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第170話 バルバルバ防衛戦

 焔暦148年 1月中旬


 バルバルバ領の北部にある『マッテリオ平原』

 そこでバルバルバの軍とヤークレンの軍がお互いを睨み合っていた



 侵攻してきたヤークレン

 総大将はバルドナ・ヤークレン

 数人の将を連れ、兵力は約200,000


 対するバルバルバ

 総大将はバルバルバの将である『ミールマ』

 バルバルバの領主である『メーリス=バルバルバ』に長く仕える重鎮である


 軍の戦力としては彼以外に4人の将

 そして1人の軍師が同行していた

 兵力は約70,000


 軍の規模の差は歴然であった



 ヤークレン軍は軍を4つに分けた

 バルドナが指揮する本隊を本陣に待機させ

 残りの3つの軍……兵力150,000を突撃させ、数で決めようとしていた


 対するバルバルバ軍は軍を2つに分けた


 ミールマの指揮する本隊、兵力は20,000

 そして残りの50,000の兵を編成した軍でヤークレンの軍を迎え撃とうとしていた




「見ろ! バルバルバの軍を!! あの僅かな兵で我々に勝つつもりの様だ!」


 バルドナは笑いを堪えながら叫ぶ


「奴等に目にものを見せてやれ! 殺し! 奪い! この地を手に入れる!!」

『うぉぉぉぉ!!』


 雄叫びを挙げる兵達

 ヤークレン軍の士気は最高潮だった



 対するバルバルバ軍



「これ……本当に勝てるのか?」

「俺、まだ死にたくねえよ……」


 バルバルバの兵は怯えていた

 ヤークレンの大軍を見て完全に畏縮していた

 逃走する兵が出てくるのも時間の問題だった


 ……この時までは




 ドン!!


『!?』


 力強く、地面を叩きつける音が響いた



「…………」


 音を出したのはミールマである


「たわけ者が……この程度の戦力差、直ぐに覆す」


 ミールマは兵達を見ながら話す


「お前達は臆病者か?」


 そして問う


「お前達は何も出来ぬ赤子か?」

『…………』

「違うだろ?」


 ドン!!


 再び地面を叩きつける音が響く


「この腕は何のために武器を取る?」

『はっ! 故郷を護るためです!!』

「この脚は何のためにある?」

『はっ! 戦場を駆けるためです!!』

「わかっているのなら……怯えるな! お前達には俺がついている!!」


 ミールマは振り返りヤークレン軍を見る


「奴等に見せてやろう……バルバルバを……西方の恐ろしさを!」

『おおおおおおお!!』


 ミールマの鼓舞により、バルバルバ兵の士気が高まった


「……流石だな」



 その光景を眺めながら、1人の男がほくそ笑む


 彼は軍師である『シャリオン』

 軍師と言ってもレリスの様な進行役ではなく

 戦で策を考える軍師である


「これなら問題なく策を実行できそうだ」


 シャリオンは既に勝利を確信していた

 ヤークレンが攻めてきたと聞いた時は肝を冷やしていたが

 総大将がバルドナな事

 そして攻めてきたヤークレン軍の布陣と編成を見て策が成功する事を確信していた


 既に準備は出来ていた

 あとは開戦を待つだけであった



 ・・・・・・・・・・・


 マッテリオ平原

 天候は曇り


 先に動いたのはヤークレン軍だった


 50,000の兵を編成した3つの軍が一気に突撃する


 バルバルバ軍も動く

 50,000の兵で編成した1つの軍がヤークレン軍を待ち受ける



 兵力差は3倍

 ヤークレン軍が突撃を開始して数分後

 両軍は交戦を開始した



「バルバルバの連中を斬り捨てろ! 一気に敵本陣を制圧するんだ!」


 ヤークレンの将『リュッコ』が兵に指示を出しながら目の前の兵を剣で斬り殺す


「陣形を崩すな! 長槍で突け! 腹部を狙え!」


 バルバルバの将『バーベル』が兵に指示を出す

 指示を受けた兵が通常の倍の長さがある槍を突き出す

 1本の長槍で2人から3人の兵が貫かれる

 致命傷にならなくても、動きを制限する効果はあった

 長槍を突き刺した兵は素早く槍から手を離して剣を抜く

 そして目の前の兵を斬り殺す

 こうすることで槍を抜かれるのに時間がかかるようにするのだ


 交戦した直後はヤークレン軍が有利だった戦況

 しかし、少しずつだがバルバルバ軍の統制された動きにより突撃を止められる


「ええい! 邪魔だな!」


 ヤークレンの将『トラーム』は長槍で貫かれて、動きにくそうにしてる兵を斬り捨てる


「貴様ら! こんな小細工で手間取るな!! へし折るなりしてさっさと動け!! もたもたしていたら俺が殺す!!」

「ひっ!!」


 トラームの怒声により、身の危険を感じた兵達は自身を貫く槍を剣で斬ったり折ったりして抜け出す

 身体に槍や棒が刺さったままな為に激痛が走るが、味方に殺されるよりはマシだと思い必死に戦う

 徐々に旗色が悪くなるバルバルバ軍


「ヤークレンの連中、長槍対策を見つけたか……」


 その様子を戦いながら見ていたバルバルバの将『ヤーラン』は近くの兵に向けて叫ぶ


「ヤークレンが長槍対策!! 皆に伝えろ!!」

「はっ! ヤークレン! 長槍対策!」


 その兵士が叫ぶ

 それを聞いた他の兵も同じように叫ぶ

 数分後には交戦していたバルバルバ軍全員が状況を理解した


「よし、時間も稼げただろう……これ以上は被害が大きくなる! 全軍後退!!」


 バーベルが指示を出す

 一気にバルバルバ軍は後退を開始した


「追え! 殲滅するんだ!!」


 リュッコは追撃を命令する


 この時点で死者は両軍合わせて四桁を越えていた


 ・・・・・・・


「ははははは!! 見たかガリウス! バルバルバの連中が逃げていくぞ!!」


 バルドナは高笑いしながら本陣でその様子を眺めていた


「ほぅ……」


 ガリウスは感心した様子で眺めていた


「これならバルバルバを攻略するのも容易いな!」


 調子に乗るバルドナ


「そうは上手くいかないと思うがな」


 そう言ってガリウスは鉄槌を手に取る


 先程、ガリウスは感心していた

 それはバルドナに向けてではない

 バルバルバに向けてであった


「ガリウス? 何故鉄槌を構えるんだ?」

「お坊ちゃん、知ってるか?」

「うん?」

「戦はどんなに有利に運んでも、本陣が制圧されたら敗けなんだぜ?」

「……なに?」


 何を言っているんだ?

 バルドナはそう思った


「……3万だな」

「?」


 ガリウスが呟いた瞬間


「も、申し上げます!!」


 兵士がバルドナの駆け寄る


「どうした!?」

「ロンヌールの旗を掲げた軍が本陣を囲むように現れました!! その数3万!!」

「っ! 慌てるな! こっちは5万の兵がいるんだ!!

 さっさと返り討ちにするんだ!」


 バルドナは叫ぶ


「無理だな、戦を知らない兵と、戦い続けた兵は自力が違う」


 ガリウスはそう言ってバルドナを持ち上げる


「ぬぉ!? ガリウス! 何をする! 降ろせ!」

「とっとと撤退するぞ、この戦は敗けだ!」

「何を言ってる! 交戦してる奴等を呼び戻せばいいだろ!」

「間に合わないだろうな、それに……ロンヌールが来たんだ! 来るぞ! 奴等がな!」


 ・・・・・・・・・


 後退するバルバルバ軍を追撃していたヤークレン軍


「敵本陣が見えてきたな!」


 トラームがバルバルバの本陣を黙視した時だ


「トラーム様! 本陣から撤退の合図が!」

「あん? 何を言ってるんだ! もう敵本陣が目の前なんだぞ!」

「しかし! どうやら本陣が敵の奇襲を受けた様で……」

「本陣にはガリウス様が居るんだ! そう簡単には落ちねえよ!! それよりも敵本陣を……」


「トラーム様! 後退していたバルバルバ軍が反転! 突撃してきました!」

「なんだ? 死ぬ覚悟が出来たか? なら望み通り殺して……」

「トラーム様!!」

「なんだようるせえ!!」


 トラームは次々と報告にくる兵にキレる


「ひ、東から敵の援軍です!!」

「数は!」

「恐らく2万から3万かと!」

「なら気にするな! バルバルバの最後の抵抗だろう!」

「違います! バルバルバ軍ではありません!」

「あっ? じゃあ何処だよ!」

「シルテン軍です!! シルテン軍が現れました!!」

「ちっ! シルテンか……だが数は多くない! やっぱり気にするな!」


 そう言ってトラームは突撃してきたバルバルバ軍と交戦を開始した


 彼は知らなかったのだ

 バルドナに気に入られて将になった彼は知らなかったのだ

 まともな戦を知らなかった

 西方の事を知らなかった

 そして……シルテンの将を知らなかったのだ


「ぎゃあああああああ!!」

「!?」


 兵の断末魔

 すぐ近くから聞こえた

 トラームは思わず声のした方を見る


「…………」


 そこには男が居た

 騎乗しており、返り血にまみれた装備から将だとわかる

 男の側の兵の鎧からシルテン軍だとすぐにわかった


「貴様! 何者だ!」


 トラームは叫ぶ


「我が名はシルテンが将、カルスト! 盟友への義により参戦した! 貴殿はヤークレンの将だな?」

「俺はトラーム! 貴様を殺す男だ!」


 この時、トラームは選択を間違えた

 相手がカルストだと知った時点で逃げるべきだった


 馬を走らせ、カルストに向かうトラーム

 カルストは2つの長斧を持っている……しかし動かない

 トラームはカルストが自分の動きに反応できてないのだと思った

 剣を振り上げ……間合いに入った瞬間に振り下ろした

 狙いは右肩……そこから斜めに斬り捨てようとした

 それが出来るとトラームは自信を持っていた


 しかし、トラームの予想は大きく外れた


「ふっ!」


 ガン!


「!?」


 カルストは少し頭を動かし……振り下ろされた剣を冑で簡単に受け流した


「弱い!! 弱すぎる!!」


 カルストはそう言って、自分の側を駆け抜けようとしたトラームに長斧を振った


 ザシュ!


「!!!?」


 トラームは何が起きたのか理解できなかった


 いつの間にか地面に落ちていた

 そして、横を見ると馬が走っていくのが見えた

 馬の上には下半身が乗っていた


「……あっ?」


 トラームは目線を下に向ける

 そして、自分の下半身が無くなってる事に気づく


「っ! あっ……あがぶ!?」


 驚きのあまりに絶叫しそうだったトラーム

 しかし、彼が叫ぶ前に戦いに集中していたシルテンの兵が乗ってる馬によって……トラームの頭は潰された


 こうして、トラームは呆気なく絶命したのだった



「ヤークレンの兵を殲滅せよ!!」


 カルストの鼓舞により、士気が高まってるシルテン軍

 トラームが死んだことにより、慌てる一部のヤークレンの兵

 次々と殺されていくヤークレン兵の姿があった


 ・・・・・・・・・


 シルテン軍が援軍として駆けつけた時

 西からもバルバルバへの援軍が現れていた



「ちっ! 邪魔だな!」


 リュッコは現れた援軍に苛ついていた

 西から現れた援軍はサタヌルス軍だった

 数は約4万


 リュッコはサタヌルス軍を確認したときに、すぐにサタヌルス軍に向かった

 突撃してきたバルバルバ軍とサタヌルス軍……二方で同時に相手するよりは、軍を分けてそれぞれ相手した方が良いと判断したのだ


 この判断は普通なら正しかった

 彼は知らなかった

 東からシルテンの軍が現れた事を

 二方ではなく三方から攻められてる事を……


『わぁぁぁぁぁぁ!!』


「なんだ!?」


 バルバルバ軍と交戦してる味方の軍から叫び声

 というよりも断末魔……それを聞いて驚くリュッコ


「リュッコ様! 東からシルテン軍が現れました! それと……トラーム様が討ち死にされたと!」

「なに!?」


 驚くリュッコ

 彼は漸くシルテン軍の存在を知った

 しかし、色々と遅かった

 既に彼が合流してもどうしようもない状況になっていた


 そしてリュッコ本人もどうしようもない出来事に襲われた


 ヒュッ!


 それは何の変哲も無い矢だった

 サタヌルス軍の兵が放った矢だった

 それがたまたま……


 ドス!


「うぐっ!?」


 冑と鎧の隙間に刺さった

 リュッコの喉を貫いたのだ


「かっ……はっ?」


 何が起きたのかわからないリュッコ

 理解する前に……リュッコは絶命し……落馬した


「なんとも……無様な最後ですねぇ……」


 それを見て呟いたのはサタヌルスの将、ケイロスだった


「何も残さないとは……私もこんな最後は迎えたくないですね……さてと、では皆さん! ヤークレンを殲滅しましょう! せめて、華やかに! 彼等の血で染めてあげましょう!!」


 サタヌルス軍がヤークレン軍に突撃した


 前線で交戦していたヤークレン軍は三方からの襲撃により、多数の死者を出した

 残っていた将が撤退指示を出した

 それにより、ヤークレン軍は撤退を開始できた


 ・・・・・・・・・


「ほらどけどけ!」


 ガリウスは鉄槌を片手で振り回す

 ロンヌール兵達を次々と殺していきながら、悠々と撤退していた


「うぉわぁぁぁぁぁ!?」


 ガリウスの肩に担がれていたバルドナは悲鳴をあげることしか出来なかった


「その姿! ヤークレンのガリウスと見た!!」


 ロンヌールの将『パルムク』が馬を走らせながら剣を抜いてガリウスに向かう


「おう! 俺がガリウスだ!」

「いざ、尋常に勝負!!」


 パルムクはガリウスに向かって剣を振る


「断る!」


 ギィン!


「なっ!?」


 パルムクは左腕に付けている手甲で剣を受け止める


「またの機会に相手してやるよ!!」


 そう言って右手で鉄槌を振るう


 バキ!


「ヒグゥ!?」

「なっ!? ぐわぁぁぁぁ!!」


 ガリウスの鉄槌はパルムクの馬にめり込んだ

 そして馬ごとパルムクをぶっ飛ばした


「がっはっはっは!!」


 ガリウスは笑いながら撤退していった



 こうしてマッテリオ平原での戦は数時間で終了した

 バルバルバ軍の被害は約2,000人の死傷者が出た


 対するヤークレンは将2人と約30,000人の死者

 そして数千の兵が捕虜として捕らえられた


 バルドナ・ヤークレンの初めての戦は大敗北だった



 このヤークレンの敗北が、後にカイトに……オーシャンに大きな犠牲を出させる事になるとは

 カイトが知るよしはなかった……















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