第214話 前略、船の上より
ーーーレムレ視点ーーー
オーシャンを出発し、10日程でパストーレの首都パルンに到着した
やっぱり軍で動くよりも速く着いた
「訓練は明日からじゃな」
ブライさんが言う
「えっ? まだ昼ですよ?」
僕は空を見上げる
太陽は真上にある
「色々と準備をしなくてはなるまい、メルノユ様にも報告し、時間を作らせてもらわねばならん」
「あ、そうですね……」
「レムレは取り敢えずメイドに部屋を案内させるから、荷物をおろしてから医務室で手を診てもらえ、異常がなければ夕方まで街でも見ておれ」
「じ、自主的に訓練するのは駄目ですか?」
「……また指を駄目にするのか?」
「大人しくしてます……」
そして、パルン城に入城した
「メルノユ様には僕も挨拶した方が良いんじゃないんですか?」
メルノユ・パストーレ……年齢も立場も全てにおいて目上だから様付けで呼ぶ
「あの方も多忙じゃからな、時間が出来たら呼んでやるから、その時を待っとれ」
「わ、わかりました」
僕はメイドさんに案内されて部屋に向かう
今日から暫くお世話になる部屋……出来る限り負担をかけないようにしよう……
「えっと……着替えはここに仕舞って……道具は机の上に置いておくかな……あ、壁に弓を掛けられるようになってる」
よし、荷物はこんなところかな?
次は医務室に行かなきゃ!
部屋に案内してくれたメイドさんに、医務室まで案内してもらうことにした
・・・・・・・・・
ーーーブライ視点ーーー
「以上です」
儂はメルノユ様に報告をすませる
「そうか、どうやらカイトは立ち直れた様だな」
メルノユ様は安堵したのか微笑む
「これで、報告と言う体で様子を見に行く必要は無くなりましたね?」
「うむ、何度も行き来させてすまなかったねブライ」
メルノユ様はカイト・オーシャンの事をとても心配していた……
カイトの父親のベルドルト・オーシャンとは良き友であったからのぉ……
「それで? レムレだったかな? その子を鍛えるんだな?」
「……まあ、オルベリンにも頼まれましたから」
「そうかそうか、因みにどう鍛えるつもりなんだい?」
「そうですなぁ……アレを使いこなせるくらいですかね」
「……ひょっとして例の弓を?」
「ええ、そろそろ、儂以外にも使い手を用意してやらないとなりませんから」
・・・・・・・
ーーーレムレ視点ーーー
医者に指を診てもらい、弓を扱うのに問題はないと診断して貰った
「失礼しました」
僕は医務室を出る
そして用意された自室に戻る為に廊下を歩く
「……パルン城かぁ」
戦で来たとき以来かな
あの時はあんまり城の中を見てなかったから……結構新鮮だったりする
「……訓練場とか覗いてみたいけど……怒られるよね」
あ、でも街は見て良いって話だったよね?
部屋で一息ついたら街に出てみるかな……武具屋とか覗いてみたいし……あるよね?
・・・・・・・・・
部屋に戻ったら昼食が用意されてた
有り難く頂いてから街に出る
「えっと……確かこっちに雑貨屋があったはず……」
少し怪しい記憶を頼りに街を歩く
「あれ? こっちじゃなかったかな?」
港に来てしまった……
「…………おい」
「うわっ!」
横から声を掛けられる
振り向くと男性が立っていた……この人は……確か……
「えっと、ペンクルさん……ですよね?」
「ああ、お前は確かカイトの所の……あれだ、弓兵だろ?」
「レムレです……」
「そうかすまんな、顔は何となく見覚えがあったが、名前はわからなくてな」
「そ、そうですか……」
まあ、あんまり話してないからね
マトモに会話したのもこれが初めてじゃないかな?
「それで? なんでここに居るんだ? オーシャンに居るんじゃなかったのか?」
「ブライさんに鍛えてもらうために来たんですよ……」
「……親父に?」
ペンクルさんは周りを見渡す
「カイトの護衛で一緒に来てるって訳じゃないんだな?」
「ええ、僕だけです」
「そうか……なら良いか、んで? 港に何のようだ?」
「道に迷って来ただけです……ペンクルさんは?」
「俺は釣りをしにな……暇ならお前もやるか?」
「えっ? えっと……」
僕が答えに迷うと……
「ほらこい、船がもう出ちまう!」
「うわっとと!?」
ペンクルさんが僕を担ぎ上げた
僕は船まで運ばれた
「お、旦那ぁ! 今日は休みですかい?」
「ああ、久し振りのな」
船員の1人が声をかけてきた
「そっちのは?」
「んっ? 暇人」
僕を見て答えるペンクルさん
……もっと言い方がありませんかね?
「ほら、ここ座れ」
「っと!」
やっと下ろしてくれた
「ほい釣竿、目的地に着くまでに準備しとけ……釣りの経験はあるよな?」
「か、川釣りなら……」
「なら仕掛けの方は大丈夫だな」
そう言うとペンクルさんは釣り竿の準備を始めた
……凄く流された感があるけど……折角だから僕も準備する
船が出る
釣竿の準備を終えた僕は甲板を見渡す
ペンクルさんみたいに釣りに来た人が数人
他には船に乗るのが目的な家族が居る……父親が息子を支えながら海を一緒に覗きこんでいた
「どうした? 知り合いでも居たか?」
ペンクルさんが話し掛けてくる
「いえ、そんな訳では……船に乗るのは初めてなので新鮮だなっと」
「んっ? そうなのか? オーシャンにも港はあるだろ?」
「ありますけど船には基本乗りませんよ……」
「こんな風に船釣りもしないのか?」
「しませんね、港と都は離れてますから」
「あー、そうか、それなら機会も無いか……なら丁度いい、思い切り楽しめ」
そう言うと、ペンクルさんは小箱を取り出す
「……それは?」
「んっ? 撒き餌」
ペンクルさんは小箱を足下に置く
「釣った魚は船員に言えば捌いて貰えるぞ、船の上で食う魚は美味いぞ」
そう言いながら、瓶を取り出す
「……それは何ですか?」
水?
「これか? 酒」
「……透明ですよね?」
「ああ、米から造られてる酒だ、ジュラハル大陸から仕入れた」
「お米から?」
お米でお酒が出来るもんなの?
「気になるか?」
「……少しだけ」
「そうか、なら後で飲むか?」
「良いんですか?」
「ああ、1人で飲むより大勢の方が良いだろ? お前らも飲ませてやるから聞き耳立ててるんじゃねえよ!」
『よっしゃ!』
周りの釣り人達が喜ぶ……恒例なの?
「着いたぞ! 今から3時間だ! 思う存分釣りやがれ!!」
船員が大声で言う
それを聞いて皆が釣糸を海に投げ込む
僕も釣糸を投げ込む
・・・・・・・・・
「レムレお前結構やるじゃねえか!」
「ど、どうも……」
2時間後……船の上は宴会が始まってた
僕を含めた全員が次々と魚を釣り上げた
ある程度釣れたら、船員が調理して持ってきた
そして、ペンクルさんがお酒の栓を開けた
あとはあっという間だった
釣っては食べて飲んで
この人達の身体はどうなってるのか……大量に飲んでも平然としている
「おいしー!!」
子供達も焼いた魚を美味しそうに食べている
僕も焼かれた魚の切身を食べる
味付けは塩だけらしいけど……凄く美味しく感じた
……自分で釣った魚だからかな?
「このお酒も……美味しいですね……ワインと比べたら辛いですけど……」
「そうだろ? 他には甘いのもあるが……また今度飲ませてやるよ」
「あ、ありがとうございます……」
・・・・・・・・・
「あー、飲んだ飲んだ!」
時間が来て、船は港に戻った
僕達は下船する
「げ、元気ですね」
あんなに騒いだのに……ピンピンしてる
「お前も結構強いじゃないか! 結構飲んだろ?」
「ま、まぁ……」
いや、割りと酔ってますよ?
「よし、このまま家来い! もっと飲むぞ!」
「えっ? でも戻らないとブライさんに怒られますよ?」
「親父には俺から言っておく! ほら行くぞ!!」
「えっちょ!? またですか!?」
ペンクルさんに担ぎ上げられた……
これは……簡単に解放されそうにないなぁ……
その後、ペンクルさんの屋敷で飲み潰れ
翌日、誰かから話を聞いたブライさんがやって来て……
「ペンクル……気に入った相手を招いて酔い潰れるまで飲むのは止めるように言った筈だが?」
「いや、俺も久し振りだったからつい……」
ブライさんに怒られました……主にペンクルさんが……