第189話 『彼』の覚悟
ーーーカイト視点ーーー
どれだけ時間が経った?
ずっと走った……休む間もなく走り続けた
休もうとしたら敵軍に襲撃された
その度にヘルドが道を作り、レムレが敵を射ぬいた
だが、味方の兵は少しずつ減っていった
倒れる者
捕まる者
追い付けずに置いていかれた者
「っ!!」
俺の心臓が締め付けられる
息苦しくなる
皆は俺を逃がすために戦って……死んでいく
「くそ……くそっ!!」
何故俺はもっと立ち向かわなかった?
メルセデスが来たときに今回の援軍を断っていれば……
バルドナの裏切りにもっと早く気付いていれば!
もっと戦力を連れて来ていれば!
色んな後悔が頭に浮かぶ
もっと俺がしっかりしていれば……
兵達を失わなかった……
ルーツを死なせる事はなかった!!
「くそっ!!」
・・・・・・・・・・
ーーーヘルド視点ーーー
後ろで悔しそうにしているカイト様の声が聞こえた
「…………」
カイト様からしたら久し振りの敗戦……
ヘイナスでナルールを撃退した『あの戦』からは勝ち続けていたからな……
やはり堪えるんだろうな……
ルーツを失ったのも辛い……
更にここ数日の敵襲……
体力も限界だろうな……
どうにかしたいが……俺には何も浮かばない
それにカイト様だけじゃない……
「…………」
さっきから周りを警戒しているレムレ
俯いて何か考えているガイルク
疲労の色が見える生き残っている兵達
限界が近い……
だが、もう少しで国境を繋ぐ橋にたどり着く
橋を渡ればもうすぐだ
オーシャンに残したバルセ達防衛軍と合流できる
そうすれば一先ずは安心だ……
皆を休ませる事が出来る
更に援軍として他の連中の救援にも行ける
そうしたら、また立て直せる!
また戦える!
「皆! もうすぐだ!! もう少しで橋だ!!」
俺は全員を鼓舞する
……………………
夕方になる頃……
遂に橋が見えた
「橋だ!! もう少しでオーシャンだぞ!!」
『おおおおおおお!!』
橋が見えた事で、兵達も希望が見えたのか士気が上がってきた
「ヘルドさん!!」
「!?」
レムレが叫ぶ
「ダメです! 橋の前に敵軍が!! 待ち伏せされてます!!」
「なに!?」
俺にはまだ見えないが……レムレの眼には敵軍が見えるのか!
アイツの眼は凄まじいからな……
「数は!」
「200人くらいかと!」
「200……俺達は何人くらいだ?」
「30くらいです!!」
そこまで減っていたか!!
「レムレ! ガイルク! カイト様を必ず護れ!! 俺が先行して奴等を蹴散らす!!」
「えっ!? だ、大丈夫なんですか!?」
「俺を誰だと思ってる!! 見せてやるよ! 先代から仕え続けてる将の力をな!!」
俺は速度を上げる
馬! もってくれよ!!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「来たぞ! オーシャン軍だ!!」
「射て! 射てぇぇぇぇ!!」
敵軍が矢を放ってくる
俺は矢を槍で叩き落とす
そして近付いて敵軍の鎧を確認する
「ロンヌールの軍か!!」
先回りしていたのか!
俺はロンヌール軍に突撃し、近くの兵の喉を槍で斬る
ドスッ!
「ぐぶ!?」
更に1人の兵を突き刺して……
「うぉぉぉぉぉ!!」
力任せに他の兵にぶつける
バキィ!
「ぐぎやぁ!?」
まだだ!
まだ殺す!
「ぬぉぉぉぉ!!」
近づいてきた兵の頭を槍で殴る
兜を凹ませて兵が倒れる
「ひぃ!」
周りの奴等が怯む
その隙に目の前の兵士を突き殺す
「どうしたぁ! 死にたがりども!! かかってこい!!」
俺は叫ぶ
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「あっという間に何人も殺されたぁ!!」
「勝てるわけねぇ!!」
敵兵が逃げ出す
「逃げるか雑魚ども!!」
俺は逃げようとした近くの兵を突き殺す
そして殺した兵士を槍を振り回して吹っ飛ばす
吹っ飛ばされた兵の死体が逃げている兵士の1人に当たり、倒れさせた
そして完全にロンヌールの奴等は逃げていった
「なんだ? 敵将は居なかったのか?」
200人の兵を指揮してた奴が居ると思っていたんだが……んっ?
「あ、こいつか……」
俺が最初に殺した奴……よく見たら鎧が他の兵よりも立派だ……こいつが敵将だったか……
「ヘルドさん! 無事ですか!」
レムレ達が追い付いてきた
「ああ、俺は無事だ……カイト様は?」
「無傷です! 敵はこっちには来ませんでした!」
「そうか……んっ?」
俺は後方……俺達が走ってきた方を見る……
遠いが旗みたいなのが見える様な……
「レムレ、後ろの軍が見えるか?」
「えっ? …………っ!! あの旗は……確かサタヌルスの軍です!!」
「追っ手か……さっさとオーシャン領に……」
ここでふと思った……
このまま逃げて良いのだろうかと?
カイト様は逃げるべきだ……
だが、俺も逃げたら……この橋はサタヌルス軍に占領されてしまう……
そうなったら他の連中はどうなる?
俺達みたいに突破できるのか?
…………
「レムレ、カイト様を連れて先に行け……」
「えっ? ……ええっ!?」
レムレが驚く
「ヘルドさんはどうするんですか!?」
「俺はここを守る、他の連中の帰り道を残しておかないとな!」
俺がそう言うと……
「ヘルド! 無茶を言うな!!」
カイト様が俺を見た……
「お前が残るなら俺も……」
またこの人は……
「カイト様、貴方は逃げるべきだ……ルーツも兵達も貴方を逃がすために死んだんですよ? それを無駄にするつもりで?」
「……っ!!」
酷な事を言ったとは思う……だが事実だ
「それに、俺も何も考えずに言ってるわけではありません、カイト様達がオーシャンに帰って、直ぐにレルガとかを寄越してくれば良いんです、そうすれば他の連中も無事に帰れるでしょう?」
「それは……そうだが……でも……」
バン!!
俺はカイト様の横に移動して、背中を叩く
「俺に任せてください、絶対に皆を帰してみせますから!!」
「………………」
カイト様は悩む……そして……
「わかった……直ぐに援軍を連れてくる!! だから……死なないでくれよ?」
「ええ!」
カイト様は馬を走らせる
兵士達が着いていく
レムレも走る
「…………」
「なんだガイルク? 行かないのか?」
「なんで嘘をついた?」
「……あっ?」
「お前……死ぬつもりだろ?」
……勘の良い奴だな
「死ぬつもり……ってのは違うな、死ぬ覚悟が出来てるだけだ」
「どう違う!」
「生きるのを諦めてないって事だ!」
「でも死ぬんだろうが! アイツの為に!」
「ガイルク! いつかお前もわかると思うぜ! カイト様の為なら、死ぬことも怖くないって気持ちがな!」
「……わかりたくないな」
「そうか! さっさと行け!!」
「…………」
ガイルクは馬を走らせた
「さてと…………」
俺は目の前を見る
あと数分でサタヌルス軍がここまで来るって距離だな……
数は……数百ってところか?
こっちは……
「お前ら良いのか? 一緒に行かなくて」
「将軍と共に!」
「俺達だって護りたいんです!!」
俺と8人の兵士……
「そうか、なら少し下がれ! 橋の上で戦うぞ!!」
数は圧倒的に不利
少しでも狭い橋の上で戦って、一斉に来られたり、包囲されたりするのを防がないとな……
「さぁ、来いよ……オルベリンだけがオーシャンじゃないって……教えてやるよ!!」