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第157話 オルベリンへの客人

 カイト達が学校についての会議をしていた頃



 オルベリンは自分の屋敷の中庭に居た


「……やはり、なかなか上手くはいかないか……」


 彼は中庭で絵を描いていた

 隠居した今、新たな趣味を見つけようとしていたのだ


「どうしても木が歪んでしまうな……」


 上手くいかない描く作業

 しかし、その体験はなかなか新鮮な様で


「ふむ、もう一度描くか」


 気に入ってはいるようだった


 オルベリンは筆を動かす

 シャンバルから購入した絵の具を使いペタペタと描いていく


 順番も決まりもない、ただ描きたいように描く

 それがオルベリンのやり方だ


「ふむ、ここの色はもう少し明るくできないものか……」


 夢中になって描いていたら


「何をしているんじゃ?」

「むっ!? ブライか……久し振りだな」


 パストーレ地方に居る筈のブライがオルベリンの前に立っていた


 オルベリンは一瞬だけブライを見ると、描く作業に戻る


「……絵か?」

「見ればわかるだろう?」


 ブライは中庭に置いてあった椅子を運んで、オルベリンの後ろに座る

 そして絵を見て……


「下手だな」

「わかっている」


 オルベリンは葉の色を塗った所で手を止める

 そしてブライを見る


「何のようだ? 貴様はパストーレに居るのではなかったのか?」

「メルノユ様の護衛じゃ、会議をするそうだからな、終わるまで暇なんじゃい」

「だからワシの所に来たわけか」

「そういうことじゃ」


 はぁ、とオルベリンはため息を吐く

 そして中庭にあるテーブルまで歩き


 チリン、チリン


 テーブルに置いてあった鈴を鳴らす

 少ししてから執事がやって来る


「お茶を2人分持ってきてくれんか?」

「畏まりました」


 お茶を用意する為に執事が屋敷に向かう

 オルベリンは執事を見送ると椅子に戻る


「……意外と元気そうじゃな」


 ブライがオルベリンを見て呟く


「隠居してからは暴れられなかったからな、ふむ……無理をしなくなったからかもしれん」

「化け物と呼ばれたお前が大人しく隠居するとはな……予想外じゃった」


 ブライは憎まれ口を叩くが……表情は寂しそうだ


「坊っちゃんに泣かれたらな……あの方には敵わんよ」


 オルベリンは『ふっ』と微笑む


「坊っちゃん……のぉ……随分とカイト・オーシャンを評価しておるな……儂はいまだに理解できんぞ」

「お前は付き合いがまだ短いからな、数年も従えば、坊っちゃんの良さがわかるぞ?」

「そんなもんかの……」


 執事がお茶を持ってきた


 ブライはお茶を受け取ると一口飲む


「ほぉ、良い葉を使っておるな……美味い」

「オーシャンの料理長が選んだ茶だ、美味いに決まってる」


 オルベリンは誇らしげだ

 しかし……


「ぐっ……ごほ!」


 急に噎せるオルベリン

 口に手を当てる……


「……なんだ、弱ってはいるんじゃな」

「……まあな」


 オルベリンの手には血がついていた

 口の端にも血がついていた


「……どれくらいだ?」

「レイミル……主治医が言うにはもって2年だそうだ」

「2年か……短いな」

「うむ……だがな、正直、ワシは安心している」

「何?」


 ブライはオルベリンを見る

 オルベリンは空を見上げる


「オーシャンは東方を統一した、兵達もしっかりと鍛えられている、若い将達も……ちゃんと強くなっている」


 最後の方ではオルベリンはニヤリと笑いながらブライを見た

 ブライは悔しそうに目線をそらす


「なにより、坊っちゃんには既に多くの仲間がおる……もうワシが居らんでも大丈夫だろうな」

「ふん、勝手に終わったつもりになるんじゃないわい」


 ブライはお茶を飲み干す


「オルベリン、貴様が死ねば他の領が動くぞ……化け物が居なくなる……それだけでオーシャンは狙われる、いくら戦力が揃っていても……一斉に攻められれば終わりじゃ」

「だから、お前達に後を任せるんだろう?」

「…………その頃には儂も引退しとるわ」


 そう言うとブライは立ち上がる


「行くのか?」

「うむ、テリアンヌ様とレストにも会いたいのでな……」


 ブライは歩き出す……しかし直ぐに立ち止まり


「儂も、新たな目標を作らねばならんな」


 振り返らずに呟いて行った


「…………」


 オルベリンは去っていくブライを見送る


「じゃあな、ワシの唯一の強敵(とも)よ」


 オルベリンは、そう呟いてお茶を飲み干した


 ・・・・・・・・・


 時刻は昼過ぎ


 オルベリンは木刀を持ち、素振りをしていた

 激しい運動は止められているが……素振りなら指定の回数までならと許可をもらっている


 ビュン!

 ビュン!


 木刀を振る度に、鋭い音が周りに響く


「…………ふぅ」


 指定の回数までの素振りを終えたオルベリン

 物足りなさを感じながらも、木刀を中庭にある収納スペースに仕舞う


 その時……


「じいじ~!!」

「んっ? おお、ミルム様……それに奥様も」

「お久しぶりです、オルベリンさん!」


 ミルムとティンク

 そして彼女達の護衛である

 ファル、ルミル、テリアンヌ

 計5人がやって来た


「じいじ! 遊ぼ!」


 ミルムはオルベリンに抱きつく


「おやおや、ミルム様、綺麗な服が汚れてしまいますぞ?」

「平気平気!」

「ミルムちゃん、あんまりはしゃがないの……迷惑になるからね?」

「はーい!」


 ミルムはオルベリンから離れて近くの椅子に座る

 オルベリンは鈴を鳴らして執事に人数分の椅子を用意させる

 そして、全員が中庭で寛ぐ


「それにしても珍しいですな、奥様も一緒だとは……」


 オルベリンの屋敷にはミルムがやって来るのは良くある事だ

 ティンクも訪ねる回数は決して少なくはない……が、基本はカイトと一緒にやって来る


「カイトさんが会議で時間がかかるそうなので、ミルムちゃんの相手を頼まれました」

「成る程」

 納得するオルベリン


 ティンクとオルベリンは中庭の木を見上げてるミルムを見る

 今年で14歳になる彼女だが……まだまだ落ち着きを覚えない


「そろそろ、落ち着くことを覚えてほしいんですけどね……」

「ミルム様はありのままが魅力なのですよ……まあ、それでも子供っぽいところは少しは落ち着いてほしいですがな……」


 そう言って2人は苦笑する


「ルミル、最近はどうだ?」


 オルベリンはルミルを見る


「平和ですね、この間のインフェリがやって来た時くらいしか事件は起きてないです」


 ティンクの護衛を勤めている彼女が暇

 つまり、ティンクは安全に生活できてるという証拠だ


「ふま、そうかそうか……それと……テリアンヌだったか? お主はどうだ?」

「あ、私は最近やっと道に慣れてきた所です」


 テリアンヌは答える


「そうか、戦闘の方はどうなんだ?」

「……あぅ」


 気まずそうなテリアンヌ

 それで察するオルベリン


「ま、まぁ、これから腕を磨けば良い」


 そう言って執事が持ってきたお茶を飲む

 内心『失敗した』と思っていたりする


「えい! えい!」


 ミルムがいつの間にか木刀を手に取って素振りをしていた


「ミルム様、手が逆ですよ」


 見かねたルミルが正しい持ち方や姿勢を教えに行く

 テリアンヌも一緒についていく

 ルミル達と入れ替わる様にファルがやって来た



「お疲れ様です」

「あ、お疲れ様です」


 ティンクが挨拶するとファルも挨拶を返す


「どうした? 座って良いんだぞ?」


 椅子に座ろうとしないファルにオルベリンが言う


「あ、はい……」


 ファルが椅子に座る

 そしてミルムを見る


「……ふむ」


 オルベリンはそんなファルを見て


「……何か悩みでもあるのか?」

「!?」


 ファルが驚いてオルベリンを見た


「えっ? わかるんですか?」


 ティンクが聞く


「ミルム様に集中して、他の事を考えないようにしてる……そう見えてな」

「…………」


 図星なのか……ファルは気まずそうな顔だ


「話してみなさい、ワシも奥様も誰にも言わんぞ?」


 オルベリンがそう言うと


「…………」


 ファルは一瞬だけミルム達を見て、こっちの話が聞こえないのを確認してから


「その、ティールさんに避けられてて……何て言いますか……気まずくて……」

「……あー」


 ティンクは納得したように顔を押さえる

 オルベリンはティンクが何か知ってるのを察した

 ……しかし、ティンクが理由を言い出さない事から、他人には話せないのも察した


(どうやら、ティールも似たような事を相談したようだな)


 オルベリンはそう思いながらファルを見る


「ティールは理由もなく人を避ける者ではない……何か心当たりはないか?」

「……多分、私を拷問した時の事かなっと……それしか接点が無いですし」

「……ふむ」


 そう聞いてオルベリンは全てを理解する

 カイトを暗殺しようとして失敗したファル

 そのファルの拷問を担当したティール

 拷問は容赦せずに行われた……相手が子供でもだ

 敵には容赦しないが味方には優しいティール

 味方になったファルの事を気に病むのは理解できた


「……ファル、1度ティールにぶつかってみたらどうだ?」

「えっ? ぶつかる?」

「お主から話し掛けるのだ、逃げられても追いかけてしっかりと話せ」

「でも……話題が……」

「なら挨拶でも良い、おはよう、こんにちは、こんばんは、おやすみ、そんな事を言えば良いのだ……そうしたらいつかは話せるようになる」

「……わ、わかりました! やってみます!!」


 ファルの目が輝く

 そして元気になったファルはミルムの側に向かった


「流石ですね」


 ティンクがオルベリンに言う


「大したことではありませんよ、それよりも……貴女様も何やら悩んでるのでは?」


 オルベリンはティンクに言う


「あ、う、わかります?」

「ええ」

「実は……最近カイトさんが忙しくて……寂しいんです……忙しい理由もわかってるから何も言えなくて」

「そうですな……しかし、たまには我が儘を言っても良いのでは?」

「迷惑になりませんか?」

「毎日なら迷惑になりますが、たまになら良いのでは? 貴女は我慢をし過ぎてます」

「そう……でしょうか?」


 ティンクは首をかしげる


「ええ」


 オルベリンは微笑む


「わかりました、我が儘を言ってみます!」


 気合いを入れるティンク

 それを見てからオルベリンは空を見る


「おっと、もう夕方ですな……そろそろ帰られるべきです」

「そうですね……また来ます」


 ティンクはミルム達を呼んでから城に帰っていった


「さて……ワシも休むとするか」


 ティンク達を見送ってからオルベリンも屋敷に戻ったのだった



 ・・・・・・・・


 翌日


 ーーーカイト視点ーーー



「ふぅ……」


 起床して、身嗜みを整えて俺は深呼吸をする


「…………」


 昨日の会議は遅くまでかかったな

 まあ、色々と決まったし……今日は予定を本格的に決めないとな


 俺はそう考えてから部屋を出ようとドアに向かう


「それじゃティンク、行ってく……る?」

「…………」


 んっ? なんかいつもより近くないか?

 てか裾を掴まれてる?


「……どうした?」


 俺はティンクの顔を覗きこむ


「えっと……その……カイトさん……わたしの我が儘何ですけど……今日は一緒に……居てくれませんか?」


 少し震えた声で言われる


「……………………」


 潤んだ瞳、紅潮した頬

 それは反則だ


 俺はドアを開ける

 そして廊下に居るメイドを見つけて


「君、悪いけどレリスに俺は今日は休むと伝えてくれ」

「畏まりました」


 そう伝えて俺はドアを閉めた


「よし、ティンク、今日は一緒に過ごそうか!」

「……はい!!」


 嬉しそうなティンク

 うんうん、この笑顔が見れただけで、休んだ甲斐があるよ





 こうして、俺は今日1日をティンクと過ごしたのだった










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