第198話 『来る』
俺達はオーシャンの都に戻る
途中でモルスにカイナス出身の者達をカイナスまで送るのを任せて別れる
そしてオーシャンに帰った
都に入ると、多くの民が待っていた
そして、連れ帰った捕虜だった兵の中から家族を見つけて思い思いに駆け寄っていった
「レルガ、ここは任せた」
「わかりました」
俺は城に戻る
そして玉座の間に着き、玉座に座る
数分後、俺の帰還を知ったレリスが玉座の間にやって来た
「お疲れ様です、カイト様」
「ああ、レリスもお疲れ……何か変わった事はあったか?」
俺はレリスを見る
するとレリスは少し考えた後……
「ユリウスとティールが暫くオーシャンから離れることになりました」
「……なに?」
どういうこと?
「なんでも、もっと強くなりたいそうで……ボゾゾが昔、オルベリンに鍛えられた場所に連れて行ったそうです」
「つまり修行に旅立ったって事か?」
「ええ、ボゾゾが言うには半年くらいで戻って来るつもりだそうです」
「半年か……まぁ、それくらいなら何とかなるか……」
暫くは戦をするつもりもないしな……
…………ヤークレンが何も言ってこないのが不気味だな……
「それとレムレも今はパストーレに行っています」
「レムレが?」
「はい、ブライに鍛えて貰うそうです」
「ブライに?」
まあ、ブライはオルベリン程ではないが歴戦の猛者出しな……
教わるなら色々と為になるとは思うが……
「やっぱり敗戦を気にしてか?」
「そうですね……あの子にとっては初めての敗北ですから……一時期は自分を責めたりしてましたし」
「責任は俺に有るんだがな……そこら辺のフォローを戻ってきたらしっかりとしておくか……」
むしろ良く戦ってくれたと俺は思うぞ?
「大きな変化はそれくらいですね……レムレの方はいつ帰ってくるかはわかりません、直ぐに帰ってくるかも知れませんし、時間がかかるかも知れないとも言ってました」
「そっか……まあ空いた穴は何とか埋めよう」
人出が一気に減ったな……
兵の訓練の回数を減らすか……
「それで、カイト様の方はどうでしたか?」
俺はレリスに起こった事を話す
・・・・・・・・・
「……完全にやられましたね」
「やっぱり?」
レリスが頭を抱える
「これで、我々が西方に攻めると『恩を仇で返す』領だと他の領に思われてしまいます、最悪、西方以外も敵に回る可能性が出ますね」
「だよなぁ……南方はベスス以外は交流無いし、ヤークレンは切ろうと思えば同盟なんてアッサリ切れるしな……」
西方+ヤークレン+ベスス以外の南方
これが一気に攻めてくる……そんな最悪が浮かぶ
そうなったらどうしようもない、オーシャンは終わりだ
「かなり時間が経たないと……キツいですね」
「……どれくらい?」
「……10……いや20年……もしかしたら次の世代くらいまでかかるかも知れませんね……」
「…………」
お、重い……そんな負担をいつか産まれる子供に背負わせるのは嫌だな……
「この借りを清算できたら、話はまた別なんですけどね……」
「そんな都合の良い事が起きるわけ無いよな……」
……はぁ、頭が痛い
「……カイト様、今日はもう休まれたらどうですか?」
「まだ昼だぞ? やることは多いだろ?」
「ええ、ですが、そんな顔色で無理をされる方が困ります……今日は休んで、明日から働いてください」
レリスは真剣に言っている
「……わかった」
俺はその言葉に甘えることにした
・・・・・・・・
「カイトさん……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないな……少しこうさせてくれ」
俺は中庭に居た
レリスにティンクの居場所を聞いたら中庭に居ると教えてくれたからだ
そして中庭に着き、ティンクの姿を確認したら、俺は人目も気にせずにティンクを抱き締めた
ティンクは最初はビックリしていたが、俺だとわかると何も言わずに背に腕を回して、抱き締め返してくれた
「お帰りなさい、カイトさん」
「ああ、ただいま」
俺達はそれだけ言うと何も言わずに抱き締めあった
ルミルとテリアンヌが少し赤くなりながら見てるが気にしない
ヤンユが『若いって良いわね』みたいな顔をしているのも気にしない
俺は、今はティンクに甘えていたかった
ティンクに温もりに触れていたかった
それだけでいい……それだけで、明日からも頑張れるから……
・・・・・・・・・
翌日から俺は仕事を再開する
居ない間に溜まった仕事を片付けながら報告を聞く
パンルースの軍は俺達が都に着いた頃には既に撤退を終えていたそうだ
連れ帰った兵達は全員に暫くの休暇を与えた
家族水入らずの時間を過ごして欲しかったからだ
まあ、休暇が終わったら捕虜の時の事を聞かせてもらうがな
……その後は、軍に残るかを聞く
今回の事で兵を辞める者も出てくるだろう
死にかけた事実……それがトラウマになって戦えない者が出てくる筈だからな
俺は辞める奴は辞めて良いと思ってる
結局、死んだら終わりなのだ……残された者が悲しむだけだ……
元々、オーシャンは志願制だからな、無理強いはしないんだ
「それと……ミルム様ですが」
「……」
ミルムはアルスの死を聞いてから変わった
先ず、笑わなくなった……
そして、俺に抱きついてくる事も無くなった
……子供っぽさが無くなったと言えるのかもしれないが……
「今は村作りに没頭していますが……」
「仕事に集中して、他の事を考えないようにしてるんだな……」
……何とかしないとな……ミルムには笑っていてほしい
今だからわかる、あの明るさに……大分救われていた事に
「時間を作って話さないとな……」
やることが多いな……
・・・・・・・・
捕虜を連れ帰ってから4日が経過した
それは突然だった
「カイト様ぁぁぁぁ!!」
兵士が駆け込んできた
「どうした!」
「敵です!! 西方が攻めてきました!!」
「何!?」
捕虜を解放して終わりじゃないのかよ……
まさか攻めてくるとは……
「状況は!!」
レリスが聞く
「西方の軍は橋を越えて、付近の村を占領しました! 更に行軍を続けており、真っ直ぐにここオーシャンに向かっている様子です!」
「敵軍の戦力と進軍速度は!」
「兵は恐らく4万程かと、敵将の姿は確認できておりません!! 進軍速度は……あまり速くは無いです……村を一つ一つ占領してる様で……ここまで来るのは恐らく10日前後かと……」
「レリス、今動かせる戦力は!」
「……オーシャンの都だけで1万程です……あとはカイナスやヘイナスからも兵をかき集めれば合計で2万は集まるかと……」
前の敗戦で負傷した兵も多いからな……出払ってる奴等もいるし……短時間で2万なら寧ろ集まった方だな
「ガガルガとパストーレに伝令を送れ! 直ぐに兵を出させるんだ!」
それでも10日以上はかかるだろうな……
「……将を集めろ! それとカイナスとヘイナスにも戦いの準備をさせるように伝令を送れ!!」
俺はそう伝えながら考える
戦うならどう戦うのが良い?
犠牲が少なく済むにはどうする?
……野戦はやめておくべきか……投石器とかの兵器を準備する時間が足りない……
先ず、マトモに布陣できるかもわからん
それならやはりオーシャンの都での籠城しての防衛戦か……都で敵を釘付けにして……その間に他の都からかき集めた戦力で西方の軍を包囲して一気に蹴りをつける
他の都からの兵を合わせたら4万は確実に越えるからな
問題は、その戦力がここに来るまで耐えれるかだ……
いや、耐えるしか無いのだが……
不安……それが俺の心臓を締め付けてくる
もし敵に門を破られて突入されたら?
この都が荒らされたら……
城にまで敵が来たら……
「…………」
「カイト様?」
「直ぐに戻る」
俺は玉座の間を出る
そしてメイド達にティンクの居場所を聞きティンクの所に向かう
ティンクは屋上に居た
ルミルとテリアンヌの模擬戦を見ていた
「あ、カイトさん! 凄いですよ! ルミルちゃんもテリアンヌちゃんも強いんですよ!」
「ティンク、今すぐ荷物を纏めるんだ」
「……えっ?」
眼を丸くするティンク
「西方の連中が攻めてきた、最悪、この都が戦場になる……そうなった時の為に、ティンクはミルム達と一緒にパストーレまで避難していてくれ」
「そんな……嫌です! わたしはカイトさんと一緒に居ます!!」
何があっても側に居てくれる
その気持ちは凄く嬉しい……だけど
「頼む……ティンク、君にもしもの事があったら……俺はもう立ち直れない……だから避難していてくれ……」
俺は頭を下げる……必死なんだよ
ティンクを守るためなら何だってしてやる!!
「カイトさん……」
ティンクは悩む……そして……
「わかり……ました……」
受け入れてくれた
「ティンク、ありがとう……」
「でも、約束してください……」
「約束?」
「必ず……カイトさんが迎えに来て下さい……」
絶対に生き残れ……そういうことだな
「……ああ、必ず……ルミル、テリアンヌ、ティンクを頼む……パストーレに着いたらレムレも居る筈だから、3人で守ってくれ」
『わかりました!』
2人の返事を聞いて、俺はティンクにキスをしてから玉座の間に戻った
玉座の間にはオーシャンに居る将達が集まっていた
俺は玉座に座ってからレリスにティンクの事を伝えた
するとレリスは直ぐに兵を500人、ティンクの護衛に連れていかせるように指示を出した
そしてミルムも一緒に避難するように伝言を伝えた
その指示を出し終えてから、将達を交えての軍議を始めた
結果的に俺の案が最善だとして防衛戦の準備をする事になった
それから数時間後
ティンクとミルム達がパストーレに向けて出発したと報告を聞いた
必ず……迎えに行くからな
・・・・・・・
翌日
防衛戦の準備の確認と西方の軍の現在の状況の報告を聞くために
将の殆んどが玉座の間に集合していた
「報告の通りだと……奴等の進軍は想定よりも遅いな……」
もしかしたら西方軍がオーシャンの都に辿り着くまでには戦力が集まりきってる可能性が出てきた
希望が見えてきたな
「カイト様!」
数人の兵士が駆け込んでくる
こんな時は悪い知らせだ……
「3日前の豪雨により、ガガルガからオーシャンへの道中に土砂崩れが! オーシャンに到着するのに時間がかかると!」
ほらね!!
ちくしょう! 上手くいかないな!!
「パストーレの方では津波で港に被害が出ていたそうで……直ぐに送れる兵が少なくなるそうです!」
こっちもか!!
まあ、送れるだけマシだな!
「カイト様!」
「カイト様!」
「カイト様!」
次々と悪い報告ばかりを受ける
賊が暴れたり
野生の獣の被害が出てきたり
疫病が流行り始めた村が出たり!
悪いことが一気に来たな!?
「なんだろ……天に見放された感じがする……」
「例え天に見放されても、我々は見放しませんから」
レリスがさらりと言う
頼もしい……
「カイト様!」
報告に来た最後の1人が顔をあげる
「なんだ? ここまで来たらもう何でも来いって感じだが?」
「貴方様にお会いしたいと人が城門まで来ています!」
「悪いが今はそんな余裕は無い……帰ってもらえ」
人と会って話す余裕は無いぞ!
今来た、悪い報告の対処もしなきゃいけないんだ!
「それが、どうしても会わせて欲しいとしつこくて……もう三時間も経ってます」
「…………」
なんなんだよ
会うまで帰らない気か?
「通せ! さっさと済ませる!」
いつまでも待たれたら迷惑だ!
さっさと会って、さっさと帰らせよう!
「はっ!!」
兵士が男を呼びに行く
まだ軍議は続くから将達もこの場に残す
待つこと数分後
玉座の間の扉が開いた
兵士に案内されて、1人の男が入ってくる
遠くて顔が見えない……
男は俺の方に一礼してから歩き出す
少しずつ近付いてくる男
やっと顔が見えてきた
「………っ!?」
顔を確認して、俺は驚く
頑張って平静を装っているが……心臓がバクバク言っている
何でだ?
何でこの男がここに居る?
何で俺の前に立っている?
男は俺の前に到着すると、俺に礼をする
そして……
「……初めましてカイト・オーシャン様、わたしは『メイリー』と申します、貴方に勝利を届けるために参りました」
そう言って……俺が知ってる姿よりもかなり若い姿で
サーリスト戦記の公式チート軍師が微笑んだ