第212話 その頃のオーシャンにて
カイト達がオーシャンを出発して10日が経過した
その頃、オーシャンに残っていた者達は忙しく働いていた
ーーーレリス視点ーーー
「ふむ……そろそろリュウリ辺りに到着している頃だろうか?」
私は執務室で書類を片付けながら呟く
「何の問題も起きてなければそうでしょうね」
メイリーが濡らした布を目に当てながら答える
「そのライアンって人は私はまだ会ってませんから何も言えませんが……ムリシル殿が新兵の方達をしっかりと指導しているでしょうし……心配しなくても良いのでは? あ、ここ計算がずれていますよ?」
「それもそうだな……ああ、そこは少し変わっていてな、普通とは違う計算をしないといけないんだ」
私は白紙に数式を書く
「これなら合うだろ?」
「成る程……他に特殊な計算の書類はありますか?」
私はメイリーに書類の説明をする
ふむ、本当に優秀だな……覚えが速い
これなら私も10日の間に1日くらいなら休日を作ってもいいかもしれないな
・・・・・・・
ーーーレルガ視点ーーー
「やはり俺だけだと厳しいか……」
俺は新兵達の指導をしていた
しかし、人数が多いな……
確か275人だったか?
ある程度鍛えた兵達なら指示を出したら1で10を理解して結果を出すが……
新兵は10で2くらい理解するくらいだからな……常に指示を出していないと、どうすればいいのかわからずに戸惑うからな……
「ユリウスやレムレが居ればまだ何とかなったがな……」
ユリウスに騎馬を、レムレに弓を任せて、俺は歩兵に集中できるんだがな……
早く帰ってきてほしいな……
マーレスや他の将は巡回や討伐で出ているしな……
「近々、カイト様やレリスに何人か兵長候補を進言しておくか……そいつらに訓練の一部を任せれば何とかなるか……」
これからも兵は増えるだろうしな……
「ほら! お前ら! へばってないで走れ!! 戦場では休む暇なんかないぞ!!」
息を切らして座り込んだ兵達を怒鳴って走らせる
厳しいかもしれないが、戦場で生き残るためには無理矢理でも身体を動かすしかない
こんな訓練も耐えられないなら、軍を辞めればいい
根性なしはいらん!
・・・・・・・・・
ーーー???視点ーーー
「はひー! はひー!!」
い、痛い、足が痛い!
脇腹が痛い!
「走れ!! 走れ!!」
レルガ将軍が怒鳴る
「ひゃ、ひゃいいい!!」
震える足を無理矢理動かす
「うわぁ!?」
しかし、足がもつれて転んだ
「…………」
あ、ヤバい……将軍が怒ってる気配がする!
凄い睨まれてる!! 背中に刺さってる!!
ガッ!
「いっ!?」
背中に痛みが走る
「戦場だったらこれで死んでたな」
レルガ将軍の声……むっちゃ怒ってる!!
「す、すいません……」
「さっさと立て!!」
「ひゃい!!」
腕に力を入れて、必死に立ち上がる
前を見ると、同期の皆が遠くで走ってるのが見えた
かなりおいてかれてる!?
「走れ!! 次は転けても置いていくぞ!!」
「ひゃい!!」
ボクは必死に走った
・・・・・・・
「よし! 今日はここまでだ!!」
そのレルガ将軍の一声で皆が座り込む
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」
ボクも必死に息を整える
「明日も朝から集合だ、今日と同じ訓練をするぞ!」
そう言うとレルガ将軍は都に向かって歩き出した
あの人も走ってた筈なのに息一つ乱れてない……
「凄いなぁ……」
ボクもあんな風になれるだろうか?
そう思っていたら、頭に軽い衝撃がくる
「ほれ、水飲んどけ」
頭上に落とされた水筒を受けとる
「ありがとう、『バル』」
同期のバルを見て礼を言う
「『サンドル』、随分と叱られていたな?」
バルがボクをからかうように言う
「転けちゃったからね……次は気を付けるよ」
ボクは水を飲む
「サンドル、バル、お疲れ」
同期の『カルン』が声をかけてきた
「カルンもお疲れ……」
「なんだ? サンドル随分と凹んでるな?」
「ほら、将軍に怒鳴られたから」
「あー、あんま気にすんなよ?」
「あ、明日は大丈夫だから!!」
ボクは必死に言うのだった
・・・・・・・
ーーーレルガ視点ーーー
「よぉ、お疲れさん」
「マーレスか……」
都に戻ると私服を着ているマーレスと会った
「お前は討伐を終わらせたみたいだな」
「あぁ、大した奴等じゃなかったからな」
賊の討伐……奴等は気が付いたら出てくるからな……
他の地方から流れてきてるのか?
「お前は随分と新兵に厳しくしてるんだな?」
「なんだ? 見てたのか?」
「帰るときに少しな」
「厳しくするのは当たり前だろう? 少しでも戦死者を減らすためだ……中途半端だと直ぐに死ぬ」
「弱小領じゃないんだ、ある程度はゆるくしても良いんじゃないのか? 新兵は直ぐには戦には出さないんだ、このままだとドンドン辞めてくぞ?」
「いつどこで戦いが起きるかわからん、今でこそ落ち着いているが、カイト様に不満を持ってる連中が内乱を起こすかもしれん、鍛えれるうちに厳しく鍛えるべきだ、訓練を耐えられない兵は辞めればいい」
「そうやって、無駄死にする兵を減らしたいってか?」
「…………」
「まあ、兵の育成はお前が任されてるんだ、俺はこれ以上言うつもりは無いが……皆が皆、根性がある訳じゃ無いからな……明日には20人は辞めてるんじゃないのか?」
「さっきも言っただろ? 辞めたい奴は辞めればいい……俺は止めん」
俺は城に向かったのだった