第169話 ゼルナ帰る
新年を迎えてから5日が経過した
やっと挨拶の大行列が終わった
「……つ、疲れた」
俺は玉座にもたれながら天井を見上げる
「まさか他の地方の貴族まで来るとは……色々と利用できそうですね」
レリスが不穏な事を呟く
俺はレリスの呟きを聞かなかった事にして前を見る
「失礼します!」
玉座の間の扉が開き、誰かが向かってくる
ってヘルドじゃないか!!
「ヘルド! 久し振りだな!」
「お久しぶりです! カイト様! 新年! おめでとうございます!!」
体調は好調な様だ
昔みたいに気迫っていうのか? なんか存在感が強い感じがする
「最近の調子はどうだ?」
俺はヘルドの近況を聞く
ヘルドはヘイナスでの出来事を話してくれた
賊を捕らえたりした事や
民達が健やかに過ごしてる事をだ
「それとサルリラも軍に復帰しました」
「えっ? もうか? ユーリの面倒とかは良いのか?」
無理しなくていいんだぞ?
「ユーリは乳母を雇っているので大丈夫です、屋敷に帰ってる間は俺もサルリラもユーリと過ごしています」
「そっか……ユーリは元気か? そろそろ10ヶ月くらいだろ?」
「最近つかまり立ちを出来るようになりました! もう元気に歩き回って大変ですよ!!」
大変とか言ってるけど……苦では無さそうだな
だってむっちゃ顔がゆるんでるんだぞ?
デレデレじゃないか!
「やっぱり子供は可愛いみたいだな」
「ええ! とても! あの子の為に頑張ろうと思えますよ!!」
「……ヘルド殿がここまで言うとは……」
レリスが驚いている
「本当はサルリラやユーリも連れてきたかったのですが……」
「サルリラはともかく……ユーリには馬車の移動は辛いだろう、機会があれば俺の方から会いに行くから気にするな」
「ありがとうございます!!」
「失礼します! ってヘルド?」
今度はルーツがやって来た
「おお、ルーツも来たのか!」
俺はルーツを手招く
「カイト様、今年もよろしくお願いします」
ルーツは俺の前に立つと、深々とお辞儀をした
「ああ、今年もよろしく」
ルーツも来るとはな……ここにオルベリンも居たらオーシャン初期組集合だな
・・・・・・・・・・
さて、ルーツからの報告は暗殺ギルドのアジトの跡地を見つけたって話だった
恐らくファルが所属していたギルドのアジトだったと思われてる
もう使われなくなって数年は経ってる様子だったそうだ
取り敢えず、今は中を調査している……っという報告だった
それと本人が新年の挨拶に来たかったそうだ
……そっちがメインだろうな
「まあ、折角来たんだ、のんびりしていけ」
俺はそう言って玉座から立ち上がる
「おや? カイト様、業務は終わられたのですか?」
ルーツが聞いてくる
「ああ、ゼルナ達が明日には帰るからな、今日は早めに切り上げたんだ、これから訓練場に向かう」
因みにゼルナ達は今は訓練場だ
向こうもそろそろ訓練が終わる頃のはず……
『お供します!』
……同時に言うなよ
・・・・・・・・
そんな訳でヘルドとルーツを連れて訓練場にやって来たのだが……
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「どうしてこうなった!?」
ヘルドとゼルナが激闘を繰り広げていた
こうなった理由は、ユリウスを倒したゼルナがやって来たヘルドを見て
『どうした? オーシャンの将はこの程度か?』
っと、わかりやすい挑発をした
それにね……あっさりと乗るんですよ……うちの猪突猛進野郎は……
「マジかよ……ヘルドのおっさん、強くなってやがる……」
近くで観戦しているユリウスが呟く
「どうしたどうした! 『砂豹』はその程度かぁ!」
「まだだ!!」
これ模擬戦だよな!?
どっちかが死ぬまで戦う訳じゃないよな!?
「死ねぇ!」
死ねぇ! って言っちゃってるけど!
「なんのぉ!! くたばれ!」
ゼルナァ!? くたばれとか叫んでる!?
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「これはまだ掛かりそうだな……」
2人とも余力を残していそうだし……
「そうだ、ブライアンはどうした?」
彼の訓練もしてる筈だが……
「ブライアンならあそこです」
ユリウスが指を指す、俺は視線を移す
「えいやぁぁぁぁぁ!!」
「そいやぁぁぁぁぁ!!」
「せいやぁぁぁぁぁ!!」
アルスとシャルスとブライアンが岩を持ち上げていた
「なにやってんのあれ?」
「力比べだそうで……因みに1番重い岩を持ち上げたのはモルスの野郎です」
モルスかぁ……確かにアイツの力は凄かったな……
まあ、力持ちはチップスが1番印象が強いが……馬車を引いてたし……
「ブライアンも大分馴染んできたな……」
「ナンパも余裕で出来るくらいには馴染みましたね」
「……えっ?」
俺はユリウスを見る
「この間なんか鍛冶屋の看板娘をナンパして鉄槌で殴られてました」
語尾に(笑)の文字が見えた気がした
「……人見知りは改善できたと考えておこう」
後でゼルナから文句を言われたらどうしよう……
そう話していたらアルス達は岩を地面に置いていた……疲れたようだな
あの様子なら大丈夫だろうな……
さて、そろそろヘルド達の戦いが終わってるはず……
俺は振り返る……そこには……
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ごぉぉぉぉぉぉ!!」
壊れた訓練用の武器を地面に捨て、拳で殴り合ってる2人の姿があった……
……これいつ終わるの?
・・・・・・・
そんな事もあって、俺達は今は城の中の使用人用の浴場に来ていた
訓練の汗を流すためにな
裸の付き合いも大事なんだぜ?
「やはり浸かるっていうのは良いものだな」
ゼルナが湯船に浸かりながら言う
上半身の身体付きはとても筋肉質である……すげえな
俺も鍛えて筋肉は大分付いてきてるが……負けた……
「そらそらそらそら!」
「いだだだだだ!?」
洗い場ではヘルドがルーツの背中を布で磨いている
ルーツ……死ぬなよ
「…………やはり不思議だな」
不意にゼルナが呟いた
「んっ? 何がだ?」
ゼルナの視線は……俺の身体だ……
えっ? なに? お前そっち系?
「カイト……何故そんなに鍛えているのに実力を発揮しない?」
「へっ?」
「お前の身体を見たら、俺に一撃で負けるようには見えん……戦闘の才が無いとも思えない」
「そ、そうか?」
これは褒められてるんだよな?
「手を……抜いてるわけではないんだよな?」
「当たり前だろ? 俺はいつも全力だ」
「だろうな、お前はそんな奴だ……だから不思議なんだ……」
うーん……俺の武力が20で限界を迎えてるからじゃないのか?
てか全部のステータスがいまも20で止まってるんだよな……泣きたい
「兄さんはそれでいいんだよ、僕達が守るんだから!」
アルスが湯船に入ってきた
「嬉しいことを言ってくれるなアルス! 撫でてやる!」
俺はアルスの頭をわしゃわしゃする
「…………」
ゼルナは微笑みながら俺達を見ていた
因みにブライアンは逆上せた様で、さっきレムレに介抱されながら出ていった
・・・・・・・
翌日
「それじゃあ、今日まで世話になった」
ゼルナが俺に言う
「まだ滞在してても良かったんだぞ?」
「その誘いは嬉しいが、そろそろベススが心配でな」
「そっか……また来いよ」
「ああ、機会があればな……」
俺とゼルナは握手する
ファルンもティンクやミルムと色々話していた
ブライアンもアルス達と何か話していた
「さてと……そろそろ行くぞ!」
ゼルナが2人を呼ぶ
「では、お世話になりました……」
ファルンがティンク達にお辞儀をしたあと、俺に礼を言ってから馬車に乗り込んだ
「次はもっと強くなってるから! 皆よりね!!」
ブライアンもアルス達にそう言ってから馬車に乗り込んだ
そして馬車が走り出した
こうして……ゼルナ達が帰って行ったのだった……
・・・・・・・・・・
カイトがゼルナと別れを済ませていた頃
ヤークレンの軍が西方との国境を越えていた
ヤークレンの軍、総大将はバルドナ・ヤークレン
そのバルドナの側には……八将軍の1人、ガリウスが居た
「ガリウス、バルバルバの兵力は10万くらいだったよな?」
バルドナはガリウスに問う
「ああ、西方でも兵が多いところだな」
ガリウスは答える
「そうか、バルバルバを攻略したら、一気に西方を攻略出来そうだな……そうしたら……俺が父上の後継者に相応しいと皆が認めるな!」
バルドナの眼が輝く
ヤークレン……というよりもメルセデスは後継者を『最もヤークレンを栄えさせた者』と決めている
そのため、メルセデスの子供達は任せられた領地を栄えさせようとしていた
メルセデスの子である彼等は、お互いに仲間であり、競争をしている敵なのである
「この20万の兵で……バルバルバの連中を攻略してやる!! ははははははは!!」
バルドナの笑い声が響いた……
ヤークレンとバルバルバの争いが……もうすぐ、始まろうとしていた