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第175話 訪れる人々

 オルベリンの死……

 日が出る頃にはオーシャンの都中に広まった

 他の都や村にも伝令を出した……


 数日中にはオーシャン領全土に広まるだろう……


「…………」


 俺は玉座に座っていた……

 中庭でオルベリンの最期を見送った後……俺は屋敷の使用人達を起こして動いて貰った


 オルベリンの亡骸は棺に納められて城から1番近い教会で眠らせている


 本当は城の中で葬儀をしたかったが……色んな人が簡単に訪ねられる教会の方が良いと思ったんだ……


「カイトさん……」


 ティンクが珍しく玉座の間に来ている

 今も俺の右手を握っている……その温もりにだいぶ助けられてる

 ティンクも辛いだろうに……目が真っ赤だ……


「カイト様、教会に行かれなくてよろしいのですか?」


 レリスが聞いてくる

 レリスはこれから教会に行ってオルベリンを見てくる

 葬儀の打ち合わせも神父とするそうだ


「ああ……今は人も多いだろう? それに……」


 今、オルベリンを見たら……また泣く

 人前とか気にせず泣いてしまう

 そんな姿は……誰にも見せたくなかった……

 兵にも……民にも……オルベリンにも……


「わかりました……カイト様、ここよりは部屋で休まれた方がよろしいと思いますよ?」

「……それはわかってる……わかってるけど……今はここに居たいんだ」

「……そうですか、では……行ってまいります」


 レリスは玉座の間を出ていった

 入れ替わるようにヤンユが入ってきた……


「カイト様、ティンク様……お茶をどうぞ……落ち着きますよ」

「ありがとう……」

「ありがとうございます」


 俺とティンクをお茶を受け取る

 お茶を飲んでいたら、メイドの1人が椅子を持ってきて、ティンクを座らせた

 ……そうだ、ティンクは立ったままだった

 そこに気が回らなかった……なにやってんだ俺は……


「……ふぅ」


 カップに入っている紅茶の表面に俺の顔が映る

 ……うわ……情けない顔……


「カイト様!!」


 そうしてたらヘルドがやって来た


「ヘルド? なんだ、早くないか?」


 伝令を出したのは3時間くらい前だ

 いくらなんでも早すぎないか?


「定期報告でここに向かってたら伝令と会いました! オルベリンが死んだってのは本当ですか!?」


 ああ、そうか……そんな時期か……

 早朝からヘイナスを出て向かって来てたんだな……それで伝令とたまたま会って話を聞いたのか……


「……本当だ、深夜に……」

「……そう、ですか……」


 ヘルドは動揺している


「そうだヘルド……オルベリンの墓はヘイナスに建てるつもりだ」

「……ここではないので?」

「ヘイナスだ……彼処がオルベリンの故郷だし……父上や祖父の墓もあるからな……」


 本当ならオーシャンに墓を建てたい

 でも……やっぱり2人と同じ場所がいいだろ?


「わかりました、戻り次第手配しておきます」

「頼む……これから3ヶ月程……教会に眠らせておく事になってる」

「……3ヶ月もですか?」

「ああ……見送りたいって人が多いだろうからな……この大陸には」

「…………大陸?」

「オルベリンの死は隠さないことにした」

「!?」


 ヘルドが驚く

 オルベリンの存在はオーシャンの要だった

 オルベリンが居るから他の地方はオーシャンを攻めようとはしなかった

 言わば守り神だな


 隠居は隠していたが……流石に訃報を隠すのは……

 それによるリスクも理解してる……だけど……やっぱり……


「死んでまで……オルベリンを働かせたくはないからな」

「……そうですか」


 納得してくれた様だ


「オルベリンは?」

「兵に聞いて案内してもらってくれ……いや、今ならレリスに追い付けると思うから追ってくれ」

「はっ!」


 ヘルドは走って行った


「ヘルドさん……元気ですね」


 ティンクが言う


「空元気だろうな……動揺してたし……」


 俺も……それくらいの事を出来るようにならないとな……


 ・・・・・・・・・・


 ーーーレリス視点ーーー



「…………」


「おいレリス! 待てって!」


 走ってくるヘルド


「事情はわかりましたが……教会では騒がないでくださいよ?」

「わかってる……それよりも大丈夫なのか?」

「カイト様なら大丈夫ですよ、すぐに立ち直ってくれます……」

「いや、お前が」

「…………」


 ヘルドは私をじっと見ている

 たまに鋭いんですよね……この人


「大丈夫ですよ……オルベリンも歳なのですから……こうなるって覚悟はしていましたし……」

「……そうか」


 ヘルドはそれだけ言うと私の前を歩き出した


「…………っ」


 困るんですよね……そんな事されるのは

 泣くのは……全部終わってからって……決めていたのに……



 ・・・・・・・・・


 ーーーアルス視点ーーー


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 誰も喋らない

 僕とレムレとユリウスとシャルスは教会の長椅子に座っていた

 そしてオルベリンの冥福を祈る人々を見ていた


「……本当に死んだんだな」


 ユリウスが口を開いた


「具合が悪いのはわかってましたけど……」


 レムレが続ける


「……あっさりと逝ったんだな」


 シャルスは天井を眺める


「…………」


 僕は俯く


 オルベリンの最期は……屋敷の中庭で立ったまま死んだそうだ……

 さっき棺の中を見たけど……オルベリンは満足そうな顔をしていた


「うっ! ぐすっ! じいじ……」


 ミルムが泣きながらやって来た

 側にはファルとルミルとティールとテリアンヌが居た


「ミルム、もうお祈りはいいのか?」

「うん……他の人も居るし……いっぱい祈ったから!」


 泣きながら答えるミルム

 オルベリンを祖父の様に慕っていたんだ……ショックは大きいんだろうな


「うぅ~!!」

「ミルム様、帰って休みましょう……よいしょ」


 ファルがミルムをおんぶする……結構力あるんだな


「では、失礼します……」


 ファルは泣いているミルムを連れていった

 ファルはオルベリンとあまり関わってなかったからな……あまりショックは受けてないんだろうな


「あ、レリスさんだ」


 ルミルが言う

 出入口を見るとレリスとヘルドが教会に入ってきた

 2人はオルベリンの棺に祈った後、レリスは神父と隣の部屋に入っていった

 ヘルドは僕達に気づいて近付いてきた


「よぉ」


 右手を挙げて挨拶してくるヘルド


「久し振りだね、ヘルド」


 僕が答える


「ああ、アルス様……大丈夫、じゃなさそうですね」


 そう言って僕達を見る


「流石にね……オルベリンには凄く世話になったから……でも、大丈夫……明日には立ち直っておくから」


 いつまでも引きずるわけにはいかない……明日にはいつも通りに仕事をしないと……

 だから……今日だけは……うん、凹ませてほしい


 ・・・・・・・・・


 数日後


 ーーーカイト視点ーーー


 オルベリンの葬儀が始まった……

 教会の中には俺を始めとした関係者が集まっていた


 ルーツやバルセとか……他の都の皆も出席していた

 教会の外には大勢の人が祈りに来ていた……都の外まで人が溢れている

 オーシャン領の民が集まったんじゃないかって言われても信じるくらいの人数だ……処理しきれない


「八龍が魂を安らかに送ることを願います……」


 神父が祈る

 仏教でいうお経みたいな言葉を言って祈る……


 そして棺に花を添えていく……

 この後、オルベリンは教会の地下の冷暗所に3ヶ月の間眠る……

 その後、ヘイナスに建てた墓に埋葬される……


「…………?」


 俺が花を添える時にオルベリンを見る

 オルベリンの格好はかつて愛用していた服を死に装束にしている

 鎧は城で保管されている……一緒に埋めようとも思っていたが……死んでも着せるのは重いんじゃないのかと思ってさ……

 そんなオルベリンの上に剣が抜いた状態で乗せられていた

 胸元で祈るように組んだ手に握るように持ち手を持たせて、下半身に向けて刀身が伸びてる

 これがオルベリンが使ってた剣なら不思議でも何でもないのだが……

 俺が見たことも無い剣だった

 だが、立派な剣だということは良く理解できた……


「…………」


 なんか……あの世でも戦いそうだな……

 やっぱり鎧も着せた方が良かったかな?

 今更だけどな……


 ・・・・・・・・・・・


 葬儀が終わった

 外に出ると民が祈っていた

 正直ビビった

 扉を開けたら全員が祈ってるんだぞ?

 ギョッ! ってしないか?


「オルベリンは……こんなにも慕われているんだな……」


 っ! 駄目だ! また泣きそうになってる!

 堪えろ! 堪えるんだ!


「行こう……」

「はい……」


 俺はティンクの手を引いて足早に城に向かう

 その後ろを皆がついてきた


 その後、玉座に戻った俺はいつも通り仕事を進める

 不思議といつもより集中出来た気がする……気を紛らわせる事が出来るからか?


 ・・・・・・・・・・


 それからの3ヶ月……色んな人間が訪れた……

 驚くような人間が訪ねてきた


 ベススのナリストやゼルナ


「カイト、大丈夫かい? ちゃんと泣けたのかい?」

「ええ、しっかりと……」

「無理はするな……」


 2人は俺の事を心配していた


 他にはカルナルやリールの将が訪ねてきた

 オルベリンを戦場で見かけた者や共に戦った者らしい


 西方からも同じ様に将が訪ねてきた

 更には……


「お主がカイトか……ふむふむ、アルガンの面影もあるのぉ」

「……貴方まで訪ねてくれるとは」


 玉座に老人がやって来た

 俺は彼を知っている


「初めまして、『メーリス=バルバルバ』殿……」


 俺はメーリスに礼をする

 西方のバルバルバの領主がわざわざ訪ねてきたのだ

 礼は尽くさないとな……


「うむ」


 メーリスも礼を返す


「あの化け物が逝くとはな……わからんものだのぉ」


 メーリスは口を開く


「儂の方が先に逝くものと思っておったからな……」

「……おいくつで?」

「もうすぐ100を迎えるな」

「…………そうですか」


 オルベリンにもそれくらい生きてほしかったな……


「ふむ……ではそろそろ参らせてもらうかの……そうそうカイト」

「…………?」


 メーリスは玉座の間を出ようとした後、振り返って俺を見る


「業に呑まれるでないぞ」

「……?」


 それだけ言ってメーリスは出ていった

 どういう意味だ?


 そんな事があったな……

 それから数日後だった……予想外の人間が訪ねてきた


「カ、カイトの旦那ぁ!!」


 シャルスが玉座の間に駆け込んできた


「どうした?」

「ヤ、ヤークレンが!! ヤークレンがやって来ました!!」

「…………はぁ!?」


 待ってくれ! ヤークレン!? 嘘だろ!? ヤークレンの誰だ!?



 俺は玉座の間を飛び出して城門に向かう

 確実に城に寄るだろうからな、迎えないといけない……


 これがガールニックとかなら、そこまで気にしないが……

 もし……もし、俺の考えてる人物なら!!


 バン!

 城の扉を開けて外に出る

 そして城門に行くと……


「久し振りだな、カイト」

「……お、お久し振りで……メ、メルセデス殿……」


 ヤークレンの領主……メルセデス・ヤークレンが訪れたのだった







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