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第162話 ティールの見合い 3

 ーーーティール視点ーーー


「いらっしゃいませ!」


 お店に入ると店員に挨拶される


「御一人様ですか?」

「いえ、人と待ち合わせを……」


 私はそう答えて店内を見渡す


 お店は普通の茶屋だろうか

 婦人がケーキを食べながら紅茶を飲んでるのが目に入る

 ……貴族の姿が多いような?


「失礼します、ティール様でしょうか?」


 燕尾服を着た男性が話し掛けてきた


「はい……貴方は?」

「カイナン様の執事をしている『ベリス』と申します」

「……成る程、よろしくお願いします」


 私は礼に答える


「主はこちらに……」

「わかりました」


 私はベリス殿についていく

 店の奥の席に男性が座っていた


「!」


 男性は私に気付くと席を立ち、お辞儀をする


「初めまして、ティールと申します」

「は、初めまして!」


 私もお辞儀をする


 ベリス殿が椅子を引き


「どうぞ、お座り下さい」

「ありがとうございます」


 私は椅子に座り休ませてもらう


 そして男性も椅子に座る


『…………』


 お互いに無言……

 ふむ、何か話をするべきか……先ずは自己紹介か……

 いや、その前に先に聞くことがありますね


「あの、1つ宜しいですか?」

「はい?」


 男性が首を傾げる


「何故、()()()()()()を?」


 私の問い


「ああ、いえ、そろそろ自分も結婚を視野に入れなくてはいけなくて……」


 男性が答える


「いえ、お見合いの理由を聞いてるのではありませんよ」


 私はそう答えてベリス殿を見る


「何故()()()()()()()のですか?」

「…………」

「っ!?」


 ベリス殿が目を丸くする

 男性も驚いている


「……気付かれていたので?」


 ベリス殿……いや、カイナン殿が聞いてくる


「ええ、彼の方が絵とは似ていますが……明らかに商人としての才は感じられませんからね」


 さっきから緊張しているみたいだし

 商談とかをする時に、相手に嘗められるような態度を取るのはダメでしょう?


「……お見事です」

「カイナン様……その、申し訳ありません」

「気にするなベリス、彼女の眼が良かっただけだ……試すような事をして……申し訳ありません」


 カイナン殿と本物のベリス殿が頭を下げる


「いえ、退屈しのぎにはなりましたから気にせずに……」

「ありがとうございます……着替えて参りますのでお好きなのを食べててください」


 そう言ってカイナン殿とベリス殿は店の奥の部屋に入っていった

 ……この店はカイナン殿が関係者なのだろうか?


「…………」


 さてと……待ってる間に、どうやって円滑に付き合いを断るかを考えておきますかね……


 ・・・・・・・


「お待たせしました」


 着替えたカイナン殿とベリス殿が戻ってくる


「いえ、大して待ってませんのでお気になさらず」

「そうですか?」


 カイナン殿が椅子に座る


「改めて挨拶を……カイナンと申します」

「ティールと申します、よろしくお願いします」


 お互いに礼をする


「それで、カイナン殿は何故私と見合いなどを? 貴方にはもっと相応しい(ひと)がいらっしゃるのでは?」

「いえ、恥ずかしながら……父の仕事を手伝うのに夢中になってまして、女性と付き合うこともなくこの歳に……」

「まだまだお若いではないですか」

「いえいえそんな……」


 24歳と聞いている

 まだまだ焦る歳でも無いのでは?


「それで、ティール殿にお見合いを申し込んだ理由ですが……そうですね、単純に一目惚れです」

「……はい?」


 一目惚れ? 私、貴方と接点が無いはずですが?


「貴女はご存知ないかもしれませんが、昔から何度か会った事あるんですよ? すれ違ったとかその程度ですが」

「そうだったのですか?」


 全く気づかなかった……


「ええ、初めて貴女を見た時からずっと想っておりまして……今回、お見合い相手を募集してると耳にしたので……」

「そ、そうですか……」


 困った……嘘を言ってる風には見えない

 私の立場を利用しようとしてるとかだったら簡単に断れるのに……

 こんな風に言われたら断りにくい……

 ……少し様子を見て隙を見つけよう


「少し……歩きませんか?」

「そうですね、そうしましょう」


 カイナン殿の提案

 このまま座っててもどうにもならない、そう考えて私も同意する


 ・・・・・・・・


 ーーーユリウス視点ーーー


「あ、出てきた」

「丁度1時間……予想通りとはな」


 僕は望遠鏡でティール達を確認する


 ティールに、カイナンに……んっ? あれは執事か?

 3人で出てきたか……お、カイナンが執事に何か言ってるな

 ふむふむ、執事は別行動か……

 ティールとカイナン……ふたりっきりか


「さてさて、どうなることやら……」

「ユリウス、正直凄く怪しいよ……君が」

「……だろうな」


 ・・・・・・・・


 ーーーティール視点ーーー


 カイナン殿と軽く話をしながら都を歩く

 ……うーん、動きにくい……このスカートってのはなんでこうヒラヒラしてるのか……

 慣れたら気にならなくなるのだろうか?


「それにしても驚きました、貴女がその様な服装を好まれるとは」

「えっ?」


 カイナン殿が私を見て言う


「おや? 違うのですか?」

「あー、その、今日の見合いを知った友人にダメ出しされまして……」

「そうだったのですか? とてもお似合いなので、普段から愛用してるのかと思いました」

「それはどうも……」


 似合ってるのだろうか?

 自分では全然わからない……男装している方が気楽だからってこういうのを無視していたのは失敗だったか……

 今度ヤンユ殿にでも学ばせてもらうかな


「……ティール殿、馬は好きですか?」

「馬ですか? 嫌いではないですね、よく乗りますし」

「でしたら……走りませんか?」

「?」


 カイナン殿に連れられて街中の馬小屋に行く

 そこに繋がられてる一頭の馬がやってくる


「立派な馬ですね、カイナン殿の?」

「ええ、数年前に父から譲られた愛馬です、人を3人は乗せれますよ……これで少し外を駆けるのはどうでしょうか?」

「良いですね」


 綺麗なお店で話したり、あーだこーだとお互いの品定めをするよりはずっと良い


「では……お手をどうぞ」

「相乗りですか?」

「あ、い、嫌でしたか?」

「いえいえ、慣れてないだけですので」


 私はカイナン殿の手を借りて馬に跨がる

 カイナン殿は馬を引いて歩く

 都の門まで引いて行き、門を抜けたらカイナン殿も馬に跨がった


「それでは走ります! 掴まっててください!」

「ええ!」


 私がカイナン殿に掴まる

 それを確認してからカイナン殿は馬を走らせた


 ・・・・・・・・


 ーーーユリウス視点ーーー


「流石にこれは予想外だ」

「お見合いで乗馬ってしないの?」


 レムレが聞いてくる


「普通はしないだろ……何回かデートしたらするかもだけど……会ったその日は普通は無いって……」


 しかも相乗りかぁ……ティールがそこまで気を許したって事か

 ……それならもう気にしなくても大丈夫か?

 でもなぁ……う~ん


「追うの?」


 レムレが聞いてくる


「流石に厳しいだろ……もう大分遠くに行ってるし」


 まあ、カイナンが何かやらかすとは思えないし

 何かやろうとしてもティールなら返り討ちに出来るよな?


「仕方ない、帰るか……」

「そうだね」


 僕とレムレは帰ろうと歩き出すと


「ユリウス様! レムレ様!」


 兵士が駆け寄ってきた


「? どうした? ボロボロだな?」

「賊に襲撃されました! 今も交戦していて、援軍をお願いします!!」

「……マジか、どこに出た?」

「東の方角です!!」

「……東?」


 僕はレムレを見る


「2人が出た門も……東門だね」


 レムレが答える


「……マジかよ」


 ・・・・・・・・


 ーーーティール視点ーーー


「この速度……良い馬ですね!」

「ありがとうございます! 自慢の愛馬ですので!」


 ……生き生きしてますね


「何処に向かってるのですか?」

「取り敢えず、東の砦で折り返そうかと! 何処か行きたい所がありますか?」

「いえ、都の周囲は良く訓練で走り回るのでとくには……しかし、こうして相乗りするのは新鮮ですね」

「喜んでもらえて良かったです! ……少しは楽しんでもらえましたか?」

「はい?」

「先程から自分を警戒してるみたいでしたので……その、先ずは心を開いてもらおうかと」

「……気を使わせてしまいましたね、すいません」

「いえいえ! 警戒するのは当たり前ですから!」


 そう言って気を使ってくれるカイナン殿

 ……悪い人では無いんですけどね


 そうして走っていたら……


「ヒヒーン!!」

「っと!」


 馬が急に止まった


 私は何が起きたのか確認するために前を見る

 男が3人立っていた……賊か?


「金目の物を出しな!!」


 賊だ

 3人が剣を抜いて来た


「お前達に渡すものは無い! 失せろ!」


 そう叫ぶカイナン殿

 ……あの、震えてますよ?

 さて……どうしたものか……私は丸腰ですし

 カイナン殿は戦えるようには見えない

 馬に乗ってるのだから、このまま走らせて逃げるのは可能かもしれないが……

 距離的に厳しいか……


 仕方ない……

 私は馬から降りる


「ティール殿!?」

「任せてください」


 私は賊の前に立つ


「ティール? おい、それってオーシャンの将の……」

「ええ、そのティールです……どうします? 私に挑みますか?」


『…………』


 賊達が1歩後退る

 このまま逃げていったら楽なんですけどね


「あ、相手は1人だ! 武器もねえんだ! やるぞ!!」

『おお!!』


 あー、やっぱりそう来ますよね


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 賊の1人が剣を振り上げて走ってくる

 良かった、3人同時だと面倒だったけど……1人なら問題ない


 ヒュン!


 振り下ろさせる剣

 私は一気に前に走り、賊の真横に移動しながら剣を握る手を掴む


「うぉ!?」


 驚く賊


 ゴスッ!


 その賊の腹部に膝をめり込ませる


「ごほぅ!?」


 賊の力が緩む

 その一瞬で剣を奪い取り、賊の首を斬る


 ドシュ!


「がっ!?」

「……なまくらですね」


 剣は賊の首の真ん中辺りで止まる

 斬れ味が悪いですよこれ


 ドサッ!


 絶命する賊

 あーあ、服が返り血で汚れましたよ……


「ほ、本物かよ……」

「ち、ちくしょう!」


 怯む賊……そのまま逃げてくれませんかね?


「…………」


 カイナン殿? さっきから黙ってますね

 怖いのでしょうか?


「くそっ! よくもやってくれたなぁぁぁぁ!!」

「うぉぉぉぉぉ!!」


 同時に突っ込んでくる賊

 ちょっと面倒ですね……


 先ずは近い右の賊から仕留めますかね

 一気に距離を詰めて


「!?」


 驚いてるうちに顎に一撃!


 バキィ!


「がぁ!?」


 カラン


 お、剣を手放しましたね! 頂きます!

 剣を拾ってもう1人の賊の剣を受け止める


 キィン!


「ぐっ! この!」

「力任せですね、それじゃあ駄目ですよ」


 私は賊の剣を流す


「なっ!?」


 体勢を崩す賊

 その隙に首を斬る……いや本当に斬れ味悪いですって!

 手入れちゃんとしてくださいよ!


 ドサッ!


 絶命した賊の剣を拾い、さっき顎を殴った賊の元に向かう


「さて、後はお前だけですね」


 腰を抜かしてる状態の賊に剣を向ける


「ち、ちくしょう!」


 全く! 服が汚れたじゃないですか!

 ルミル達が怒りそうです……あーどうしよう


 ドスッ!


「っ!?」


 左の脹ら脛に痛みが走る

 ……矢?


「やったぞ!」


 木の陰からもう1人賊が現れた

 ……4人でしたか


「何を喜んでるんですか? こいつを殺したら次はお前ですが?」


 さっさと始末して都に戻ろう……もう見合いどころではないでしょうし


 ……?

 あれ? 身体が……怠く……


「っく……」

「ティール殿!!」


 膝をつく私

 これは……毒?


「へ、へへ……どうよ? 痺れてきただろう?」


 弓を持つ賊が得意気に近付いてくる


「毒矢ですか……卑怯な賊らしいやり方ですね……」


 私は身体の状態を確認する……う、動けないですね

 即効性の毒……症状は痺れだけ……致死性はないみたいですね

 時間が経てば勝手に治る毒でしょう……

 さて……どうしますかね……カイナン殿だけでも逃げてもらいますかね


「おい兄弟どうする?」

「こいつは後でヤろうぜ、その後は物好きに売れば金になるだろう?」


 ……なんで賊って性欲が最優先なんですかね?


「か、彼女に近付くな!!」


 カイナン殿が叫ぶ

 いや、そうして叫んでも意味無いですからね?

 戦えないんだから逃げてくださいよ……


「うるせえ! てめえも金目の物を置いていってさっさと失せろ!」

「っ!」


 矢を向けられて怯んでいるカイナン殿……

 怖いんなら無理しない方が良いですって……


「…………」


 身体が全く動かなくなる

 あー厄介ですね……矢を抜いたりしたいんですけど……


「兄弟、さっさとやっちまおう!」

「そうだな!」


 完全に復活したのか、顎を殴った賊が立ち上がり

 私の肩を掴む……

 そして……


「ぶちおかぶべぶぅ!?」


 ……こめかみに槍が刺さって吹っ飛んでいきました

 槍が飛んできた方を見ると、馬に乗った兵が居た

 彼が槍を投げたみたいですね

 冑で顔が見えませんが……良い腕ですね


「なっ! なっ!?」


 弓の賊が驚いてる

 ……戦場だとそんなに驚いていたら……


「ヒヒーン!!」

「はっ!?」


 ぐしゃ!


 ほら、目の前まで来てたのに、反応が遅れて馬に潰された


「…………」


 兵が周囲を確認する

 賊がいないのを確認していますね


『…………』


 そして私を抱き上げた……あれ?


「ちょ!?」

『…………』


 兵は私を抱き上げたまま馬に乗る


「あ、まっ、待ってくれ!」


 馬を走らせようとした兵にカイナン殿が声をかける


「か、彼女は私の見合い相手で……その、自分が彼女を運……ひっ!?」


 カイナン殿が怯む

 兵から物凄い殺気が出ているからでしょうね


『震えて見てただけのお前が何を出来るって?』


 冑で籠った声

 それだけ言うと兵は私を乗せて馬を走らせた


「…………」


 私はドンドン小さくなっていくカイナン殿を見ていた


 ・・・・・・・・


 オーシャン城まで運ばれて、レイミル殿に怪我を見てもらう


「もう毒は抜けてきてるみたいだけど……念のため飲んでくださいね」

「すいません」


 解毒薬を飲みながら治療を受ける

 私を運んだ兵は私をレイミル殿に任せると直ぐに出ていった


「…………」


 さてと、後で話を聞いてみますかね


 コンコン


 扉をノックされる

 レイミル殿が扉を開ける


「失礼します……」

「カイナン殿」


 カイナン殿がやって来た……兵とかに私の居場所を聞いたのでしょうね


 カイナン殿は私の目の前に移動する

 そして……


「申し訳ありませんでした!!」

「えっ?」


 謝られた


「ティール殿が危険な目にあっているのに……自分は……何も出来ずに……」

「気にしないで下さい、貴方は商人、戦う人間ではありませんから」


 寧ろ速やかに賊を始末できなかった私に非がある


「今回の事で良くわかりました……自分はまだ貴女に相応しくありません! もっと自分を磨くことにしました!」

「……それはつまり」

「はい、今回のお見合いは無しということです!」

「そうですか」


 良かった……なんとか乗り切れた


「でも、自分は諦めません! これからは武術も鍛えていきます! 貴女を守れるようになったら、再び申し込ませて頂きます!」

「そ、そうですか……」


 む、無理しなくて良いんですよ?


 こうして、私の見合いは終わったのだった


 ・・・・・・・・


 酒場


 ーーーユリウス視点ーーー



「あーやっちまった……」


 賊の討伐の援軍として僕とレムレは直ぐに都を出た

 鎧は咄嗟に兵士のを借りたが……ば、バレてないよな?


「でも仕方ないよな、うん、ティールも危なかったし! 賊の討伐はしたわけだから……」


 移動してる最中に馬の足跡を見つけて、僕だけ援軍から抜けた訳で……


「でもレムレにむっちゃ怒られたんだよな……」


 せめて一声掛けてってな……明日また謝っておくか……


 ガタッ


 隣に人が座る音

 僕は隣を見る


「どうも」

「ティール……怪我したって聞いたけど?」

「もう大丈夫です」

「そっか……お見合いは?」

「取り敢えず破談……なんですかね?」

「失敗したんだ?」

「ええ」


 ……………


 ち、沈黙が……


「ユリウス様」

「んっ?」

「先程は助かりました、ありがとうございます」

「いいよ、気にするな……て……あ、あれ?」


 僕はティールを見る

 ティールは微笑む


「やはりユリウス様でしたか、あの兵士は」

「……なんでわかるんだ?」

「声と、私を抱き上げた時の感覚で……」

「そ、そっか……」


 な、なんか恥ずかしくなってきたぞ……


「それにしても破談か……おばさんが煩いぞ?」

「義理は果たしました、説き伏せます」

「そっか……うん、僕も手伝うよ」

「助かります」


 僕とティールは軽く談笑した


 主におばさんをどう説得するかって話だったけどね


 その後、おばさんをしっかりと説得して、村まで送ってと忙しかったが……

 ティールが楽しそうにしていたから良しとしよう

 そう思った








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