第203話 予想外の対応
「…………」
バンダルフは困惑していた
オーシャンまで連行された彼は拷問や処刑等を覚悟していた
この間まで戦っていた領に追い討ちをかけるように攻めたのだ
捕まった以上、殺されても文句は言えない状況だった
……それなのに、オーシャン城に連れてこられたバンダルフに待っていたのは
「どうされたので? 苦手な物でもありましたか?」
「あ、いや……そうではないが……」
バンダルフは隣に座っている男……カイト・オーシャンを見る
そして、目の前に並べられた御馳走を見て……戸惑う
連行された彼に待っていたのは歓迎だった
会食等に使うであろう部屋に案内され……そこで上座に座っていたカイト・オーシャンに招かれ、隣に座らされた
(な、何故俺は歓迎されているんだ?)
ずっとそればかりを考えて食事が進まないバンダルフ
「あ、もしや毒などを警戒しているので? なんだったら毒味を呼びましょうか?」
カイトはバンダルフに聞く
「い、いや……大丈夫だ……」
バンダルフはナイフとフォークで料理を口に運ぶ
(う、美味い……)
普通に美味い料理
それが彼を更に混乱される
「♪」
カイトは普通に食事を楽しんでいる
「……わ、わからないな」
「……何がです?」
バンダルフは呟く
「何故俺を歓迎する? 何が狙いだ?」
そう言ってバンダルフはカイトを睨む
「狙い? そんなものはありませんが?」
心外そうに答えるカイト
「俺達は侵略者だぞ? 殺さないのか?」
「そりゃあ、戦って捕らえたら、処刑や拷問も考えますよ? しかし、貴方達は不幸にも災害に巻き込まれた人達だ……それを救助して、こうして歓迎するのはおかしいことですかね?」
「それでも、俺達が侵略者なのは変わらないが? 例えば……このナイフでお前を殺すことも……」
「そんな事はしないでしょ? 貴方は武人としての誇りがあるように思えますが? 丸腰の相手に不意討ちをして殺害……そんな事は武人の名折れでは?」
「…………」
カイトがそう言うとバンダルフは黙りこんだ
「ほらほら、食べましょう、今はしっかりと食べて体力を取り戻すべきです」
カイトはそう言うと食事を再開した
バンダルフも食事を進める
・・・・・・・
カイトが用意した客室を拒否して、コイシュナの兵達が居る野営地に戻るバンダルフ
野営地には最低限の服を与えられた兵士達が休んでいた……すれ違ったオーシャンの兵が食器を運んでいたのを見て、バンダルフは野営地の兵達にも御馳走を与えられていた事を理解する
「…………」
バンダルフは考える
何故、カイトはこんなことをしたのか……
救助した者達を歓迎してると言っていたが、それは本心だろうか? っと
このコイシュナの野営地は、丸腰の兵士達が休んでいる場所だ
流石に3000人以上の人数を見張りながら休ませる場所は都には無かった
よって、都の外で野営させ、周りを兵や将で囲んで見張っている
野営地から逃げ出さないようにだ
「……警戒はしているんだよな?」
そう呟くバンダルフ
暫く考え込んでいたが……何もわからない
このまま考えても時間の無駄だと考えた彼は、さっさと休むことにした
・・・・・・・・
翌日、バンダルフは再び城に招かれた
今度こそ処刑かと身構えたが……連行された先は食堂だった
そして料理と酒が運ばれる
「さあさあ、遠慮せずに飲みましょう♪」
そう言ってカイトはバンダルフの杯に酒を注ぐ
自分の杯にも同じ酒を注ぎ、飲む
「…………」
バンダルフも酒を飲む……
「美味い……」
その後もバンダルフ……コイシュナの軍には御馳走や衣服が提供された……
更に2日が経過する頃には……
「それ! 飲め飲め!!」
「はははははは!!」
「いいぞー!」
野営地は宴状態だった
コイシュナの兵達は酒を飲みながら騒ぐ
とても楽しそうな光景だった
「…………」
バンダルフも宴には混ざらないが、カイトへの警戒心はだいぶ薄らいでいた……
バンダルフが城に招かれる度に、カイトはバンダルフの体調を気遣ったりしていた
本当に彼はバンダルフ達を救助しただけなのだと……彼はその話を信じることにした
そして……
・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「……メイリー、こんな感じで良いんだな?」
「はい、完璧です」
玉座の間で、俺はメイリーに話し掛ける
「カイト様、予想よりも演技力がありますね、正直驚きましたよ?」
そう言うメイリー
「そうか? 自分で言うのもなんだが、かなり不自然だと思っていたが……」
てかストレスがヤバい……何が悲しくて西方の連中を歓迎しなくちゃいけないんだよ……
まぁ、これもメイリーの策なんだがな……聞いた時は驚いた
『カイト様、捕らえたコイシュナ軍ですが……歓迎してあげてください』
『……はぁ!?』
メイリーを正式に雇った後、レリスと俺でコイシュナ軍の連中をどうするか話していたら、メイリーが口を開いた
『どういう訳だ? 奴等を処刑する理由はあれど、歓迎する理由なんて無いんだが?』
正直、俺は西方の連中はぶっ殺してやりたいって思ってる
いや、まあ、完全に憂さ晴らしだが……
『カイト様、貴方は西方に借りが出来てしまっていますね?』
『…………』
『約7000人の捕虜を無事に送り返された……こんなことをされたら、西方には何も言えなくなってしまいますね』
『……それで? 奴等を歓迎する理由は?』
『カイト様、侵攻して来た敵軍が、偶然にも災害にあい壊滅した、それを知ったオーシャンは素早く被災者達を救助して、暫くの衣食住を提供し、無事に祖国に帰した……充分、西方への借りを返せると思うのですが?』
『…………』
俺は少し考える……
人数は倍以上の差があるが……このまま何もしないよりは確かにマシだとは思った
『勿論、完全に借りを帳消しに出来たとは言いません……しかし、停戦して、再び西方と戦う為の準備をする時間は充分に稼げると思います』
『…………』
確かに、このままでは、いつまた西方に攻められるかわからない……
そんな不安を抱えて過ごすのは……嫌だな……
『カイト様、貴方が西方を憎んでるのは知っています……ですが、ここは耐えてください、貴方の……オーシャンの未来のために!』
「あそこまで言われたら、頑張るしかないよなぁ」
俺はため息を吐く
今のところの実害は、俺のストレスがマッハだと言うことくらいか
「もう少しの辛抱です……明日は普通にここにバンダルフを招きましょう」
「それで、奴等をコイシュナに帰すんだな?」
「はい、兵達は完全に戦意を失っていますし、バンダルフの警戒もゆるんでいます」
メイリーはそう言うとニヤリと笑う
「彼等をコイシュナまで送り返せば……向こうの方から停戦を申し込んでくるでしょう」
「……何故だ?」
こっちから停戦を求めるんじゃないのか?
「理由は2つあります、1つは今回の侵攻がコイシュナだけだという事です……恐らく、他の領は今回の侵攻に関わっていません」
「そんな事がわかるのか?」
レリスが聞いた
「はい、そもそも、西方の強さは『西方同盟』があるからです、西方の領が協力するから強いのです……今回の侵攻が西方の意思なら、コイシュナ以外の軍も来ている筈ですからね、コイシュナ軍だけっと言うのが……コイシュナだけの独断だという根拠になります」
「なるほどな……もう1つは?」
俺が聞く
「コイシュナ軍の敗北を知った『西方同盟』が、これ以上の戦いは無意味だと理解するからです、バンダルフを帰した後、西方はこう思うでしょう……『オーシャンには、まだ戦う力があると』 ……そうしたらコイシュナもこれ以上の争いは無益だと理解します、そして、オーシャンにはまだ戦う力があるとも警戒させられます……彼等もまた戦を起こしたいとは思わないでしょう」
「確かに、俺達が実際はどんな状態かなんて、奴等にはわからないしな……ハッタリも必要って事か」
「ええ、正直西方の方は停戦するだけなら大した驚異ではありませんね、それよりも不気味なのは……」
「ヤークレンか……」
いまだに何も言ってこないんだよなぁ……
俺達の敗戦を慰める訳でも責める訳でもなく
援軍への感謝を言うわけでもない
何のリアクションが無い……マジで不気味だ
今のオーシャンを試す為に俺達を利用した訳だしな……
「レリスとメイリーはどう思う?」
レリスが口を開く
「ヤークレンも今は余裕がないのでは? ……いや、ヤークレンがって言うよりはバルドナが……彼等が西方の領地を奪ったって話は聞きませんしね」
「メイリーは?」
俺はメイリーを見る
「レリス様の考えと似たようなものです、それに付け加えるなら、恐らくメルセデスには、まだオーシャンの敗北は伝わっていないのでしょう」
「伝わってない? あれから大分時間が経ってるのにか?」
「はい」
メイリーは頷く
「バルドナ・ヤークレンは早々と撤退した筈です、なのでヤークレン側にオーシャンと西方の戦の結果が伝わるのに時間がかかっているのでしょう……普通なら密偵なり使者等を送って状況を調べたりするのでしょうが……バルドナはそれをするとは思えませんね、話を聞く限りだと……バルドナ・ヤークレンは未熟者ですから」
お前ハッキリと言うな……
「わたしの予想では半月前くらいからメルセデスは状況を知るために人を動かしたと思います……恐らく、そろそろメルセデスがオーシャンの敗戦を知るでしょう、そこから予想するに……今から1ヶ月後くらいに誰か使者を寄越すでしょう」
「なんか確信してる様に聞こえるが?」
予知能力とか持ってないか?
「まさか、予想ですよ予想、取り敢えず今はヤークレンよりも先に西方の件を済ませましょう」
「それもそうだな……レリス、準備の方は?」
「既に手配を済ませています……こちらに向かっていた援軍にも伝令が返ってきました……抜かりはありません」
「そうか……よし……後は明日だな……」
失敗しないようにしないとな……