第180話 西方援軍戦 1
焔暦148年 5月末
「…………とうとうこの時が来たか」
俺は外壁の上から都の外を見る
そこには計10万の軍が居た
都に入りきらないオーシャンの兵が野営しているのだ
俺は振り返って都の中を見る
そこには小隊長以上の将達が集まっていた
そして将達から離れた所や民家の窓から民達が様子を見ている
「諸君! これより我々は西方に向かう!! 同盟のヤークレンへの援軍として、バルバルバを攻める! バルバルバを攻めるということは! 西方同盟を相手にするということだ! 厳しい戦いになると思うが……我々は勝つぞ!!」
『おおおおおおおおお!!』
「行くぞ!」
俺の掛け声を聞いて、将達が馬に乗って走り出す
それぞれの兵を引き連れて行くためにだ
その間に俺も外壁から降りる
「それじゃあ行ってくる」
そして階段下で待っていたティンクとレリス……それとサルリラに声をかける
「必ず生きて帰ってください」
ティンクが俺に抱きつく
「ああ、必ず」
俺も抱き締めて答える
「こちらの方はお任せを」
「ああ、頼んだぞ」
レリスと握手する
「それと……悪いなサルリラ、留守番を任せて」
「仕方ないっすよ、あっしも本当は一緒に行きたかったすけど……そんな訳にはいかないっすからね」
サルリラにはオーシャンの防衛の為にヘイナスから来てもらった
娘のユーリも一緒に来ている……今は乳母やヤンユ達が城であやしてる筈だ
「旦那の大活躍を期待してるっすよ!」
「ああ~だからヘルドは張り切ってた訳か……」
今朝からヘルドが妙に張り切っていた……
そうか、サルリラとユーリへの土産話の為に張り切ってる訳か
「しかしヘルドの活躍か……今回は厳しいかもしれないぞ?」
「えっ? そうなんっすか?」
「ああ、ヘルドには今回は俺の護衛を任せてるからさ……あまり戦えないと思うぞ?」
「あちゃーそれは残念っす、でも重要な役目なのは変わらないっすから! 帰ってきたらいっぱい褒めるっす!」
「そうしてやってくれ、さてと……じゃあ行ってくる」
俺はティンクを離す
「…………」
名残惜しそうなティンク
「後は帰ってからな?」
「……はい!」
こうして俺達は西方に向かって言った
かなり時間がかかりそうなんだよなぁ……
・・・・・・・・
3日後
ブルムンを始めとしたカイナス地方の軍と合流した
「…………」
合流……したのだが……
「なんでブルムンの奴は凹んでるんだ?」
久し振り会って挨拶された時から真っ青だったんだが……
「気になりまっか?」
ブルムンと一緒に合流したグラドスが答える
「何でも奥さんと喧嘩したらしいでっせ?」
「何? 夫婦喧嘩?」
「奥さんはブルムンが参戦するのは反対だったらしいんで」
「なんだ、心配されてるだけじゃないか……」
「あと娘さんにも嫌いと言われたと……」
「…………」
ブルムン?
大丈夫だよな?
途中で帰ったりしないよな?
頼むよ?
後で俺からもフォローするからな?
終わったら褒美……てか賞与を送るからな?
そんな訳でオーシャン軍が集結した
編成は取り敢えずこんな感じ
侵攻軍 兵数60,000
将は
俺
アルス
ヘルド
ルーツ
ゲルド
モルス
レムレ
シャルス
ユリウス
ティール
マーレス
ガイルク
ブルムン
グラドス
マリアット
防衛軍 兵数40,000
将は
バルセ
ボゾゾ
ブライ
ユルクル
ペンクル
ナルール
とまあ大所帯だ
防衛軍は国境付近で待機してもらう
もし敗走した時に俺達の生存率を上げるためだ
俺は今回の戦はマトモに戦ったら酷い目にあうと思ってる
準備も根回しと出来てないからな
普通は2年か3年くらい色々と手を回してから挑むものだ
でも、今回は何も出来てないからな……
侵攻軍も兵が少な目なのは1度交戦したらすぐに撤退する為だ
ちゃんと援軍としての役目は果たしましたよってポーズの為にな
援軍に出ろとは言われたが、勝てとは言われてないからな
簡単に利用されてたまるか!
・・・・・・・・
更に数日後
国境に近い村を拠点にするように防衛軍を待機させた
俺達が侵攻してる間に、彼等には敵の迎撃準備をしてもらっておかないとな!
兵器とか設置してもらわないと!
「カイト様、大丈夫なんですか?」
ユリウスが聞いてくる
「何がだ?」
「パストーレの連中に背中を任せて……裏切るとかないんですか?」
「大丈夫だろ、その為のテリアンヌだし、奴等も今更東方を乱そうとは思ってないだろ、マーレスとか普通にしてるだろ?」
「そうですが……僕はガイルクが信用できないからなぁ……なんかずっと睨んできてるし」
「ああ、あいつの父親がな……ある意味俺が殺した様なものだからな……恨んでるんだろうな」
「聞いたけど、それって逆恨みじゃ……」
「……それ、絶対にガイルクに言うなよ?」
本人もわかってるだろ
でも割りきれないないんだろうな……だから更に苦しんでる様に思える
……俺を殺しても解決するとは思えないがな
不安だな……
「お、見えてきたか」
そう話していたら遠くに橋が見えた
以前、パストーレとの戦の時にレリスが壊した橋だ
今は綺麗に作り直されてる
てかパワーアップしてる
前の橋は縄と木の板で作った吊り橋だった
正直、馬で渡るのはかなり不安になる橋だ
それが今は石橋だ!
凄く立派な橋!!
安心安全! 渡っても揺れない軋まない!
まあ、簡単に壊せなくなったから……壊して時間を稼ぐってのが出来なくなった訳で……
「兄さん、防衛軍はここに置いた方が良かったんじゃないの?」
アルスが聞いてくる
「いや、ここだと投石器が上手く使えないだろ? それに橋を壊して仲間が帰れなくなった……なんて事も起きるかもしれない……だからここはやめといた」
「ふーん……」
「あと、商人とかが通る時に邪魔になるだろ? 最低でも2ヶ月は待機するんだから」
「あ、そっか……」
西方は遠いからな……今までの戦とは違うんだよな
「そう言えば……えっとバルカンだっけ?」
「……バルドナか?」
「そうそうそいつそいつ、連絡とかとれてるの? 打ち合わせとか」
「ああ、俺達が出発したのを兵を走らせて伝えてる……俺達が西方に着く頃にはバルドナもバルバルバに攻める筈だ……少なくともそういう話にはなってるぞ?」
西方の東からオーシャンが
北からバルドナが攻める
二方からの侵攻だ……西方は軍を分けて挑むしかない
まあ、良くてバルドナが領地を少し奪えるくらいか?
俺は何も得られないな……とっても維持できないし……距離が離れてるからな
日本で例えるなら北海道の武将が沖縄の土地を手に入れて維持しようとするものだ
いや、極端すぎる例だなこれ……武将って言ったけど戦国当時は北海道も沖縄も無いし……まあそれぐらい離れていて厳しいって事だ
「オーシャンとしては……全く旨味の無い戦だな……はぁ」
俺はため息を吐く
「兄さん……大丈夫?」
「大丈夫……じゃない、スッゴくめんどくさい……本当なんでメルセデスの奴が動くんだよ……動くんならお前も戦えよ……ちくしょー」
「荒れてるなぁ……今夜の夜営の時に飲む? 付き合うよ?」
「止めとく……暫く酒は控える……やらかしたし」
覚えてないけど、ルーデル卿のパーティーをぶち壊したらしいし……
レリスにむっちゃ怒られたし……
まあ、ルーデル卿は気にしてないそうだが……
俺何やってんだろ……
「ああ、兄さんまで凹んできてる……」
「これはもうほっといた方が良いんじゃないか?」
ユリウスの一言が冷たかった……泣くわ俺
・・・・・・・・
ーーーシルテンーーー
「さて、オーシャンが動いたそうだよ」
西方の領地シルテン
その領主である『パルシット・シルテン』は珈琲を飲みながら呟いた
彼の後ろには将である『カルスト』が立っている
そしてパルシットの前には円卓があり5人の人間が座っていた
「ねえねえ、パキラ、オーシャンだってさ」
「そうだねポムラ、話通りだね」
ロンヌールの領主
『パキラ・ロンヌール』
『ポムラ・ロンヌール』
「ふぅ……なら迎え撃たないとね……」
サタヌルスの領主
『カンルス・サタヌルス』
「……ふむ、飲まれてしまうか」
バルバルバの領主
『メーリス=バルバルバ』
「それで? 誰が行く? 全員で行く?」
コイシュナの領主
『ヒール・ワン・コイシュナ』
西方同盟の領主が揃っていた
「カイト・オーシャンも馬鹿だよね……裏切り者が居ることに気付かないなんて……」
パルシットは呟く
西方同盟が動き出した