第216話 姉弟だからわかる
パルンに来てから数日が経過した
「はっ!」
僕は目の前から迫ってくる兵士の木剣を後ろに跳んで、避けながら矢を放つ
「うっ!」
鏃を潰しているから刺さりはしないけど、当たれば痛いからね
兵士は怯む
その隙に今度は懐に潜り込んで
「ふっ!」
兵士の脚を払い
「のわっ!?」
地面に倒して、首もとにナイフ代わりの木の棒を当てる
「ま、参った!!」
「次!」
ブライさんの掛け声で次の兵士が訓練用の槍で突いてくる
僕は横に跳んで、槍を避けながら石を1つ拾って、兵士の顔に向けて投げる
「くっ!」
兵士は顔を逸らして、石を避ける
僕から目を離した隙に弓をつがえて矢を放つ
「ギャア!!」
兵士の顎に当たる
顎を押さえる兵士
「よし! そこまでじゃ!」
ブライさんが止める
「ふぅ……」
その一声を聞いて、僕はやっと気を抜けた
「うむ、この数日で接近戦にも慣れてきたな」
「目に入った物は何でも使え……やっと意味がわかりましたよ……」
訓練が本格的に始まった日にいきなり言われて、兵士達との連戦が始まって……大変だった
「後はこれが本番に出来るか……ですね」
「そうじゃな、寝る時でも想像して練習しておけ、意識さえしておれば、なんとかなる」
「わかりました」
この数日はこんな風に模擬戦、その後、十数本の矢を的に当てる弓の訓練……だけ
「……ブライさん、これだけで本当に竜の弓に認められるんですか?」
毎日、訓練が終わったら、宝物庫に行って竜の弓を持とうとしてみる
でも凄く重たいままだ……
「ワシもペンクルもそうして認められたからのう……これしか方法は無いんじゃよ」
「そう……ですか」
…………
その日の夜
「…………」
僕は訓練場で弓の訓練をする
「…………ふっ!」
一応、無理はしない範囲でね?
また怒られるし……
「でも……これだけじゃ足りない気がする……」
やっぱり本数を増やそうかな?
「やっぱりここに居たか」
「ペンクルさん……」
ペンクルさんがやって来た……夜遅くなのに……あれ? 鎧を着てる?
「どうしたんですか? 武装して……賊でも出たんですか?」
「いや、緊急事態だ」
「えっ?」
「西方の連中がオーシャンに攻めてきた、援軍として出ないと行けなくなった」
「そ、それなら僕も!」
「そう言うと思った……お前は留守番だ」
「なっ!?」
何故? そう聞こうと思ったら……
「今のお前が来ても足手まといだ、パルンに残って訓練を続けていろ、それを言う為に来た」
「……で、でも」
「でもじゃねえ! 大人しく残ってろ! 良いな?!」
「……は、はい」
凄まじい迫力に押されてしまった
「それとカイトの嫁さんと妹がこっちに避難する為に向かってるらしい」
「ティンク様とミルム様が?」
それならルミルとテリアンヌちゃんも一緒かな?
「それも伝えたからな、俺はもう出発する」
そう言ってペンクルさんは走り去る……時間がないのに教えに来てくれたんだ……
「…………ルミルやテリアンヌちゃんも一緒かな?」
あの2人はティンク様の護衛だから……
「……もう休もう」
元気な顔で会わないとね!!
・・・・・・・
それから5日後、ティンク様とミルム様がパルンに到着した
それを僕は少し離れた所で見る
メルノユ様とティンク様が少し話をしてから、ティンク様とミルム様がパルン城に入城して行った
「……完全に挨拶するタイミングを逃しちゃった」
ま、まぁ、後で城に行った時にでも大丈夫だよね?
そう思っていたら……
「夜になっちゃった……」
どうしよう、流石に不敬だよね?
「かといって部屋まで訪ねるのは絶対に違うし……」
訓練に集中しすぎた……
「あーどうしよう」
悩みながら廊下を歩いていたら
「何悩んでんの?」
「うわ!? ルミル!!」
「久し振りに会ったお姉ちゃんにその反応は無いんじゃない?」
「いだだだだ!! ごめんごめん!!」
腕をねじられる
「それで? 何ため息吐いてんの?」
「いや、その、ティンク様に挨拶しそこねて……」
「なんだ、そんな事か、ティンク様はその程度の事は気にしないし、明日でいいじゃない、気になるならその時に謝ればいいし」
「そ、そう?」
「あの人が優しいのは知ってるでしょ?」
「う、うん……じゃあ、そうするよ」
僕は部屋に戻るために向きを変えて歩く
「私に何か言うことあるんじゃないの?」
後ろからルミルに言われる
「あ、ごめん、元気そうだったから……変わったところはない?」
「皆元気よ……あんたは大分参ってるようね?」
「そ、そんなこと無いよ?」
「あらそう? なら良いけど」
「じゃあ、僕はもう休むね? また明日」
僕はそう言って早足でその場を去った
「…………アイツ、嘘が下手なんだから」
・・・・・・・・
翌日、僕はティンク様とミルム様に挨拶する
「本当は昨日の内に済ませるべきだったのに……申し訳ありません」
「そんな、気にしないで下さい、レムレ君が元気そうで良かったですよ?」
「そう言ってもらえると助かります……」
僕はミルム様を見る……
「…………」
な、なんだろ……く、暗い!
お、落ち着かない!
「そ、それでは失礼しますね?」
「はい! 体調には気を付けてくださいね!!」
ティンク様に見送られながら、僕はその場を後にした
・・・・・・・・
「はぁ……ダメだ」
この日も竜の弓は持てなかった
「どうしたら認められるんだ?」
……焦りが出てくる
「西方が攻めてきてるのに……僕は何してるんだろ……」
本当なら皆と一緒にオーシャンを守るために戦わないといけないのに……
「はぁ……」
ため息を吐きながら廊下を歩いていたら
「悩みがあるなら言いなさいよ」
「うわぁ!?」
ルミルがいつの間にか側に立ってた
「な、なんの事?」
「レムレ、何年アンタと姉弟してると思ってんの? 隠しててもバレバレだから!」
「……」
「それで? 何悩んでんの?」
「そんなの……僕が知りたいよ……もう訳がわからない……」
「……はぁ、一度悩みだしたらドンドン悪い方にいく、アンタの悪い癖よ……ほら、詳しく聞いてあげるからアンタの部屋にいくわよ」
そう言って、ルミルは僕を引き摺るのだった……