第204話 停戦に向けて
翌日
オーシャン城の玉座の間に、バンダルフは呼び出されていた
バンダルフは玉座の間に入った時に目を疑った
玉座へと続く道、絨毯を挟むように将達が立っていた
昨日までは一緒に御馳走を食べたりしていた将達が……しっかりと武装して立っていたのだ
それだけで、今回はいつもと違う用事で呼び出されたと理解した
バンダルフはそんな状況でも、怯まずに歩み進める
そして、カイトの前に着くと礼をする
「バンダルフ殿、身体の調子はどうだ? どこか不調があったりするか?」
カイトが口を開く
「いえ、充分に休ませてもらい、回復しました……此度は侵攻してきた我々を救助してもらい……感謝しかありません」
そして膝をつく
バンダルフが出来る限りの……最大限の感謝を伝える
最早、彼にオーシャンと戦う気はなかった
「それは良かった、そろそろコイシュナの地が恋しいのではと思ってな……君達をコイシュナまで送ろうと思うのだが……問題はないかい?」
「そこまでしていただくとは……しかし……」
「あ、勿論、君達の立場を考えてコイシュナの領地までは送らないさ、デルト付近まで送って……そこからは自力で帰ってもらうかたちになるな、勿論食料等は提供する」
「ありがとうございます……」
・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
更に翌日
バンダルフ達が出発する
それに合わせて兵士1000人を護衛につかせる
護衛としては多くないか?
とか
コイシュナの奴等は3000人以上居るのに大丈夫なのか?
とか思ったが……
1000人も武装した兵を襲える規模の賊なんていないし
コイシュナの捕虜達も、数は多くても武器も何もなければ勝ち目がないのはわかってるから兵を襲うことはしないだろうって事らしい
何より、護衛の兵を襲った所で彼等に何のメリットも無いのだから大丈夫なんだそうな……
「……さて、そろそろだな」
コイシュナに向かって進み始めたバンダルフ達
そんな彼等がオーシャンの都から離れた頃に……
カイナス
ガガルガ
パストーレ
ヘイナス
マールマール
他の地方からの援軍がそれぞれの方角から姿を現した
彼等はそのままオーシャンの都に向かってくる
本来ならメイリーがバンダルフ達を壊滅させた時点で援軍は不要になったのだが……
メイリーが……
『オーシャンには、まだこれだけの兵力があるんだと……バンダルフに思わせるために、彼等にはこのまま此所に来て貰いましょう』
って事で、伝令を送ってタイミングを合わせて貰った
さて……これが幸となすか……
まあ、メイリーの紹介もする必要があるから、後日呼び出す手間が省けたとでも思っておこう
・・・・・・・・
「そんな訳で、これから軍師として働いてもらうメイリーだ!」
俺がメイリーを隣に立たせて言うと
「……はい?」
「はぁ……」
「はっ?」
「ふむ……」
「けっ!」
サルリラ、バルセ、ブルムン、メビルト、ペンクルがそれぞれ反応する
「伝令から話は聞いたっすけど……本当に彼がやったんすか?」
サルリラがメイリーを見ながら言う
「厳密には協力してくださった兵達のお蔭です、わたしは策を伝えただけですので」
メイリーが答える
「どう見てもガキじゃないか」
ペンクルが不満そうに言う
「成人はしてますのでご安心を……」
メイリーはそう言って一礼する
「ふむ……にわかには信じられんが……」
メビルトはメイリーをマジマジと見る
「レルガ将軍に同行して頂いたので、将軍に詳細を聞いてください」
「ヒヒ! また妙な奴が現れたものですね!」
ブルムンは笑う
「まぁ、カイト殿が決めた事、私は何も言いませんよ」
バルセは好意的だな
「ありがとうございます、バルセ様」
メイリーは嬉しそうだ
「あ、軍師って事は……レリスさんはどうなるっすか?」
サルリラが疑問を口にする
「軍師とは言ってるが、私とは違う役割ですからね、戦時の時はともかく、平時の時は私の助手として働いてもらうつもりですよ」
レリスが答えた
そうそう、オーシャンのNo.2はレリスだからな
これは揺るがないぞ?
あれだな、メイリーは現代の会社の役職で言ったら……『常務』か『本部長』くらいの所かな……
かなり高い役職に思えるが……将達とは部門が違うからな……
別に将よりも偉いわけではない
「……将の皆様がわたしに不満を持つことは理解できます、わたしの様な若造に色々と指示されるのは不愉快でしょう……しかし、そこは受け入れてもらえませんか?」
「なに?」
メイリーの発言にペンクルが眉をしかめる
「わたしは戦う事が出来ません、策をねり、どうすれば戦に勝てるかを考えて伝えるだけです……それがわたしの『武器』なのです……ですから、皆様には……メイリーという『武器』を使ってもらいたいのです」
つまりメイリーは、将達の上司になったつもりは無く
逆に、自分を利用してくれと将達に伝えた
将を立てたわけだ
そう言われたら……誰も不満を言わなくなった
・・・・・・・・・・
メイリーに紹介も終えて、将達は解散した
部屋を用意してるから、オーシャンに1泊してもらって、明日それぞれの都に帰還する
「カイト・オーシャン、少しいいか?」
ペンクルが話し掛けてきた
「ペンクル殿、カイト様は貴方の主ですよ? その様な話し方が」
「レリス、今は周りに人は居ないんだから、あんまり厳しくしなくていい……それで? どうしたんだ?」
俺はレリスを制してペンクルを見る
「いつになったら妻の迎えに行くつもりなんだ?」
「ティンクの事か?」
予想外だった、ペンクルがティンクの事を言ってくるとは……
「今、西方と停戦するために動いてる所だ、停戦が成立したら迎えに行くつもりだが……あー、迷惑だったか?」
「いや、あの子は寧ろメイドや兵達の話し相手をしてるから、こっちとしては助かってるが……やはりオーシャンで見たときよりも元気が無いように見えてな、さっさと迎えに行ってやれ」
「俺だって出来るなら直ぐに行きたいさ……だが、今はまだここも安全じゃない……彼女の安全が確保できたら、すぐに行くさ」
「そうかよ……」
そう言うとペンクルは後ろに振り向いて歩き出した
そして、数歩歩いてから思い出したかの様に振り返る
「そうだ、あのガキの事も気にかけてやれよ」
「ガキ?」
「アイツだよ、親父に鍛えてくれってついてきた」
「……レムレか?」
「そうそう、そんな名前だったな、敗戦を気にしてるのか……無茶な訓練ばっかりしてるぞ」
……思えば、ルーツやヘルドの事で頭がいっぱいだったから……レムレ達のフォローをしてなかったな
レムレはメイドをしてた時からルーツやヘルドに世話になってたし……アルスとも友人だった……いや、親友ってくらい仲が良かった……
その3人を同時に失ったんだ……
「……わかった、ティンクの迎えに行った時に何とかしてみる……それまで無茶をしないように見ててもらっていいか?」
「気が向いたらな!」
そう言ってペンクルは玉座の間を出ていった……
翌日、将達はそれぞれの都に帰っていった
・・・・・・・・・
1か月後
ーーーバンダルフ視点ーーー
漸くコイシュナに帰ってこれた……
そして、ヒール様の元に連れていかれる
「バンダルフ……ただいま、戻りました……」
俺は膝をつく
「…………バンダルフ、何故負けた?」
ヒール様の声はとても冷たい……
冷や汗が出てくる
「オーシャン領に入るまでは順調でした……しかし、イーリアス盆地に到着した時に、豪雨により濁流が起き……多くの兵が飲み込まれました!」
俺は土下座する
「そして、迎撃に出ていたオーシャン軍に救助され……こうして解放されました!! 全ては俺の責です!! どうか! 罰するのは俺だけに!!」
「…………」
ヒール様は黙っている
「困ったわねぇ~弱ったオーシャンから領地を奪うつもりだったのに、逆にやられちゃうんだものねぇ……バンダルフちゃん? 貴方の首だけで済むと思ってる?」
玉座の間に居た将の『レッカン』が口を開く
男の癖に、女のような喋り方をする……気色が悪い奴だ
「……」
「あら怖い! 睨んじゃ嫌よ?」
「バンダルフ……顔を上げろ」
ヒール様の指示、俺は顔を上げる
バシャ!
「ぐっ!」
顔に水を掛けられる
さっきまでヒール様が持っていたグラスの水だ
「災害にあうのは不運だったが、それでも不意をついてでもオーシャンの奴を1人くらいは始末できたろ? 下らない考えを何故捨てなかった?」
「俺は……」
「まあいい、もう済んだことだ……さっきのである程度気が晴れたしな……バンダルフ、お前には1年の謹慎を言い渡す、他の奴等への罰はそれで勘弁してやる」
「っ! ありがとうございます!!」
「さっさと帰れ! 俺は今から他の連中への言い分を考えないといけないからな!!」
俺は言われた通りに玉座の間を後にした
・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
バンダルフをコイシュナに帰して2ヶ月が経過した
「以上が、我々西方からの提案です」
「こっちとしても願ってもない話です……彼等には応じると伝えてください」
俺は西方からの使者に返事を返した
メイリーの言った通り、向こうから停戦を要求してきた
まぁ、多少の金品を賠償金として要求されたが……払えない額じゃなかったし、安心を買えるなら安いものだった
「漸く、一段落ですね」
レリスが言う
「ああ……治安の方はどうだ?」
「一時期は賊が流れてきてましたが、あらかた片付きましたね……戦前程ではないにしろ、今なら安全かと」
「そっか……なら、もう大丈夫かな?」
「だと思いますが?」
俺はそれを聞いた瞬間に玉座から立ち上がる
「よし! ティンクの迎えに行こう!!」
「カイト様、奥様に会いたいのはわかりますが、準備もありますし、この後に数件の謁見があるんです、出発は明日以降にしてください」
「…………」
「そんなガッカリ顔をしないでください」
俺は玉座に座り直す
「それならさっさと済ませるぞ」
俺がそう言った時だ
「失礼します、賊の討伐を終えたので報告に」
「右に同じく」
レルガとマーレスがやって来た
「後で聞くから待っててくれ、先に謁見を終わらせるから」
俺はそう言って2人を玉座の間に待機させる
・・・・・・
そして謁見が終わる
あー疲れた……2人の報告を聞いたら明日の為に早めに休もう
「さてと、レルガとマーレス……どっちからでも良いから報告を頼む」
俺は2人を見る
レルガが口を開こうとしたら……
バン!!
「た、大変です!!」
兵が駆け込んできた
またこのパターン?
「なんだ? 西方が攻めてきたのか? それともヤークレンがやって来たのか?」
「なんか手慣れてますね?」
「よくあるからな」
俺が兵に聞くと、メイリーがレリスに聞いていた
だって兵が駆け込んでくる事が何回もあったんだぜ?
いい加減慣れるわ
「て、敵襲です!!」
兵が叫ぶ
「敵襲? 人数はわかるか?」
レルガが兵を見て聞く
「ひ、1人です! しかしとても強くて、我々では……」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわ! 来るな! どわぁぁぁぁ!!」
『…………』
なんか結構近くから悲鳴が聞こえたんだけど?
「ヤバイヤバイそこまで来てる!」
「なんだよあれ!!」
「誰か将を呼ばないと駄目だって!!」
数人の兵士が駆け込んできた
そしてさっきの兵と一緒になって、玉座の間の扉を内側から押さえた
次の瞬間……
ドゴン!!
『ぎゃああああああああ!?』
「うぉ!?」
扉がぶっ飛んだ……押さえていた兵達もぶっ飛んだ
そして……
「ここが玉座だな? んで……お前がカイト・オーシャンだな?」
1人の青年が、俺を指差しながら立っていた