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第153話 薄暗いトンネルの中

 焔暦147年 3月中旬


 俺は玉座で報告を聞いていた


「以上が現在の治安状況になります」

「街道付近からは賊を追い払えたか……でもまだ居るんだよな?」


 レリスは紙を捲る


「そうですね、山の中にアジトがあるようで、今も目撃情報や被害情報が出てますね」

「賊を殲滅出来るのはまだまだ先だな……」


 まるでゴキブリのように出てくる……

 民を殺したりするからゴキブリより質が悪い


「討伐隊を編成しましょう、将が居なくても、数で攻めれば勝てるかと」

「そう……だな、何人かは討伐隊の隊長や副長に任命しておこう、隊を纏める人間は必要だからな」

「後程、兵の資料を持ってきましょう」

「……何枚くらい?」

「50くらいですかね」


 ……今日中に読みきれるか?


「さてと、次は?」

「そうですね……収穫が近いからか、猪等の獣が目撃されてます」

「そっちもか……討伐隊を……人手は足りるか?」

「兵の方は大丈夫かと……」

「なら対獣の討伐隊も編成してくれ……そっちの方の兵の資料も持ってきてくれ」

「畏まりました」


 ……これは今日徹夜かもな……


 その時だ


「失礼します!」


 1人の兵士が入ってきた

 ……んっ? 見覚えのない顔だな……新入り?


「誰ですか?」


 レリスが聞く


「はっ! ヘイナスのヘルド様の伝令として来ました! 『パック』と申します!!」


「んっ? ヘルドから?」


 俺はパックを見る


「えっと……」


 パックは懐から紙を取り出し


「先ずは……ヘルド様と奥様の間の子供が無事産まれました!」

「産まれたのか!!」


 俺は立ち上がる

 あぁ……良かった……無事産まれたか……ふぅ


 正直かなり心配していた、サルリラが妊娠したのは去年の1月頃……

 妊娠期間は平均は9ヶ月から10ヶ月だ

 しかしサルリラは14ヶ月も妊娠していた

 あまりにも妊娠期間が長いと母体も赤ん坊も危険だ

 帝王切開とかの技術も無いし……最悪なパターンも考えてはいた


 でも……無事に産まれた……本当に良かった!!


「それで、本当はヘルド様本人が報告に来るのが礼儀ですが……奥様の側を離れられないとの事で……自分が」

「いやいや全然気にしなくていい、家族の側に居たいってのは普通の感覚だ」


 そっか……あ、お祝いとかしなきゃな!


「レリス! 出産祝いの品を用意してくれ!」

「畏まりました……それでは……あー、パック? ヘルド殿の子供は男の子か? 女の子か?」


 あ、それは重要だな

 性別によっては祝いの品が変わるからな

 男の子が喜ぶもの、女の子が喜ぶもの

 うーん……あ、てか赤ん坊なんだからそういうのは変わらないか


「……申し訳ありません、性別を聞く前に出てきてしまいました……」

「…………」


 レリスがパックを睨む……ちゃんと確認しとけよって目だ


 ・・・・・・・・・


「そんな訳で、明日はヘイナスに行くことになったんだが……」


 俺は中庭で椅子に座りながら紅茶を飲む

 そして隣に座っているティンクに話す


「暫く会えなくなるんですか?」


 ティンクは寂しそうに言う


「いや、まあ1日くらいだから……って言うか……ティンクも一緒に来ないか?」

「えっ? いいんですか?」

「ああ、久し振りにサルリラに会いたいだろ?」

「はい!!」


 ・・・・・・・・・・・



 そんな訳で俺達は翌日、ヘイナスに向かう


 メンバーは俺とティンク

 護衛としてゲルド、ルミル、テリアンヌとマーレスだ


 ゲルドは俺の護衛として

 ルミルとテリアンヌはティンクの護衛として

 マーレス(シスコン)はテリアンヌが心配だかららしい

 まあ、戦力は多い方がいいから許した


 俺とティンクは馬車に乗り

 護衛の4人は馬車の周りを馬で走っている


「カイトさん、さっきから何を見てるんですか?」


 俺の左隣に座っているティンクが聞きながら俺の持ってる紙を覗き見る


「これは兵士の情報を纏めた報告書だ、討伐隊の隊長と副長を選ぶために見てるんだ」

「討伐隊ですか?」

「ああ、まだ賊は居るし、最近は獣も暴れてるからな……帰り迄には全部に目を通しておかないとな……」

 昨日から読んでるんだが……まだ半分も読めてない


 因みに書類には兵士の名前と故郷とこれまでの活躍が書かれている

 討伐対象が居る場所……そこの土地勘がある人間を隊長にしたいからな


「これを全部……ですか」


 ティンクは俺の右隣に積まれた束を見る


「読むだけでも一苦労だな」


 そう言って俺は読み終わった紙を向かいの席に置く


「わたしは邪魔をしないようにしてますね……」


 そう言うとティンクは窓を覗いて外を見る


「別に気にしなくていいんだぞ? 話しながらでも読めるし」

「そうですか? でも……やっぱり静かにしておきます」


 そう言ってティンクは黙った……

 ……うーん、遠慮させちゃったか……

 …………仕方ない、どうせもうすぐ挽回する機会がくるからな

 それまでにこの束を出来るだけ減らそう



 俺は報告書を読んでいく

 読み終わり、隊長や副長の候補はティンクの向かいの席に置く

 その他は俺の向かいだ


 そうして作業を進めていたら


「カイト様、トンネルが見えてきました」


 ルミルの声


「わかった……さてと」


 俺は読んでいた途中の報告書を束に戻す

 そして端に動かす


「ティンク」

「はい?」


 窓を覗いていたティンクが振り返る


「こっちにおいで」

「えっ? でも……報告書はいいんですか?」


 ティンクが俺に近寄りながら聞く


「ああ、暫く読めないし……いいから俺の膝の上に乗って」

「膝の上ですか? え、えっと……こう……ですか?」


 ティンクが俺に背中を向けてチョコンっと座る


「うーん、おしい……こっちがいいな!」

「ひゃ!」


 俺はティンクを持ち上げて、ティンクを俺と向かい合わせる


「カ、カイトさん?」


 戸惑うティンク


「なんだい?」

「いきなりどうしたんですか? わたし、別に怒ったりとかしてませんよ?」


 俺がティンクに気を使ってると思ってるみたいだ


「それはわかってるよ、いや、トンネルにもうすぐ入るからさ……トンネルの中は暗いからさ」


 灯りは護衛の持つ松明くらいだ


「どっちにしろ報告書は読めないし……それならティンクと触れあった方が良いだろ?」

 俺はそう言ってティンクを抱き締める


 俺の胸元にティンクの胸が当たる

 あー、柔らかいし暖かい……


「あ、あう……」

「なに戸惑ってるんだよ? これ以上の事をほぼ毎日してるだろ?」

「そ、そうですけど……いつもと違うと言いますか……その、は、恥ずかしいんですよ!!」


 そう言って赤くなるティンク


「……全く、可愛いな!!」


 危うく理性が弾ける所だった

 それを熱い抱擁で耐えきった

 ……えっ? 耐えれてないって?

 盛ってないからセーフなんだよ!!


 そう考えてる間に……


「ひゃ! ま、真っ暗です!」

「大丈夫だ、俺が居るから」


 ティンクの暗所恐怖症……だいぶマシになってきたが……トラウマは簡単には癒えない

 彼女が少しでも落ち着いていられるように俺は抱き締める力を強める


「あわわわわわわ!」


 あ、別の方向で落ち着けてないやコレ


「ティンク……それ」

「ひゃう!」


 ティンクの脇腹をくすぐる


「くすぐったいです!」

「落ち着いたか?」

「……す、少しは……あの、カイトさん」

「なんだい?」

「もっと……強く抱き締めてください……」

「喜んで」


 トンネルから抜ける迄の数十分……俺はティンクを抱き締め続けた

 たまにキスしたりしたのは内緒だ


 トンネルを抜けて3時間くらい経った頃

 俺達はヘイナスに到着した



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