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第179話 出撃の前にやっとくこと

 焔暦148年 5月



 ーーーカイト視点ーーー


 西方へ仕掛ける戦の準備も一段落してきた


 ガガルガへの伝令も帰ってきたし

 パストーレに行っていたマーレスも帰ってきた

 ……ガイルク連れてきたのには驚いたが


 いや、わかるよ? 戦力を増やそうとするのはな?


 でもガイルクはな……無いだろ?

 俺の事を憎んでるんだぞ?

 会うたびに凄い殺気を当てられてるんだぞ?

 正直怖いんだけど!?


 ガイルクが俺を憎む理由はわかってるけどさ!

 これが1年や2年で何とかできる問題じゃないのもわかってるけどさ!!



「マジで勘弁してほしい……」

「おや? お疲れですかカイト殿?」

「ああ、いえ大丈夫です」


 えっ? 今俺に話し掛けた男は誰だって?

 貴族だよ? 『ルーデル卿』って貴族でね

 えっ? なんでそんな貴族と居るのかって?

 ……彼の主催してるパーティーに招待されて出席したからだよ


 言っておくが遊んでる訳ではないぞ?

 これは接待みたいなものだ

 以前、マイルスが貴族達を利用して内乱を起こしたろ?

 今回も俺が西方に行って離れてる間に内乱が起きたら困るから

 こうしてご機嫌取りをしてる訳だ


 領主なんだから、そんな事しなくてもいいと思ったか?

 そんな訳にはいかないんだよ!!

 俺だって本当は来たくなかった!!

 こんなパーティー苦手だし!!

 会社の飲み会とか苦痛に感じるタイプだし!!


 でもレリスがな?


『たまには皆さんを連れて出席しましょう?』


 ってスッゴい笑顔(怖い顔)してきたんだぞ?

 逆らえる訳がない!!

 そりゃあ毎回この手のパーティーはレリスに任せてきたからな……いい加減限界だったか……

 そんな訳で家族や護衛を連れて出席した訳だ……


 因みにメンバーは

 俺

 護衛にヘルドとルーツとゲルド

 ティンク

 護衛にルミルとテリアンヌ

 アルス

 護衛にユリウスとレムレ

 ……他にシャルスも護衛に加えようとしてたけど

『いやいや、貴族の集まりだろ? オイラには無理だって!』

 なんて言っててな……だから俺は

『なんだ? お前に何か言う奴が居たら俺が黙らせるぞ? そんなの気にせずに……』

『いや、そうじゃなくて……』

『?』

『香水の臭いがダメなんで……』

『そ、そうか……』

 そうだよな、嗅覚も俺らより強いもんな……キツい筈だ……

 そんな訳でシャルスは連れてきてない


 それとミルムはファルとティールを連れてきている


 あとレリスも来てる、そして色んな貴族と何か黒い話してる

 内容は怖いから聞きたくない……なんか凄い物騒な単語が聞こえる気がするから聞きたくない!!


 そして俺は主催の相手をしてる

 あー……帰ってティンクに癒されたい……


 ・・・・・・・・・・


 ーーーアルス視点ーーー


「つ、疲れた」


 僕は貴族のお嬢さん達から離れる

 こ、怖かった……凄いアピールしてきて……なんなの? そんなに男に飢えてるの? 勘弁してくれ


「よっ、お疲れ色男」

「ユリウス……護衛なんだから助けてくんない?」

「いやいや、流石にレディーの邪魔をするのはね……てか取り乱すアルスが面白かった!」

「お前……後で覚えてろよ?」

「怖い怖い」


 ユリウスは笑いながらワインを飲む


「……あれ? レムレは?」


 僕はレムレの姿が無い事に気づく


「トイレに行ってくるってさ、少し気分が悪そうだったな」

「体調が悪かったのか?」

「いや~あれは慣れない空気に酔ったんだろ、香水の匂いも色々してるし、慣れない人間にはキツいだろ?」

「シャルスは来なくて正解だったな……」

「鼻がーって叫んでもがいてそうだな……それはそれで見てみたいな!」

「この外道が」

「そこまで言うことか!?」


 僕とユリウスは下らない話を続ける……

 よし、大分回復してきた


「お、死地に行くか?」

「まあね、少しでも人脈を築いておかないとね……」


 そう言って僕はワインを片手に死地に向かう

 ……パーティーが終わる頃には僕は生きてるんだろうか?



 ・・・・・・・・


 ーーーレムレ視点ーーー


「ふぅ……キツかった……」


 用をたして、パーティー会場に向かう途中にある中庭で一息つく


「カイト様が苦手って言ってた理由が良くわかったよ……」


 何て言うか……ドロドロしてた

 僕が見えすぎてるって言うのかな……どこの貴族もお金とか土地とか利益がとか話してた

 もっと他の話もしてほしい……


「おや? レムレ?」

「あ、ティールさん? 休憩ですか?」

「ええ、少し疲れたのでね」


 そう言ってティールさんは僕の隣に立つ

 …………うん、凄く気になるから聞いてみよう


「あの、ティールさん?」

「んっ?」

「何で男装してるんですか?」

「こういうのしか正装を持ってないんだよ」

「ええ……」


 僕はティールさんを見る

 男装したティールさん……凄く似合ってる

 てかカッコいい……着こなしてるのが凄い


「ほら、私はガガルガに居た頃は男として軍に居たからね」

「ああ、そういえばそうでしたね……」


 思い出せば、初めて会ったときも男装していた様な……

 あの頃は僕もメイド服で女装だったな……


「さてと、そろそろ戻りますかね、レムレも戻るかい?」

「あ、そうですね……」


 護衛の仕事をしないとね!


 僕とティールさんはパーティー会場に戻る


 ・・・・・・・


 ーーーティンク視点ーーー


「それがあれで」

「どれがこれで」

「なんたらかんたら」


 こ、この人達は何の話をしてるのでしょうか?

 えっと……こ、香水? 爪? えっ? 口紅の種類?

 ど、どうしよう……全然話についていけません……

 いつもヤンユさんのオススメを使ってますから……ど、どうしましょう


「ティンク様、お疲れでしたらこちらに」

「あ、ありがとうございます」


 ルミルさんが助けてくれました

 た、頼りになりますね


「あれ? テリアンヌさんは?」

「ああ、テリアンヌならあそこで貴族の男達を貴女様に近付けないようにしてますよ」


 ルミルさんの視線を追う

 そこではテリアンヌさんが男性達と話をしていました

 なんの話かわかりませんが……数人の男性と対等に話しています

 ……た、頼りになりますね……


「こういう場所は私よりもテリアンヌの方が護衛に向いてるみたいですね」


 ルミルさんが呟きます


「そうですか? ルミルさんも頼りになってますよ?」


 細かい気配りとか凄いと思います……そういうのは昔ヤンユさんに教わったらしいですけど……


「そ、そうですか?」


 照れるルミルさん……普段はキリッとしてますけど、こういう時は年相応な顔ですね


 な、なんとか……カイトさんに迷惑を掛けないように乗り切れそうです!!


 ・・・・・・・・


 ーーーティール視点ーーー


「ティールって香水の匂いが苦手なの?」


 会場に戻ったらミルム様からのいきなりの指摘


「どうしてそう思ったので?」

「だって顔色が悪いもん……無理しないでもう少し休んでても良いんだよ?」

「そうですよ! ミルム様の護衛は私に任せてください!」


 ミルム様とファルが言う

 これは甘えた方が良さそうですね


「わかりました……ではテラスの方に行ってますので……何かあったら叫んでくださいね?」

「はーい!」


 私はワインを使用人から受け取りテラスに出る


「ふぅ……」


 私は星空と月を眺めながらワインを一口飲む


「なんだ? ティールも休憩か?」

「ユリウス様」


 ユリウス様が右手にワインを左手にサンドイッチを持って来た


「ユリウス様もですか?」

「ああ、レムレが戻ってきたから交代してきた、1つ食うか?」

「いただきます」


 ユリウス様からサンドイッチを受け取る

 お互いに1個ずつのサンドイッチを食べる


「次は西方だな」


 ユリウス様が呟く


「そうですね、ガガルガからは遠くて……関わることは無いと思っていましたが……」

「いつの間にか、すぐ側の相手になってたな」


 苦笑する


「不安ですか? そんな事を言ってくるとは珍しい」

「そうだな……相手は未知の存在だからな、何の情報も無いし……ティールは何か聞いてるのか?」

「いいえ、どうやら今は西方の情報を集めてるそうですよ? 集まり次第の出撃になるでしょうね」

「そっか……」


 ワインを一口


「……ティール」

「はい?」

「あんま無理するなよ?」

「……はい」


 ユリウス様のちょっとした気遣い

 今の一言には色んな言葉が含まれてる


 私が香水にトラウマがある事への気遣い

 私が男装している事への気遣い

 私が最近伸び悩んでる事への気遣い


「本当、そういう所を表に出せばモテるでしょうに……」

「んっ? 何か言ったか?」

「いいえ、何も」


 人の気も知らないで……


『なんで? カッコいいじゃん!!』


 きっかけはそんな一言だった


『お前強いじゃないか!!』


 彼だけは……最初から私を見てくれていた


『なら、リユは僕とティールで守るさ!』


 ずっと私を信頼してくれていた……そんな貴方だから


「お慕いしてますよ、ユリウス様」

「いきなりなんだよ……全く、僕だって尊敬してるさ」

「そうですか、それは光栄です」


 ユリウス様には違う意味に受け取られた……

 まあ、それで良いんですけどね?

 私は、彼が幸せになってくれるのなら何でも良いんです

 私は、彼を守れればそれでいいんですから……


『触れるな! 汚らわしい!!』


「!?」


 パーティー会場から怒号が聞こえた


「行くぞティール!」

「はい!」


 私とユリウス様はパーティー会場に戻った



 ・・・・・・・・・・


 ーーーレムレ視点ーーー


 どうしてこうなったんだろう?


「触れるな! 汚らわしい!!」


 ドン!


「うわっ!」


 突き飛ばされて僕は尻餅をつく


 えっと……今僕を突き飛ばしたのは招待された他の貴族の人だよね?

 さっき自己紹介されたし……

 それで握手を求められて……


『それで? 貴殿はどこの家の者で?』

『家? あ、僕は貴族じゃありませ』


 それでこれだよ……

 あ、これってかなりまずいんじゃ……


 周りを見ると僕は注目を集めていた


「え、えっと……」


 ど、どうしよう……


「どうされたのですか! 『ベルスール卿』!!」


 主催のルーデル卿が駆けつけてきた


「いや、ルーデル卿、この汚らわしい平民が私に触れてな……何故平民がこの場に居るのだ?」

「それは……」


 ルーデル卿とベルスール卿が話している

 どうしよう、騒ぎを起こしちゃってるよねこれ?


「ちょっと通らせて……どうしたんだこれ?」


 ユリウスとティールさんが来た


「お、レム……」


 僕に駆け寄ろうとしたユリウスに視線を送る


『来ちゃダメ!』

『……わ、わかった』


 伝わったみたいだ……ユリウスまで巻き込むわけにいかない

 多分僕は会場を追い出される、平民の扱いは基本そんなものだからね

 まあ仕方ないよ、こうやって騒ぎを起こした時点で皆に迷惑を掛けてるんだから……うん、仕方ない


「おいおい、なんの騒ぎだぁ?」


 あ、カイト様が……あれ? カイト様? なんか目が座ってませんか?

 よ、酔ってませんか?


「なんだ? どうしたんだレムレ?」

「あ、ちょっ! カイト様!」


 カイト様はルーツさんの制止を振り切って僕の側に来ました


「ほら、大丈夫か?」

「あ、はい……」


 僕に手を差し出すカイト様

 そして立ち上がらせてもらう


「カイト殿! 何故そんな平民に触れてるのですか! 貴方は領主でしょう!」


 ベルスール卿が叫ぶ


「あっ? 何言ってんだあんた?」

「カ、カイト様!?」


 やっぱり酔ってますよね!?

 普段と口調が全然違いますよ!?

 てかふらついてますよ!?


「平民だとか、んなのどうでもいいんだよ!! 必要なのは勇気とやる気と元気!!」

「何の話ですか!?」


 僕はカイト様を支える


「俺がお前を信頼してるって話だ!!」

「!?」

「いいか! 良い機会だから言うぞ! お前! それにお前とお前とお前とお前とそこのハゲと髭! お前ら貴族よりも俺はこいつを信頼してるんだ! 頼りにしてるんだぞ! あとルーツもヘルドもゲルドもルミルもユリウスもティールもファルもテリアンヌもだ! 勿論! ティンクを初めとした家族もなぁ!!」

「カイト様! 私は?」


 レリスさん!? 何聞いてるんですか!?


「お前は家族枠だぁ!!」

「そうですか! 良かった!」


「そんな訳で……おやすみ!」

「はい!?」


 ちょっ! 本当に寝ちゃった!?

 どうするんですかこの空気!?

 盛大にやらかしてますよねぇぇぇぇ!?


「はい、そんな訳でカイト様はお休みですので我々は帰らせていただきます、ヘルド殿、カイト様を」

「はいよ!」


 ヘルドさんが駆け寄ってカイト様をおんぶします


「ほら、帰るぞレムレ」

「え、あ、はい……」


 ヘルドさんの声を合図に僕達は出口に向かう

 出る時にレリスさんが


「あ、ベルスール卿、例の話ですが……貴方は除外って事で!」

「な!? お、お待ち下さい! レリス殿! レリス殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 そんな会話をしていた

 例の話って……何?



 僕達は馬車に乗る

 カイト様はティンク様とミルム様……それとヘルドさんと一緒の馬車に乗った

 僕はアルス様とユリウスと一緒の馬車に乗った


「カイト様って酔うとああなるんだね……」

「そっか、レムレは初めてか……ベススでも酔ってたんだぜ?」


 ユリウスが笑う


「そっか……」

「レムレ、酔った兄さんは本音しか言わないからね? だからさっきのは……」

「う、うん……わ、わかってるよ?」


 頼り……されてる


「…………嬉しいね」

「真っ赤だな」

「男なのが残念だ」

「ユリウス、後でしばくね」

「待って!?」



 そんなこんなでパーティーは……無事? に終わったのだった



 ・・・・・・・・・


 翌日

 二日酔いのカイト様は真っ青になりながらレリスさんに怒られていました















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