第188話 カイナス最強の将
ーーーマリアット視点ーーー
「ふん!」
「せぃ!!」
私とグラドスでシルテンの兵達を蹴散らす
「おらおらぁ!! 私の棍棒の餌食になりたいのはどいつだい!!」
「マリアットはん、張り切ってまんな……」
当たり前だ!
今は士気を下げないためにも、私達が敵を倒さないといけない
「グラドス! ブルムンは!?」
アイツは戦いは苦手だからね……周りを兵で固めておかないと!
「あきまへん! どこにも姿がありまへんねん!!」
「完全にはぐれちまったかい……なら敵軍を引っ掻き回しながら探すとするかね!!」
「自殺行為でっせ!?」
「アイツを見捨てるよりはマシだろ?」
アイツの娘のキュリスちゃんに恨まれたくないからねぇ!
「まぁ……せやけど……でも無策に突っ込むのは馬鹿のやることでっせ? 兵もこっちの方が少ないんやし」
「んじゃあ、どうするんだい?」
「先ずは全軍を後退させるんや、見てみ、後退すれば坂を登ることになる、ワテらの方が高さで優位に立てる、それで兵達に矢を射たせて敵を怯ませる、矢が尽きそうになったら突っ込む! これや!」
「危なっかしい気もするけど……やるか!!」
私は策とかわからないからね!
任せたよ!!
「ほなら……全軍後退!! さがるんや!!」
グラドスの指示を聞いた兵達が後退を始める
皆が敵を振りきりながら坂をかけ上がる
殆んどの兵が登ってきたのを確認して
「今や! 矢を射つんや!! 味方には当てないように気を付けるんやで!!」
グラドスの掛け声で兵達が矢を射ち始める
シルテンの兵達が追うのを中断して
盾を構えて矢を防ぐ
「おいおい、全く刺さらないじゃないか!」
私は叫ぶ
「まあ矢の対策はしてるでっしゃろうなぁ……でも、乱された兵達は集まったやろ?」
「…………」
言われてみれば……散り散りになっていた兵達が集まってきていた
指示が聞こえなかった兵も、坂を登る私達を見つけて合流してきた
「マリアットはん! ブルムンはんは見つかりまっか?」
「いや、見つからない! 捕まったかねぇ!」
もしくは……考えたくないが討ち死にしたか?
「マリアット様! グラドス様!」
1人の兵士が大声を出して指を指す
私とグラドスは指の先を見る……
「居た! ブルムン!!」
「アカン! 追い詰められとる!! 全軍! ブルムンの救出に行くで!! このまま突撃やぁぁぁぁ!! 乱戦の覚悟を決めるんやでぇぇぇ!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』
私達はブルムンの居る方向に突撃を開始した
・・・・・・・・
ーーーブルムン視点ーーー
「くっ!!」
駄目だ! 引き離せない!!
「待てやぁぁぁぁぁ!!」
「ヒヒッ! しつこいねぇ!!」
シルテンの将と数十人の兵が追いかけてくる
こっちは乱戦ではぐれて1人だってのに!!
「自分は戦闘は不向きだってのに……嫌になる!!」
だから前線はあまり出たくないんだ!!
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「!?」
なんだ!?
敵の増援か!?
声のした方を見ると……
「お、マリアット達が来てくれてるか! ヒヒッ! まだ命運は尽きてないか!!」
問題は自分が向かう方向とマリアット達が居る場所が反対だって事だ!
合流するには追っ手の横を通り抜けないと厳しい!
振り切るのもキツいのに!
「どうしたもんかねぇ……うぉ!?」
カン!
シルテンの兵達が矢を射ってきた!?
兜に当たった!
「待てやぁぁぁぁ!!」
「待たないぃぃぃ!!」
待つ馬鹿がいるわけない!
ドスッ!
「ヒヒーン!!」
「うぉ!? ぐぁ!!」
矢が馬に当たったのか馬が転ける
自分はぶっ飛んで地面に叩きつけられる
「ぐぅ!」
痛がってる暇は無い!
直ぐに立ち上がらないと……
「追い付いたぜぇ……」
「ヒヒ……」
シルテンの将が自分の目の前に槍を突きつけてきた……
絶体絶命……マリアット達は?
「……あー、これは終わったな……」
まだ遠い……絶対に間に合わない
自分が戦うのもアリだが……剣を抜く前に槍で突かれて死ぬな……
降伏するかねぇ? 死ぬのは嫌だしなぁ……でもなぁ……裏切ることになるしなぁ……
キュリス達に顔向け出来ない事は……したくないかなぁ
「動くなよ? 動いたら殺す」
「どうせ殺すんだろ? なら戦うさ!!」
後ろに跳ぶ
敵将の槍が突いてくる……
ドスッ!
「ぐっ!」
左肩を貫かれた……でも、即死は免れた!!
自分は剣を抜く
「ヒヒッ! たまには運動するかね!!」
「はっ! この『サンク』様を嘗めるなよ!!」
敵将サンクが槍で突いてくる
自分は剣で槍を防ぐが……
キィン!!
「あっ!?」
あっさりと剣を弾き飛ばされた……慣れないことをするもんじゃないね!!
「死ねやぁぁぁ!!」
「っっっっっ!!」
あ、死んだ……
無駄な抵抗だと思うが、腕で顔と首を塞ぐ
ザシュ!
ドサッ!
……………
…………?
今、刺す音したよな?
あと倒れる音……ん? 自分は何もされてないぞ?
腕を退けて前を見ると……
「なんか知らんが敵将だよな? 敵将、このモルスが討ち取ったぁぁぁぁぁぁ!!」
「…………ヒヒッ! あんた最高だ!!」
救援に来てくれたのかモルスがサンクを討ち取っていた
地面にある馬の足跡を見ると……自分の後ろから来てたのか……気づかなかった……
「おらブルムン! 俺の後ろに乗れ!」
自分はモルスの馬に跨がる
「よし! あとはマリアット達の所に行くか!! おらぁぁぁぁ!! どけどけ!! 死にたい奴だけ掛かってこい!!」
モルスが馬を走らせる
止めようとするシルテンの兵を剣で斬り捨てる
いやー頼もしい!!
直ぐにマリアット達と合流できた
「モルス! あんたどうしたんだい!?」
マリアットがモルスに聞く
「義兄者の頼みでな! 助けに来た!!」
ゲルド! 感謝!! 帰ったら酒でも奢ろう!!
「よし! 誰かブルムンを馬に乗せてやってくれ!」
自分は兵の1人の馬に相乗りする
「よっしゃぁぁ!! 皆行くぞ!! 道は俺が斬り開く!!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
全軍が一気に駆け出す
モルスが有言実行して目の前にやってくる敵兵をドンドン斬り捨てる
「貴様ら! 止まれ!! この『マイクラス』が!」
「邪魔だ!」
「ぐぁぁぁぁぁ!!?」
「お前らの足掻きもここまでだ! 『ユルーズ』参る!」
「喧しい!!」
「がはっ!?」
「待て! ここは……」
「うるせえ!!」
「せめて名乗らせ……ぎゃぁぁぁぁ!!」
あっという間3人の敵将を斬り捨てた……討ち取れたかは確認してないが……
ヒヒッ! 本当に頼もしい!
ゲルドがカイナスで最高の将なら……モルスはカイナス最強の将だな!!
こうして、自分達は戦場を離脱することが出来た
・・・・・・・・・・
ーーーアルス視点ーーー
「シャルス! 追い付けてるか!?」
「大丈夫! だけど兵達からは完全にはぐれた!」
僕とシャルスは森の中を走っていた
僕の馬は限界が近いのが足並みが乱れてきた
「……仕方ない、この森に隠れて兵達を待とう……近くに来たら合流して……」
「オイラの鼻と耳で見つける訳だな!」
「うん、頼りにしてるよ……」
馬も少しは休ませないとね……
…………ゾクッ!
『!?』
僕とシャルスが同時に震えた……
「アルス・オーシャンだな?」
その声が森の奥から聞こえた……
「……だ、誰だ!!」
僕は声の主に向かって叫ぶ
「我が名は『カルスト』! シルテンの将!」
「シルテンの将がここまで来たのか!?」
ブルムン達の軍と交戦してるって聞いたが!?
「いや、私は最初からここに居た……全ては策の通りだ」
「なに!?」
つまり……僕がここに来るのがわかっていたって言うの!?
「……アルス」
「シャルス?」
僕はシャルスを見る……シャルスは青ざめていた
「逃げるぞ……オイラ達じゃ勝てない……」
「何言ってるんだ? 僕とお前なら……」
「今のオイラ達じゃ束になっても勝てない!! アイツはまずい! さっきから身体が震えてるんだ!」
「…………」
シャルスが凄く怯えている
僕はそれを非難することは出来ない……
僕も震えていたからだ
「参る!」
カルストが馬を走らせて突撃してきた!
「!? シャルス! 走れ!!」
「了解!!」
僕は馬を走らせる
シャルスも僕の隣を走る
しかし慣れない道だからか、徐々に追い付かれてきた
「まずいまずい! アルス! もっと速く走れないのか!!」
「こいつも限界だよ!!」
僕は振り返ってカルストを見る
近い! 馬3頭分くらいの距離だ!
「アルス! オイラが時間を稼ぐからその隙に!」
「無理だろ! 無駄死には許さないからな!!」
でも本当にヤバい!
馬2頭分の距離まで来てる!!
「って嘘だろ!?」
「っ!!」
僕とシャルスは止まる
目の前に崖が現れた
下を見ると崖の下にも森が広がってるのがわかる
でも結構な高さで……落ちたら死ぬだろ!?
「ここまでの様だな」
追い付いてきたカルストが言う
「くっ!」
僕は剣を構える
シャルスも鉤爪を構える
「安心しろ、殺しはしない……アルス・オーシャン、貴殿は捕虜にするように言われてるからな」
「な、何でだ!!」
「貴殿を捕虜にすれば、オーシャンの領地や物資を手に入れられるだろう? 要するに……人質にするわけだ、目的を果たせたら解放する」
「っ!」
僕を人質に……兄さんなら間違いなく相手の要求を飲む……
僕を切り捨ててくれたらそれでいいんだけど……兄さんはそれが出来そうにないから……
「さあ、武器を捨てて投降して……ついでに隣の獣人も命の保障を……」
「冗談じゃない!! 大人しく捕まるくらいなら戦って死ぬさ!!」
シャルスが叫ぶ
そうだ……僕だって捕まるつもりはない
「シャルス! こうなったら奴を倒すぞ!」
「おう!!」
僕とシャルスは突撃する
「……愚かな選択をしたな」
カルストは2つの長斧を取り出した
「はぁぁぁ!!」
「でりゃぁぁぁぁ!!」
僕は剣で、シャルスは鉤爪で襲い掛かる
「ふっ!」
キィン!
キィン!
『!?』
カルストは僕とシャルスの攻撃を難なく受け止めた
「まだ実力の違いがわからないのか?」
「くっ!」
「ちっ!」
僕とシャルスはカルストから離れる
カルストは余裕からなのか僕達に攻撃してこない……
「くそ……」
でもさっきの一撃でカルストが僕達よりずっと強いのがよくわかった……
カルストは微動だにしなかった……
どうする? 横に走って森を抜けるか?
でも道がどうなってるかわからないし……また崖だったら……
ピシッ……
「……へっ?」
今、足下で変な音が……
「アルス!!」
シャルスが叫ぶ
その瞬間に……
ボコッ!
ガラガラ!
「嘘だろ!? う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
僕の居た足場が崩れて……僕は馬ごと崖を落ちて……
・・・・・・・・
ーーーシャルス視点ーーー
「アルスゥゥゥゥゥ!!」
また……またオイラは失うのか?
『離して! おじちゃん!!』
『駄目だシャルス! 君は隠れているんだ!!』
『嫌だ! おとうもおかあも連れてかれたんだ!! 助けないと!』
『無理なんだ! 私達には……力の無い私達には無理なんだよ……』
嫌だ……
嫌だ!
「うぉぉぉぉぉ!!」
オイラは崖を飛び降りた
・・・・・・・
ーーーカルスト視点ーーー
「…………」
まさか崖が崩れるとは……あの獣人も後を追って飛び降りたか……
私は馬から降りて崖下を覗く
「……下には森…………この高さなら普通は即死か……運よく生き延びても動けずに野垂れ死ぬか……」
「カルスト将軍!!」
森の外に待機させていた兵達が掛けてきた
「どうした?」
「新しい指示が! カルスト将軍はカイト・オーシャンを追えと……」
「そうかわかった……」
私は馬に跨がる
「君達に頼みがあるのだが……」
「はっ! 何でしょうか!」
「アルス・オーシャンがそこの崖から転落した、その事を軍師殿に伝えて欲しい……それと一部の兵は下の森を捜索してほしい、アルス・オーシャンを見つけるんだ」
「へっ? でもこの高さなら……」
「生きてる可能性がある……死体を確認するまではそう考えている……」
「……わかりました! 全力で探します!!」
さてと……カイト・オーシャンを追うか……
オルベリン殿が仕えた相手……どの様な人物だろうか……