第200話 軍師の策・準備
ーーーレルガ視点ーーー
カイト様の命に従い、兵を500人用意する
そして用意が出来たことを伝えに玉座の間に向かおうとしたら
「準備が出来たんですよね? すぐに出発しましょう」
メイリーの小僧が城から出てきた
「……お前が乗る馬だ」
俺は兵士に馬を連れてこさせる
「ありがとうございます」
小僧は馬に近寄り
跨がろうとして……
どてっ!
「痛!!」
落ちた
「…………」
「…………コホン」
再び跨がろうとして……
「ととと!?」
ドサッ!!
また落ちた……
「……お前、馬に乗れないのか?」
「ええ、乗馬の経験は全くなくて……」
「…………」
大丈夫なのかこいつ?
「はあ……ほら、俺の後ろに乗れ」
「助かります」
小僧の手を取り、後ろに乗せる
「しっかりと掴まっていろ! 行くぞ!!」
俺は馬を走らせる
兵士達もついてくる
そして、イーリアス盆地を目指す
・・・・・・・
丸1日かかってイーリアス盆地に到着する
「レルガ将軍、ここで1度止めてもらってもよろしいですか?」
小僧が言う
馬を止め、兵達にも止まるように合図する
「ここで100名程は50人ずつに分けてシャンリとペンムに向かって下さい、村の人に避難する準備をしてもらって、必要ならその手伝いをしてください」
小僧の指示を聞いて、適当な兵100人を選ぶ
「全てが終わったら……そうですね……」
小僧が周りを見渡して……
「あの山の山頂に来て下さい、もし3日以上かかった場合は村の人と一緒に都に戻っててください」
そう言って兵達を送り出した
「さて、わたし達はあの山を登りますよ! そんなわけで将軍、お願いします」
「…………」
俺達は馬を走らせる
3時間後、山頂に到着した
「ふむ……やはりここが1番高いですね」
小僧は山頂の景色を眺めながら呟く
「それで? ここで何をするつもりだ?」
「色々とだけ言っておきましょう……あ、レルガ将軍は休んでてください」
「……あっ? なにもするなって言うのか?」
「貴方の手を借りたら、501人になってしまいますからね」
「誤差の範囲だろうに」
「いいえ、これは譲れません!!」
ガキかよ……いやガキだったな
まあ、年相応な意地って所か?
「……わかった、じゃあ見せてもらおうか……わかってると思うが、策が失敗するようなら」
「はい、遠慮なく斬り捨ててください」
「……ふん」
俺は近くの木にもたれかかる
そして小僧が指示を出す様子を見守る
小僧は200人の兵士に何か指示を出している
他の山を指差し、地図を拡げ、何かを説明している
「?」
説明が終わったのか、小僧が地図を仕舞うと、200人の兵達は馬に乗り、山から下りていった
それを見送った小僧は残りの兵達にも指示を出す
残りの兵達は野営の準備を始めた
「…………」
見てるだけって……つまらないな……
少ししてから、テントを張った兵士が俺を呼んだ
どうやら、俺が休むためのテントだそうだ
木にもたれかかっているよりはマシだな……
西方の軍の姿が見えない間に、休んでおくか……
・・・・・・・・
「……ん」
眼が覚める、周りの様子からして、今は夜か……
俺はテントから出る
……鎧は着なくていいか
テントから出ると野営の準備は終わっていた
兵達が思い思いに過ごしていた
「んっ? なんだこれは?」
少し歩いていたら、奇妙な空間を見つけた
布を木にくくりつけて、空中で張らせただけの空間だった
布を屋根にしていると言えばいいのか?
「…………」
布の下の空間を覗いてみる……何もない
「……おい!」
俺は近くに居る兵士を呼ぶ
「はい! どうしましたか!!」
「これはなんだ?」
「メイリーの指示です、他にももう一ヶ所同じように布を屋根にしてる空間があります」
「……アイツは何を考えてるんだ?」
「わ、わかりません」
装備や怪我人とかを寝かせてるとかならわかるが……何もないっていうのがなぁ……
「……小僧はどこだ?」
「あそこの大きな木の所に向かったのを見ましたよ」
「そうか」
俺は兵士が指差した木に向かう
「……これは凄いなぁ」
小僧は居た
望遠鏡を覗きこんで感心していた
「何をしているんだ?」
「ああ、レルガ将軍……いえ、この望遠鏡っていうのをお借りしていたんですよ……凄いですねこれ……ガラスをこんな風に使うとは……同じ原理で色んな事ができそうですね」
「……策の方はどうなっているんだ?」
「今のところは問題ありませんよ……」
「……いい加減、お前の策を話して欲しいんだがな……」
「…………」
俺は小僧を睨みながら剣に手を置く
いい加減に話せっていう脅しだ……
小僧は俺の手を見て……少し考えてから……
「少しだけですよ?」
そう言って俺に背を向ける
「レルガ将軍……どんな大軍でも太刀打ちできない事って何かわかりますか?」
「? ……オルベリンとかか?」
「それは例外ですから、そんな話では無くてもっと現実的な話です」
オルベリンの事も現実的な話なんだが……
「…………」
考える
大軍が太刀打ちできない……
先ず、大軍の規模を想像する……
1万、2万……
それが太刀打ちできない事?
「……わからん」
「そうですか、なら……数日後にわかりますよ」
そう言うと、小僧は振り返ってニヤリと笑う
子供がイタズラを思い付いたような……悪巧みをしてるような笑顔だ
「……??」
俺はますますわからなくなった
つまり……大軍が太刀打ちできない事を……小僧はやるっていうのか?
「今日は休ませてもらいますね、明日からは忙しくなりますので」
そう言って小僧はテントに向かった
「…………はぁ」
俺は不安を覚えながら自分のテントに戻った
・・・・・・・
翌日、小僧は兵士達に大量の木材を運ばせてきた
「この山の麓から山頂迄にある木を、昨日から切り倒して加工してもらいました」
「この木材をどうする気なんだ?」
「これで策に欠かせない物を作って貰います、その後、あちらに時が来るまで保管します」
小僧は布を屋根にした『あの空間』を指差した
「…………」
「レルガ将軍は今日も休まれててください」
「……なんだ? 俺には見せれないのか?」
「ええ、勿体振りたいのです」
「…………」
このガキ……
まあいい……言葉に甘えて休ませてもらおう……
小僧が失敗したら斬り殺すだけだしな
俺はテントに戻って、鍛練をしたりしながら時間を潰した
・・・・・・・・
翌日
2日前に山を下りた兵達が戻ってきた
小僧に何かを伝えると……
「それは良かった! それなら間違いなく成功しますよ! ありがとうございます!」
小僧はそう言って頭を下げた
「さあ、お疲れでしょう? 今日はゆっくり休んでください、明日は他の皆さんと同じ作業をしてもらいますからね?」
…………いったい何を作ってるんだ?
俺は例の空間に向かおうとしたら
「レルガ様!」
複数の兵士に道を塞がられた
「……何のつもりだ?」
「気になるのはわかりますが! ここは我慢してください!」
「俺は小僧の策を知る必要があると思うのだが?」
「そうですが……ここは大人として子供の我が儘を聞いてください!」
「……俺達の命が……オーシャンの命運がかかっているのにか?」
「そ、それは……そうですが……しかし、あんな自信満々に言われたら……なんか大丈夫な気がして……」
「…………」
いつの間にか懐柔されてやがる……
「……はぁ、わかった……お前らを押し退けてまで見たい訳じゃないしな……だが、いざという時は覚悟していろよ? お前達は、祖国の命運よりも、子供の我が儘を優先したんだからな?」
『…………』
俺はテントに戻る……
・・・・・・・・
翌日
どうせ何も出来ないから、俺は何か起きたら伝えるように兵に伝えてテントに入った
こうしてる間にも西方の連中が近付いてきてるって言うのに……
「レルガ様!」
兵士がテントに入ってきた
「どうした?」
俺は手入れをしていた剣を置く
「シャンリとペンムに行っていた者達がここに到着しました」
「そうか……避難は終わったんだな?」
「みたいです……今はメイリーの指示で休んでいます……それとメイリーから伝言が」
「んっ?」
小僧から?
なんだ?
「まもなく雨が降るので、風邪に気をつけて下さいっと……」
「……雨?」
俺はテントから顔を出して空を見る
「……こんな晴れてるのにか?」
雲1つ無いぞ?
「みたいです……」
「……わかった、もういいぞ」
兵士がテントから出ていく
「全く、小僧の話を真に受けてどうする……」
俺は剣の手入れを再開した
・・・・・・・
どれくらい時間が経った?
1時間は経ってない筈……
俺は手入れを終えた剣を仕舞う
そしてテントの入り口を捲って、外を見る
ザー!!
外はどしゃ降りだった……
「……嘘だろ?」
さっきまで雲が無かったのは間違いない……
俺はテントを出る
「おや? レルガ将軍?」
「……」
ちょうど小僧が来た
「……小僧、何で雨が降るとわかった?」
「? ああ、この時期はイーリアス盆地では天気が崩れやすいんです」
小僧が俺のテントに入る
俺もテントに戻る
「それで、風の流れ、空気の乾燥具合……それと夜の星の見え方で、今日降ることがわかったんですよ」
「…………普通はわからんぞ?」
「いえいえ、色んな事を学べば、誰でもわかるようになりますよ」
そう言って小僧は俺を見る
「レルガ将軍、恐らく、西方の軍は明日にはここにたどり着きます」
「……まあ、だろうな」
事前に聞いていた情報からそろそろなのは予想できる
「その時、この間の問いの答えがわかりますので、楽しみにしていてください」
そう言って、メイリーはテントを出ていった
……それを言いに来たのか?
・・・・・・・・
翌日
雨はまだ止まない……
そんな状態だというのに……
「来ました!! 西方の……コイシュナの軍です!!」
奴等はやって来た
「…………」
俺は望遠鏡でコイシュナ軍を見る……多いな
紛れもない大軍だ……
「さぁ……見せてあげますよ! わたしの策を!!」
小僧は自信満々に言い放ったのだった