第20話 カイトの苦悩、再び
翌日、ナリストとゼルナ、ベススの皆を見送ってから仕事に戻る
玉座の間で玉座に座りながらこれからの事を話す
俺とレリスと軍団長の3人だ
「では暫くは戦はしない方針で?」
レリスが俺に確認をとる
「ああ、少なくとも冬の間は攻めるのはやめておこう」
冬は雪などで進路が変わったり、寒さで進軍が上手くいかなかったりするからな
それにもし戦火が拡がって村や都に被害が出たら、その村や都の越冬が厳しくなる……それは避けないとな
「それに皆も戦続きで疲れていたろ?」
パストーレからの防衛から始まり、カイナスへの援軍とマールマールとの戦
普通は戦争なんて1年に有るか無いかくらいの頻度なのにこんなに連戦したんだ……そろそろ休まないとな?
「では内政と訓練に集中する形ですね?」
「あぁ」
「坊っちゃん、よろしいですか?」
オルベリンが前に出る
「どうした?」
「冬を越した後に……攻めるとしたら何処を攻めるつもりですかな?」
「気になるか?」
「ええ」
だろうな……
「……ガガルガを攻めようと思う」
「ほぅ、ガガルガですか」
「理由は……わかるよな?」
「無論です」
今、東方にある領で1番力があるのはカイナスだ
次にパストーレ
そしてガガルガ
オーシャンもかなり兵力は増えたが……まだ少ない……
カイナスは差が有りすぎるし
パストーレは停戦中だ
ガガルガはカイナスとの戦で疲弊している……だから攻めるならガガルガだ
しかし……それでも問題がある
「カイナスが黙ってないでしょうな」
「だろうな、獲物を横取りするものだからな」
最悪、オーシャンを攻めてくるかもしれない……
「それにヤークレン……」
カイナスとガガルガの戦に介入して停戦させた……
理由はわからないがガガルガを助けたのは事実だ
オーシャンが攻めてる間も同じように介入してくる可能性がある
逆らうわけにはいかない……ヤークレンの兵力は桁違いだ……勝てる可能性は無い
「ヤークレンに介入される前に決着をつけるしかない……」
でも……厳しいんだよな……ガガルガは守りが硬い……
だからカイナスも攻めきれなかった……
「冬の間に対策を考えないとな……」
ベススに援軍を頼むのも考えたが……出来れば自力で制圧したい
「ベススへの援軍要請は最終手段だな」
「あの、カイト様!」
「んっ?なんだサルリラ?」
「今のオーシャンの兵力ってどれくらいっすか?」
「あー……」
「どうぞ」
俺はレリスから書類を受け取る
「このオーシャンに約1万、北オーシャンに1万5千の約2万5千人だな」
「他の領はどれくらいっすか?」
「カイナスが10万、パストーレが4万、ガガルガが3万5千だ」
カイナスが圧倒的だな……やはりガガルガを手に入れないと厳しい
「うーん……パストーレとガガルガが組んでカイナスを攻めるとかはないんっすかね?」
「そうなったら間違いなく、このオーシャンも巻き込まれるぞ?」
オーシャンはカイナスとパストーレの間に有るんだから
「うへぇ……」
サルリラが俯く
「カ、カイト様!!」
バン!と兵が駆け込む
何?今度は何があったの?
「なんだ?何処か攻めてきたのか?」
「い、いいえ!」
?……じゃあなんで慌ててるんだ?
「し、し、ししし!」
「落ち着きなさい!」
レリスが一喝
「使者です!」
「どこの?」
「ヤークレンからの!!」
…………………!?
「はぁ!?」
ざわ!!ざわ!!
玉座の間に居た人間が騒ぐ
「ヤークレンから?何故だ?」
オルベリンは俺の側に寄る
「……なんのつもりなんだ?」
ヘルドが剣を確認する
「噂をすればってやつっすかね?」
サルリラがそう言って扉を見る
「ど、どうしましょう!?」
兵が俺に聞く
「…………」
ヤークレンからの使者?なんのつもりだ?
……従属しろって話か?
それとも宣戦布告か?
「…………」
「…………」
俺はレリスを見る
レリスも俺を見て頷く
会わないわけにはいかないよな……
「通せ……」
・・・・・・・・
男が1人やってきた
「いやーどうもどうも!貴方がカイト・オーシャン殿で?噂通り若いですねー」
スーツにシルクハットを被った男は杖をクルクル回しながら俺を見る
「あ、申し遅れました!私!ヤークレンに仕える将の1人」
知っている……ヤークレンの重臣の……
「オーディンっと申します♪」
軽く会釈してオーディンは俺を見る
「オーディン……八将軍の……」
八将軍……ヤークレンに仕える強力な将達
どいつとこいつも高いステータスの奴等だ
このオーディンも優男に見えて
武力がA、知性がBと高いステータスだ
「……これはこれはオーディン殿、よく来てくれた」
俺はとにかく歓迎してみる
目的はなんなのか……
「それで?八将軍程の人物が何故このオーシャンに?」
「いえね?私の主であるメルセデス様が貴方に興味を持たれましてね?会いに来るように……」
「貴様!無礼な!」
ヘルドがオーディンに襲い掛かろうとする
「旦那待つっす!落ち着くっす!」
サルリラがヘルドを止める
「落ち着けるか!会いに来いだと?我が主を何だと思っている!!」
激昂するヘルド
オーディンはそんなヘルドに視線を移すことなく俺を見続ける
「……ヘルド、落ち着け」
「しかし!」
「使者に何かあれば俺が愚か者として世界中から笑われる」
「うっ……」
ヘルドが大人しくなった
「あーと、続けて良いです?」
オーディンがそう言った
「ええ、構いませんよ」
俺は余裕があるように演じる
「てな訳で貴方にはヤークレンまで来ていただこうかと……あ、ちゃんと私が案内しますよ?その為に来たのですから」
オーディンは楽しそうだ
「……少し待ってもらおうか……レリス、オルベリン」
俺は2人を近寄らせる
「……どう思う?」
俺が聞く
「罠では?」
っとレリス
「そんな事せずとも攻めればオーシャンは滅びるのにか?」
っとオルベリン
「俺もそう思う……」
呼び出して殺すって事は無いだろう……
「しかし……断るのは無理だな」
「選択肢なんてありませんよね」
メルセデスの機嫌を損ねたら……あーくそっ!
「わかった、ヤークレンに向かおう」
「助かります♪」
・・・・・・・・
翌日
「じゃあ行ってくる」
「お気をつけて……」
出発する俺をレリス達が見送る
因みにヤークレンに向かうのは
俺
オルベリン
そしてヤンユだ
ヘイナスからヤークレンまでは1ヶ月以上かかる……長旅になるから身の回りの世話をすると言って同行してきた
「レリス……わかってると思うが」
「ええ、もしカイト様が殺されてもすぐに攻めたりはしません……」
わかってるならいい
「アルス、ミルム」
『はい!』
「俺がいなくてもしっかりするんだぞ?特にアルスは……俺が死んだら次の領主になるんだからな……」
「はい兄さん……でも……生きて帰ってよ?」
「死んだらやだよ?」
「ああ」
メルセデス・ヤークレン……面会とはいえ下手なことをしたら殺されてもおかしくない
上手くメルセデスの好みを見つけて……気に入られないとな……
(どんな風に接するか……見極めないとな)
俺は馬車に乗る
ヤンユも馬車に乗り
今回はオルベリンも馬車に乗る
というのも
「いやー話が早くて助かりましたよ♪」
このオーディンも一緒の馬車なのだ……
オルベリンはオーディンを警戒して馬車に乗るのだ
……オルベリンなら戦いになっても勝てるからな……
てかオルベリン以外は太刀打ちできないし
「出発だ!」
俺は御者に合図する
走り出す馬車
こうして俺はヤークレンに向かうのだった