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第165話 戦う理由

 カイトとゼルナがオルベリンに会いに行っている頃


 ーーーゲルド視点ーーー



「ふむ……」


 小生は走り込みをする兵達を見る

 今ここに居るのは軍に入隊してレルガの訓練を乗り越えて来た新兵達だ


「まだまだ実戦には出せないが……体力は悪くわないか……」


 先頭をアルス様が、後方をレムレが一緒に走って様子をよく見ている

 2人は全く体力を消耗してないのか涼しい顔をしている


「やはり、オルベリン殿に鍛えられただけはあるな……」


 体力が多いっていうのもあるが、体力の消耗を抑える走り方を見つけている……

 小生もそれを見つけるのに数年かかったのに……


「のんびりしていたら追い抜かれてしまいそうだ……ほぅ」


 小生は視線を新兵達に戻す

 殆んどが死にそうな顔で走っているのに……1人だけまだ余裕がありそうだ


「ゼルナ殿はあの子をしっかりと鍛えたようだな……」


 ブライアンを見ながら小生は呟く

 確か今年成人したばかりと聞いていたが……ふむふむ


「身体の方も見た限りは新兵にしては鍛えてある……ベススでは当たり前なのだろうか?」


 今度聞いてみるか……


「はい終了!!」

「ほら止まるな! 歩け! 急に止まると余計きついぞ!」


 どうやら走り込みが終わったようだな


 ・・・・・・・・・


 少しの休憩の後、新兵達が木剣や棒等の訓練用の武器を持ち、小生を十数人で包囲する


「いつでもいい、掛かってきなさい」


 小生は棒を振るう


「う、うぉぉぉぉぉ!!」


 1人の新兵が突っ込んでくる

 それを切っ掛けとして、次々と新兵達が突っ込んでくる


「はぁ!」


 小生は新兵達の攻撃を棒で受け止めてから返り討ちにしていく


 カァン!


「軽い! もっと踏み込め!」

「は、はい!!」


 カァン!


「貴様は腕に頼りすぎだ! 武器は全身を使って振るうのだ!!」

「はい!!」


 ブン!


「得物の間合いを把握しろ!!」

「はい!」


 これを新兵全員分行う

 この模擬戦を何回か行った後、新兵達に自分が使いこなせそうな武器を選ばせる

 そして、数ヶ月程鍛えた後、兵種を決められない新兵はレルガの元で適性訓練を受ける


 そうして兵種を決めていき、それぞれに合った訓練を行っていくのだ


「…………ちゃんと軍として機能しているな……」


 ケーミストに仕えていた時を思い出す……

 あの頃は本当に厳しかったな……兵達もマトモに食事を取れてなかったから細かった……

 訓練中に倒れる者も多かった……


「本当に……オーシャンに、カイト様に仕えて良かった……」


 1度は全てを捨てようとした小生を……

 自棄になっていた小生を、あの方は救ってくださった

 オルベリン殿との約束もある


 しっかりと任を果たさなくてはな!!


「……むっ?」


 そうしてる間に新兵が全滅していた……

 やれやれ、先ずは彼等を立派な戦士に育てないとな


「あ、あの……」

「おお、ブライアン殿、どうされましたか? 遠慮なく挑んで来てもよろしいのですよ?」


 ブライアン……彼はただの兵だがベススからの客人だ、礼は尽くさないとな


「よ、よよよよ、よろしくおねがいします!!」


 ……大丈夫か?

 凄く震えているぞ?


「う、うあああ!!」


 棒を持ち、突っ込んでくるブライアン


「ふっ!」

「あっ!?」


 小生はブライアンの棒を棒で弾き飛ばす

 ……ふむ、彼の実力はこの程度ではない筈だが……


「…………」


 弾き飛ばされて地面に落ちた棒を眺めているブライアン


「うぅ……なんで、こんな震えて……」

「…………」


 ふむ……どっちだ?

 あの震えは緊張からきてるのか?

 それとも戦いへの恐怖心か?


 緊張ならまだ大丈夫だ……そのうち慣れる

 しかし、恐怖心だと時間がかかる……とても滞在中に克服できるとは思えないが……


「……どうしたものか」


 小生が頭を抱えていると


「あの、ゲルドさん……僕に任せてもらっていいですか?」


 レムレが声をかけてきた


「レムレ? 君になんとかできるのか?」

「多分……彼、昔の僕に少し似てるので……少し話をしてきます」

「そうか……」


 ふむ……歳も近いし……小生よりも適役なのは間違いないな


「わかった、任せよう」

「ありがとうございます」


 礼を行ってからレムレはブライアンに話し掛け、2人は訓練場を出ていった



 ・・・・・・・・


 ーーーブライアン視点ーーー


「うっ、ぐすっ!」


 レムレさんに連れられて、訓練場から少し離れた所で僕は泣いていた

 自分の弱さが情けなくて泣いていた


「ほら、水」

「あ、ありがとうございばず!」


 僕は水を貰う


「ううううう!」

「そんなに緊張しなくていいんだよ? ほら、深呼吸深呼吸」

「う……はぁ……すぅ……はぁ」

「落ち着いた?」

「はははい!」

「はは、まだ厳しそうだね」


 レムレさんは地面に座る

 そして左手で僕の足下をポンポンっと叩く

 座れって事かな……


「さてと……少しお話しようか?」

「は、はは話ですか?」

「うん、君がどんな人か聞かせてほしくてね、僕も僕の事を話すよ? 君が聞きたいならね?」


 微笑むレムレさん……いい人だなぁ


「あ、あの……ぼぼ、僕は……その、村……『ワルナス村』って所で産まれて……その……えっと……」

「ゆっくりでいいからね?」


 僕は深呼吸してから話した

 産まれた村の事、どういう風に育ってきたか

 家族はどんな人間か、友人はどんな人間か

 レムレさんは微笑みながら聞いてくれた


 話終わる頃には……大分落ち着いていた


「そっか、楽しそうな家族だね」

「あ、ありがとうございます! あの、レムレさんの事を教えてもらっても?」

「うん、いいよ」


 次はレムレさんが話してくれた

 どんな村に産まれたか、どんな風に暮らしてきたか

 なんで兵になったのか


「……メイドさんだったんですか?」

「あ~、やっぱり変かな?」

「いえ、似合ってると思います……女性みたいに綺麗ですし」

「はは、結構鍛えて成長したのにね……いまだに女性と間違える人が居て……」


 一瞬遠くを見るレムレさん

 ……苦労してるんだなぁ


「当時から仕えてるメイドさん達にはいまだにからかわれたりしてね……うん、この話は止めよう」


 ニッコリ微笑むレムレさん


「まあ、だから僕はカイト様……(あるじ)や友人の為に戦ってるんだ」


 そう言って僕の右手を掴むレムレさん


「君も、この手で誰かを護るために戦うんだろう?」

「…………」


 誰かの為……

 誰の為?


 僕を育ててくれた父ちゃんと母ちゃん

 一緒に遊んでいた友達

 一緒に戦う同期の皆

 ……そして


『ほぅ、乗りこなせたか……』

『あ、あああの!』

『ブライアン、良くやった、これからの活躍に期待させてもらおう』


 こんな頼りない僕を……


『僕もオーシャンに!?』

『ああ、彼処には面白い奴等が居る……彼等に鍛えてもらえたら、ブライアン……お前は更に強くなれる……竜騎兵はまだ少ない……空中で、お前には俺の背中を任せたいからな』

『は……はい!!』

『ゼルナがここまで言うとはねぇ……変なものでも食べたかい?』

『姉上!!』


 期待してくれているゼルナ様の為に


「……もう、大丈夫だね?」

「はい! ありがとうございます!!」


 僕は立ち上がり、訓練場に走る

 身体が震えてくる……でもこの震えはさっきとは違う……

 緊張も恐怖心も無い……これは武者震いだ


「頑張るぞぉぉぉ!!」



 ・・・・・・・・


 まあ、そう簡単には勝てないよね……


 僕は地面に倒れながら訓練場の天井を眺めていた


 一撃でゲルドさんに負けた……


 いいさ、今回は負けたさ! でも……ここでの訓練で強くなってやる!!

 次は勝つ!!



 ーーーゲルド視点ーーー


「遠慮なく倒しましたね」


 戻ってきたレムレが苦笑しながら言う


「まあな……」

「でも、さっきと雰囲気が全然違うな……何をしたんだ?」


 アルス様が聞く


「ちょっとお話しただけですよ♪」


 そう言って、レムレは人差し指を口に当てて言ったのだった


「ふむ……今回は小生が勝ったが……ブライアンは強くなるな」


 小生は持っていた棒を見る

 ブライアンの一撃を止めた部分……そこにはヒビが入っていた

 とても……重い一撃だった


「どこも……若手の育成はしっかり行ってるようだな……」


 小生はそう呟いてから、棒を処分したのだった









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