第166話 都を案内
カイトとゼルナがオルベリンに会いに行き
ブライアンがゲルド達に鍛えられている頃
ーーーファルン視点ーーー
「ほらほら、此方に面白いのがあるんだよ!」
「ミルム様! 走ったら危ないですよ!」
ミルム・オーシャン……ミルムさんが走るのを護衛の……ファルさんでしたっけ?
心配そうに追いかけていく
「ふふ、相変わらずですね」
カイト・オーシャンの妻であるティンクさんが微笑む
その側で護衛の将が苦笑していた
1人はテリアンヌ・パストーレ……この間までオーシャンが戦をして降したパストーレの領主……
降伏したとはいえ……敵だった人間を妻の護衛にする……理解できません
「…………」
もう1人の子は名前がわからない……
ある程度の実力はあるようですが……貴族とかではなさそうですね……
……そう言えば似た顔の人が居たような……
「えっと、私の顔に何か付いてます?」
「あ、いえ……」
見すぎましたか……失礼なことをしてしまいましたね
「みんなー!! はやくー!!」
ミルムさんが呼んでいる
「あ、行きましょうか」
ティンクさんがそう言って歩き出す
私達も一緒に歩く
ミルムさんがお店を紹介する
私達は紹介されたお店を見物する……必要なら買い物をしたりする
こうして都を歩き回る
……歩き回ってわかった事が2つある
1つはオーシャンの都はかなり広いって事だ
ベススの数倍はあるんじゃないのかって広さだ……
「何故……こんなに広くしたのでしょう……」
堪らず呟く
「あっ、私もそれは気になってました」
テリアンヌさんが同調する
「えっ? ……何故でしょう?」
ティンクさんは知らないようだ
「確かルスーンさんが張り切って予定よりも広く作ったって聞きましたよ? 元々は今の半分くらいの広さの予定だったそうです」
「そうなんですか? ルミルさん詳しいですね?」
そうか、この子はルミルって名前ですか
覚えました
「都に越してきた夜にレリスさんが愚痴っていたとメイド経由で聞きました」
……守秘義務とか大丈夫なのでしょうか?
さて、話題が逸れてきましたが……
もう1つ気付いたことは……
「ミルム様! 新作の菓子いるかい?」
「食べるー!!」
「ミルム様! この間は助かったよ! これお礼!」
「別にいいのに……でも、ありがとう!」
「ミルムさまー! あそぼー!!」
「ごめんね! 今日は遊べないんだ! またね!」
ミルムさん……なんか民から慕われてません?
凄い気軽に接してません?
領主の妹君ですよ?
黙って道を開けて頭を下げたりとかしないんですか?
ベススだとゼルナ様が歩いていたら民はそうやって道を開けるんですけど……
ゼルナ様はそういうのは嫌いみたいですけど……
「義姉様! 次はね!」
元気にティンクさんの手を引こうとするミルムさん
「っと!」
ティンクさんは転けないようにしながら小走りにミルムさんについていく
「あれ? 義姉様……疲れてちゃった?」
しかし、直ぐに立ち止まってミルムさんはティンクさんに言う
「そ、そうですね……少し」
苦笑するティンクさん
「だったら少し休もう! そこの椅子に座ろう!」
「すいません……」
そう言ってミルムさんはティンクさんを座らせる
……何故こんなところに長椅子が?
ここ、広場……ですよね?
「都が広いから、途中で休めるようにって置いたそうですよ?」
ルミルさんが教えてくれる
「そうなのですか?」
「それ以外にも、あ……ちょうど来た」
私達から少し離れた所を馬車が走っていった
すれ違うときに中を見る……乗ってるのは……平民?
貴族や商人ではなさそう……
「都の中の決まった所を走る馬車です、一定の料金で利用できるんですよ、例えばこの広場から東区の商人街に行ったり、北区から南区に行ったり」
「ちゃんと広さ対策をしてるんですね……」
「後から作ったんですけどね……実はこれらを提案したのはミルム様なんですよ」
「……!?」
えっ? ミルムさんが?
「ミルム様は暇があればこうして街に出てるそうで……実際に移動するのがどれだけ大変なのか理解してるんですよ」
「それで、少しでも暮らしやすくしようと?」
「したみたいですよ?」
……無邪気な子供だと思いましたが、意外と考えてるんですね
「……あれ? ミルムさんは?」
「……えっ?」
「あれ?」
ティンクさんの方を見ると側に居た筈のミルムさんの姿が見えない
私とルミルさんとテリアンヌさんはティンクさんの側に駆け寄り、ミルムさんの事を聞く
「ミルムちゃんなら少し買い物してくると……ファルさんと何処かに行きましたよ?」
「……それって大丈夫なのですか?」
私は聞く
「いつも2人で出てるから大丈夫って言われました……」
……まあ、住んでる都ですしね
大丈夫でしょうけど……
「……ちょっと探してきます」
何かあったら困りますからね……
あってからじゃ遅いんです
・・・・・・・・・・・・
少し探したらミルムさんは直ぐに見つかった
ファルさんと一緒に何か食べ物を買った様だ……人数分
……荷物もちくらいするんですけどね
まあ、今から声をかけて少し持ちましょう……
私が声を掛けようとした時……
ドン!
「っと!」
誰かが後ろからぶつかってきました……
まあ、人が多いですし、ぶつかるのは仕方ないですね
でも一言謝罪はした方が良いでしょうね、余計な問題は起こしたくありません
私は声をかけようと振り返ると……
「いっでぇぇぇぇぇ!! 腕が折れたぁぁぁぁぁ!!」
「あにきぃ!!」
筋肉質の男がそう言ってしゃがんでいました……
あー、問題発生ですね……
「おいてめぇ! 兄貴に怪我させやがって!! どうしてくれんだ!!」
「……はあ」
これは……当たり屋って奴ですね? チップスさんから聞いたことあります
『弱そうな人にわざとぶつかって騒ぐんだぁ、許せないだよ!』
……つまり、私を弱そうだと……
「あああ!! 腕がぁぁぁ!!」
「あにきぃ!!」
……どうしましょう……黙らせた方がいいんでしょうか?
でも同盟国の首都でそんな事したら問題ですし……
どう対処しますかね……
「ちょっと! 見たけどそっちからぶつかってきたんでしょ!」
いつの間にかミルムさんが私の側に来ていた
「なんだこのガキ!!」
さっきから腕が腕がと騒いでた男が怒鳴る……元気ですね
「ミルム様……消しますか?」
ファルさんがボソリと呟く……物騒ですね
「ダメ」
ですよね
でもミルムさん、こういう輩は実力で黙らせた方がいいって事もあるんですよ?
見た目通り短気そうですし……やはりミルムさんが危害をくわえられる前に黙らせますか……
私が行動を起こそうとした時
ドン!
「うお!?」
「あにきぃ!?」
筋肉質の男が突き飛ばされた
側には茶髪の青年が立っていた
「邪魔だ、でかい図体で道のど真ん中で立ち止まるなよ」
青年が言う
「て、てめぇ! 何しやがる!!」
さっきまで押さえていた腕を使って起き上がる男
……やっぱり怪我したふりですか
「邪魔だって言ったんだよ、さっきから退けって言ってんのに無視しやがるから退けたんだが?」
「嘗めてんのかこのボケェ!」
「あー! お前兄貴を怒らせたな! 俺知らねー! 兄貴はな! 熊殺しと呼ばれてんだぞ!!」
……私達は何を見てるんでしょう?
今のうち離れますかね?
「……………」
「ミルム様?」
「…………んん?」
ミルムさん? 青年を見て首を傾げてどうしたんでしょう?
「熊殺しとかどうでもいいんだが?」
青年が煽ります
「ぶっ殺す!!」
筋肉質の男が拳を青年に振るう
「殺っちまえ兄貴!!」
バキィ!!
肉を殴る音……
人が吹っ飛ぶ……
ドガァ!!
そして建物の壁にぶつかり、地面に倒れる
「あ……あ……」
まあ、飛んでいったのは……
「兄貴ぃぃぃぃ!?」
筋肉質の男ですけどね
「何が熊殺しなんだか……お前も同じ目にあうか?」
「ひぃぃぃぃ!?」
男は逃げ出した……兄貴を置いていくんですね……
「あ、ちょっとそこの人」
青年が私達の側に来ます
「な、なに?」
ミルムさんが声をかけます
「ここって西区? 『パンプキン』って宿屋探してるんだけど見つからなくてな」
「ここは東区ですよ?」
ファルさんが答える
「マジか……反対に来てたか……すまん、助かった!」
青年はそう言うと走り去っていった
「…………」
ミルムさんは青年が見えなくなるまで見送ってました
「……どうしたんですか?」
私はミルムさんに聞く
惚れたりしましたか?
「んー……なんか、今の人……初めて会った筈なのに……会ったことある気がして……」
「小さい頃に会ってるとかですか?」
ファルさんが聞く
「んー……いや、間違いなく初対面だよ?」
ミルムさんは首を傾げていた
その後、結局わからないからと気を取り直してティンクさん達と合流しました
ミルムさんが買っていた食べ物はパイでした
美味しかったです
そして、また都を案内されてから城に戻りました
因みに、筋肉質の男は駆けつけた兵に連行されました