第205話 その男『ライアン』
「…………」
俺は男を見る
茶髪……服装は旅人が好んで着る様な動きやすそうな服だ……貴族とかではないな
「……? お前がカイト・オーシャンだよな?」
男が再び聞いてくる
「ああ、俺がカイト・オーシャンだ」
俺は答える
そして答えてから自分に違和感を感じた
「…………??」
なんだ? 俺はこの男を知らないのに……
何故か懐かしさを感じる……
例えるなら、昔、一緒に居た幼なじみに久し振りに再会したような感じの懐かしさ
「そうか、人違いしたかと焦ったぞ」
男はそう言うと歩き出して俺に向かってくる
……が
「止まれ、このまま行かせると思うか?」
「っと!」
レルガが剣を抜いて男に剣先を向けた
ーーーレルガ視点ーーー
「なんだ? 邪魔すんなよ」
「っ!」
男はそう言うと、躊躇いなく、俺の剣を右手で握った……
刃を掴むか!?
「……ぐっ! 貴様、その手に何か仕込んでいるのか?」
剣を振ろうと力を込めるが……剣が全く動かない
男の掌が斬れる様子もない……
普通、指に傷が出来る……酷いときは指が落ちるぞ!
「なんも仕込んでねえよ、俺の身体が頑丈なだけだ!」
ブォン!
「うぉ!?」
男が剣を握る手を振り
剣ごと俺を横に投げた
受け身をとり、男を見る
「…………」
男は平然と歩き出した……
俺は眼中に無いって事か?
嘗められたものだな……
「殺す!」
捕らえようと思ったが……それは難しそうだ
だから、仕留める!
カイト様の安全の為だ!!
マーレスも流石に動こうとしていた
その時だ……
「2人とも! 止まれ!! 手を出すな!」
『!?』
俺とマーレスを動きを止める
そして……声の主を見る
「な、何故ですか! カイト様!!」
ーーーカイト視点ーーー
「な、何故ですか! カイト様!!」
レルガが叫ぶ
「いいから、動かなくていい! 俺は大丈夫だから!」
レルガをあっさりと退けられた
普通なら焦るべきなのに……
何故か俺は自分でも不思議な程に落ち着いていた
そして、あの襲撃者は俺に危害をくわえるつもりは無いと確信していた
……本当に何でだ?
「へぇ、随分と余裕だな」
男はそう言って俺に向かって歩く
「…………」
「レリス、大丈夫だから離れてろ」
「しかし……」
「大丈夫だから」
「……わかりました」
レリスは数歩下がる
因みにメイリーは執務室の方で書類の処理をしているから、ここには居ない
俺は再び男を見る
こっちに近付いてくる男
背丈は大きい方か……180㎝は越えてるか?
年齢は……あー、若い方だな、多分俺と同年代か?
「…………」
男が立ち止まる
謁見者が立つ位置だ
「お前は何者だ? 何をしにきた?」
俺は男に聞いてみる
「俺はライアン、用は……これだ!!」
ダン!
ライアンが跳び
シャキン!
剣を抜いた
そして俺の……首を狙って振ってきた
『カイト様!!?』
レリスとレルガの声
2人が駆け出す
ドン!
ライアンが俺の目の前に着地した
そしてライアンの剣が……俺の首の左側に触れる寸前で止まった
レリスとレルガは何が起きてるのか理解が追い付かないのか眼を見開いている
「なんで避けないんだ? 普通はビビって避けようとしないか?」
ライアンは不思議そうに聞いてきた
「そうだな……お前が俺を斬るつもりが無いのがわかってた……からかな?」
俺は答える
「……はっ! それなりに肝は据わってるってことか!」
ライアンは剣を仕舞う
「き、貴様! なんのつもりだ!!」
レリスが怒鳴る
「ちっ! うるせえな……」
眉間に皺を寄せるライアン
その表情を見て……俺は不意に懐かしい名前を呟いた
「……オルベリン?」
「おっと?」
ライアンはオルベリンの名前に反応した……
その反応を見て、俺の中で1つの仮説がうまれた
「お前、オルベリンの孫か?」
「なっ!? 孫!? オルベリン殿に!?」
レリスが驚く
そりゃあ驚くだろうな
オルベリンには家族は居ない筈なんだから
妻も子供もいない……それが世間の認識だ……でも……
「この世の中だ、隠し子とか居てもおかしくないだろ? よく顔を見てみろよ……オルベリンの面影を感じないか?」
「…………」
レリスはライアンの顔をまじまじと見つめる
「た、確かに……オルベリン殿の面影を感じますが……」
「…………マジかよ」
レルガも俺の隣に立ってライアンの顔を見る
「残念ながら、俺は孫じゃねえよ」
ライアンは否定する
「違うのか? じゃあオルベリンの生き別れの兄弟とかそこらへんの身内とか?」
「それも違う」
えー、違うのか?
「俺はオルベリンの息子だ」
「そっか、息子かぁ……」
「ほぉ、息子……」
「息子ねぇ……」
…………
『息子ぉ!?』
「うぉ!?」
俺とレリスとレルガが驚いて叫ぶと、ライアンはその反応に驚いたようだ
「まてまてまて! ライアン! お前何歳だ!!」
「に、20だが?」
俺の1つ下か!
「ということは……あー、オルベリンが……」
「71の時くらいに作ってることになりますね……」
レリスが言う
「……マジか」
生涯現役ってそういう意味も含んでいたのか?
「あー、なんか盛り上がってるが」
マーレスが近づいてきた口を開いた
「そいつが本当にオルベリンの息子だという証拠はあるのか? 証拠も何もないのに信じろっていうのは無理だろ?」
「た、確かにそうだな……おい、何かないのか!」
レルガがライアンを睨む
「証拠ねぇ……あるにはあるが……証拠になるかこれ?」
ライアンは懐から手紙を取り出した
その手紙を俺に渡す
俺は手紙を読む……
「これは……オルベリンの字だな……少し震えているが……」
" ライアンへ
お前にこの手紙が届く頃には、ワシはもう死んでおるかもしれんな
思えば、ワシは父親らしいことは何も出来ていなかったな
寂しい思いをさせただろう……すまなかった
以前、見舞いに来てくれた時は嬉しかった……
ワシが死んだ後は、この屋敷はライアンの好きにしてくれ
他にも色々と残せるものは残しておこうと思う
だから、お前はお前のやりたいように生きてくれ
ワシの訓練を幼い頃からこなしていたお前なら、何処でも、どんな事でもこなせるだろう
何か困ったときは坊っちゃん……カイト・オーシャン様を頼ってくれ
カイト様なら、この手紙でも見せれば全てを察してくれるだろう
ああ……困ったな、本当はもっと色々と書きたいのだが
なかなか言葉が見つからない……
ライアン、共に過ごした時間は僅かだったが
ワシは、お前も、母さんも、愛しているぞ……
どうか、2人共……幸せに生きてくれ
オルベリン""
「…………」
手紙……僅かな時間……
そこで俺は思い出した
オルベリンは隠居する前は4月頃に1週間程、休暇を取って何処かに出掛けていた事
シュルという人物に封筒を託していた事……あの封筒の中身が手紙だとしたら?
「間違いない……これはオルベリンの手紙だ……」
俺は手紙をライアンに返す
「マジで信じるのか?」
ライアンは意外そうな顔をして聞く
「ああ、思い当たる事がある……それで? 本当の目的はなんなんだ?」
俺はライアンを見る
「……この手紙を受け取ってから色々考えていた」
ライアンはドカッと俺の目の前に座る
「親父はな、俺とお袋の所には1年の内、数日しか帰ってこなかった」
「……」
1週間……その内、2~3日は移動に使われたと考えたら……3~4日しか1年で一緒に過ごせなかった……
彼が18くらいの時にはオルベリンは都から出れなかった事も考えても、一緒に過ごせた日数は1年分も無い……
「妻と子供よりも優先した主ってのが、どんな奴か……一目見てやろうと思ってな……下らない奴だったらぶっ殺そうと思ったんだが……」
「どうやら、下らない奴ではなかったみたいだな?」
「へっ!」
ライアンは鼻で笑った
「それで、ライアン……これからどうするつもりだ?」
俺はライアンに聞く
「あっ? 別に何も考えてねえよ、適当にぶらついてから帰るさ」
「そうか……なあ、お前が良ければだが……俺に仕官しないか?」
『はぁ!?』
レリスとレルガが驚く
マーレスも眼を見開いている
「おいおい、自分を殺そうとした奴を誘うか普通?」
「良く言う、殺すつもりなんてなかった癖に」
「俺がオルベリンの息子だから誘ってんのか?」
「それもあるが……単純にお前を気に入っただけだ……まだまだ荒さが目立つが、強いしな」
「カイト様! 俺は反対です! こんな奴を雇ったら、兵の士気に影響が……」
「わかってる、兵士として雇ったら、和を乱すって事だろ? 兵士と比べたら腕っぷしも……我も強すぎるしな」
「だったら……」
「だから、俺の護衛として雇いたい、ほら、俺の専任の護衛っていないだろ?」
「護衛なら俺達が……」
「いや、それこそ軍が統率出来ないだろ……レルガが今の軍の纏め役だぞ?」
レルガが軍から離れたら、それこそ兵達がバラバラになるっての!
「それは……まあ……」
お、予想外に誉められて満更では無いって顔だ
「まあ、先ずはライアンの意思を聞こう、どうする?」
俺はライアンを見る
「そうだな……それって戦場で暴れられるか?」
「状況によるな、お前が暴れるって事は、俺が危険な時って事だからな……お前に俺の命がかかってると言っても過言ではないな」
「へぇ…………」
ライアンは少し考える……そして……
「しっ! んじゃ雇われてやりますか! 親父があんたに尽くした理由がわかるかも知れないしな!」
そう言ってライアンは立ち上がる
俺も立ち上がる
「それじゃあ、よろしく頼む、ライアン」
「ああ! 任せろ! 大将!」
俺とライアンは握手する
レリス達はまだ納得してないみたいだが……これから時間を掛けて認めさせよう……
…………あと、オルベリンがどうしてライアンの存在を隠していたか……ライアンが理由を知っていたら聞いてみるかな……
……いやぁ、それにしても……息子……息子かぁ……
…………オルベリン、やることはやってたんだな……
第3話の最後に呟いてた人物こそ、このライアンです
初期から彼の存在は書いていたり……