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第173話 バルドナの使者

 焔暦148年 3月


 ーーーカイト視点ーーー


 3月になり、春の収穫が近いこともあり、俺は忙しくなっていた


 ミルムの村作りは今のところ順調に進んでるらしい

 学校作りの為にオーシャンの都に滞在しているルスーンに様子を見てもらいに行ったら


「的確な指示を出していますね、自分から何か言うことは無いです」


 と言っていた

 今は村の大きさを決める為の柵を立てて、井戸を完成させた所だそうだ

 これから家と畑などを作っていくらしい


「そっか……なら良かった」


 村作りの方は心配ないな

 後は賊に襲われないように見廻りの兵を増やすかな


 そう言えば、オルベリンだが……ミルムが村作りを任されて嬉しそうに玉座の間を出ていった後に


『坊っちゃん、頼みがあるのですがよろしいですか?』

『頼み? なんだ? オルベリンの頼みを断るつもりはないぞ?』

『実は……』


 オルベリンの頼み、それは国宝として扱ってるオルベリンの鎧などの装備をオルベリンの屋敷に置かせて欲しいという事だった


 断る理由なんてなかった

 元々オルベリンの物だし

 国宝にしてるのも俺が大事に保管しておきたいって我が儘だしな

 オルベリンが所持してるならその方が装備も喜ぶだろうし


 ……まあ、絶対に鎧を着て外に出ないのを約束させたが

 隠居してだいぶ経つし、オルベリンに何かあったら嫌だからな

 屋敷の敷地内なら何かあってもすぐに対応できるから敷地内で昔を懐かしむ為に着るのは禁止にしなかった

 その方が良いだろう?



「カイト様」

「どうしたレリス?」

「ヤークレンから使者が参りました……」

「……とうとう来たか」


 さて、いったい誰の使者だ?

 ガールニックなら問題ない

 バルドナだと厄介だ

 メルセデスなら内容によるが……絶望的だ


 兵士が使者を案内してくる

 ……うわ……お前かよ


「初めまして、自分はバルドナ様に仕える『ペタン』と申します」


 ペタン、ヤークレンの将としては中堅くらいの人間だ

 会社で例えるな課長くらいの偉さだな


「これはこれは、遠いところをわざわざ……私がカイト・オーシャンです」


 バルドナの使者……あー面倒ごとになりそうだ


「それで? 用件は?」


 さっさと聞こう


「はい、カイト殿はバルバルバの件はご存知で?」

「えぇ、恐らく大陸中に広まってるのでは?」


 バルドナの軍とはいえ、ヤークレンが敗北した

 それは大ニュースだからな


「そうですか……それで我が主、バルドナ様は再び兵を挙げてバルバルバを攻める事を決めました」

「……それで?」

「その時はオーシャンにも援軍として挙兵してもらいたい所存です」

「…………」


 きたか……援軍の要請……

 バルドナは自分の軍だけでは勝ち目がないと理解したんだろうな


「ふむ……話はわかりました、しかし……ヤークレンの兵を使えば宜しいのでは? はっきり言って、オーシャンの十数倍は力があるじゃないですか」

「いえ、これはバルドナ様の戦……ヤークレンの戦ではありませんので……」


 ……メルセデスや他の兄弟は協力を拒否したって所かな

 いや、もしかしたらバルドナのプライドで家族の手は借りないって決めたのかもな


「……」


 俺は少し考える素振りを見せる

 断るのは決まってるが……こういうポーズは必要だからな

 断る理由も考えた、ペタンはこれをバルドナの戦と言った……そこをつくかな


「申し訳ないが、オーシャンはその話に乗るわけにはいきませんな」

「……理由をお聞きしても?」


 お、いきなり怒鳴ってきたりしないで理由を聞いてきたか……そこら辺はしっかりとしてるんだな


「先ずオーシャンは東方を統一して、まだ安定させていません……私も色々と恨まれてますから、荒れてるんですよ」


 半分本当の半分嘘だ

 俺に反感を持ってる勢力はだいぶ減らせている

 マイルスが起こした内乱で一気に減らせたのが大きかったな

 後は収穫とか税金の統一とか道の整備とか……住みやすい場所にするために色々してる訳で……今は戦をしてる暇はないのだ


「それなら、兵の一部を貸して頂ければ後はこちらで……」

「兵も大事なオーシャンの民だ、物じゃないんだから貸したりなんて出来ない」


 ハッキリと断る


「…………よろしいのですか? オーシャンはヤークレンと同盟しています、同盟相手の頼みを断るので?」

「おや? おかしいですね、今回の戦はヤークレンの戦ではなく、バルドナ殿の個人的な戦なのでしょう? 同盟は関係ないかと思いますが?」

「貴方の義理の兄の頼みですよ?」

「生憎、会ったことが無いのでそう言われても実感が湧きませんね」

「……くっ!」


 さてと……そろそろ話を終わらせるか


「ペタン殿、バルドナ殿にお伝えください、今は領内の安定を優先すべきだと……失った者達の仇をとりたい気持ちはわかりますが……今はただ勝機を待つべきだと……」


 これはアドバイスだ

 敗走したバルドナは本来なら戦をする余裕は無い筈だ

 仇討ちをしたいのか、それとも負けた悔しさからか……彼は今は冷静さを失っている

 今は国力を回復させるべきだ……失った兵力を補充し、鍛えて、戦いに備えるべきだ


「……わかりました……今回は大人しく帰ります……失礼します」


 そう言ってペタンは振り返って歩き出す

 今回『は』か……また来そうだな……



 ・・・・・・・・


「そんな事が……だ、大丈夫ですか? バルドナ兄様が怒って攻めてきませんか?」


 寝室でティンクと休みながらペタンの事を話した


「大丈夫、いくらなんでも同盟相手を攻めるなんて事はバルドナでも出来ないさ……そんな事したら、メルセデスが怒るだろう?」


 もし攻めるなら、先ずはメルセデスを説得して、同盟を解消するのが先だ

 しかし、メルセデスはそんな事はしないだろう

 まだ俺に利用価値があると考えてる筈だ……


 もしかしたら面白そうって理由で許可する可能性はあるが……

 その時はガールニックに動いてもらおう……


「それじゃあカイトさんは挙兵はしないんですね?」


 ティンクが不安そうに聞いてくる


「ああ、少なくともバルドナの頼みでは動かないさ、彼の実績の為に家の兵士を使うなんて馬鹿らしいこと出来ないさ」


 俺がそう答えるとティンクは安心したようだ

 俺に抱きついてくる


「良かった……」

「よしよし……」


 俺はティンクの頭を撫でる

 バルドナの頼みでは動かない……そう言ったが……もしメルセデスの方から挙兵しろと言われたら……

 …………わざわざ不安になる事を言う必要は無いか


「さてと……この話はここまで! そんな訳で……よっ!」

「きゃ!」


 俺はティンクを抱き締めて仰向けになる

 ティンクが俺に覆い被さった状態だ


「最近忙しくて一緒に寝れなかったからさ……久し振りに……」


 俺が遅くまで色々してたからな、営みがご無沙汰だった訳で……


「あ、その……わたしもカイトさんと……でも……その……」


 ティンクは少し赤くなりながらも気まずそうだ


「……? どうした?」

「その……今は……その……きてまして……」

「………………あー」


 察する

 それなら無理だな


「その……ごめんなさい」

「いや謝る事じゃないって、仕方ない事だから」


 こればっかりはどうしようもない

 無茶させるつもりなんてないし……寧ろいつも以上に体調に気を使わないと……


「いえ、それだけじゃなくて……また出来なくて……」

「……」


 あれがくる

 つまり妊娠してないって事だ

 ティンクはまだその事を気にしてるのか……


「ティンク、何度も言ってるだろ? 気にするなって……これも仕方ない事だ」


 てかこれだけやることやって出来ないのなら……俺に原因があるんじゃないのか?

 以前死にかけた事あるし……それが原因で機能停止してるとか……あり得るな

 ……調べるべきか? でもそんな技術がオーシャンにあるか?

 うーん……まあ、今度暇を見つけてレイミルに相談してみるかな……



「まあ出来ないなら出来ないで……こうして一緒に居れるだけで充分だ」


 俺はティンクの唇に軽くキスをする

 そうしたら、ティンクは嬉しそうに俺の両方の頬にキスをしてから俺の唇に軽くキスを返した


「お休みなさい……カイトさん」

「ああ、お休み……ティンク……」


 愛する人と一緒に過ごす……

 これだけでもかなり幸福を感じる

 ……失いたくないな












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