第220話 ぶつかりあう2人
俺はライアンの事を簡単に皆に説明する
ライアンがオルベリンの息子だという事
オルベリンはその事を俺にも隠していた事
その理由はライアンと奥さんを守るためだという事
オルベリンが仕えたカイト・オーシャンがどんな人間か会いにオーシャンに来た事
それで色々あって俺の護衛に雇った事
「言っておくが、ライアンは信用できると判断したから雇ったんだ、そこにオルベリンは関係ないからな? コイツが強いのはユリウスとかはわかってるだろ?」
俺が言うと
「まあ、確かに」
ユリウスはわかってくれた様だ
他の皆も納得してくれた
「そうか、強いんじゃな……なら後でひとつどうだ?」
ブライはそう言って右の拳を挙げる
おい、一杯飲もうぜって感じで決闘を申し込むなよ
「ブライ、ライアンは……」
俺が口を開いたら
「わかっておるわ、コイツとオルベリンは違う、儂はオルベリンの忘れ形見の実力を見てみたいだけじゃ」
「俺は断る理由は無いな、良いだろ大将?」
「……まあ、それなら良いが……無茶するなよ?」
ブライは強いからライアンに大怪我させないか不安だし
逆にブライは普通に歳だからライアンの攻撃に耐えきれずにポックリ逝ったりしないよな?
・・・・・・・
その後、俺達はパルン城に戻ってメルノユと話をした
「なんだ? 明日にはもう帰るのか?」
残念そうなメルノユ
「ああ、ここまで来るのにも時間が掛かったし、落ち着いたとはいえ、やる事はまだ多いからさ、レリス達に丸投げするわけにもいかないし」
「むぅ、もう少し滞在しても良いのではないか? 護衛の兵達も疲弊しておるだろ?」
「……まぁ、それはそうだが」
確かに、兵達は野営ばっかりだから疲れてるだろうな
「ならもう2日、いや3日はどうだ? 遠慮せずに!」
「……本音は?」
「もう暫くテリアンヌと過ごしたい!」
「正直でよろしい! わかったよ、じゃあ、もう少し世話になるよ」
「話がわかるな、そういうところはベルトルトに似ておるな」
「親子だからな」
俺とメルノユは笑いあった
・・・・・・・・
ーーーペンクル視点ーーー
訓練場で親父とライアンが木剣を構えて向かい合っている
「どっちが勝つと思う?」
「うーん、ブライさんじゃないかな?」
ユリウスとレムレが俺の隣で話している
「テリアンヌはどっちが勝つと思ってる?」
「わ、わかりません」
ティールがテリアンヌ様に聞いている
ルミルはカイト達の護衛でここには来ていない
「どっちが勝つか賭けようぜ!」
「俺ブライ様!」
「じゃあ、俺はライアン!」
2人の決闘の話を聞いて、うちの兵士やカイトの護衛の兵士達が集まって賭け事を始めていた
「へぇ、面白いことしてんじゃん」
「えらい騒ぎですね」
「ナルール、ユルクル、なんだ? 暇なのか?」
『お前に言われたくない』
2人に言われる
「にしてもオルベリンの息子か、あの化物もちゃんとする事してたんだな」
ナルールが言う
「言い方、下品だぞ?」
ユルクルが嗜める
「それで、お前達はどっちが勝つと思ってる?」
俺は聞く
「ブライじゃないんですか?」
ユルクルが言うと
「決着ねぇ、あの爺はそんなつもりないんじゃねえの?」
「えっ? どういう意味です?」
ナルールが言うとレムレが聞いてきた
「んっ? 爺はアイツの実力を試したいんだろ? なら1回ぶつかればわかるだろ」
「お前もそう思うか」
俺もナルールの考えと同じだ
俺とナルールは歩き出す
「あれ? 2人とも? どうしたんですか?」
俺とナルールが近くに来て、テリアンヌ様がキョトンとする
「テリアンヌ様、お手を失礼します」
「?」
俺はテリアンヌ様の右手を掴む
「ナルール」
「はいよ、テリアンヌ様、俺の後ろに立っててください」
「???」
テリアンヌ様は訳がわからないって顔をしながらも従う
「はいはい、皆、しっかりと立ってて下さいね! 自信が無い人はここから離れて離れて!」
ユルクルが兵士達に叫ぶ
これで、こっちの準備は完了だ
「なんのつもり?」
ティールが聞いてくる
「すぐにわかる、お前もしっかりと耐えろよ?」
「?」
俺はティールから親父の方に視線を戻す
その時、ライアンと親父が動き出した
ドンドン距離が縮まる2人
そして…………
ドッ!
音が響く
衝撃が訓練場全体に伝わる
凄まじい圧が襲ってくる
ドサッ!
バタッ!
後ろで兵士達が倒れる音が聞こえた
呑まれて気絶した様だ
「なんだ今の……」
ユリウスの呟きが聞こえた
「やっぱりこうなったか……」
俺も呟く
思い出すな、親父とオルベリンが戦場で戦った時を……
『今日こそ貴様を討つ! オルベリン!』
『相変わらずだなブライ!!』
まだ新兵だったあの頃の俺はその光景を見て気絶した
俺だけじゃない、周りの兵士達もだ
後から親父に聞いたら、2人の殺気に耐えられなかった結果らしい
「全く、力も殺気も全部込めてやるなっつーの……」
俺は親父を見ながら呟く
それにしても、ライアンの奴もそれを真っ正面から受けたってのに……ピンピンしてやがる
あの若さであの胆力……嫉妬するな
「テリアンヌ様、大丈夫ですか?」
「あ、は、はい……2人のお蔭でどうにか……」
テリアンヌ様は無事だな
他の連中は……レムレが眼を押さえているくらいか
「レムレ!? 大丈夫か!?」
「眼が、痛い……おもいっきり砂が入った……」
ユリウスがレムレの心配をしている
「ユリウス、レムレを医務室に連れてってやれ、他の奴等は気絶した奴を運んでやれ! 決闘は終わりだ!」
俺は兵士達に指示を出す
決闘は終わりだ、ていうか続けられないだろう
2人の木剣は折れていたのだから
・・・・・・・
ーーーライアン視点ーーー
「じいさん、強えな」
俺は木剣を見る、刀身の部分が折れて吹っ飛んでいた
「お前もな、オルベリンはしっかりと鍛えていた様だな」
「まあな」
「じゃが、まだ未熟だな、お前、マトモに戦った事無いじゃろ?」
「……喧嘩は負け無しだぞ?」
「喧嘩と戦闘は違うぞ?」
「だよな、確かに全然だ」
「それが今のお前にある弱点じゃな、それさえ無ければ……お前はオルベリンの様な武人になれるかもしれんな」
「親父の様な……」
それじゃ駄目だな
「不服そうじゃな?」
「あぁ、親父の様なじゃ駄目だ、俺は親父を越えたい」
「……そうか、生意気な事を言うのぉ」
ブライはニヤリと笑った
・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「えっ? なに? もう2人の決闘終わったの?」
メルノユと別れて、城のメイド達と働いていたヤンユに連れられてきたティンクと合流して、訓練場に向かっていたらティールと会った
「えぇ、一瞬で終わりました、引き分けだそうです」
それを聞いた俺はそれなら仕方ないって事でティンクと部屋で休むことにした
ヤンユに案内されて俺とティンクの部屋に向かう
「ヤンユも元気そうだな」
「ええ、カイト様もお元気そうで安心しました、レリス達はどうしてます?」
「皆元気だよ、レリスは最近雇ったメイリーの教育をしたりして生き生きしてる」
「メイリー? 女の方ですか?」
ティンクが聞いてきた
「いや、男だよ、昔、子供だった彼を助けた事があってね、その恩を返したいと軍師に志願してきた、彼のお蔭で西方の軍を撃退できたんだ、レリスも珍しく褒めてるよ、帰ったらちゃんと紹介する」
「楽しみにしてますね!」
ティンクはそう言って俺の右腕に抱き付く
「あのレリスが褒めるとは、有能なのでしょうね」
ヤンユが言う
「ああ、もうレリスの仕事の一部を任されてるしな、俺達が帰る頃にはレリスもかなり余裕が出来てるんじゃないのか?」
「……そうですか」
んっ? なんか機嫌が悪い?
「あ、そう言えばレリスがヤンユの紅茶が飲めなくて調子が狂うって、前にぼやいていたな、帰ったら淹れてやってくれないか?」
「ええ、構いませんよ、その前にカイト様に振る舞わせて頂きますがね♪」
んん? 今度は機嫌が良くなった?
なんなんだ?
その後、案内された部屋で俺とティンクは休んだ
久し振りに一緒に寝る……正直かなりキテいたが……俺は耐えた!
いつも通りイチャつくのはオーシャンに帰ってからって決めてるから!!
遊びに来たわけじゃないからな!
節度! 節度大事!
まあ、その代わり、お互いに今まで有ったことを話した
ティンクは船に乗った時の事を楽しそうに話してくれた
初めての釣りで魚が釣れて嬉しかった事
ミルムが船酔いをして大変だった事
テリアンヌが次々と釣り上げて、ペンクルを凹ませた事
ルミルは釣るよりも潜ってきた方が早いと魚を獲ってきた事
そう話してるうちに、いつの間にか、俺もティンクも眠ってしまったのだった