第196話 その男『ジャックス』
ジャックス……
かつては父、ベルドルト・オーシャンに仕え
幾多の戦場を駆け抜けた将
兄さんが領主となってからも暫くは仕えていたが……
レルガやボゾゾと共に、オーシャンを出ていった
・・・・・・・・・
ーーーアルス視点ーーー
「…………」
僕が眼を覚ましてから7日が経過した
身体はまだ本調子ではなく……杖を使わないと1人で動けないくらいだ
僕は部屋の窓から外……家の中庭を見る
そこにはジャックスが居た
中庭には墓があり……彼は黙祷していた
「奥さん……か……」
あれから、ジャックスが今までどうしていたのかを聞いた
オーシャンを去った後、暫く流浪人として大陸を旅していたそうだ
1年経った頃、このロスト村にたどり着いた
その時、悪運にも村は山賊に襲撃されていたそうだ
その山賊達をジャックスは1人で壊滅させた
その恩からか村の人達はジャックスに様々なお礼をした
先ずはこの家……ちょうど住む人間が居なかったからとジャックスに贈られた
次にジャックスの身の回りをお世話する人……使用人を用意した
ジャックスは使用人は必要ないと言ったそうだが……使用人の方からほぼ強引にお世話されたそうだ
そんな訳で中々村を出れなくなったジャックスはロスト村に長く滞在した
いつしか、使用人の女性と恋をして、結婚し、子供が産まれた
幸せの絶頂期だったが……その奥さんが去年、病で亡くなった
「猫ちゃ~ん♪」
「いだだだだ!?」
因みに、その子供は僕の後ろで元気にシャルスの髭を引っ張っている
4歳らしい、名前は『クラン』だ
随分とシャルスになついてるな
「アルス様、動かれてよろしいのですか?」
中庭からジャックスが戻ってきた
「杖を使えば何とか……何か動いてないと落ち着かなくてな」
「そうですか……直ぐに朝食を用意します」
「……匿ってもらってるのに……すまないな」
「いえ、これぐらい対したことありませんから」
そう言うとジャックスは料理を始める
慣れた手つきだ
「料理は妻から教わりました」
俺の視線に気付いてか、ジャックスは語る
「畑で採れた作物を、どう料理したら良いか悪戦苦闘していたら、見かねた妻に『これはこう、ここはこう』って手取り足取り教えられましてね……今では簡単な物なら作れるくらいになれました」
簡単な物って言うけど……今まで出された食事はお店に出せるくらいは美味かったのだが?
「『剣は器用に扱えるのだから、包丁も扱える筈だ』と言われた時はお互いに笑いましたよ」
そう言ってジャックスは微笑む
ジャックスが料理をしている間に、シャルスがクランを肩車しながら食器を並べる
僕も何か手伝いたかったけど……2人に止められた
まあ、マトモに動けない人間だもんね……
・・・・・・・
朝食を終えた俺達は思い思いに過ごす
ジャックスは外にある畑を耕している
クランは遊び疲れたのかシャルスにおんぶされながら寝てる
シャルスはどうしようって顔で僕を見てる
見られても困るんだけどね……
僕は右手をギュウっと握り込める
……力は大分入るようになってきた
上半身はかなり回復してきたと思う
あとは下半身かな……てか左足くらいかな……
少し鈍いと言うかなんと言うか……痛みが残ってる感じだ……
これさえなければ動けるんだけど……
「……いつまでも居るわけにいかないよな」
長く居すぎるとロンヌールの兵に見つかる可能性がある
それにジャックスへの負担も大きい
成人男性2人が増えたら、食料やらの消費も増える
今までは余裕があったかもしれないけど、今はカツカツかもしれない……
「……シャルス」
「んっ?」
「僕を抱えてオーシャンまで逃げれる自信はある?」
「んー、かなり揺れてもいいか?」
「構わない」
「それなら、自信はある……まあ、敵に見つからなかったらって話だが」
「見つかった場合は?」
「途中からはアルスに這ってでも逃げてもらうかもな、オイラが追っ手を止めてる間に」
「……そっか、なら歩けるくらいに回復してからが良さそうだな」
この調子なら……3日くらいか?
……大迷惑をかけてるな
帰ったらしっかりと礼の品を贈ろう……
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
あれから3週間が経過した
俺はティンク達と一緒にオーシャンに戻った
サルリラはユーリを迎えた後にヘイナスに戻っていった
現状だが、軍は解散して、それぞれの都に帰した、将達もな
理由は領内の混乱をさけるためだ
あまり長く軍を都から離していたら、治安が悪くなってくるからな
賊が出てきたり
それに民も不安になる
そうならない様に、帰したわけだ
しかし、全く西方を警戒してない訳じゃない
ブルムンにカイナス地方から兵を出させている
オーシャンからも兵を出している
交代で西方への警戒をしている訳だ
何か起きたら直ぐに連絡がくるようになっている
「カイト様! 西方から軍がやって来ました!!」
こんな風にな?
「攻めてきましたね」
レリスが言う
「そうだな、投石器を使って蹴散らそう……それでも攻めてきたら迎え撃つんだ!」
俺がそう言うと
「お待ち下さい! 攻めてきたわけではないみたいです!」
報告に来た兵士が叫ぶ
「……そうなのか?」
えっ? でも軍で来たんだろ?
「西方の連中は?」
「現在は橋を越えた所で野営をしています……その、武装は最低限しかしてなくて……」
「用件は聞いたのか?」
「はい、捕まえていた捕虜を帰しに来たと……」
「……なに?」
捕虜を?
何を企んでいる?
俺は考える
「…………捕虜を帰しに来たと見せかけて奇襲を仕掛けてくるとか?」
「あり得なくはないですが……」
レリスも首を傾げる
「……恩を着せに来たとか?」
「……その可能性の方が高いですね、いまだに賠償を求めてきてませんからね」
つまり、オーシャンからは西方に強く出れなくなる訳で……
また攻めれば……オーシャンは恩を仇で返すと言われてしまう
「……くっ」
取り敢えず……その西方の連中に会いに行くべきだな
「レリス、レルガを呼んでくれ、兵を連れて西方の連中に会いに行く」
「……お気をつけて」
「ああ……」
不気味だな……奴等の考えがわからない