第194話 必ず勝つなら
ーーーレムレ視点ーーー
ルミル達がティンク様と一緒にヘイナスにやって来た
「眼、真っ赤じゃない……」
「……泣いたからね」
僕とルミルはサルリラさんと一緒に……ヘルドさんの棺を置いている部屋に来ていた
部屋の奥で……サルリラさんが棺の中……ヘルドさんを見て静かに泣いている
「……ヘルドさんはまだ戻ってこれたけど……ルーツさんの遺体は回収出来なかった……」
「自爆したって聞いたよ……レーメルになんて言うべきかな」
「…………」
コン
僕が俯くと、ルミルに頭を小突かれた
「そんな風に自分を責めるの止めたら? どうしようもなかったんでしょ?」
「……それでも責めちゃうよ……もっと強かったらって……僕がもっと戦えたら結果は変わったんじゃないのかって……」
「オルベリンさんも昔言ってたでしょ、1人だけ強くても意味はないって」
「そう……だけどさぁ……」
「ああ、ここに居ましたか!」
兵士がやって来た
「?」
「レムレさん、玉座の間に来て下さい、カイト様が将を集めてます」
「カイト様が? もう大丈夫なんですか?」
「みたいですよ?」
僕は歩き始める
「私とサルリラさんは?」
「御二人はご自由にだそうです、後で報告はあると思いますよ?」
「……そう、ならサルリラさんを待つかな」
後ろでそんな会話をしているのを聞きながら、玉座の間に向かった
・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
レリスとの話し合いを終えた俺は、将だけを玉座の間に集めた
現在ヘイナスに滞在している将が集まってくる……
全員揃ったかをレリスが確認している
俺は玉座に座りながら、その様子を見ている
「……立ち直ったんで?」
ユリウスが傍にやって来た
「いや、止まらなくなっただけだ」
俺がそう答えると
「……それ、いつか潰れません?」
ユリウスが言う
「そうならない為のお前らだろ? 支えてもらうからな?」
俺が答えると
「了解♪」
ニヤリと笑って離れていった
視線を扉の方に移す
丁度レムレが入ってきたのが見えた
「カイト様、戦に参戦した将は全員揃いました……他はレルガが来てますが……サルリラ達も呼びますか?」
「いや、サルリラ達には後で伝える……サルリラにはヘルドの事で話したいこともあるし」
「畏まりました」
そう言うとレリスは定位置に立つ
俺は玉座から立ち上がる
それを合図に扉が閉まり、全ての将が黙って俺を見る
「……すー……はー……」
あぁ、緊張してきた……
先ず言うべき事は……
「皆、今回は苦労をかけた、どんな事情があれど……俺の判断が甘かった、だから……すまなかった!!」
俺は頭を下げる
領主が軽々しく頭を下げるなと怒られそうだが……
先ずは謝りたかった
戦で負けた事もだが……その後……俺が立ち止まった事の方を強く謝りたかった
『…………』
誰も何も言わない
俺を許さないのか
それとも俺が頭を下げてるから面食らってるのか……
理由はわからない
俺は頭を上げる
「もう、今回のような失態は犯さない! だから……これからもついてきてくれ!!」
俺の声が響く
…………
「ついていきますよ!! 何処までも!」
レルガが前に出てきた
「……おなじ」
ボゾゾも前に出る
「まぁ、負けることなんてよくある事だし、これくらいで見限りはしないかな、ヒヒヒ」
ブルムンが笑う
「元々、拾われた命だ、最後まで使いきってもらわないと困る」
バルセが言う
「支えて欲しいんでしょ?」
ユリウスが言う
「ぼ、僕も死ぬまで従いますから!!」
レムレが言う
……俺からしたら死なないでほしいんだが
俺も、自分も……
次々と将達が意思を示してくれる
……俺への忠誠からの者
……俺への恩からの者
……周りに同調してるだけの者も居るだろう
誰がどう思ってるかはわからないが……
全員が取り敢えず着いてくると行ってくれた
「……ありがとう」
俺は礼を行ってからレリスから紙を受け取る
「皆の決意を聞いた後で、次の話に移ろうと思う……今回の戦で……ルーツとヘルド……アルスを失った、ルーツはマール、ヘルドにはヘイナスを任せていたが……後任を発表したいと思う……まあ予想できてると思うが、マールはメビルトに任せる 」
元々マールマール所属だったメビルトだ
彼なら何の心配もなく守ってくれるだろう
「次にヘイナスだが……これは……まぁ、なんだ……本人の意思を確認してから発表したいと思う」
この場には居ないからな
俺とレリスはサルリラに任せたいのだが……ヘルドを失った今……彼女がやってくれるだろうか……
最悪退職されるんじゃないかと不安が……
辞めなくても拒否されたら……
その時はレルガに任せるかな……
サルリラには他の役職を与えて……不自由のない暮らしをしてもらおう
「そして次に西方との件だが……」
「再び攻めるんですね!! 弔い合戦だ!!」
レルガが気合いを込めて言う
「……いや、停戦する」
『!?』
一部の将が驚く
ブルムンとかは『だろうな』って顔だ
「元々ヤークレンへの援軍として参戦した戦だ……今攻める必要はない……勿論、敵討ちを諦めた訳ではない! だが……今攻めても再び負ける……俺はそう確信している」
情報も根回しも何も出来てないんだ
しっかりと準備しないとな
「それでは、これからどうするのですか?」
レムレが聞いてくる
「先ずは領内の混乱を静める、次に内政を整える」
暫くは大人しくしていよう
……またメルセデスとかが援軍を求めてきても……拒否する
今度は俺がしっかりと強く拒否する……実際に今は戦えないしな
……それでヤークレンとの同盟が切れたら……その時は……その時だな
「俺達が動くのは……ベススから連絡が来たときだ!」
俺はベススから南方の統一をする為の援軍を頼まれてる事を説明する
「ベススが南方を統一したら……西方を攻める時だ! オーシャンとベススの同盟軍で……西方同盟を潰す!!」
同盟には同盟だ
ベススはヤークレンと違って信頼できるからな
「そんな訳で……時間はかかるが……必ず勝つために動きたいと思う! ……異議はあるか?」
『…………』
誰もなにも言わない
なら賛成って事でいいよな?
・・・・・・・・・・
話は終わった
将達は解散
少ししてから俺も玉座の間を出る
因みにレリスは西方に密偵を放った
シャルスとゲルドの捜索の為だ……捕まったって報告はないから……西方の何処かに潜伏してる可能性が高い
「…………アルス」
絶対に仇をとる……
「カイト様」
廊下に出たら声を掛けられた
声の方を見ると……
「サルリラ……」
サルリラが居た
隣にはルミルが立っている
「……その……すまな」
「謝らないでほしいっす」
「っ!」
サルリラは冷静に言うが……声から怒りを感じる
サルリラが満足するまで殴られるのは覚悟しているが……
殺されたりはしないよな?
「あっしも旦那も……いつかはこうなるかもっと覚悟はしてたっす……だから……あっしはカイト様を責めないし、カイト様も謝らないでほしいっす」
責めないが……何も思わないわけではない……よな
「わかった……サルリラ」
「ヘイナスの事なら任されたっす……明日にはオーシャンにユーリを迎えに行くっす」
「…………」
「カイト様、2つ、約束してほしいっす」
「……なんだ?」
「旦那の死を無駄にしないでほしいっす」
当たり前だ……もう退けないし、止まらない
「もうひとつは?」
「旦那を殺した敵将……そいつはあっしに殺させてほしいっす」
「……わかった、いつになるかわからないが……西方と戦う時は一緒に来てもらう……カルストの相手は任せた」
「カルスト……そいつが旦那の仇……」
サルリラの右手の握り拳から血が垂れる
「…………」
サルリラは後ろを向いて歩き出した
ルミルも俺に一礼してからサルリラについていった
「…………」
俺も……そろそろ休もう……
明日からは……忙しくなるからな