第207話 動きだす者……そして再会
カイト達がパストーレに向かう為に準備している頃
ーーーヤークレンーーー
首都グレイクの城
……のとある廊下
「よぉ、鼻たれ小僧」
八将軍、ガリウスが目の前の男に声をかける
「……ガリウスさん、私はもう小僧なんて年齢じゃないんですけど?」
そう言って、八将軍のオーディンは嫌そうな顔をしながら答える
「俺からしたら、お前はいつまでも鼻たれ小僧だよ!」
そう言ってガリウスは笑う
「2回目ですね、3度目は許しませんよ?」
「鼻たれ小僧!」
ガリウスは愉快そうに言う
「完、全に! 喧嘩売ってますよね!? 買いますよ!!」
そう言ってオーディンは数本のナイフを取り出す
「ははぁ!! かかってこいやぁぁぁぁ!!」
ガリウスも愉快そうに鉄槌を構える
「ちょ!? お二人とも! お止めください!!」
そこにたまたま通りかかった兵士が止めようと叫ぶ……が
ドン!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ガリウスとオーディンの得物がぶつかり合った衝撃の余波を受けて
廊下の奥まで吹っ飛ばされてしまったのだった
…………………
ドン!!
そんな音と共に城が揺れる
「んっ? なんだ? またあいつらが喧嘩してるのか?」
メルセデスはそう呟くと食事を再開する
そんな彼の前には彼の子供達が食事をしていた
この日はメルセデスと子供達が全員揃う会食の日だった
「おおかた、ガリウスあたりがオーディンを挑発したのでは?」
長男、カシルナはそう言ってワインを飲む
「へっ、挑発に簡単に乗るなんてな! 後でからかってやろ!」
三女、インフェリがそう言って肉にかぶりつく
「インフェリちゃん、マナーは大事だよ? ちゃんとナイフで切りましょ? あ、お姉ちゃんが切ってあげましょうか?」
次女、メアルーがお節介を焼くが
インフェリはそれを拒否する
「うう……また城の何処かが壊れるんだ……そこから冷気が流れ込んで……僕は凍死しちゃうんだぁぁぁぁ!!」
五男、アマーリスがネガティブ思考に囚われる
「そんな事にはならないから、ほら落ち着け」
三男、ガールニックが諭す
「それで……お父様? そろそろ本題に移りませんか?」
長女、キュルシがそう言ってメルセデスを見る
「…………」
次男、バルドナは青い顔をしながら震えていた
「うん? ああ、そうだな……バルドナ」
「っ!!」
ビクッ! っと身体を震わせるバルドナ
「な、何でしょうか? ち、父上」
声を震わせながらメルセデスを見るバルドナ
「西方に戦を仕掛けたらしいな? 結果をお前の口から聞かせてもらおうか?」
「…………な、何も得られませんでした」
「……それだけか?」
「い、いや、その……」
冷や汗を流すバルドナ
「西方……バルバルバに行動を先読みされ、完全に敗北しました……」
「そうか……」
「こ、この失態は必ず取り戻します! だ、だからどうかお許しを!!」
立ち上がり、メルセデスに頭を下げるバルドナ
「バルドナ、お前は何を勘違いしている? 我輩は別に怒ってはいないぞ?」
「……えっ?」
バルドナが顔を上げる
「最初から、お前が勝てるなんて思っていないからな……わかるか?」
「!!」
バルドナは何も期待されてなかった事を知る
反論したかったが……実際に負けてるのだから何も言えなかった
「それよりも重要なのは、敗北から何かを学べたかだ……バルドナ、敗因はわかっているか?」
「……西方を侮った事でしょうか」
「他には?」
「……自分の実力を過信していました」
「他には?」
「…………オーシャンをうまく利用出来なかった事でしょうか」
「そうだな、謀るのならもう少し戦わせるべきだった……数日は共闘して、西方の連中に我輩達の同盟を強く印象付けるべきだった」
「…………」
「ふん、そこまで理解していたのなら充分だろう……次は少しは期待できそうだな」
「!! ……はい! 次は必ず結果を出します!!」
「ああ、そうしろ」
メルセデスはワインを飲む
「全く、お父様は子供には甘いのですから」
キュルシは苦笑する
「だってお父様は私達が大好きですからね♪」
メアリーが続ける
「…………」
ガールニックは苦虫を噛み潰した様な顔をする
「はん、親父が甘いのは気に入った奴にだけだろ? 実際、ティンクは地下で暮らさせていたしな」
インフェリがそう言ってワインをぐいっと飲み干す
「…………ティンク?」
メアリーがその名前に反応する
「…………」
メアリーの反応を見て、カシルナは何かを感じとる
「インフェリちゃん? そのティンクってのは誰の事? お友達?」
メアリーはインフェリに聞く
「あん? 何言ってんだよ? 一応、オレ達の妹だろ?」
「…………」
ビクッ!
カシルナとキュルシ以外の子供達に悪寒が走った
「……お父様? 私はその子の事を知らなかったのですが?」
メアリーは笑顔でメルセデスを見る
眼は一切笑っていない
「そうだな、公表した訳ではないからな」
メルセデスはそんなの気にせずに食事を続ける
「地下に暮らしてるそうですが?」
「今はオーシャンで暮らしてる、カイト・オーシャンの嫁にした」
「……まさか、政治の道具にしたのですか?」
ピシッ!
メアリーと近くに座っていたインフェリとアマーリスのグラスにヒビが入る
「ひゃああああああああ!?」
アマーリス、ビビる
インフェリも少しビビってる
普段怒らない人間が怒ると怖いのである
「何か問題があるか?」
メルセデス、全く気にしてない
「問題だらけです! ティンクちゃん……知らなかったとはいえ……可愛い妹がそんな扱いをされてるなんて!! 全く知らない相手に無理矢理嫁がせるなんて!」
「……おい、誰か黙らせろ」
カシルナが面倒そうに言う
「無理でしょ? メアリーがああなったら止まらないのはお兄様も知ってるでしょう?」
キュルシが答える
「決めました!! 妹を取り戻してきます!!」
メアリーはそう言って歩き出す
「メアリー!! おい待て!!」
ガールニックが追いかけてメアリーの肩を掴む
「!!」
「うぉ!?」
そのガールニックの腕を掴んだメアリーはガールニックを投げ飛ばした
投げられたガールニックは受け身を取る
そして扉から出ていくメアリーに向かって
「ティンクはカイトと夫婦になって幸せに暮らしてる!! 2人の邪魔をするな!!」
メアリーの耳に届いたかはわからない
彼女はそのまま部屋を出て行ったのだった
「……面倒な事になったな」
ガールニックはそう呟いた
『…………』
他の皆は食事を再開していた
「ぐす……ひっく!」
アマーリス以外は……
・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「ふむ……絶好のお出かけ日和だ!!」
俺は自室の窓から外を見る
天気は快晴!
太陽も輝いている!!
「漸く……迎えに行ける!!」
ああ、ティンク……早く迎えに行って抱き締めたい!!
物凄く会いたい!!
愛しさでどうにかなりそうだ!!
「さっさと支度するか!」
俺は服を着替える
そして着替えを積めた鞄を手に取る
予定では道中の村や都で泊まりながらパストーレを目指す
野営は出来る限り少なくするつもりだ
護衛の兵達も殆んどが新兵だ
行軍の練習をついでにさせるのだ
俺は部屋を出て、廊下を歩く
「もう伝令は到着したか? 流石に速すぎるか」
パストーレには、俺が向かうことを2日前に伝令を出して伝えている
レリスが言うには……俺が到着する数日前には伝令が到着するだろうって話だ
俺がいきなり来るのは迷惑だからな、向こうにも準備をする時間が必要なのだ
「メイリーは大丈夫だろうか?」
メイリーも本当は着いてきたかったみたいだが……
『レリス様の仕事を覚えないといけませんので……残念ですが……』
そう言っていた……実際、ここ数日は執務室にこもっている……
様子を見に行ったら凄い速度で書類の処理をしていたが……
『やはりレリス様は凄いですね……これを1人で処理してたなんて……』
なんて言っていた……顔色が悪かったのが気になったから、ちゃんと休むようには言っておいたが……
まあ、レリスからの評価は
『覚えが速いですね……あの調子なら1ヶ月で私と同程度の処理能力が付くのでは?』
なんて言っていた……レリスが褒めるのは結構珍しいぞ?
俺は城を出る
「よぉ大将!!」
「ライアン……張りきってるな……」
目の前にライアンが居た
凄く元気そうだな
真っ赤な鎧を着て……腰には剣を、手にはオルベリンの槍を持っている
「…………」
「どうした? 大将?」
「いや、なんでもない」
こうして見ると……オルベリンが生き返った様に感じた
涙腺が緩む……落ち着け、こいつはライアン……オルベリンとは違うんだ
「お早う御座いますカイト様!」
1人の男が俺に挨拶する
「おはようムリシル、今日からよろしくな」
「はい! お任せください!!」
ムリシル……覚えてる人は居るだろうか?
俺が兵長やら小隊長とかの役職を作った時に、兵長の1人に就任した男だ
彼は基本、戦の時はオーシャンに残って、防衛に参加していた
だから大した戦果は挙げれていない……しかし、普段の仕事ぶりや兵を纏めるのが上手いことから小隊長に昇進して、今回の護衛部隊の隊長として纏める役になった
レルガの強い推薦もあったしな
「さてと……俺は」
「あちらの馬車にお乗りください!」
ムリシルに案内された馬車に乗る
「ライアン、お前も乗れ」
ムリシルが言う
「うん? 俺もか?」
「カイト様の専属の護衛なのだろう? ならば行きは馬車の中でカイト様をお守りするのだ!」
「そうか……んっ? 行きは? 帰りは?」
「帰りはカイト様と奥様が乗るからな、その時は向こうで用意した馬に乗ってもらう」
「成る程な、わかった」
ライアンが馬車に乗る
「よろしくな大将!」
「ああ、色々と話でもしようか」
こうして俺達はオーシャンを出発して、パストーレに向かうのだった
道中、馬車の中で俺とライアンは色んな話をした
ライアンには、父親としてのオルベリンの話を聞いた
ライアンは幼い頃から頑丈な身体だったらしい
村では大人にも負けないくらいの腕っぷしで……それを知ったオルベリンが訓練方法を教えて、ライアンは鍛えまくったそうだ
「今思えば、友人が出来なかった俺に、親父が気をきかせて教えたんだろうなって思っている……実際、訓練は楽しかった……いい暇潰しになっていたよ」
「そっか……」
父親としてのオルベリンの話は新鮮だった……
俺の知らないオルベリンの話を聞けたのは良かった……
あ~でも……まぁ……
「押し倒して殆んど無理矢理だったらしいからなぁ……ショックだったんじゃないかって思ったなぁ」
「…………」
オルベリンとライアンの母親の馴れ初めを聞いた時は驚いた……
あのオルベリンが……無理矢理……
「親父も男だったって事だな……」
「オルベリン……」
まさか……
「あの時はかなり驚いたって言ってたぞ……まさか16の村娘に迫られるなんて思ってなかったそうだからな」
「オルベリンが押し倒されるなんてな……予想外すぎる……」
ライアンが成人した年に酔っぱらったオルベリンが話したそうだ
なんてこったい
「んじゃあ、そろそろ大将の番だな……軍人としての親父はどんなだった? 聞かせてくれよ」
「ああ、勿論」
俺はライアンにオルベリンの事を話した
俺が知ってるオルベリンの事を……全て……そして、オルベリンの最後も……
「そうか……親父は笑いながら逝ったのか……そうか」
ライアンは横を向いて呟く……
彼の目元に涙が見えたのは……気のせいって事にしておく
そんな風に話していたら馬車が止まった
なんだ? まだ目的地まで着いてない筈だが?
俺は馬車の扉を開けて近くの兵を呼ぶ
「どうした?」
「その、不審な二人組が近付いてるそうで……」
「んっ?」
俺は外に顔を出し、前を見る
小さい何かが見える
望遠鏡を取り出し、覗きこむ
二人組……フードを被った二人組がこっちに向かって馬を走らせていた
「なんだあれ?」
「敵だな!!」
「おいライアン!?」
ライアンが馬車から飛び出した
そして1人の兵の馬を借りて……いや奪って走り出した
「……大丈夫かあれ?」
「ど、どうでしょう……」
俺も兵士も苦笑した
・・・・・・・・
ーーーライアン視点ーーー
怪しい奴等だ!
敵なら大将に近づかれる前に消すしかない!
取り敢えず、馬から落としてから話を聞いてみるか!
「いくぞ!!」
俺は槍を構える
二人組の片方が俺に気付いて槍を構えた
よっしゃ! やる気があるな!!
なら遠慮なく!!
「うおらぁ!!」
ブオン!!
俺は槍を振る
ガキィン!!
「っ!」
相手が俺の槍を受け止める
相手のバランスが崩れる、このまま落としてやる!!
「……はぁ!!」
「っと!」
相手はすぐに立て直して俺の槍を弾いた
へぇ! やるじゃねえか! なら次は……
「待て! 待て待て待て!!」
「んぁ?」
相手が叫ぶ
「お前、見覚えが無いがオーシャンの人間だよな?」
「そうだが?」
俺が答える
すると相手はフードを外した
「それなら僕達は味方だ、僕はユリウス・ウィル・ガガルガ……オーシャンの将だ! 攻撃を止めろ!」
「生憎、俺は仕官したばかりでお前を知らん! それを信じるわけにはいかないな!」
俺は槍を構え直す
「ユリウス様、ここは私が……」
もう1人もフードを取る
女だったか
「ティール、怪我させるなよ?」
「ええ……」
「なんだ? 俺に勝つつもりか?」
「そのつもりですが?」
俺と……ティールと呼ばれた女が槍を構える……そして……
「ストップ! 止まれ!! ライアン! ステイ!!」
「……大将? 何1人で来てんだよ……」
馬に乗ってきた大将
「その2人は仲間だ、だから槍を仕舞え!」
「……へーい」
大将に言われたら仕舞うしかない
「それにしても……久しぶりだなユリウス、ティール……特訓してきたんだって?」
「はい! 僕もティールもかなり強くなったぜ!! オーシャンに帰ろうとしたら馬車が見えたから近付いたら……」
ユリウスと呼ばれた男が俺を見る
「なんか妙に好戦的な奴が増えてない?」
「まあな……それについては後で話そうか、どうする? 俺達はパストーレに向かってるんだが……一緒に来るか? それともオーシャンに帰るか?」
「お、なら着いてく! その方が安全だろうし、色々話したいし」
「よし! なら2人共合流だ!」
そう言って大将は振り向いて馬を走らせる
だが、すぐに止まって振り向き
「っと、言い忘れてた! 2人共! おかえり!!」
「はい! ただいま!」
「ただいま、戻りました」
大将の挨拶に2人が挨拶を返したのだった
マンルース・ヤークレンはずっと笑いを堪えていたので、喋ってませんが居ます