第156話 学校を作ろう!
焔暦147年 5月
「うーん……」
「むむむ……」
「あー……」
「…………」
ここはオーシャンの城の滅多に使わない会議室……今日は複数の人間が長居している
先ずは俺、カイトだ
そして軍師のレリス
マールの太守ルーツ
ヘイナスの太守ヘルド
ガガルガの太守バルセ
カイナスの太守ブルムン
パストーレの太守メルノユ
とまあ都を管理してる将達が集まってるんだ
どうしてそんな事をしているかって?
それは……
「なかなか決まりませんな……学舎……」
「ここまで課題が多いとは……」
バルセの呟きにルーツが同調する
そう学舎……つまり学校を作ろうとしているのだ
何故こんな話題になったのかって?
それは2月くらいまで遡る
・・・・・・・・
その日、俺はオーシャンの城下街や付近の村を視察していた
パストーレを手に入れてからの物流等を確認したくてな
それで思い知らされたのは……
「計算が出来ない者や文字が読めない者が多いな……」
行商人が持ってきた品を買おうとする民
しかしお金の計算が出来なくてトラブルが起きたりしていた
その仲裁をして思い知らされた訳で……
「これは……なんとかしないとな……」
城に戻ってから俺はレリスと話して調査した
どれだけの人数が文字を読めるのか、計算が出来るのか
先ずはオーシャンの都の兵から
次に城下街の民
次に付近の村
そして他の都にも調査を指示した
その結果が4月の末に届いた
オーシャン領全体で
文字が読めるのは40%程……村に数人いる程度だ
計算が出来るのなんて15%くらいだ
商人の殆んどだ……兵達にも少ししか居なかった……
あ、この%は俺が結果を見て勝手に纏めただけだ
「ここまでとは……いや、仕方ないな……学ぶ機会が無かったんだからな……」
どうやら、普段は文字がわかるものが掲示板を読んで内容を教えたりしてるらしい
村によっては文字をわかる者が教えたりもしてるらしいが……それでも低いよな
それで思ったわけだ
東方も統一できたし、そろそろ内政面……文官等を育成して人材を発掘するべきではないのかって
兵はまだいい、仕官して訓練していけば誰でも戦えるようになれるのだから
しかし文官は違う……文字を理解しないといけないし
計算も出来ないといけない……今、城で雇ってるのも貴族の人間か商人の末っ子とかだ
勉強は出来るが、家では重要な立場になれない者達を雇ってるわけだな
しかしそれだけだと人手不足な訳で……
「学ぶ機会……作るか……」
・・・・・・・・・
そんな訳で学校を作ることを考えたのだ
議題が議題だけに、俺とレリスだけで決めるわけにはいかない
これはオーシャン領全体の問題だ
そんな訳で将達を集めて会議をしてるのだが
問題が多い……
先ずは場所だ
学校を何処に作るのか……まあ、これはオーシャンの都が良いのではって話に纏まってきた……
次に学校の数だ、最終的に多くするとして、先ずはお試しとして1つと決まった
……ここまでだ、決まったのは
生徒達の住むところや通学手段
教師はどうするか
生徒の人数はどうするか
学費はどうするか
そもそも生徒のやる気を維持できるのか
そんな問題がドンドン出てきた……
「やはり、馬車が安全なのでは?」
「数多くの馬車を用意できるのか? 用意出来たとして、何処に停めるのだ?」
レリスの提案にメルノユが疑問を投げ掛ける
「学舎のでかさはどうするんだ? それだけの土地が城下街にあるのか?」
「高さを利用するしか無いんじゃね? ヒヒヒ!」
ヘルドの疑問にブルムンが答える
「問題は……費用だよなぁ……」
項垂れる俺
予算自体は問題ない
問題は運営していく上での費用と学費だ
学校を維持するにも金がかかる、ある程度は領から支援するとしても限界がある
学校を完全に無料で運営するなら全く問題ない……全ての費用を領から出すさ
でも、それをやるわけにはいかない……無料でなんてやったらろくなことにならないからだ
先ず、生徒達のやる気を維持できない
どうせタダだから、そう言って授業をサボるやつが必ず出る
それどころか更にサービスを改善しろなんてふてぶてしく言う奴が間違いなく出てくる
現代で俺が経験したんだ、間違いない
そんな事が起こらないためにも、ある程度の学費は出させるべきだ
しかし、高過ぎるとそれもそれで問題だ
文字がわからない民に教えるんだぞ?
稼ぎも正直少ないだろう……そんな所に高額の学費なんて払えるわけがない
かといって安くしすぎるのも……
ちょうどいい金額がわからないってのも問題だよな
そんなこんなで5時間も皆で話し合ってる
正直かなり時間を無駄にしてるな
ヘルドと俺以外は頭が良いから、ポンポンと良い案を出してくれるかもと思ってたんだが……
いや、俺もしっかり考えないといけないんだ、人に任せまくるな……
「失礼します、そろそろ休憩をされては?」
ヤンユが紅茶を運んできた
「ありがとう、貰うよ」
俺は紅茶を受けとる……ああ、落ち着く
『…………』
俺は皆の顔を見る
全員が暗い表情だ
多分俺も同じ感じだろうな……
こうして一息ついてる間でも何か案を出さないと……でも一通り話したしな……
「失礼しまーす!」
「失礼します……」
開いていた扉からユリウスとレムレが顔を出してきた
「んっ? 2人ともどうした?」
俺は2人を見る
「いえ、訓練が終わったので報告書を持ってきたんですが、カイト様もレリス様もここに居ると言われて」
レムレが報告書をレリスに渡す
「……何で皆暗い顔してるんで?」
ユリウスが俺達を見て言う
「なかなか会議が進まないんですよ」
ルーツが答える
「? なんの会議なんで?」
「学舎を作るって話」
俺はクッキーを1枚かじって答える
「へぇ、学舎……なんでそれでこんな風に?」
「こんな感じなんだよ」
説明が面倒だからこれまでの経緯を簡単に纏めた紙を渡す
因みに書いたのはレリスだ
「ふーん……」
ユリウスは紙を読む
レムレが横から紙を覗く
「そういえば、レムレもルミルも文字は読めてましたね、何処で覚えたんで?」
レリスが聞く
レリスが教えたんじゃないのか……
「あ、僕もルミルも村で村長に教えてもらったんです、読めた方が良いからって」
「成る程、それは村長に感謝しなきゃだな」
「はい!」
俺は紅茶を飲み干す
さて……会議を続けるか……
「これ、そんなに悩むことなんで?」
ユリウスが呟いた
「……はっ?」
ルーツが何言ってんだって声を出す
「ユリウス? どういうことだ?」
バルセが聞く
「要するに場所と移動手段と金が問題なんですよね?」
そう言うとユリウスは読んでいた紙を机に置く
「場所は外壁の側にすれば良いんじゃないんですか? 兵もいるし、襲おうとする賊はいないでしょ? 塀を作れば獣も入れないですし」
『…………』
全員がユリウスを見る
「移動手段は前にカイト様が言ってた馬車を利用したら良いんじゃないですか? ほら、村から村、都から都って感じで走らせるって言ってた……それに乗せれば離れた村の民もここまで来れますし」
「それで? 遠くの民が通えると? 移動だけで数日かかるんですが?」
ルーツが聞く
「そんなに遠くの民は都に住ませれば良くないですか? 学舎の近くにでも集合住宅を作ればそこから通えるし、卒業したら次の生徒が住めば良いですし」
「……あー」
ルーツがその手があったかと納得した
……そんな単純な事が何故今まで俺達は浮かばなかったのか……
「それじゃあ金は? どうするんだ?」
ブルムンが聞く
真剣なのか真顔だ
「……分ければ良くないですか?」
「分ける?」
「なんか全部いっぺんに教えるみたいに書いてましたが、それを文字を覚える者、計算を覚える者……それで分ければ良くないです? 計算を覚えるってことは文字は使えるんですから、文字を覚えるのは安くして、計算は高めにして……それに追加で何か高額だけど覚えたら良いってのも作れば良いんじゃないですか?」
『…………』
全員の目から鱗が落ちた……
「ユリウス、ちょっとここに座れ」
「?」
俺はユリウスを手招き、ヤンユが隅に置いてた椅子を持ってくる
「お前も会議に参加な!」
「うぇ!?」
問題が一気に解決していきそうなんだ!
しっかりと意見を聞かせてもらうぞ!!
「あ、それじゃ僕は戻りますね! お疲れ様です!!」
レムレはさっさと部屋を出ていった
巻き込まれないようにしたのかもしれないな
「お疲れ!」
俺はレムレに声を掛けてから皆を見る
「よし、じゃあ一気に会議をすすめようか!」
そんな訳で、ユリウスを強制的に加えて会議を再開した
・・・・・・・
会議は無事に終了した
決まった事は
学校は来月から建設する
場所は外壁の外側、兵達が常時待機してる場所の側だ
塀を作って獣の侵入を防ぎながら、兵達が賊の侵入を防ぐ
んで、移動手段は馬車なのだが
近くの村は普通に馬車
離れた村は大きめの馬車で大人数を
かなり離れた者は馬車で都に来た後に、住む場所を提供する
つまり寮だな
次に金だが
文字を覚える者は学費も安い
計算を覚える者は文字よりも高く
更に複雑な計算や他の事……戦術とか教えるクラスも作ることにした
そこは高額だ、しかし卒業したら軍へ厚待遇での就職を約束する
あれだ、国家資格的やつだと思ってくれたら良い
更に話し合いで、商業区の商人の所で学校に通う者を雇ってもらう話をつけることにした
あれだアルバイトだ
在学中にお金に不安がある者はそれで賄えばいいって事にした
大変だとは思うが、家に負担をかけたくないと思う者はこれで遠慮なく学べる
場合によっては商人との繋がりが出来るしな
コネでの就職とか出来そうだ
こんな感じで決まった
まあ、こんな風に上手くいくかはわからない
予想してなかった問題がドンドン起きるかもしれない
でも、それは実際に始めてからじゃないとわからないからな
トラブルが起きたら、その都度対処すればいいんだ
「さて、校舎はどんな風にするか……寮はどんな風にするか……それもこれから決めていかないとな……」
これで、識字率が上がれば良いんだけどな……