第210話 力とは!
ーーーユリウス視点ーーー
「…………」
僕は右腕の包帯を外す
森に来てから20日が経過した
腕の痛みも完全に無くなり……
「よし、動くし持てるな」
剣を振ることも出来るのを確認する
やっと完治した!
「これで本格的に鍛えられる!」
僕は早速洞窟を出よう走る……
「まて」
「うばぅ!?」
その瞬間、村から森に戻ってきていたボゾゾに左肩を掴まれて、バランスを崩して尻餅をついた
「ユリウス、まだ、やること、ある」
「や、やること?」
僕は尻を擦りながら立ち上がる
「ユリウス、力、つかいかた、知らない」
「……?」
力? どういう意味だ?
「ついてくる」
ボゾゾが洞窟を出る
僕はボゾゾについていく
洞窟を出て、少し歩いた場所に開けた空間があった
……なんか岩が妙に多いな
「ユリウス、この岩、うごかせ」
「……はぁ!?」
ボゾゾは僕の背丈程の岩に触れながら言う
「いやいや、無理だろ! こんなん動く分けねえよ!」
僕がそう言うと
「できる、ユリウス、からだ、オルベリンに、鍛えられた、これくらい、できる」
「って言われてもなぁ……」
僕は取り敢えず岩を押してみる
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」
ズズズズズ……
いや、動かねえよ!
僕の足がドンドン退がるくらいだよ!
「ユリウス、腕だけ、使ってる、それじゃ、だめ」
「どうしろっていうんだよ?」
「身体、ぜんぶ、使う」
そう言うとボゾゾは別の岩……ボゾゾよりも大きいぞ?
そんな岩に触れて……
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
ゴゴゴゴゴ!!
「嘘ぉ!?」
岩を押して動かした……元々力持ちだとは思っていたが……ここまでとは……
「ユリウス、見る」
ボゾゾは自分の足下を指差す
「……あっ」
ボゾゾの足跡が深く地面に残っていた
引きずって退がった跡は無い
……僕の足跡とは大違いだった
「身体、ぜんぶ、使えば、かんたん」
「それが良くわからねえ……」
だけど……不可能ではないんだな……
「んじゃ、僕は先ず……この岩を動かすことからか……」
「ユリウスなら、できる」
「そりゃどうも……」
取り敢えず岩を押すが……駄目だな……
身体を全部使うってのが良くわからない
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
ズリズリズリ……
「ちくしょー!!」
足が退がる!!
もっと踏み込むか?
「ふんぬぅぅぅぅぅ!!」
ズルッ!
「どわぁ!?」
ドサッ!
足を滑らせて顔面から転ける
これは……時間がかかりそうだ……
・・・・・・・
ーーーティール視点ーーー
「ふぅ……」
私は今日の訓練をこなし……洞窟の近くの川で水浴びをする
「水浴びできる場所が、近くにあって良かった……」
長い行軍で入浴が出来ないとかなら仕方ないと言えるが
今みたいに、身体を洗える環境があるなら、やっぱり身を清めたい訳で……
私だってそういうのは気にしてるんですよ
「あ、魚」
ついでに食べ頃の魚を見つけたら捕まえておく
食料はあればあるほど良いですからね
「さてと……もう暗くなりそうですし……戻りますかね」
私は身体を拭いてから服を着て、身体を拭いた布を洗ってから洞窟に戻る
・・・・・・・
「……」
ユリウス様が真っ白になっている
「ユリウス様?」
「あぁ、おかえりティール」
かなり疲弊している?
「ど、どうされたのですか? あ、右腕が治ったんですか?」
「腕は治ったよ……ねぇティール……岩って動かないよね?」
「えっ? 岩?」
私はユリウス様とボゾゾから事情を聞く
「成る程……全身を……ふむ……」
「普通出来ないよな? なっ?」
「どうでしょう……試したことが無いのでなんとも……」
まあ難しいとは思いますがね?
・・・・・・
翌日
私も挑戦してみる事になりました
「これ、くらいか?」
ボゾゾが選んだ岩に触れる
「ふむ……重いですね」
私よりも大きな岩……普通なら動かないはずですが……
私は両手を岩に当てる
そして脚に力を込めて……
腰を落とし……
上半身に力を込めて……
「はぁぁぁぁ!!」
腕に意識を集中させて岩を押す
ズズズズズ!!
「嘘ぉ!?」
ユリウス様が驚く
「あ、動きましたね……」
自分でもビックリです……
「ティール、元々、身体、使えてた」
「成る程……普段はあまり意識してませんでしたが……これは使いこなせる様になれば、戦い方が大きく変わりますね……」
「マジかよ……僕できねえよぉ……」
ユリウス様が頭を押さえる
「ユリウス様も直ぐに出来ると思いますよ? オルベリン殿に鍛えられてた頃を思い出してください」
「あの頃を? うーん……」
「取り敢えず私はこの感覚が残ってる間に試してみます、ボゾゾ、相手をお願いします」
「わかった」
私はボゾゾとその場から離れる
今のユリウス様は、1人で考えた方が良さそうだと思いましたからね
それに試したいのも本当ですし
・・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
ティールも岩を動かせた……
「オルベリンに鍛えられた頃か……うーん……」
僕はあの頃を思い出す
アルスと模擬戦しまくったり
シャルスと全力で走り回ったり
レムレの弓の訓練に付き合ったり
ルミルちゃんと崖を登ったり
……崖?
「そういえば、あの時オルベリンが崖登りのコツを言ってたな……」
『崖登りは全身を使うのだ! 腕だけに頼るな! 全てを使え!!』
「あれと似たような感じなのか?」
うーん、取り敢えず試してみるか……
……………………
「はぁ、はぁ……」
全然動かない……
「何がだめなんだ?」
僕の方がティールより力はあるのに……
全身を使う……
「…………」
先ずは足からか? ボゾゾもティールも力強く踏み込んでいたし……
「…………ふん!」
思いっきり地面を踏みつける……
そして両手を岩に当てて押す!
「ふんぎぎぎぎぎぃ!!」
足が滑らないように足に力を更に込める
「ぬりぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それでも岩は動かない……
「くそっ! 駄目か!!」
僕は座り込む、流石に疲れた……
「なんで出来ないんだよ……くそ、あんまり長居は出来ないってのに!」
もう1回ティールやボゾゾに見せてもらうか?
「……んっ?」
ふと、岩の下を見る
岩の周りには雑草が生えてるのだが……岩の下に微妙に土が見えていた
「……えっ? これって……えっ? 動いてた?」
本当に微妙にだけど……
「……もう1回!!」
僕は立ち上がる
そしてまた岩を押す
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」
でも、今度は全然動いていない
「くっ! さっきのを思い出せ!」
僕は強く踏ん張る
そして岩を押して……
「……あれ、これって脚と腕しか使えてない? 全身ではないよな?」
さっき、ティールは腰を落としてたよな……こう
「ふんぎぃぃぃぃぃ!!」
違う! もっと……こう……上半身も使ってた!
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あっ! 腰が浮いた! 脚の踏ん張りも弱くなった!
下半身もしっかりと使うんだ!
「ぬおりぁぁぁぁぁぁ!!」
ズズ……ズズズ……
「!?」
動いた?
今動いた!?
「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ズズズズズズ!!
動いた!!
今度は間違いなく動いた!!
「はぁ……はぁ……よっしゃぁぁぁぁぁ!!」
これか!
これが全身を使うって事か!!
やっと、やっとわかってきた!!
忘れる前にこの感覚を身体に叩き込もう!!
・・・・・・・・
ーーーティール視点ーーー
「んっ? どうやら、動いたみたいですね」
ユリウス様の歓喜の叫びが聞こえた
「ユリウス、出来る、わかってた」
「そうですね……これは、最初の予定よりも早く特訓は終わりそうですね」
「だな」
私とボゾゾはお互いに微笑むのだった