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第192話 戦後の状況

 ーーーレリス視点ーーー



「……もう一度言ってもらっても良いですか?」


 深夜、私はいつも通り書類を片付けて居たら……伝令の兵が駆け込んで来て報告してきた


「西方での戦にてカイト様が敗走しました! ルーツ様とヘルド様が戦死! アルス様とシャルス隊長、ゲルド様が行方不明です!」


「…………カイト様は?」


 私は椅子から立ち上がる


「……ヘイナスにて休まれてると聞いています……」


「……きみ、戻ってきて直ぐで悪いけど、他の兵を集めてくれるかい? 50人くらい……それと馬車の用意を! これからヘイナスに向かいます!」


 カイト様の様子を確認しないと……

 ルーツとヘルドが死んだ?

 アルス様は行方不明で……


 だめだ、頭が混乱してきた……落ち着かなくては……


「レリス様? 大丈夫ですか!?」


 気が付けば涙を流していた……


「……私の事は気にせずに……早く準備をしてください」

「は、はい!!」


 ……ティンク様やミルム様に伝えるべきか?

 すぐにわかると思うが……今伝えても不安にさせるだけか?


「……とにかく、準備しますか」


 文官達を集めて……私が暫く留守にする事

 何かあったら伝令をヘイナスに送ること

 優先して処理するべきことを伝えておく


 それと……


「レリス!」


 ちょうどいいタイミングでレルガがやって来た


「レルガ、報告は聞いていますか?」

「ああ、今から行くんだろ? 俺も一緒に行こう」

「いえ、貴方は残ってください」

「なに? 何故だ?」

「敗戦の話がすぐに広まるでしょう……領内が乱れる可能性があります、その時の対処を任せたいので……それとティンク様達の護衛をお願いします……ルミルとテリアンヌだけでは不安ですので」

「……わかった……任されていいんだな?」

「? 頼みますよ」


 なんか含みがあるように感じましたが……

 いえ、今はそれよりもカイト様の事だ


 私はヤンユにカイト様の事を伝える

 そしてメイド達に伝えてもいいが、ティンク様達にはまだ伝えないように頼む


「……伝えなくていいのかしら?」

「今は不安にさせるだけだろ……カイト様と一緒に帰ってくるから、その時に伝えればいい……あ、それと……この紙を」

「これは?」

「ルーツに頼まれていた兵達の遺族への支援……その紙に書いてる通りにしてくれたら話が進むようになってるから」

「わかったわ……レリス」

「んっ?」

「気を付けて、ちゃんと帰ってくるのよ?」

「……わかってる」



 私は外に出て馬車に乗る


「朝にはヘイナスに着くか?」


 走り出す馬車


「…………」


 ルーツとヘルドが死んだ……


「カイト様……気に病んでいたりしないだろうか……」


 オルベリンの件からやっと立ち直ったっていうのに……続けてあの2人を失ったのは辛い……


「……馬鹿な事をしなければいいが」


 自殺とか……

 カイト様の命はカイト様だけのものではないのだから……

 どんなに辛くても、生きててほしい



「…………」


 少し休みますかね……寝て、起きたら……頭も少しは覚めるでしょう


 ・・・・・・・・・


 ーーーユリウス視点ーーー



「大丈夫なのか?」


 ヘイナス城の応接室で休んでいた僕に父上が聞いてくる


「骨にヒビが入っただけだろうって言われたよ……2ヶ月は安静にしてたら大丈夫らしいよ?」


 僕は答える


 ティールの怪我も治療が終わった

 全治1ヶ月だと……


「はぁ……僕よりもアルス達が心配だ、探しに行きたいけど……」

「流石に許可は出せんぞ?」

「だよね……」


 まあ父上達が密偵を放って探させてるから報告を待つか……


「それよりもカイト様は……あれ大丈夫なの?」


 橋から戻ってきたカイト様は……ヘルドの頭を抱えて、ボーとしていた……

 ボーとしていたっていうか……上の空っていうか……

 目の焦点が合ってない感じで……あれ精神崩壊とかしてないよね?


「大きなショックを受ければ、ああなる事もある……」


 父上も経験済みみたいな言い方だなぁ


「今は回復を待つしかあるまい」

「西方の連中を警戒しながらね」


 今は父上とブルムンが軍の指揮をとっている

 ここヘイナスとマールにそれぞれ軍を待機させてね


「あ、都の管理はどうなるの?」


 ヘルドとルーツの2人が任されてたよね?


「ふむ、ヘイナスは恐らくサルリラ殿が任されるだろう……マールはメビルト殿が適任だろうな」


 ならそこらへんの心配はしなくていいのか……


「…………」


「お、レムレ、起きたか?」


 レムレがやって来た

 レムレもカイト様が戻ってきて、ヘルドが死んだことを知った後は暫く泣いていた

 そして泣きつかれて眠ってた


「今……何時? 状況は?」


 レムレはふらつきながら椅子に座る


「今は5時、状況は簡単に言うと待機状態……カイト様は部屋で休んでる」

「……そう」


 ……暗い

 そりゃあ、負けたし仲間が死んだんだから暗くなるのはわかるが……


「レムレ、落ち込んでても何も変わらないぞ?」

「……なんだよ……そんな言い方ないだろ……」


 弱々しいが、怒ったのか僕を睨む


「ルーツもヘルドも死んだ、それだけの事だろ」

「っ!!」


 レムレが僕の襟元を掴む


「ユリウスは何も思わないのか!! 仲間が死んだんだよ!!」


 そして怒鳴る

 ……レムレ、それを僕に言うのか?


「仲間なら大勢死んでる!! 何度も経験してきた事だ!!」

「うわっ!」


 レムレの手を捻って離させる

 そして肩を掴んで椅子に無理矢理座らせる


「レムレ知ってるか? 僕の仲間の多くは昔オルベリンに殺されたんだぞ? カイナスとの戦の時にな?」

「っ!」

「死んだ仲間の中には僕の世話をしてくれた奴も居たんだぞ?」

「……なら何で?」


 何でって?

 それはオルベリンを恨んでないのかって質問か?

 それとも、仲間の死を聞いても平然としてる事への質問か?


「こんな世の中だって理解してるからだ! 誰がいつ死ぬかわからない時代なんだよ! そりゃあ仲間が死なない方が良いさ! だから死んだってわかるまでは僕だって必死になるよ? でも死んだってわかったならそれまでだ!」


 僕はレムレの肩から手を離す


「死んだ人間の事を引きずるな! 生きてる人間の事を考えろ!!」

「!!」


 苦な事を言ってるのはわかってる

 だけどな、僕達はいちいち悲しんでる暇は無いんだよ


 数時間くらい泣いたら……切り替えていくしかないんだよ……


「……僕には……まだ無理だよ……」

「なら今日まで泣いてろ、んで明日から切り替えろ……仲間が死ぬなんてな、これからもあるんだから……」

「…………」



 喧嘩する僕とレムレを……父上は見守っていた



 ・・・・・・・・・



 ーーーレリス視点ーーー


 朝日が昇る頃


 私はヘイナスに到着した


 朝早くだからか人が少ない

 それなのに人が少ない理由は、敗戦の影響だと感じてしまうのは気が滅入ってるからだろうな……


 懐かしいヘイナス城に到着する


 ヒュ!

 ドスッ!!

 ヒュ!

 ドスッ!!


 そんな音が聞こえてくる


「なんだ?」


 音がする方に向かう……中庭か?


「…………っ!」


 そこにはレムレが居た

 一心不乱に弓矢を放っている

 他の事を考えないようにしてるように見えた……


 ……今はそっとしておこう


 私は道を戻り、ヘイナス城に入る


「誰か、誰か居るか?」


 入って早々、人を呼ぶ


「レリス様、お久しぶりです」


 メイドが駆けつけてきた

 昔からヘイナス城に居るメイドだ


「ああ、久しぶりだな……カイト様や他の者は?」

「カイト様は自室で休まれています……他の方もそれぞれ与えられた部屋で休んでる筈です」

「そうか……」


 私はカイト様の部屋に向かう

 ……普通に休まれてるなら良いが……塞ぎこんでるなら何とかしないといけない


「……しかし、何と言うべきか……」


 元気を出せと?

 ルーツやヘルドを失ったあの方に?

 それは酷だろう……


 なら、仇を討てと?

 ……憎しみが前に進む為のきっかけになるならいいが……今のオーシャンの状況だと西方に挑んでもまた負けるだろう


 何も言わずに無理矢理オーシャンまで連れて帰るか?

 ……論外だな……あの方がやる気を出さないと意味がない


「こんな時にどうにかするのが、私の役目なのだがな……」


 いい考えが浮かばない……

 そうしてる間にカイト様の部屋の前にたどり着いた……


「……ふぅ」


 先ずはカイト様の様子を確認するのが先だな


 コンコン


 ドアをノックする


「カイト様、レリスです! 起きられてますか?」


 いつもなら起きてる時間だが……


『…………』


 無反応……


 コンコン!


「カイト様!」


『…………』


 ……まだ寝てるのだろうか?

 それなら少し待つべきか……いや、ここは厳しくするべきだ!


 ドンドン!!


「カイト様!! いつまで塞ぎこんでるんですか!! 貴方が今やるべき事はこんな事ですか!!」


『…………』


 …………無視してるのか寝てるのか

 ……埒があかない、もう入ろう


「カイト様、失礼します!!」


 ガチャ!

 扉を開けて中に入る


 そしてベッドに近付くが……


「……いない?」


 ベッドにカイト様は居なかった

 部屋中を見回すがカイト様の姿は無い

 念のためのタンス等の中も確認する……隠れてるとかでは無いか


 ……つまり……えっ?


 カイト様が居なくなった?


「っ!!!!」


 私は部屋を飛び出す

 そしてメイドや兵士達に声を掛ける


「カイト様が見当たらない!! 捜すのを手伝ってくれ!! 他の者にも伝えてくれ!!」


 会う度に伝えて人手を増やしながら捜す


 城の中、街の中


 しかしカイト様は見当たらない……


「レリスさん!!」

「レムレ!」


 レムレが駆けつけてきた、ちょうどいい


「カイト様が居なくなられたそうですけど!?」

「ああ! レムレ! 屋上から君の眼で探してくれ!!」

「わかりました!!」


 レムレは屋上に向かう


 他の将達も起きたようでカイト様を捜す


 最終的には小隊を編成して都の外を捜した


 それでもカイト様は見つからなかった……


「カイト様はいまだに見つかりません!!」


 夕方……私は報告を聞きながら廊下を歩く


「……くっ!」


 最悪の展開を考えてしまう



 何者かに拐われた?

 もしくは……自決……


「……!!」


 ああっくそ!! どうしたらいいんだ!!


「……んっ?」


 玉座の間の前に着く……そう言えば私はここを調べてなかったな


「ここも調べたよね?」

「……いえ、自分は調べてませんが……誰かが調べたのでは?」

「…………」


 まさか誰も調べてない?

 そんな事は流石に無いよな……


 念のため見てみるかな……


 私は玉座の間に入る


「…………」


 そんな事があった……

 カイト様が居た

 玉座に座っていた


「……皆にカイト様が見つかった事を伝えてください……それと玉座の間に近付かないように伝えてください」

「はっ!!」


 扉を閉める

 そしてカイト様の目の前に立つ


「ずっとここに()られたのですか?」


 そう声を掛ける


「…………あぁ」


 弱々しいが返事が返ってくる


 カイト様の隣に立つ


「……懐かしいですね」


 ここに立って仕事をしていた……


「そうだな……でも……もうアイツらは居ないんだよな……」


 カイト様が顔を上げた

 眠れてないのか隈が酷い


「オルベリンも……ルーツも……ヘルドも……ここには……居ないんだ……」


「…………」


 何も言えなかった……

 カイト様が予想よりもずっと弱っていて……何を言えば良いのかわからない

 私では彼を立ち上がらせるのは無理だと感じてしまった……

 いや、負けるな……ここで怯んだら駄目だ!


「確かに彼等を失いました……しかし、もう彼等だけしか居ないオーシャンではありません……貴方には多くの人が着いてきているんですよ? ここで立ち止まる気ですか?」

「……わかってる、こんな事をしてる場合じゃないのはわかってる……でも……どうしようもないんだ……レリス、寝ようとしたらルーツとヘルドが死ぬ瞬間を思い出すんだ……何度も何度も何度も……」


 涙を流すカイト様


「その後に色んな奴等が出てくるんだ……『俺を死なせたのはお前だ』……全員がそう言ってきて……眠れない」

「それは落ち込んでるからです、ルーツもヘルドも貴方を責める事はしません」

「ああ、わかってる……わかってるんだ……」


 限界が近いように思える……どうにかしないと……カイト様の心が折れてしまう


「失礼します!!」


 バン!

 そんな音を立てて兵士が駆け込んできた


「誰も近寄るなと言った筈だが?」


 私は兵士を睨む


「申し訳ありません! しかし緊急の報告でして……」

「……何ですか?」


 私は失敗した

 ここで聞くのではなく……玉座の間の外でコッソリと聞くべきだった


「アルス様が……アルス様の死体が発見されたそうです!!」

「!?」


 ポキッ

 そんな音が聞こえた気がした


「…………そうか……そうか」

「カイト様! 気を確かに!! カイト様!」

「レリス……」



 カイト様は私を見る

 その眼に……光は無かった


「1人に……してくれ……」


 何も言えなかった……

 もう、どうすることも出来なかった


「……っ!!」


 私は……黙って玉座の間を出る


「レリス様」

「全員を外に集めて下さい」

「……はい?」

「カイト様がああなった今、私達がオーシャンを守るしかありません、西方が攻めてくるかもしれませんからね、軍を再編します」


 もう敗戦を隠すのも無理だ

 治安が悪化する可能性もある

 今は対策をして時間を稼ぐしかない


「……待つ事しか出来ないのが悔しいな」


 カイト様が復活するのを信じて待つしかない……

 もう……それしか出来なかった




 ・・・・・・・・・


 シルテン


 戦を終えた領主達が集まって報告を聞いていた



「戦には勝った筈なのに……被害はこっちの方が多いっと」



 パルシットが呟く

 そして砂糖とミルクがたっぷり入った珈琲を飲みながら……睨む


「それを聞いて……もう一回言ってみなよ?」


「ええ、何度でも言いましょう、オーシャンの捕虜を解放するべきです」


 そう答えのは『シャンクル』

 バルバルバの前軍師であり、現軍師の『シャリオン』の父である


「捕虜の人数を勘違いしてない? カルスト!」

「捕虜は全てを合わせますと約7,000となっています」


 カルストが答える


「1人や2人じゃないんだよ? それを解放しろと? 意味なく?」

「意味ならあります、恩を売るのです」

「はぁ?」


 シャンクルはパルシットを見ながら答えていく


「今回捕らえた者達は全員ただの兵士です、ハッキリ言って人質としての価値はありません」

「7,000も居たら使えるんじゃないの? 人質が無理なら労働力として死ぬまで使えばいい」

「そうした場合、民がどう思われますかな? 『我等の主は人を人とも思わない』っと思われるのでは?」

「勝手に思わせれば良いんじゃないの?」

「パルシット殿、そう言った不満が後々大きな災いとなるのです」

「……」


 パルシットは納得していない

 しかし、それと同時に疑問に思う

 何故他の領主は黙っているのか……それが不思議だった


 他の領主は知っているのだ……シャンクルがどれ程優秀な軍師か

 彼の言った事は毎回その通りになっていた


「しかし、捕虜を解放すれば、オーシャンに借りを作れます、それに民も皆様を慈悲深いと感じるでしょう……それは必ず後の助けになります」

「……だけど」

「それに、捕虜を維持していると食料や税の消費がばかにならないのでは?」

「…………」


 パルシット的にはこっちの方が納得できる理由だった

 確かにいくら使い捨てると言っても……最低限の食料は与えなくてはいけない

 それに牢等の維持も金がかかる……それなら借りを作った方が何か有った時にオーシャンから支援を受けれる……


「……最初っからそう言いなよ」

「ではパルシット様も納得されましたね?」

「はいはい、良いから良いから」

「では捕虜は解放するという事で動きます」


 次の議題にいこうとした時


「失礼します」


 兵士が入ってくる

 鎧からシルテンの兵士だと理解して、他の領主は兵士から目を離す


「どうしたの?」


 パルシットが兵士を近くに来させる


「は、カルスト様に報告が……」

「なんだ? ここで言ってくれても構わない」


 カルストが答える


「アルス・オーシャンの死体が見つかりました」

「……それは確かか?」

「……それが……その、見つかった死体は落下の衝撃で潰れていまして……更に野犬に食べられたのか損傷が酷く……顔が完全に崩れていました」

「……それを何故アルス・オーシャンだと?」

「着ている鎧と体格……それと傍に有った馬の死骸がアルス・オーシャンの馬だとわかりましたので……」

「馬ごと落ちたアルス・オーシャンで間違いないと」

「はい!」

「……そうか、死体は?」

「森から出して砦の方に移しました」

「後で確認に向かおう」

「はっ! それでは失礼します!」



 兵士が部屋を出る


「……アルス・オーシャンは死んだかぁ、捕らえて人質にする計画はオジャンだね」


 パルシットがそう言って会議を再開したのだった












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