第213話 特訓開始ぃ!!・レムレ編
カイトが捕虜を迎えにオーシャンを出た頃
ーーーレムレ視点ーーー
「……っ!」
僕は弓を引き、矢を射る
矢は的を貫く
50本目の矢が的に刺さると僕は矢を回収する
そして使える矢を確認して、また射る
これを朝からずっと続ける
いつまでも敗戦を引き摺るわけにはいかない
そう自分に言い聞かせて訓練を行う
……違うか
これは身体を動かしてないと、いつまでも落ち込んでしまうから、訓練をして無理矢理考えるのを止めてるだけだ
「…………」
僕は……自分が強いとは思ってはいなかった
ヘルドさんやレルガさんみたいに、強い人を知っているから
僕なんて彼等の足下にも及ばない
それでも……
「役に立てると……思ってたのに!!」
オルベリンさんからも評価されていたこの弓で!
どんな敵も射ぬいてみせると!
「なのに……」
多くの敵に攻められて、接近戦になった途端に苦戦して……
ブルムンさん達が来なかったら……
「くそっ!」
ヘルドさんも、ルーツさんも戦死して……
アルス様も遺体が見つかったらしいし……
シャルスとゲルドさんは行方不明
「くそっ! くそっ!」
息を切らしながら矢を放つ
「もっと……もっと強くならないと……」
また失う……
「荒れておるのぉ……」
「!?」
背後からの声に驚く
「……ブライさん? 何故ここに?」
そこにはパストーレに居る筈のブライさんが居た
……正直この人苦手なんだよなぁ
1度殺しあったし……
「カイトにパストーレの現状を報告しにな、入れ違ったようじゃが」
そう言ってブライさんは的の方を見る
「お前はもう弓の腕は鍛えなくていいんじゃないのか? 充分戦えるじゃろ?」
「……全然駄目ですよ、もっと鍛えないと……」
僕は矢を放つ
「鍛えるのと無理をするのは違うのじゃが? 指の皮が無くなるまでやる気か?」
「無くなっても続けます」
指がどんな状態になっても射てるように……
「……青いのぉ」
「……なんですか? 邪魔をするならどっか行って下さい」
僕がそう言うと
「オルベリンはお前に何を教えたんじゃ? 無茶をする事だけか?」
「!! オルベリンさんの悪口を言うな!」
僕はブライさんを睨む
「若造がよう吠えるのぉ」
「っ!」
殺気を当てられて思わず怯んでしまう……
実力差を思い知らされる
「休めるときはしっかり休む、そんな基本的な事もわからんのじゃろ? オルベリンは人に教えるのは慣れておらんかったようじゃな」
「ちゃんと教わったよ! ただ、今は休まなくても平気なだけです!」
「ほぅ、指の皮が擦りきれて、出血していてもか? そんな状態で戦闘が起きたら戦えるのか?」
「戦います!」
「たわけ、戦えるのか聞いとるんじゃ、お前のやる気などどうでもよいわ」
「なっ!」
ブライさんは僕の右手を掴む
「お前も弓兵ならわかるじゃろ? 僅かな異常で矢の軌道は変わるんじゃ、戦闘中に血を含んだ矢を狙い通りに放てる訳があるまい!」
「ぐっ!」
「怪我が癒えるまで訓練は止めておくんじゃな」
そう言うとブライさんは僕の手を離して歩き出した
「…………なんだよ」
僕はその後ろ姿を見ながら呟いた
・・・・・・・・・
「こんな状態になるまで続けますか普通?」
「……すいません」
レイミルさんに指の治療をしてもらう
「はい、10日は毎日この薬を塗ってから包帯を変えること!」
「ありがとうございました……」
僕は医務室を出ようとしたら
「レムレ君、人はいつか必ず死ぬんだから、いつまでも引き摺っちゃ駄目よ……軍人なら尚更ね」
「……はい」
……そう簡単に切り替えられない
「僕って……向いてないのかな……」
「知るかよ」
中庭に行ったら、たまたま居たマーレスに愚痴る
「レムレ、お前は何で軍に入った?」
マーレスが聞いてくる
「えっ? それはカイト様に恩を返すためで……」
「今の理由じゃない、兵になった頃の動機を聞いてるんだ」
「……えっと…………」
確かあの頃は母さんの為にお金を稼ぎたくて……
でもおばさんに母さんは見殺しにされてて……
なんでこうなったか考えて……
「……復讐?」
「おいおい、穏やかじゃないな」
「色々あったんですよ……」
当時のカイナス領主のケーミストに父さんを殺されて
母さんが病気になったのも疫病が蔓延した村を放置されたからで……
それでケーミストが憎くて憎くて……
「……カイト様への恩返しって……ただの後付けの理由なのかな……」
「それは知らねえよ、ただ目的を果たしていて、軍に入る理由が見つからないなら……辞めるのも手だぞ……実際、敗戦を経験して、軍を辞めたなんてよく聞く話だ」
マーレスはそう言うと僕を見る
「向いてるとか向いてないとかどうでもいいんだよ、最終的にお前がどうしたいかで決まるんだからな」
「……僕が、どうしたいか」
「これからどうしたいか考えて、その為には何が最善か考えて行動すればいい……プライドを捨てて、形振り構わずな」
そう言うとマーレスは中庭から出ていった
「……形振り構わず……最善か」
今の僕に何が必要なのか
薄々と気付いてはいた
でも……それを認めるのは嫌だった……
「…………僕がこれからしたいこと」
守りたい
恩人であるカイト様を……いや、恩人ってだけじゃないかな?
尊敬してるし、普通に好きなんだ、助けたいって思ってるし
カイト様だけじゃない、オーシャンで出会った人や配属された部下の兵
そんな皆の為に僕はこれからも戦いたい
「そして、その為に最善な事は……」
形振り構わず……いってみよう!!
・・・・・・・・・・
ーーーブライ視点ーーー
「お願いします! 僕を鍛えてください!」
「……いきなりじゃな」
パストーレに戻ろうと馬に跨がると、レムレが駆け寄り、頭を下げてきた
「僕はもっと強くなりたい! その為にはブライさんの力が必要なんです!」
「ほぉ……つまりオルベリンよりも儂の方が師として優れておると思ったのじゃな?」
「いえ、どっちが優れてるとかは考えてません」
「ハッキリ言うのぉ……」
「だ、駄目ですか?」
儂を見るレムレ
『おお、そうだ、待ってくれ』
『……むっ?』
以前、オルベリンの見舞いに行った時を思い出す
『ブライ、お前に1つ頼みがある』
『頼み? なんじゃ?』
『レムレを覚えてるな?』
『……忘れようがないじゃろ』
『そうだろうな、そのレムレだが……ワシはまだあの子達を最後まで鍛えきれておらん……本当はワシが最後まで見ておりたかったが……時間が足りぬ』
『……儂にあの小僧を鍛えろと言うのか?』
『うむ、レムレが望んだら……だがな』
『…………』
『お前なら、どう鍛えたら良いか……わかるだろ?』
『……全く、宿敵の弟子を鍛えるとはな……本人が望んだらじゃ、他は知らんぞ』
『それで構わん……頼んだぞ宿敵』
「……アイツはこうなる可能性を考えていたんじゃな」
「?」
「良いじゃろう、鍛えてやる」
「本当ですか!!」
レムレの眼が輝く
「待っててやるからさっさと準備してこい、パストーレで鍛えてやるから、軍師にも伝えてこい」
「はい!!」
レムレは城に向かって走り出した
「…………」
待ってる間、暇じゃし……もう少し土産でも買うかの……
・・・・・・・・
ーーーレムレ視点ーーー
「急ね」
レリスさんに許可を貰って、家で荷物を纏めていたらルミルが呟いた
「今さっき決めたからね……」
「パストーレから帰ってくる時は、お土産よろしくね」
「何が良い? 乾物でも食べる?」
「イカとか干したやつ? あれ苦手」
「じゃあ塩かな、パストーレの塩は美味しいらしいよ?」
「それに追加で塩に合う食べ物もね、イカ以外で」
「わかったよ」
僕は荷物を詰めた袋を持つ
「レムレ! 身体に気を付けてね」
「うん、ルミルもね!」
僕は家を出る
そして何か荷物が増えていたブライさんと合流して
僕はパストーレに向かうのだった