第163話 ゼルナ来る
焔暦147年 12月
ーーーカイト視点ーーー
「レリス、準備の方は?」
「はい、客室も全て整えてます、食事もミントが腕を大いに奮っております」
「そうか……」
俺は城門に向かいながらレリスに確認をとっていた
「歓迎の準備は万端っと」
「ええ、礼を尽くして客人を満足させる……これぐらいできなくてはなりませんからね」
そして城門に到着する
少ししてからティンクが中庭の方から俺の側に駆け寄ってきた
「ま、間に合いましたか?」
「ああ、余裕だ」
俺はティンクの頭を撫でて落ち着かせる
そして門の向こう側を見る
「お、来た来た」
馬車がやって来た
城門をくぐり、目の前に止まる
馭者が馬車の扉を開く
そして男が降りてきた
「……まさかここまで歓迎されるとはな……久し振りだな、カイト」
「ああ、久し振りだなゼルナ、友人がやって来るんだ、歓迎するさ」
俺としては部下の皆も友人のつもりで接してるが……立場があるからか距離を感じるんだよな
同盟国であるベスス……そこの領主である『ナリスト』と弟の『ゼルナ』
この2人が俺と立場でも対等に接してくれる数少ない友人だ
そんな友人を歓迎するのは当たり前である
「それにしても驚いたぞ、いきなりお前がオーシャンに来たいって連絡を寄越すなんてな……例の件か?」
最後はコッソリと聞いてみる
「遠からずってところか……オーシャンの都を見てみたいと言う気持ちもあった」
そう言ってゼルナは馬車の方を見る
「どうした? 早く降りてこい」
そう言うと
「し、失礼しました!」
ベススの将である『ファルン』が降りてきた
「お、ファルン殿、お久し振りです」
「お久し振り、カイト様」
俺が礼をするとファルンも礼をする
領主が他の領の将に頭を下げるのは格が低く見られるとか騒ぐ奴が昔なら居たかもしれないが
今はその程度の事を気にする奴は居ない
「…………」
んっ? ゼルナ? なんかイラついてないか?
「おい! さっさと降りろ!」
さっきよりキツイ声で言うゼルナ
まだ誰かいるのか?
「すすすすすすいません!! すす、すぐ降ります!!」
そう言って1人の少年が馬車から降りようとして……
ガッ!
バキッ!
「ぶぎゃ!?」
落ちて地面に激突した
……今のは痛い
「だ、大丈夫ですか!?」
ティンクが駆け寄って手を差し出す
「あ、ありがとうございます! って、うわっ!? すいませんすいませんすいません!!」
むっちゃティンクに頭を下げる少年……
「……はぁ」
ゼルナはその少年を見てため息を吐いた
「カイト、紹介する……『ブライアン』だ……新人の兵士だ」
「へぇ……その新人をこうやって連れてきたって事は……何かあるんだな?」
「ああ、後で話す」
「ブライアン、ほら、鼻血が出てますよ……これで軽く押さえて止血してください」
「ああありがとうございます! ファルンざま!」
「……なんか昔のレムレを思い出すなぁ」
「噛みまくりでしたよね」
俺の呟きにレリスが同意した
紹介を終えて俺達は城に入った
・・・・・・・・・
応接室
ファルンはティンク達と一緒に客室に向かった
『ファルンさんに色んな服を着てもらいます!』
そう張り切っていたティンク……
ベススに行った時に世話になったからな……礼がしたいんだろう
そして俺達……俺とレリス、ゼルナとブライアンの4人は紅茶を飲みながら話をしていた
「つまり、リールとの戦はまだ無いんだな?」
「ああ、竜の訓練がなかなか上手くいかなくてな……もう暫くかかりそうだ……すまないな」
「いやいや、謝ることはない……時間がかかるんなら俺も色々と準備しておくだけだ……食料を貯めたり、軍資金を増やしたりな」
「そう言ってくれると……気が楽になるな」
ゼルナは『ふっ』と微笑み、紅茶を飲む
「それで……ブライアンだっけ? この子は何なんだ?」
俺はゼルナに聞く
ブライアンは『ひゃい!?』っと自分の名前を呼ばれて驚いていた
「ああ、こいつが俺の次に竜を乗りこなしていてな、実力で言えば俺の次くらいに強いんだが……」
『嘘っ!?』
俺とレリスは同時に驚いた
「ひゃ!?」
ブライアンはビックリして椅子の裏に隠れた
……大丈夫かこいつ?
「……とまあこんな風に臆病でな……気弱で……直ぐにこうなる」
「……戦えるのか?」
「訓練ではまともに動けるのだが……実戦だとどうなるかわからない……それでだ」
ゼルナは俺に頭を下げる
「すまないが滞在してる間、カイトの所の将にこいつを鍛えてもらえないか?」
「ゼルナ……頭を上げろ、それくらいの事ならいくらでも手を貸す」
「助かる……」
「でも、聞いて良いか?」
「なんだ?」
「ベススの将じゃダメなのか?」
「身内だと平気なんだが……他の人間だとどうなるかわからなくてな……」
「成る程……だから俺の部下に鍛えさせたいって事か」
全く関わりのない相手だからな
「それで、いつまで滞在するつもりだ? 年末か? それともオーシャンで年を越すか?」
「年越しまで滞在させてもらってもいいか? 俺にとっては最後の休暇になりそうなんだ」
「……最後?」
俺はゼルナの言葉に首を傾げる
「ベススに戻ったら……休む間も無い程、訓練に励むつもりだ……南方の戦が無くなるまで、俺はこうして出る事もないだろうからな……」
「そっか……なら思いっきり楽しんでいってくれ」
俺は紅茶を一口飲み
「レリス、明日、将で手が空いてる奴にブライアンとの訓練を頼んでくれ」
「畏まりました」
「よし、取り敢えず今日はしっかりと休んでくれ、ご馳走も用意しているからな」
「それは楽しみだ……」
ゼルナはそう言って隣の椅子を持ち上げる
「おい、いい加減座れ!」
「は、ははははい!!」
そして椅子の下に隠れていたブライアンを一喝した
……本当にこいつは大丈夫なのだろうか?
・・・・・・・・
応接室に料理を運び、皆で食事を取る
「本当に久し振りだね、元気だった?」
アルスがゼルナに話し掛ける
「ああ、俺も姉上も皆息災だ……アルスも立派になったな」
「そう?」
「戦士の顔をしている」
「そっか……そっかぁ」
嬉しそうなアルス
「ねえねえ、ファルンはピーマン食べる?」
「? ええ、食べますけど」
「じゃあ私のも……」
「ミルム様、好き嫌いは駄目ですよ」
「うぅ……」
ピーマンをファルンに任せようとしたミルムはファルに怒られる
護衛と言うか……教育係みたいになってきたな……
「……………」
ブライアンはすっごい震えてる……そうだよな、場違い感を感じてるよな!
わかる……その辛さはわかるぞ!!
「…………」
俺はチラリと配膳をしていたヤンユを見る
「…………(コクリ」
ヤンユは頷き
「ブライアン殿、こちらで少し話しませんか?」
「えっ? あ、は、ははい!」
ヤンユの案内でブライアンは壁際に連れていかれる
そこには他のメイドや警備の兵がサンドイッチなどの軽食を食べていた
ブライアンと歳の近い兵も何人か居る
……馬があって少しは気が楽になってくれたらいいんだが……
「あ、そうだゼルナ、ブライアンは鍛えるとして……お前はどうするんだ?」
城内でのんびりするのか?
因みにファルンはミルムに捕まって、明日は都の中を案内される事になっている
「ああ、そうだな……とくに何かをするとは決めてなかったが……」
「何かないのか? 俺が出来ることなら手を貸すぞ?」
「そうか? ……そうだな、なら……1つ頼みがあるんだがいいか?」
「なんだ?」
俺はゼルナの頼みを聞いてみる
「オルベリンに……会わせてもらえないか?」
……そういえば会ったこと無かったな