第183話 例え戦えなくても
ハッキリ言って自分は弱い
剣を振れるのも形だけ
実際に人を殺した事も無かった
それでも将になれた
戦い以外を評価されたから将になれた
そんな自分だけど
主を守る覚悟は……誰にも負けないと言い切れる
・・・・・・・・
ーーーアルス視点ーーー
「くっ!」
前方に敵軍が遮ってきた
軍旗を見るにロンヌールの軍だ
「全員集合!!」
僕は直ぐに将を呼ぶ
皆が馬を並走させる
「時間がない! 皆の率直な意見を聞かせてくれ! このまま突っ込むか?!」
僕が叫ぶ
「犠牲を気にしないなら突っ込む方が手っ取り早いぞ!」
ユリウス
「北東の方がまだ敵の数は少ないです!」
ティール
「第3軍団と合流するのは!?」
シャルス
「少数なら合流も出来るが……第2軍団全てでの合流は厳しい、敵も一気に集まるぞ!」
ゲルド
「なんなら自分が殿として暴れようか?」
モルス
「やめとけやめとけ、死ぬだけだ」
マーレス
「ティール! 北東は敵が少ないんだな?!」
僕はティールに聞く
「はい! 敵は南東の方に集まってるようです!」
「第3軍団の方か……」
ゲルドが呟く
「アルス様、モルスを第3軍団の救援に向かわせてもよろしいですか!!」
「えっ? 必要なのか!!」
「我々よりも戦力は少ないです! それに……彼らを失うのは避けたいのです!」
ゲルドの必死そうな叫び……個人的な感情もあるだろうけど
ブルムン達を見殺しにするのは確かに痛い
でもこれだけは聞こう
「なんでモルスなんだ! ゲルド本人ではダメなのか!?」
「小生は貴方を必ず護るように命を受けてます! それに……」
ゲルドは力強く答える
「小生よりもモルスの方が強いので!!」
…………
「わかった! モルス! ブルムン達の救援に行ってくれ! 兵もある程度なら連れていっても」
「いや! 1人で充分です! あの程度の敵、蹴散らしてやりますよ!!」
そう言うとモルスは進路を変更して、南東に向かった
「僕達は北東から戦場を抜けるぞ!!」
僕達も進路を変える
そして集まってきていたロンヌール軍と接触した
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「……くっ!」
敵の大軍に怯んでしまう
どうする? このまま突っ込むか?
俺は後ろを見る
兵は恐らく2万くらいか?
後1万の兵は遅れてるか、殺られたか、捕まったか……
「……」
考えろ、どうやって切り抜ける?
「……カイト様、俺が突っ込んで敵軍を乱します、その隙に通り抜けて下さい」
ヘルドが言う
「ダメだ! お前が無事ですまない! 行くなら全員でだ!」
「……しかし」
「これは命令だ!」
「……わかりました」
「…………」
ルーツはさっきから黙ってる
どう切り抜けるか考えてくれてるのか?
「……駄目ですね、どうしても無理です」
「ルーツ?」
ルーツが呟いた
「はぁ……」
ため息を吐くルーツ
「50通り程考えましたが、どうしても犠牲が出ますね……30通りくらいはカイト様まで失ってしまう……」
「おいおい……」
「カイト様、残りの大きな犠牲も出るし、カイト様も無事に行けるか確信が持てない作戦20通りと、必ず貴方を無事に行かせる作戦……どっちを選びます?」
そんな事を聞いてきた
「犠牲が少ない方で頼む」
「そうですか……なら後者ですね、犠牲は101人で済みますから」
「その犠牲も俺は出してほしくないんだが?」
「それは無理です」
微笑むルーツ
冗談で言ってるのか本気なのかわからない
「因みに……その作戦ってどんな作戦なんだ?」
俺は聞く
「あまり言いたくないですね、聞けば貴方は必ず反対する」
「……聞かせろルーツ」
そんな作戦を知らないで許可する訳がない
「……単純な作戦ですよ」
ルーツは懐から筒を取り出した
「なんだそれ?」
「火薬です、これを巻き付けて突撃して……敵軍の中で自爆します」
「なっ!?」
「100人の兵には既に渡してますので、彼等と私で自爆して敵軍を混乱させます、私達の自爆を確認してからカイト様達は突撃してください……必ず、無事に通り抜けれますから」
「ふざけるなルーツ!! そんな作戦許すわけがないだろ!!」
そんな事したらルーツや兵は確実に死ぬ
そんな事認めない!
失ってたまるか!!
「やっぱり反対しますよね……ヘルド、頼みます」
「……本気なんだな?」
「わかるでしょ?」
「……ああ」
「ヘルド? おい! 何する! 離せ!!」
ヘルドが俺を抱えあげた
「では、そこの君、例の旗を立ててください」
ルーツが近くの兵に声をかける
兵が黒い旗を取り出して立てた
すると他の兵が集まってきた
数は恐らく100人、ルーツが言ってた兵だ
「皆さん! これから私達はあの大軍に突撃します!」
「ルーツ!!」
「貴方達が死んだ後の家族の事はレリス殿に任せています! 生活の保証はしますからね!」
『おお!!』
レリスは聞いていたのか!?
てかルーツは俺を無視してるのだが!?
「準備は出来てますね?」
『はい!』
「覚悟も出来てますね?」
『はい!!』
「なら……突撃!」
『うぉぉぉぉぉ!!』
兵達が馬を走らせる
「おい! 待て! 止まれ!! ふざけるな!! 死にに行くな!! 戻ってこい!!」
俺は叫ぶが誰も止まらない
「では、私も」
「ルーツ! 止めろ! 皆を止めろ!」
「カイト様、貴方のそういうとこは長所でもあり短所でもあります」
ルーツが俺を見る
「なんだよ! どこが短所なんだよ!」
「貴方は優しすぎる、いつも犠牲を出さないようにと考えて……でも犠牲はどうしても出るんです、それを理解してください」
「だけどな!」
「カイト様、これは将としてではなく、貴方の教育係として……貴方の友人としての言葉です」
「…………」
「時には非情になるのも必要ですよ、我々を使い捨ての駒として利用することも覚えてください」
「……嫌だ、俺は、誰も死なせたくない!!」
「覚えてください! でないと……もっと大きな犠牲を生んでしまいますよ?」
「っ!!」
その時のルーツは……とても真剣に……強い眼をして言い切った
「では、カイト様、今までありがとうございました、レーメルには悪かったって伝えて下さいね♪」
そう言ってルーツは馬を走らせた
「待ってくれ! ルーツ!! ルーツゥゥゥゥゥ!!」
・・・・・・・・・
ーーールーツ視点ーーー
前方に見えるコイシュナの軍に向かって走る
まだ、火を点けるには早い
「全く、あの人は昔から変わらない……」
思い出すのは出会った時の事だ
『ぼ、僕がカイト様の教育係に!?』
当時、商人の所で働いていた私の所に、ベルドルト様がやって来た
『ああ、君は算術もこなせるし、博学だそうだね?』
両親を亡くした私は、仕事を得るために必死に学問を学んだ
算術を覚えて商人の所で雇ってもらった
暇を見つけては商人の家で本を読み、算術以外の学問を学んだ
商人が売れないと廃棄した戦術書も盗み見て必死に覚えた
そんな私の噂を聞いてベルドルト様は、私をカイト様の教育係に雇って下さった
待遇を聞いて、レーメルに不自由させない給金が貰えると聞いた私は、その話に飛び付いた
『始めましてカイト様、僕はルーツと申します、今日から貴方の教育係として……』
『…………』
幼いカイト様は私を見上げていました
そして……
『ルーツ! 遊ぼ!!』
『……はい?』
私の手を掴んで走り出しました
「……ふふ」
あの時は大変だったなぁ
遊びたい盛りの子供の相手は骨が折れた
遊びに満足したカイト様を、ヘトヘトになりながら勉強を教えて……
カイト様が跡継ぎとして自覚するまで、大変でしたねほんと……
『それはお前を兄の様に慕ってるのではないか?』
『そうなんですか?』
オルベリンが言ってきた
『坊っちゃんは母を亡くし、次の奥様がアルス様を産んだのだ、ベルドルト様も忙しく、甘えられる相手が今までいなかったからな』
『オルベリン様には甘えてるように見えますけど?』
『ワシにはな? だが、歳が離れすぎておるからな、やはり、歳が近い方が良いんだろう……』
ちょっと悔しそうだ
『これからも、坊っちゃんを頼むぞ?』
『はい!』
「……そろそろ火を点けますかね」
私は導火線に点火する
『さてと……これからどうするかな』
私はカイト様を見ながら呟く
カイト様は試験を受けている
これに合格すれば、私からは卒業だ
『そうしたら私の仕事も終わりですね、新しい職場を見つけないとな……』
『出来た!!』
『それでは採点します』
レリスが答案を回収して採点する
『おお、全問正解です! これなら文句なしの合格ですよ!』
『やった!』
『お疲れ様です、カイト様……今までお疲れ様でした』
『ルーツのお蔭だよ! ありがとう!』
さてと、ベルドルト様に結果を知らせなくては
『ルーツ、お前は軍に入る気はないか?』
『……はい?』
カイト様の事を報告していたら、ベルドルト様から提案された
『聞いたぞ? お前は策を練るのが上手いそうだな? 既に多くの者から策の相談をされたりしてるそうだな?』
『え、ええ……』
賊の討伐や、文官の相談を受けたりしてましたが
『それなら、このまま軍に入ってお前の知を思う存分奮ってほしい……無理か?』
『い、いえ!! とても……光栄です!』
「そうして軍に入って……将になって……そして……」
カイト様に着いていった
彼が右と言えば右に、左と言えば左に
ずっと従ってきた
「まあ、何も思わなかった訳ではないですがね……」
カイト様だって人間だ
間違う時はある
よっぽどの事ではない限りは従いますが
「今回は逆らうしかないですよねぇ」
カイト様を生かす為ですから
さて、そろそろコイシュナの軍に接触しますね
既に兵達が突っ込んでいます
……敵将は……居た!!
・・・・・・・・・
コイシュナの軍
この軍は2人の将が統率していた
1人は『バルデッタ』
もう1人は『ゴイナル』
「なんだ? あの程度の人数で突撃してきやがったか?」
ゴイナルは呟く
バルデッタは軍の後方で指揮していた
「お前ら! オーシャンの連中が突っ込んでくるぞ! 斬り殺せ! 叩き落とせ!」
『おおおおおお!!』
突撃してきたオーシャンの兵を斬っていく
斬られた兵達は必死に手綱を掴んで走り続けた
死んでも落馬せずに突っ込む者もいた
「ゴイナル様! 敵将です!」
「ほう、無謀な将だな! 俺が殺る!」
ゴイナルは剣を構える
「はぁぁぁぁぁ!!」
ルーツも剣を構えて突っ込む
「ふん!」
ザシュ!
一瞬だった
一瞬でルーツの首が胴体から離れた
ガッ!
「むぅ!?」
首から上を失ったルーツの身体はゴイナルにしがみついた
たまに、死ぬ瞬間にやろうとした事を死んだ後も続けるなんて事はあった
ゴイナルは冷静にルーツの身体を引き剥がそうとする
「なんだ? 随分と強くしがみついてきたな?」
悪戦苦闘するゴイナル
その時……
ドン!!
「!?」
後方から爆音がした
「どうした!?」
ゴイナルが叫ぶ
「ゴイナル様! 敵兵が爆発しました! 次々と爆発します! ぐわっ!!」
ドン!!
ドン!!
バン!
あちこちから爆音が響く
「おい、なんだよそれ……まさか!!」
ゴイナルはルーツの身体を探る
腹部に何かあるのがわかる
「……まずい!」
顔を青くするゴイナル
腕を剥がすのはやめて、剣で斬り離す事にしたゴイナルはルーツの右肩を斬り、千切る
「後は左!」
急いでゴイナルはルーツの左腕を斬る
後ろに倒れるルーツの身体
「っ!!」
ゴイナルは急いで離れようとした……しかし
グラッ
「なっ!?」
後ろに倒れていた筈のルーツの身体がゴイナルの方に向かって倒れてきた
単純にルーツの乗っていた馬が前のめりになっただけなのだが
ゴイナルは驚いて止まってしまった
そして……
ドン!!
一際大きな爆音が響いたのだった