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第168話 動く者達

 焔暦148年 1月


 新年を迎えた……これから色んな人間が挨拶に来るんだと思うと気が重い


「正直面倒なんだよなぁ……」


 玉座でぼやく


「仕方ないでしょう? これも仕事なんですから」


 レリスに言われる

 わかってる……わかってけど面倒なんだ

 挨拶に来るのは数人くらいで、後は年賀状とかにしてほしいものだ……

 年賀状とかサーリストには無いけどな!


「まぁ、最近会う機会が減った奴等に会えるのは嬉しいんだけどな……」


 ヘルドとかルーツとか……

 都を任せてる将達はあまり離れられないからな……こういう時か、重要な報告の時にしか来れないんだよな


「そうですね、既に城門にはカイト様に挨拶しようと色んな人物が来てますよ、馬車が並んで都の外まで続いてます」

「……えっ? そ、そんなに?」


 待ってくれよ……去年は1日に来る人数はまだ数えられるくらいだったろ?

 そんなに増えてんの!?


「何を驚いているのです? 東方の主になって1年経ったのですよ?……カイト様はそれほどの人物になられたのです……自覚されましたか?」

「荷、荷が重い……」

「はいはい、しっかりしてくださいね」


 クスクス笑いながらレリスは机の上の紙の束に眼を通し始める

 ……俺が権力を強めるって事は、レリスの仕事も増えるって事だから……この紙の束は俺の影響って訳で……

 も、申し訳なさが……


「レリス……人手増やすからな……」

「ええ、そうしてください……そろそろ来ますよ」


 こうして新年を迎えて、今年最初の仕事が始まった


 ・・・・・・・・・・


 ーーー昼ーーー


「新年おめでとうカイト」

「おめでとうゼルナ……」


 ゼルナが礼装姿で挨拶に来た

 実は朝も簡単に挨拶したんだけどな……こうやって(おおやけ)の場でしっかりと挨拶するのも大事なんだそうだ


「ふっ、疲れきってるな」

「わかる? 朝からずっとだからさ……」


 将達はまだいいんだ……気が許せるから

 問題は貴族だ!!


「むっちゃ媚売ってくるし……アルスやミルムの婚約に子供を勧めてくるし……」

「貴族とはどこもそんな者だ……姉上も良く愚痴っていた」

「ゼルナもやっぱりそんな話があったのか?」

「あるぞ? 面倒だから適当に流すがな」


 手慣れてるのね……


「そんなにキツいのならアルスやミルムに少し代わって貰えば良いんじゃないのか?」

「えっ?」

「挨拶程度ならあの2人でも大丈夫だろう? 誰が来たのかは記録に残している筈だ、1日……は無理だろうが、1時間……いや30分だけでも休めたらマシになるだろ?」

「そういうのって、やって良いのか?」

「ベススでは普通だぞ? 他の領でもやっているが?」

「…………」


 俺はレリスを見る


「私は逆に、今までやらなかったのか不思議だったのですが?」

「それをもっと早く言ってくれよ……」


 今までの俺って……


「レリス、アルスを呼んでもらえるか? 少し代わって貰えるか聞いてからな?」

「畏まりました」


 レリスは隅に待機していたメイド数人に指示を出す


「俺はそろそろ行かせてもらおう」

「ああ、ゼルナ、助かった」


 少ししてからアルスが礼装を着てやって来た


「兄さん、話は聞いたよ、少し位なら代われるから休んできなよ」

「ああ、じゃあ頼む」


 俺はアルスの手を取って立ち上がる


『…………』


 そしてアルスと見つめ合う


「……兄さん?」

「いや、なんで座らないんだ?」

「えっ? 玉座だよ? 兄さんが居るのに座れないよ」

「いやいや、俺の事は気にせずに座れって、立ってる方がキツいし不自然だろ?」

「それはそうだけど……」


 渋るアルス


「良いんじゃないですか? カイト様が言ってるんですし……誰もアルス様が領主の座を狙ってるなんて考えませんよ」


 レリスが言う


「そ、そう?」

「ええ、そんな人物が居たら……カイト様がどうにかしてくれますよ」

「そうだそうだ、だから気にするな」

「じゃ、じゃあ失礼して……」


 アルスが玉座に座る


「……ふむ、様になってるな」

「か、からかわないでよ!!」


 領主アルス!


「悪い悪い! じゃあ少しの間任せる……キツかったら呼んでくれよ? 無理するなよ?」

「わかったから兄さんはさっさと休む!」


 俺は玉座の間を後にした

 あー、キツかった!


 ・・・・・・・・・


「それでここに来られたのですね♪」


 中庭でティンクが嬉しそうにしていた


「そうそう、アルスには悪いが疲れてな……正直貴族の相手はキツいし」


 将達は気を使ってか


 挨拶

 最近の出来事

 これからの目標


 この3つの事を話したら切り上げてくれる


 貴族は人にもよるが……


 挨拶

 最近の出来事

 自分がどれだけ役に立つかアピール

 俺の愛人、アルスやミルムの許嫁に子供を勧める

 親族が軍に入れるようにごますり

 利権を求めてペチャクチャペチャクチャ


 ……長いんだよな!!

 後どうでもいい話題ばかりだし!!

 お前らの武勇伝とかどうでもいいわ!!

 もっと身になる話題を出せよ!!


「お疲れ様です……カイトさん、どうぞ」


 ティンクがクッキーを1枚差し出す


「ありがとう」


 俺はそのクッキーを咥える

 あーん、ってやつだな


「相変わらず仲良しですね」


 ルミルが言う


「そうだろ? 2人とも新年から仕事させて悪いな」


 俺はルミルとテリアンヌに言う


「いいえ、領主だった頃に比べると大分楽です」


 テリアンヌが答える

 そうか、テリアンヌも領主だったから……挨拶の辛さがわかるんだな


「私も、正直普段から暇ですから……全く苦じゃないですね……逆に暴れ足りないです」

「そ、そうか……」


 やだ……この子思考が暴れん坊になってきてる……


「それに、さっきからティンク様に挨拶する人も居ますから……護衛は必要ですよ」

「そうなのか?」


 俺はティンクを見る


「はい、カイトさんによろしくお願いします……って人が何人か……後は将の方が挨拶に」

「そっか……」


 将は主の奥さんだからな、挨拶するのは礼儀だと思ってるんだろうな……

 それ以外は媚だな


「あとさっきまでミルムちゃんが居たのですけど……言い寄られるのが嫌になったのか部屋に戻りましたよ?」

「ミルムにか? ……そっか、そうだな……もうそんな歳だもんな……言い寄る輩も現れるか」


 今年で15……つまり成人だ


「ミルムちゃん、大きくなりましたね……綺麗な子だと思いますよ?」

「そうか? 俺には良くわからん……2人はどう思う? 遠慮なく本音で言ってほしい」


 ルミルとテリアンヌに聞く


「そうですね……伸ばした青い髪、輝くような赤い瞳、身体の方も女性らしく成長されてますし……はい、とても綺麗な女性になられたと思います」


 ルミルが答える


「私も見た目は綺麗だと思います……精神面がまだ幼い印象ですけどね」


 テリアンヌが答える


「そうなんだよな……中身なんだよな……」


 俺やティンクやアルスにレリス……あとオルベリンもか

 親しい人間を見つけたらいまだに抱きついてくる

 正直勘弁してほしい……

 ティンクの時は無意識に加減してるようだし、アルス達は普通に受け止めてるが……

 俺はぶっ倒れんだよ……勢いに負けてドカンと……

 痛いんだよな……


 それにルミルが言ったように身体も成長してるから……その、女性特有の柔らかさとかね?

 いや、妹相手に欲情とかしないぞ?

 そういう意味では何も感じない……

 むしろ心配になるんだよ……

 これを俺が知らないだけで……他の野郎にやってたりしないだろうな? ってさ


 これで変に勘違いしたり、問題が起きたら困る……

 欲情して襲う輩も出てくるかもしれない……

 うん、次抱きついてきたら強く言っておこう……それがミルムの為だ


「カイトさん? 大丈夫ですか?」

「んっ? ああ、大丈夫大丈夫」


 そう話していたら


「っ!?」


 ルミルが戦闘体勢をとった


「ルミル?」


 俺はルミルを見る

 ルミルは冷や汗を流しながら中庭の出口を見ている


「?」


 俺はルミルの視線の先を見る

 そこには男女が立っていた

 ゆっくりとこっちに向かって歩いてきてる


 女性の方は帽子で顔が見えない……魔女みたいな帽子だな

 男性の方は知ってる顔だ……久し振りにあったな

 ……あ、つまり隣の女性は……そうか、だからルミルが警戒してるのか


「ルミル、警戒しなくていいぞ、敵じゃない」

「し、しかし……この殺気は……」

「挨拶みたいなものだろうな……気にしなくていいぞ」


 多分、ある程度強い奴しか気付かない殺気なんだろうな

 俺とティンクとテリアンヌは何も感じてないし……


 まあ、だからってそのままにする訳にはいかないが


 俺とティンクは立ち上がる


「久し振りだね、カイト殿」

「ええ、俺……私の結婚式以来ですね、ガールニック殿」


 あぶねえ、素で接するところだった


「敬語はいいよ、君とは義兄弟(きょうだい)なんだから」

「そうですか、じゃあ気楽に……」

「お久しぶりです、ガールニックお兄様」

「うん、久し振りだねティンク……とても綺麗になって、ビックリしたよ」

「あ、ありがとうございます!」


 嬉しそうなティンク


 ガールニック・ヤークレン

 メルセデス・ヤークレンの三男であり……唯一ティンクを妹扱いしていた男性だ

 新年の挨拶に本人が来るなんて……珍しいな……いつもは使者なのに


「いやぁ、久し振りに2人の顔が見たくてね……あ、彼女を紹介するよ」


 ガールニックが女性を隣に立たせる

 俺は彼女を知っている……だって強力な将だからな


「初めまして……っと言いましょうかね?」

「俺がグレイクに行った時に一応……会ってるって言っていいのでは?」

「そうですか、ではお久しぶりと言っておきます」


 そう言って彼女は帽子を脱いでお辞儀する

 ヤークレンの最高戦力……八将軍の1人『シャルラーン』

 幼い見た目からは想像できない程の実力者である


「あの、シャルラーン殿……殺気を抑えてくれませんか? 彼女が警戒してますので」

「……失礼しました」

「……ふぅ」


 ルミルが警戒を解いた……いや構えを解いただけで警戒はしてるな……

 でも勝てないのがわかってるみたいだ……


「シャルラーンが失礼したね……この子いつも殺気を振り撒くからさ……」

「彼女なりに貴方の護衛をしてるんでしょう」


 俺はシャルラーンを見る

 シャルラーンは帽子をかぶっていた

 幼い見た目だけど……ガールニックよりも歳上だよな……

 オーディンよりも歳上だよな……何歳だっけ?


「さてと……こうして久し振りに会ったわけだし……」


 ガールニックが俺の肩を掴む


「んっ?」

「君達夫婦の話を聞かせてもらおうかな? 営みとか」


 ニヤリと笑うガールニック


「お兄様!?」


 赤くなりながら驚くティンク


「まあまあ、義弟と妹の生活が気になるんだよ」


 そう言ってティンクに話すために俺の隣を通る一瞬


「2人で話がしたい」


 ボソリとガールニックは囁いた


「もう! そ、そんな話は兄妹でも出来ません!! 他の話題にしてください!」

「おっと! 怒ったティンクは怖いな! 仕方ない、カイト! 向こうで詳しく聞かせてくれ!」

「仕方ないな! じゃあティンクの弱点の話でも」

「カイトさん!!」

「冗談だって! 大丈夫! 恥ずかしいところは伏せるから!」

「大丈夫じゃないです!!」

「シャルラーン、ここで待っててくれ!」


 俺とガールニックは中庭の奥に向かった

 ティンクが追おうとしたが、シャルラーンを見てから追うのを止めた

 ……シャルラーンが怖いのかもしれないな……出来るだけ早く戻ろう


 ・・・・・・・・


 俺とガールニックは2人で中庭の奥……花壇で囲われてる場所に着いた


「周りに人は……いないな」


 ガールニックは周囲を見回してから言う


「それで? ふたりっきりになる必要がある話題は? 本当に夫婦の営みを聞きたいので?」

「まさか、そこまで飢えてないよ」


 ガールニックは苦笑する


「シャルラーンとかに聞かれたら面倒だからね……」

「?」

「カイト、『バルドナ・ヤークレン』を知ってるかい?」

「メルセデスの次男……つまり貴方とティンクの兄ですよね? バルドナがどうしたのです?」

「バルドナが挙兵した」

「!?」


 挙兵……つまり戦を起こす……いや起こしたって言うべきか?

 普通の領だったら良くある事だ……でもヤークレンは別だ

 北方が動いた……つまり……


「メルセデスが侵略を開始した?」


 ヤバい……まだ俺は東方を手に入れて1年しか経ってない!

 まだメルセデスと戦う力なんて無い……このままだとヤークレンの力に屈する未来しかない!!


「いや、まだ父上は動いていない……バルドナが勝手に動いただけだ……」

「バルドナの独断……ってことか」


 いや、それでも大事(おおごと)だが……


「進軍先は何処ですか? まさか……ここじゃ……」

「いや、西方の『バルバルバ』だ」

「バルバルバ……」


 バルバルバ……西方では1番北方に近い領だ

 バルドナが狙うのは当然か


「それで? それが俺に……オーシャンに何か関係があるんですか? まさか……援軍に出ろと?」


 正直気が進まないが……援軍要請なら応じるべきだろうな

 断ったら後が面倒だ


「いや、それも違う……」


 ガールニックは設置してる椅子に座る


「今回の戦はバルドナが実績を手に入れる為の戦だ……恥ずかしい話……僕達兄弟は戦の経験が無いからね」

「実戦を体験するための戦ってことか……」


 長男のカシルナが成人する前くらいにメルセデスは北方を統一したんだっけか?

 そこら辺の記憶が少し曖昧になってきてる


「それで? バルドナの実力は知りませんが……ヤークレンとしての兵力ならバルバルバの攻略は余裕なのでは? 落とせなくても、領地をある程度は奪えるのでは?」

「いや、バルドナは負けると僕は思ってる……相手はバルバルバだけじゃないからね」

「……西方同盟」

「そう……バルバルバ、シルテン、コイシュナ、ロンヌール、サタヌルス……西方の領全てが結んだ同盟だね……西方を相手にするって事は……この全てを相手にするって事だ」

「バルドナだけでは力不足って事ですか」

「うん……父上が動けば勝てるだろうけど……それでも損害は大きいだろうね、だから父上は西方を攻めようとしなかった」

「それほど強力な同盟って事か……」


 ……やっぱり西方の前に南方を手に入れるか……もしくはベススに南方を統一してもらって、同盟と同盟でぶつかるか……


「流石だね、もうどうやって攻略するか考えてる」

「……わかる?」

「うん、よくわかる」


 俺ってそんな分かりやすいか?


「それで本題なんだけど……バルドナは恐らく負ける……そして撤退する」

「それで?」

「その後、君を利用してくると思うんだ」

「俺を?」

「そう、バルドナはプライドが高いからね……負けたら勝つまで攻めると思う……諦めるって考えはないと思うからさ」

「……それで? 俺を利用するって事は……援軍を要請してくるのか?」

「多分ね……もしかしたらもっとキツい事かもしれない……だから君に忠告しておこうと思ってね……バルドナの要請は全て拒否するんだ」

「……理由は?」

「さっきも言ったが西方同盟は強力だ……君の援軍が有っても攻略は無理だ……バルドナはまた負けるし、君も被害が出る……バルドナはどうでもいいけど、君の方にまで被害が出るのは僕は避けたい」

「……」


 俺はガールニックの眼を見る……本心から言ってるみたいだ……


「何故そこまで俺を気にかける?」

「ティンクの夫だからね? 可愛い妹を守りたいんだ」


 ………………


「それ嘘でしょ?」


 ティンクを大事に想ってるのは本当だろうが……それだけでこんな事を言うわけ無い……てかふたりっきりになる意味がない

 シャルラーンが居ようが、他の誰かに聞かれようが……この程度の話は世迷い言とかで切り捨てられるし惚けられる


「……やっぱり誤魔化せないか」


 ガールニックはため息を吐く

 そして周りを警戒してから口を開いた


「時がきたら、僕は父上に謀反を起こす……」

「!?」


 俺は眼を見開く

 謀反を起こす? ガールニックが? メルセデスに?


「理由を聞いても?」

「父上のやり方を僕は気に入らない……領主としての務めはある程度は果たせている……だけど強引だ」


 ガールニックはまた周りを警戒する


「父上は強いものは認めるが弱いものは切り捨てる……立場は関係ないって言ったら聞こえは良いけど……実際は弱者は見殺しにしている……グレイクに来たんだよね? 街中を見たかい?」

「いや、あの時はすぐに出ていったからな……」

「そうか……グレイクは表通りは立派だ、だけど……裏通りでは悲惨な事になってる……力の無い者、弱ってる者、そんな者達がドンドン死んでいってる……知ってるかい? ヤークレンでは春になってもグレイク付近は雪が降ってるんだ、夏ごろにやっと雪が溶けて……冬を越せなかった民の死体が出てくるんだ……」

「…………」


「僕はね……そんなヤークレンを変えたいんだよ……弱者だって生きる権利はあるんだよ……だから僕は父上を否定する……」

「……それをなんで俺に話すんだ?」

「君は父上といつか戦うって言ったんだろ? だから、僕が戦うときに……一緒に戦ってほしい」

「……謀反に協力しろって事か……俺がそれをメルセデスに密告するとは考えないのか?」

「だから今まで黙っていたんだよ? でも君は東方を統一した……そして次を考えてる……だから僕は君を信用して話すことにしたんだ……これは君にも利がある話だろ?」


 確かに……ヤークレンと戦うときにガールニックが謀反を起こせば……少しは有利に戦える


「……何故シャルラーンには言わないんだ? 彼女は貴方の配下では?」

「違うよ、彼女は僕のお目付け役だ、僕が謀反を起こせば、彼女は父上に味方する……八将軍は皆父上の忠臣だからね」

「成る程……」


 だからシャルラーンに聞かれないようにふたりっきりで話したし

 バルドナの要請を拒否しろって言うんだな……オーシャンが損害を出せば、それだけガールニックの計画が遅れる……


「……カイト……僕に協力してくれるかい?」

「…………協力ねえ」


 正直……受けるべきではないかもしれない

 ガールニックを信用するか微妙なのだ

 彼は嘘は言ってないだろう……本心で全てを言ってるだろう

 でも……俺はそれを確信できない……彼がまだ何かを隠してる……そんな気がするのだ


「…………もし断ったらどうするつもりで?」

「……予想できるよね?」


 ガールニックが立ち上がる……

 腰に差してる剣が俺の目に入る……断ったら斬るつもりか……


「それって脅迫では?」

「そうだね……自分勝手な事だとは思ってる……けど……」


 ……後には退けないか


「……はぁ、2つほど条件がある」

「……なんだい?」

「1つ、メルセデスや他の奴等に絶対にバレるな……行動を起こす前に終わるなんて間抜けな事は嫌だからな」

「それはそうだね……もう1つは?」

「俺の準備が整うまで動くな、俺がヤークレンに対抗できる力を手に入れるまで待ってほしい」

「勿論……父上の力はとんでもないからね……僕も負けるとわかる戦いはしたくない」


 よし、それが約束できるなら


「ガールニック……よろしく」

「嬉しいよ、カイト」


 俺とガールニックは握手する


「それじゃあ……戻ろうか?」

「? なんか証を用意しなくて良いのか?」


 血判状とか……


「さっきの握手が証になるから必要ないよ」

「……そうなのか? っ!?」


 ズキッと握手した右手に痛みが走る……

 手を見ると紋章みたいなのが浮かんでいた……それはすぐに消えていった


「今のは?」

「契約の証……どちらかが約束を反故しないようにする術だよ」

「術?」

「これ以上は秘密……言えないんだ」

「……そっか……もし反故にしたら?」

「死ぬよ?」

「……恐ろしい事をするな!?」

「反故しなければ良いんだよ」


 こうして……俺とガールニックの密約が結ばれた

 ……てか死ぬって簡単に言ったな……

 ガールニック……恐ろしい奴……


 ・・・・・・・・


 ティンク達の所に戻った


「は、話してませんよね!?」

「大丈夫だって、ティンクが耳が弱いとか話してないから」


 そう言ってティンクの耳を撫でる


「ひゃう!? もう!!」


 耳まで赤くなったティンクは俺の胸元に顔を埋める


「ふふ、じゃあ帰るよ……カイト……ティンクをよろしく」

「ああ、ガールニックも身体には気を付けろよ? 風邪とかキツいんだからな」

「ああ、気を付けるよ」


 勿論、風邪の心配ではなく密約の心配である


 こうしてガールニックはシャルラーンと共に帰っていった



 その後、俺はティンクと話をしてから玉座に戻った

 アルスは疲れきったのかふらつきながら玉座の間を出ていった


 さてと……挨拶の再開といきますか!









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