第211話 特訓の成果
ーーーカイト視点ーーー
「それじゃあ、岩を動かすのが特訓だったのか?」
「まさか、それはまだあれですよ、基本的なやつです、それから本格的に特訓が始まったんですよ」
ユリウスはそう言うと槍を取り出してくるくる回す
「…………どうせ衝撃を逃がす訓練とかだろ?」
ライアンが言う
「なんだ? お前知ってたのか?」
ユリウスが意外そうに言う
「さっきので実戦してたしな、何となく察するさ」
「その言い方だと、ライアンも出来るのか?」
「ああできる」
俺の問いにニヤリと笑いながら答えるライアン
まあ、意外でもないな……扉とかぶっ飛ばしたし……
「それで? 目標の素手で猪を狩るのは出来たのか?」
「ええ、森を出る前に丸焼きにして食いましたよ」
「おお、猪の丸焼きか」
「それに熊鍋も追加ですよ」
ティールが馬車の反対側から言う
「熊も狩れたんだな?」
「ティールの槍が熊の眉間をぶち抜きましたよ」
マジかよすげえな……
「詳しく聞きたいが……そろそろ村に着く頃だよな?」
俺は窓から顔を出し、前方を見る
少し遠いが今日の拠点となる村が見えた
「また明日にでも話しますよ」
ユリウスがそう言って笑う
・・・・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
カイト様と合流して、村に到着した
「本当に良いのか? 宿に泊まっても良いんだぞ?」
「いやいや、日課の素振りとかもあるし、僕は野営組に混じるよ」
「私も野営に……」
「ティールは宿組な? 野営組は野郎しか居ないんだから」
「わかりましたよ……」
そんな訳で僕は野営する兵士達に混ざって準備をする
そこに……
「よぉ!」
「んっ? なんだライアン……だったよな?」
「ああ、お前はユリウスだったな?」
ライアンがやって来た
「お前は宿組じゃないのか? カイト様の護衛なんだろ?」
「ほらティール……だったか? そいつが宿に居るから俺も野営組に混ざろうと思ってな、ちゃんと大将の許可は貰ってるから安心しろ」
「あっそう、んで? なんの用だ?」
「わかってんだろ?」
そう言ってライアンは槍を取り出した……あれ? あの槍って良く見たら……
「おい、それはオルベリンの槍じゃないのか? なんでお前が持ってる?」
「色々理由があってな、取り敢えず戦ろうぜ!」
「……はぁ、お前って1度決めたら止まらない性格だろ?」
僕はそう言って近くの兵に訓練用の棒を2本持ってこさせる
「ほら、これ使え」
「なんだ? お互いの得物でやらないのか?」
「あのなぁ、僕達はカイト様の護衛だぞ? 本気でやりあって大怪我したらどうする」
「俺は怪我しねえから平気だろ」
「随分と自信満々だな」
ライアンは槍を仕舞って、棒を受けとる
「おっ! ユリウス様とライアンがやりあうぞ!」
「マジか! どっちが勝つと思う?」
「ユリウス様に肉を賭けるぜ!!」
「ライアンに酒を賭ける!!」
野営組の兵士達が集まってきた
「っし! やるか!」
「どっちかが気絶したら終わりだからな?」
ライアンが構える
僕も構える
………………
ジリ……
足を引きずる音、見物してる兵士の誰かから発した音
それが開始の合図になった
ダン!
ライアンが跳ぶ!
速い、もう目の前に迫っている!
「おらぁ!」
カァン!!
ライアンの一振りを棒で受け止める
ズシリと衝撃が身体にのしかかる
凄まじい力だな!
俺はその衝撃を身体に通して地面に逃がす
「馬鹿力だな!」
「はっ! 簡単に受け流してよく言うな!」
ライアンは着地と同時に棒を振り回し、連撃を浴びせようとしてくる
一つ一つが鋭い一撃
でも、シャルスの方が速いから、僕でも余裕で対処できる
カン!
コン!
カッ!
「おい、なんでさっきから攻めてこねえんだ?」
「なんでだと思う?」
「俺が隙を見せると思うのか?」
ライアンは攻めながら言う
確かに、隙がないんだよなぁ……
「よっと!」
僕は一旦距離をとる
「はぁ!」
ライアンが追うように駆け出し、突きを放ってくる
「でりゃ!!」
僕もそれに合わせて突きを放つ
バキィ!
ボキィ!
僕とライアンの棒が折れる
「ちっ! 脆いな」
ライアンが舌打ちをうつ
「今回はここまでだな」
僕は棒の切れ端を拾う
「オーシャンに帰ったらまたやろうぜ!」
そう言ってライアンは川の方に向かって行った
「全く、随分と好戦的な奴を雇ったなぁ……」
僕は周りの兵士を見渡す
「ほら、試合は引き分けだ、解散解散!」
にしても……ライアンか……なんかどっかで見たことある気がするんだよな……あの顔……どこだったかなぁ?
・・・・・・・・
ーーーライアン視点ーーー
ユリウスとの試合を終わらせた俺は川に水浴びに行く
「ユリウスねぇ……結構やるじゃねえか」
俺は興奮を抑える
俺とあんなに戦えた奴は、今まで親父しか居なかった
楽しくなってきたじゃねえか!
俺は川に着くと直ぐに服を脱いで飛び込む
「随分と豪快に入るじゃねえか!」
先に入っていた兵士の1人が言ってきた
「川があったら飛び込みたくならねえか?」
俺はそう言って頭を洗う
あーひんやりしていい感じだ
「んっ? じいさん? なんでそんな端っこに居んだよ?」
他の兵士から離れた所に、1人でポツンと川に使っていたじいさんを見つける
「いや~わしは、ここでのんびりしときたくてのう……」
じいさんが答えて身体を川に沈める
「?」
なんか身体を隠してる様に見えるが?
まあ、他人に見られるのを嫌がる奴が居るのは当たり前か……
「おーい! ライアン! お前もこっち来いよ!」
「そんな老いぼれなんて放っておけよ!」
他の兵士が呼んできた
「おいおい、随分と嘗めた言い方だな、老いぼれなんて言ってやるなよ」
気分悪いぞ?
「老いぼれだろ? あの歳になっても大した功績を残せずに生きて、他に出来ることが無いから隠居せずに兵士を続けてるんだぜ?」
そう言われてじいさんは気まずそうにしている
「……功績なんて関係ねえだろ?」
「はっ?」
俺が言うと兵士は首をかしげる
「じいさん、立ってみろよ」
「むっ? し、しかし……」
「いいから」
じいさんは渋々と立ち上がる
晒される身体
傷だらけの身体
「傷だらけでみっともないな」
兵士が言う
「バカ野郎! その傷が良いんだろうが!」
俺は怒鳴ってからじいさんの隣に立つ
「こんなに傷だらけになるまで戦ってるって事だろうが! この傷、一つ一つが名誉の負傷だろうが! じいさん、この右肩の傷は?」
「わしの同僚を庇った時の傷じゃな……」
「この腹にある傷は?」
「幼かったベルドルト様を賊から庇った時の傷じゃな……あの頃は毎日走り回っておったな……」
「この背中のでかい傷は?」
「敵将と交戦した時のじゃな……オルベリン様に助けられなければ戦死しておったのぉ……」
「ほら見ろ! こんな風に一つ一つの傷に理由があるんだよ! お前らはこんなボロボロになるまで戦えるのかよ?」
『…………』
兵士達が黙る
「じいさんも! もっと堂々としろよ! あんたは立派な男だ! ほら! 胸を張って……よし!」
「ふふふ、元気じゃのう」
俺はじいさんと話ながら水浴びを終えた
・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
翌日
「あと少しでパストーレに着くな」
俺は馬車の中でライアンに説明するように地図を開く
「今日くらいか?」
「明日だな」
そう話して、ふと外を見る
『じいさん、それは俺が持つから馬の方を頼んでいいか?』
『ふむ、よかろう』
「……?」
なんか、若い兵達が1人の老兵を気遣っている
昨日まではそうでも無かったのに……
何かあったのか?
俺がそう思っていたら
「……はっ」
ライアンが笑ったのだった