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第206話 父の残したもの

 ーーーライアン視点ーーー


 正直な話、俺はカイト・オーシャンが嫌いだった


 親父が村に来ていた時に話はよく聞かされていた

 まぁ、あれだ、嫉妬していた


 俺と同年代の奴が、親父とずっと一緒に居る……

 息子である俺やお袋よりも長く一緒に過ごしている


 そう思ったら良い感情なんて持たないだろ?


 だから、俺はカイト・オーシャンが嫌いだった


 親父がまだ死ぬ前に……1度だけお袋と一緒に見舞いに行った事がある


『……ライアン』


 俺と会った時……親父は申し訳なさそうにしていた


『なんだよ……んな顔すんなよ……』

『すまないな……』

『なに謝ってんだよ……』


 ああ、もう永くないんだな

 昔のような覇気を感じなくなった親父を見て悟った


『まだくたばるんじゃねえぞ? 俺はまだ……あんたを越えてないんだからな!!』


 俺はそう言って部屋を出た

 弱った親父をこれ以上見たくなかった……

 それが……その姿が……最後に見た親父の姿だった



 ・・・・・・・・・


「……んっ?」


 俺は目を覚ます

 そして周りを見渡して……


「ああ、城に泊まったんだった……」


 俺は少し前の事を思い出す


『ライアンはこれからどうする?』

『あっ?』


 護衛として雇われた後に、大将はレリスと呼ばれた男と少し話してから聞いてきた


『今日は客室に泊まってもらうが、明日から何処に暮らす? このまま城に住んでもいいし、望むならオルベリンの屋敷に住んでも良いぞ』

『…………』

『まあ、返事は明日までで良いから、今日は遅いからもう休んでくれ』


 そう言われて、メイドにこの部屋に案内された

 んで運ばれてきた飯を食って、寝間着に着替えて眠ってた訳だ


「……親父の屋敷か」


 思い浮かぶのは最後に見た親父の姿……


「…………いい加減、前を見ないといけねえな」


 行ってみるか……屋敷に……


 ・・・・・・・・


 翌日、俺は玉座の間に向かう


「んっ? 随分と早いな……」


 そこにはレリスが居た


「あんたの方が早いじゃねえか……いつから来てんだよ」

「4時には来てるな……それと、話し方に気を付けろ、お前はオルベリン殿の息子でも、まだしたっぱなんだからな」

「さーせん」

「……はぁ、せめて人前では敬語を使えよ」


 そう言うとレリスは書類を読み始めた


「…………なぁ、親父の屋敷の鍵は大将が持ってるのか?」

「いや、私が預かっている……屋敷に住むのか?」


 レリスは書類を読みながら答えた


「……住むかどうかは見てから決めようと思ってな」

「そうか……」


 レリスは顔を上げて、懐から鍵を取り出す


「これが屋敷の鍵だ、定期的に掃除はしていたが……あまり期待するなよ」

「……ああ」


 俺は鍵を受け取る


「大将には」

「私から伝えておく、落ち着いたら、夕方までにここに来い」


 そう言って再び書類を読み始めた

 もう話すことは無い……

 俺は玉座の間を出て、屋敷に向かう



 城門を抜けて、街中を歩く


「……でけえな」


 俺の居た村じゃ見たことないデカイ建物……

 集合住宅って言うのか? 複数の部屋があって、それぞれの部屋で他人が暮らしてるらしい

 独身の奴とか少人数で暮らすにはちょうど良いらしい


「こんなのがあちこちにあるんだよな……他の都にもあんのか?」


 なんか兵士達が住むための建物もあるんだって?


「……村に残ってたら知らなかっただろうな」


『ライアン、また喧嘩をして泣かせたらしいな?』

『向こうから殴りかかってきたんだ! 俺が1発殴り返しただけで泣きやがった!』

『ふむ……ライアン、喧嘩をするなとは言わないが……お前は既に並みの大人よりも強いんだ、加減することも覚えなくてはな』

『…………』

『ライアン、大人になったら村を出てみろ、この世には多くの強者がおる』

『……親父よりも?』

『もしかしたらな、なんだったらオーシャンに仕官してみるか? ベルドルト様なら迷うことなく雇ってくださる……それに、坊っちゃんやアルス様も居る』

『また出たよ……何回も聞いたよ、その2人の話は』

『むっ? そうか?』



「力は無いが、人を引き付けるカイトと将来有望な将になれるアルスか……」


 カイトの方はまだ良くわからないし

 アルスの方は既に死んでいた……


「……はぁ」


 俺の世界観が変わるかと期待してたんだがなぁ……


「っと、ここか」


 屋敷に辿り着く


 鍵を開けて、中に入る


「……まあ、予想よりマシか」


 少し埃っぽいが、少し掃除すれば問題なさそうだ

 クモの巣も無いし……綺麗な方か


「……確かこっちだったな」


 俺は親父の寝室に向かう……

 扉を開けて中に入る


「……変わってないな」


 親父が居た時のままだ……親父が居なくなっただけだな


「……これは絵か? 下手だな」


 寝室の端の方に立て掛けられた数枚の絵を見る


「本棚には……これは戦術書か?」


 そう言えば昔言ってたな……将ならある程度の戦術は覚えておくべきだって……


「…………」


 興味本位で1冊手に取り開く


「……訳がわからん」


 小難しい事が書いてあって……今の俺には理解できそうにない

 俺は本を棚に戻す


「……んっ? なんだ? 今何か見えたぞ?」


 棚に戻す時に本棚の奥に何かあった

 数冊、本を取り出して覗くと……


「…………封筒?」


 本棚の奥に封筒があった……蝋で貼り付けてるのか?


 ピリッ

 封筒を取る……蝋がついてた部分が破けたが……中身に影響は無さそうだ


「へそくりか?」


 俺は中を見る

 まあ、へそくりだったら元の場所に戻すだけだな

 俺が使うわけにはいかないだろうし……カイト達に言うのも何か違うだろ


「……手紙?」


 封筒の中には折り畳まれた手紙が入っていた……俺は手紙を取り出す


「……俺宛!?」


 手紙を開くと、宛先は俺だった


 " ライアンへ


 もし、この手紙を読んでるのがお前ならば、これからここに暮らすのだろうな

 そして……これはワシの勝手な期待だが……坊っちゃんに仕官したのだと思う


 ああ、別に仕官してなくても構わない、自由に生きろと言ったしな

 この屋敷はお前の好きに使ってくれ


 そして、2つほど……ワシがお前に残した物がある

 1つはワシが使っていた槍だ、あれは普通の槍よりも頑丈でな……お前ならば使いこなせるだろう……


 もう1つは……




「……ここに行けって事か?」


 俺は手紙に書かれた場所に向かう


 ・・・・・・


「ここだな……鍛冶屋か?」


 表に鎧が立てられてる

 窓には店の中側に剣が掛けられてる


「開いてるよな?」


 時間的に開店してるか微妙だが……扉に手を掛けてみる

 鍵が空いていた


「……邪魔するぞ」


 俺は中に入る


「あ、いらっしゃいませ!!」


 女性が笑顔で挨拶してきた

 随分と薄着だな……あ、奥が工房になってるのか、熱気が凄いんだろうな


「へぇ……」


 少し店内を見渡す

 並べられた武具はどれも立派な物だ……良い腕してるな


「何をお探しですか?」


 女性が近寄ってきた


「ああ、いや、探しにきたって言うか……この手紙にこの店に来いって書いててな」

「手紙?」


 女性は手紙を見る……


「……ああ! お、親方!! お~や~か~た~!!」


 女性が叫びながら奥に行った


「…………」


 少ししてから1人の男が出てきた


「……お前がそうか……成る程な、面影があるな」


 厳つい顔の男はそう言うと……


「着いてこい」


 そう言って奥に向かう


「……」


 俺は男に着いていく


 工房に入り……更に奥に……

 そして1つの部屋に入る

 狭い部屋だ……中央に布を掛けられた何かがある


「オルベリンがお前の為に依頼した品だ……大事に使えよ」


 そう言って男は布を捲った


「!!」


 それは鎧だった

 真っ赤な鎧だ……


「……オルベリンも……赤の鎧を着ていた……鎧の色なのか血の色かわからなくなってな」


 男が話す


「……戦場での親父を知ってるのか?」

「……まあな、着てみろ」


 男はそう言うと、鎧から離れる

 俺は言われた通りに鎧を着る

 そして冑を渡されて、被る


「……ふっ、その姿で戦場に現れたら、敵はオルベリンが甦ったと思うかもしれないな」


「そ、そうか?」


 俺は手元や背中周りを見てみる

 似合ってるかは知らないが……この鎧、馴染む……身体の一部みたいだ


「これもやろう」

「っと!」


 男は俺に剣を渡す……普通の剣より大分重くないか?

 俺は剣を抜いてみる


「……おいおい、随分と厚い刃だな」

「それくらい厚くしないと、すぐに折れるからな……オルベリン基準の力だとしたらな」


 男はそう言いながら、薪を1つ手に取り……俺に向けて投げる


 俺は剣で薪を斬る……

 アッサリと斬れる薪


「片手でそれだけ振れるなら問題ないな」


 男はそう言うと笑う

 懐かしいものを見るような目だ


「カイト様を、しっかりと守れよ」

「あ、ああ……てかあんたは戦わないのか? 見た所、鍛えてるみたいだが……元軍人か?」


 俺は疑問に思ったことを聞く


「……昔の話だ、今はただの鍛冶屋だ」


 男はそう言うと部屋を出た

 俺も部屋を出る……鎧は着たまま持って帰るか……


 ・・・・・・・・


 その後、俺は屋敷の掃除を軽く済ませて

 鎧を着て城に向かった


 城門で兵士に止められたが……顔を見せたらすぐに離れられた……てかビビられたな


 そして玉座の間に入ると……


「うぉ!? お前……ライアンか!?」


 カイトが玉座で驚きながら俺の名を呼んだ


「ああ、良くわかったな大将」


 俺は冑を脱ぐ


「オルベリンと似た鎧だからな……それどうしたんだ?」


 俺は今日の事を話す


「……成る程な……レリス、確か槍は宝物庫に仕舞ってたよな?」

「はい……宜しいのですか?」

「オルベリンの遺言だからな」

「……わかりました、取ってきましょう」


 レリスはそう言うと玉座の間から出て行った


「さてと、ライアン……早速だが、明日から仕事だ」

「お、早速だな! 内容は?」

「俺は明日からパストーレに向かう、避難させている俺の妻と妹の迎えに行くためにな」

「そうか、その護衛って訳か」

「そうだ……他に100人の兵士も連れていく……まあ、襲ってくる奴等はいないと思うが……油断は出来ないからな」

「わかった、朝にここに来れば良いか?」

「ああ、昼前に出発するからな……よろしく頼む」

「任せろ!」



 さて、俺の初仕事……しっかりこなしてやるか!

 見てろよ! 親父!


















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