言ってシャルスは話し始める……
・・・・・・・・
ーーーシャルス視点ーーー
オイラがまだ5歳の時だったかな
力自慢の父ちゃん
優しい母ちゃん
12歳の兄ちゃん
3歳の妹
そしてオイラの5人で暮らしていた
決して裕福ではなかった
でも父ちゃんの商売は上手くいってて、贅沢をしなければ不自由なく暮らすことは出来ていた
その日も、オイラは兄ちゃんと遊んでた
かくれんぼをして洋服棚に隠れていたオイラ
オイラを探す兄ちゃんの声が聞こえてきた
オイラは扉の隙間から外を見て、オイラを探す兄ちゃんを見てたんだ
……それは本当に急だった
『うげっ!?』
そんな兄ちゃんの声が聞こえた
そして倒れる兄ちゃん
オイラはそれを見て固まっていた
うつ伏せに倒れた兄ちゃん
頭に何か刺さってる
あれは……矢?
オイラが固まってる間に兄ちゃんに液体がかけられて
火がつけられて……そして、そして……
気が付いた時には全部無くなっていた
『シャルス! シャルス!!』
おじさんがオイラを必死に呼び掛けていた
『……おじ、さん?』
『シャルス!! 良かった! 生きていた!!』
おじさんがオイラを抱き締める
『……おじさん! 兄ちゃんが! 兄ちゃんが!!』
『……シャルス、落ち着いて聞いて欲しい……皆は……君以外の家族は…………殺された』
最後の言葉は弱々しく呟かれた
・・・・・・・・・
ーーーアルス視点ーーー
「…………」
「まぁ、賊に殺されるなんてよくある話なんだけどさ」
よくあってたまるか……
「それで、唯一残ったのがあの時計だったのか?」
「ああ、他は全部燃えててね……んで、それからはおじさんの所で世話になっていたってわけ」
「…………」
「そんな顔するなって、両親が死んだなんて良くあることだろ? アルスもユリウスもルミルとレムレも皆そうだろ? ……いや死にすぎだろこれ」
ふざけて空気を何とか明るくしようとするシャルス
「ひょっとして賊に復讐する為に軍に入ったのか?」
力を付けて、家族を殺した賊を殺すとか?
「んにゃ、そんなんじゃないよ、カイトの旦那にも言ったけど……戦えないと奪われるだけだからな……オイラは生きてる、生きていたら、大切なものはドンドン増えていくんだ、何時までも失くしたものの事を考えていても仕方ないからね」
「…………」
「実際、今のオイラには……皆と過ごす今が大切なものだからね」
そう言ってシャルスは笑った
「それ、何か告白っぽいぞ?」
「んっ? そう?」
こうして僕達は夜までの木の上で過ごした