第21話 メルセデス・ヤークレン
ヤークレンを目指して馬車は走る
馬車には俺、俺の右隣にヤンユ
向かいにオルベリン、ヤンユの向かいにオーディンだ
これならオーディンは俺に危害を加えることは出来ない……不振な動きをしたらオルベリンが動く
ヤンユも護身術は習得しているから俺を守ることはできる……
……俺、戦闘で役に立たねえな……
「さて、カイト殿はヤークレンの事をどれ程理解されてますか?」
オーディンが俺に話しかける
「そうですね、色んな事を知ってると言っておきましょうかね」
「例えばぁ?」
「ヤークレンの首都であるグレイクを中心とした付近は雪国なんですよね、今の時期ならもう雪が降ってるでしょうし……着く頃には豪雪かと」
「はい、そうですね~だから防寒はしっかりとしてくださいね?他には?」
「貴方達八将軍の事とか……オーディン殿は乱戦が得意なんですよね?」
「おや?そんな事もご存知で?私も有名なことですね」
オーディンは得意気だ……余裕だな
八将軍はヤークレンの最高戦力だ、全員がステータスの平均がAになるくらいの実力者達
オーディンは確か4番目に強かったかな……
1番強いのは『ケセルド』という武人だ……オルベリンには劣るが武力とカリスマが限界突破している奴だ……
「いやーカイト殿は博識で!」
愉快そうに笑うオーディン……馬鹿にされてるのか?
「私からも聞きたいことがあるのですが?」
「なんです?」
「メルセデス殿は何故俺に興味を?何かした覚えはありませんが?」
「さぁ?あの方の真意は私にもわかりませんよ?」
そう言ってオーディンはやれやれ、と手を広げる
「まあご機嫌でしたから悪いようにはしませんよ?」
「そうですか」
そう言われてもな……今の俺の気分はドナドナされる牛のような気分だ
・・・・・・
さて、ヤークレンまではまだ時間がかかる……今のうちにメルセデス・ヤークレンの事をよく思い出しておこう
メルセデス・ヤークレン
ヤークレン領の領主だ
年齢は49歳
武力はBだが知性がA、カリスマは限界突破のSだ
元々ヤークレンは少し大きな領土を持っているだけだった
しかし、メルセデスが父親に謀叛を起こして殺した事からヤークレンの歴史は動いた
因みにその謀叛の時に一緒に戦ったのが現在の八将軍達だ
メルセデスは父親を殺した後は新たな領主になり、兵や八将軍と共に付近の領土を攻めて奪い取った
更に勢いをつけたメルセデスは次々と戦を起こして勝利する
カイト・オーシャンが産まれる頃には大陸の4分の1を手に入れていた
そして更に侵攻をしていくメルセデス
焔暦140年の頃には今の様に大陸の半分を手中に納めた
しかし、その後はピタリと戦をしなくなった……理由はわからないが……多分内政で忙しいんだろうな
…………そんなメルセデスに気に入られるには
「やっぱり強気にいくしかないか……」
今のオーシャンじゃどう足掻いても太刀打ちできない
しかし嘗められたら駄目だ
オーシャンを味方にしてると大きなメリットがある……そんな印象を与えるんだ……
・・・・・・・・・
道中の村や都の宿に泊まりながらヤークレンを目指した
たまに賊が襲ってきたが……うん、相手が悪すぎた
馬車が止まった瞬間にオルベリンとオーディンが飛び出して、俺が外を見ようと小窓から覗く頃には全滅してるんだもんよ
まあそんなこんなで行きは安全な旅立った
……問題は帰りだな……無事にヤークレンを出れるか?
・・・・・・・・
さて、そうして移動してる間に12月になった
……年越しまでには帰りたいな
「カイト殿、防寒着は大丈夫です?」
「ええ、快適ですよ」
この道中でオーディンと少しだけだが打ち解けた
まあ何時までも警戒しまくるのは疲れるしな……その役目はオルベリンに任せた
「若いと思ってましたが、意外としっかりした人物で驚きましたよ」
「坊っちゃ……カイト様は大物になるお方だからな」
「ははは、そうですねー」
そう言ってオーディンは俺を見る
「まあ、メルセデス様がいきなり貴方を処刑するなんて言ったら弁護ぐらいはしてあげますよ?」
「それはどうも」
さらりと恐ろしいこと言うな……なに?メルセデスはそんな事やったことあるの?
「ほら、見えてきましたよ、あれがグレイクです」
オーディンが小窓を指差す
俺は小窓を覗く
外は雪が降っている……その奥に
「……デカイ」
ヘイナスの10倍はありそうな都が見えた……ここだけで兵力は20万はありそうだな……
・・・・・・・・
「止まれ!何者だ!」
門番に止められる
「はいはい、お疲れ様です♪」
「オ、オーディン将軍!?」
オーディンが馬車から出て門番に挨拶する
「メルセデス様にカイト・オーシャン殿をお連れしたことを伝えてもらえます?あと温かい飲み物の用意も!」
「は、はい!!」
門が開く
馬車が門をくぐり都に入った
「さて、城までまだ時間がかかりますので……皆さんはゆっくりと向かってて下さい」
オーディンが馬車の外に出る
「オーディン殿は?」
俺が聞くと
「私は色々と準備が有りますのでお先に向かわせてもらいます♪」
「えっ?」
馬の駆ける音が近付いてくる
後ろを見ると鞍と手綱を付けた無人の馬が駆けてくる
「では後程!」
馬が馬車を追い越す一瞬でオーディンは馬に飛び移り駆けていった
「……わお」
「あの程度、ワシでもできる」
「対抗しなくていいからな?」
やっと警戒を解くオルベリン
お疲れ様
・・・・・・・・・
ヤークレン城
門番に話をするとアッサリと通された……
「あ、申し訳ありませんが使用人の方は別室で待機していただけませんか?」
兵の1人が言ってくる
「何故だ?」
俺が聞く
「玉座の間に相応しくないので……」
はぁ?相応しくないってなんだよ!ヤンユはここまで俺の世話をしてくれたんだぞ?
そんなの認めるわけ
「畏まりました」
ヤンユが了承する
「……いいのか?」
「仕方ありませんよ、オルベリン様は問題ないのですよね?」
「はい!」
「でしたら安心です」
そうか……ならいいけど
「帰ったら欲しいものを言ってくれよ?手配するからな?」
「楽しみにしております」
・・・・・・・
さて、ヤンユは別室に案内された
俺とオルベリンが玉座の間に案内される
今、俺の目の前には玉座の間の扉がある
「すぅーふぅー」
深呼吸……
「大丈夫ですかカイト様?」
「大丈夫だ……オルベリン」
「はい?」
「何が有っても剣を抜くなよ?俺が侮辱されてもな」
「……わかりました」
「それと……」
「はい?」
「無理に呼び方を変えなくて良いからな?坊っちゃんのままで構わないからな」
俺はそう言って扉を見る
中から兵士が出て来て俺とオルベリンを見る
他の兵士と少し話してから扉を開けていく
「カイト・オーシャン殿が参られました!!」
玉座の間の扉が全開されるまで待つ
開ききったのを確認してから……俺は歩き始めた
ーーー玉座の間ーーー
レッドカーペットって言うのか?赤いカーペットの上を歩く
扉の側には数名の兵士
「………………」
数歩進むと厳つい鎧を着た連中が道を挟むように立っていた
ヤークレンの将達だ
「あれがカイト・オーシャンか」
「若いな」
「青二才が」
「あれが化物オルベリンか」
「老いぼれが……」
小声だがしっかりと聞こえているぞ?
更に進む
玉座までの道も後……半分だ
「……………」
掌に汗が滲んできた
落ち着け……落ち着け……
両側の将の鎧が変わった
8人の将……八将軍だ
「♪」
オーディンが小さく手を振っている
立派な鎧だ……準備ってそれかよ
「…………」
カーペットが途切れる
目の前には階段……この階段の上に玉座がある
そこに座っているんだな……メルセデス・ヤークレン
「すぅ……はぁ……」
小さく呼吸する
よし、大丈夫だ!
俺は顔を上げる
「初めましてメルセデス・ヤークレン殿、カイト・オーシャンと申しま…………っ!?」
俺は挨拶しながらメルセデスを見て言葉が止まった
「どうした?カイト・オーシャン」
メルセデスは玉座に座って俺を見る
いやどうしたってあんた……いや挨拶を先に終えよう
「…………カイト・オーシャンと申します」
取り敢えず言葉を続ける
俺の言葉が止まった理由はあり得ないものを見てしまったからだ
だって……だって
「はぁ……はぁ、ひゃん!」
「はははは!」
メルセデスの野郎、膝に裸の女性を乗せて胸を揉んでるんだぞ!?
あり得なくね!?人前でそんな事普通しなくね!?
「良く来たなカイト・オーシャン、ほら、その顔を良く見せてみよ」
「はっ……」
俺はメルセデスを見る
女の人は……うん、無視しよう……見えない見えない
銀色の髪に厳つい顔……髭も伸びてるな……関羽みたいだ
「ほう、若いな……何歳だったか?」
「今年で16になります」
「そうかそうか!16か!立派な事だな!」
「ありがとうございます」
さて、どうするかな……何か言ってくるか?
それとも俺から何か話すべきか?
「聞いたぞ?パストーレやマールマールを僅かな兵で倒したらしいな?」
「パストーレとは停戦の条約を結んだだけですよ」
「そうか!」
メルセデスはニヤニヤしながら俺を見る
そしてオルベリンに視線を移す
「オルベリンか、老けたな」
「年ですからな」
「そうだな!ふはははははは!!」
大笑いするメルセデス
そろそろ本題に入ってほしいものだ
「あの、メルセデス殿、此度は何故私などを招かれたのでしょうか?」
取り敢えず自分を下にして聞いてみる……強気でいくにもタイミングが重要だ……ここでっというタイミングで強気でいくぞ!
「ふむ……我輩が貴様の顔を見てみたかっただけだな」
……おいおい本当にそんな理由かよ……
「では、もう用件は済まされたと?」
「そうなるな!」
……この野郎
「メルセデス様!流石にそれは無いですよ~♪」
オーディンが言う
「私結構大変だったんですからね?」
「ふむ、それもそうだな……」
そう言ってからメルセデスは俺をジーと見る
「カイト・オーシャン」
「はい!」
「お前は東方を手にいれるつもりか?」
それ聞いちゃう?
「そのつもりですが?」
「つまりガガルガと戦うのだな?」
「……はい」
やはりヤークレンとガガルガは繋がっていたか
「オーシャンはカイナスの援軍としてガガルガと戦っていたよな?なら我らヤークレンがガガルガと繋がっているのは理解できよう?お前、我輩と争うつもりか?」
「っ!?」
ゾクッと身体に寒気が走る
ちっ!女性の胸を両手で揉みながらの発言にしては迫力がありやがる
「…………今はそのつもりはありませんね」
「ほう、今はか」
ここだ……強気になるべきはここだ!!
「ええ、今のオーシャンではヤークレンには手も足も出ません……本来ならこうして貴方と会うことも不可能だったでしょう」
「ふむ……」
「……ですが……ガガルガを落とし……他の2つも手にいれ、東方を制圧し……」
周りの将達から殺気が飛んで来る
「西方……南方を手にいれ!」
八将軍からも殺気が飛んで来る
「そして、ヤークレンに挑ませてもらう!!」
将達の殺気に押し潰されそうになる
「お前はこの大陸を手にいれるつもりか?」
「ええ、この大陸を統一するつもりです!!」
俺は叫ぶように言った
ジャキン!
その瞬間に周りの将や八将軍が全員武器を構えた
「っ!!」
オルベリンが剣を抜こうとするがギリギリで止まる……そうだ、何が有っても抜くな!
「………………」
「………………」
俺を睨むメルセデス……
し、失敗したのか?
「……くく」
「?」
「ふーはははははははははは!!」
「!?」
メルセデスが大きく笑った
同時に殺気が静まり、将達は武器を仕舞った
「この状況でもそんな戯言を抜かすか!!面白い!!」
「きゃあ!?」
メルセデスが立ち上がり
女の人が膝から落ちた
「ガガルガの奴はヘラヘラ媚びへつらうだけの軟弱だったが……お前は野心も隠さぬ!その度胸気に入った!!おい!アイツを連れてこい!」
「はっ!!」
「アイツ?」
誰か連れてくるのか?
「カイト・オーシャン!同盟だ!オーシャンと同盟を結んでやろう!」
「……なっ!?」
えっ!?同盟!?
「正気ですか?私は貴方に挑むと言ったのですが?」
平静を装いながら言う
「挑んできたなら叩き潰すまでだ!それまでは貴様を我輩が利用してやる!」
「……」
つまりオーシャンに……いや、俺に利用価値があると考えたんだな
「ガガルガを攻めるのも好きにしろ!同盟国同士の戦いには介入はせん!」
あぁ、だから同盟か……
「しかし力は貸してはやらん!!我輩の力など借りずに制圧してみろ!!」
「勿論です!」
ヤークレンの力を借りるつもりなんか元々ない
取り敢えずガガルガを攻めても介入されないだけでも大きな利益だ
「お連れしました!」
兵がやってきた……兵の後ろには女の子が居た
……10歳くらいかな?
メルセデスと同じ銀色の髪
雪のように白い肌
「カイト・オーシャン、ソイツは我輩の娘の『ティンク』だ!歳は12の子供だが……こいつの母親が良い身体をしていたからな、成長したら良い女になる」
「は、はぁ……」
言い方が色々と気になるが……なんで俺に紹介する?
「お前!こいつと結婚しろ!ここまで来た報酬だ!」
「…………っ!?」
はっ!?何言ってんだこのおっさん!?
自分の娘を嫁に出す?
てか12歳って!?
いやそもそも扱いが娘に……てか人に対する扱いじゃないよな!?
それに結婚なんて……鎖で繋がれるようなものだ!!
ティンクちゃんには悪いけど、結婚したらヤークレンと争うのが難しくなる!
だって嫁の実家を攻めるって事になるんだぞ?不義理扱いだ!
家臣からも不信をかうし!ベススとかの同盟国からも信用を失う!
だから結婚するわけにはいかない!
「…………」
ほら、オルベリンも断れって目をしてるし!
何とか理由を作って断ろう!
「ティンク!挨拶しろ!」
そう考えていたらメルセデスの大声が響く
っていつの間にかティンクちゃんが俺の右隣に!?
「……は、初めまして……ティンクと申します……な、なんでもしますので……可愛がってください……」
「…………」
さて、俺は今の挨拶を聞いて色々と不審に思った
先ず彼女はティンクと名乗った……『ティンク・ヤークレン』とは名乗らなかった
次に彼女の様子だ……平静を装っているつもりだろうが……震えているし……怯えた目をしている
……俺を見て怯えてるのではない……彼女の視線は……メルセデスを見ている
そして……近いから見えた……彼女の鎖骨……より少しした胸元あたりか?服で隠そうとしてるがどう見ても殴ったような傷があるように見える
「…………」
それに周りの将達の反応……メルセデスの娘が俺みたいな弱小領主に嫁ぐんだぞ?
何故誰も反対しない?てか八将軍以外の将達はニヤニヤしてないか?
悪巧みをしてるような……
「……そういうことか」
俺の中で1つの仮説が浮かぶ
「…………」
「……っ」
俺はティンクの左手を取る
優しく触れ……近付く
そしてボソリと呟く
「ここから出たいか?」
「!?」
驚き……焦り……期待……怯え……
様々な感情が彼女の目に現れる
………そして
「……(コクリ」
彼女は頷いた
悪いオルベリン……この子を見捨てることは出来そうにない
「メルセデス殿、此度の婚姻……喜んでお受けさせていただきます」
「そうか!よし!ならば祝言を!」
「申し訳ありませんが!私も急いで戻らなくてはなりません!年越しまで戻らないと領主として不味いので」
「むっ?……そうだな!では今回の話はここまでだ!」
そう言ってメルセデスは玉座に座り、女性で楽しみ始める
「では失礼します」
俺はオルベリン……そしてティンクを連れて玉座の間から出た
・・・・・・・・
ヤンユを呼び出し馬車に乗り
馬車を走らせる
……ティンクが居るのに見送りも手土産も無しか
馬車がグレイクを出て少しして
「どういうつもりですか坊っちゃん!!」
オルベリンの怒号が響く
「悪いなオルベリン……こうするしかなかった」
「メルセデスに屈したのですか!!」
怒るオルベリン……うん、まあ仕方ないよな
「そんなつもりはない!彼女を娶るのは俺の意思だ!」
俺は隣のティンクの手を握る
「何故ですか!!そんな必要など!」
「彼女の身の安全のためだ!!」
俺がそう言うとオルベリンとヤンユが目を丸くした
「……どういう事ですかな?」
オルベリンが聞く
「ティンク……ちょっといいかい?」
「あ……はい……」
俺は彼女の左腕を取り袖を捲る
『!?』
露になるティンクの左腕
彼女の二の腕には傷があった……鞭で叩かれたのか棒で殴られたのか……
「これは……」
「酷い……」
「多分身体もボロボロだと思う……俺が断ったら彼女に危害があると思ってな……」
「しかしそれでも……」
オルベリンが反論しようとする……
「目の前の女性を見捨てる奴が!天下なんて取れるか!!」
「!?」
「オルベリン……わかってる、俺がやったことはオーシャンを縛り付けてしまう事だと……それでも……見捨てられなかったんだ……」
「…………はぁ」
オルベリンはため息を吐く
「思えば……坊っちゃんはいつも自分を犠牲にしてましたな……これが初めての我が儘ですな……わかりました、坊っちゃんがそこまで言うならワシはもう何も言いません」
「オルベリン……」
「とにかく坊っちゃん……先ずは奥方様を慰められては?」
「えっ?慰める?……うわどうした!?」
ティンクを見たら彼女は震えながら泣いていた
「ごめん……なさい、わ、わたしの……ために……ぐすっ!」
「いいから!気にするなって!ほら!顔拭いて……あぁ!どうしたらいい!?」
俺はオルベリンとヤンユを見る
2人はやれやれとお互いを見合って笑っていた
いいから助けて!!