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第151話 5人揃っての祝勝会

 焔暦147年 2月……の下旬


「よし、全員杯を持ったな?」


 俺はエールを注がれたカップを持って見回す

 場所は前に利用した酒場の個室だ


「ええ、しっかりと」


 レリスが答える


「あー久しぶりに飲むなぁ」


 杯を見て嬉しそうなヘルド


「勢いつけすぎて割ったりしないでくださいよ?」


 そんなヘルドに言うルーツ


「こうして飲めるとはな……長生きをするものだ」


 オルベリンは言った


「よし、じゃあ……乾杯!!」

『乾杯!!』


 何故この状況になったのか……それは朝まで遡る


 ・・・・・・・・


 ーーー玉座の間ーーー


「以上が今回の収益になります」


 俺はルーツからマールの都の収益の報告を聞いていた


「まだ増えたのか? 凄いな……」


 俺は思わず呟いた


「やはり珍しいと感じるでしょうね、他の地方の貴族がやって来ますね……まあ、たまにトラブルが起きますが」

「トラブル?」


 俺はルーツを見る


「金を出すから貸し切りにしろと言うそうです、そんな輩は拒否しますけどね」

「そうだな、皆が楽しむために造ったんだしな……でも、そうだな……貸し切りか……」

「カイト様? どうされたのです?」

「いや、水に余裕があるなら貸し切り用の浴場を造るのもありかと思ってな……予約制にしてさ」

「ふむ……そうですね」


 ルーツは考え込む


「まあ、この件はまた後で考えていこう……新しい水源が見つかった時とかにさ」

「そうですね……水源の調査をしておきます」


 マールは完全に温泉街になってきたな……

 ……温泉か? 温泉って言っていいのか?


 そう考えていたら……


「失礼します!!」


 バンッ!

 そんな大きな音で扉を開けてヘルドが入ってきた


「んっ? ヘルド? どうしたんだ? ヘイナスで何かあったのか?」


 ヘイナスを任せているヘルド

 マイルスの内乱を鎮圧した後、俺の宣言を聞いてからヘイナスに帰った

 そのヘルドがやって来た


「はい! 2つほど! ……今いいか?」


 ヘルドが近付いてきながらルーツに聞く


「ええ、私の報告は終わりましたよ」


 ルーツが答える


「よし、では先ずは……トンネルが開通しました!」

「おお! 出来たか!」


 今、オーシャン領では道の整備と道の作成に力を入れてる

 領内の物流や移動をスムーズにするためだ


 因みに道の作成とは森の中に一本道を作って森を安全に横断出来るようにしたり

 山の中に穴を掘ってトンネルを作るなんてしている

 トンネルは職人達が崩れないように色々と作業をしてくれたそうだ

 1度聞かせて貰ったが……その、うん……専門用語が出てきたところで俺はギブアップした……しっかりと勉強してからまた聞こうと思う


 さて、そんな訳でヘルドには、このオーシャンからヘイナスへの移動時間を短縮するために山にトンネルを掘るように指示を出していた


「はい! 実際に利用してきたのですが……数時間でこのオーシャンに到着しました!」

「はぁ!? 1日もかからなかったのか!?」


 俺は驚く……だって今まで10日もかかった移動がたった数時間になったのだ

 予想以上に短縮されてるな!!


「道中の山で時間がかかってましたからね」


 レリスが感心しながら言う


「これからは気楽にオーシャンに来れますね!」


 ガッ! っと拳を握るヘルド


「ヘルド、そのトンネルは安全面は大丈夫なんですか? 長いんですよね?」


 ルーツが聞く


「ああ! 長い! だから出入口には小屋を建てて兵を配置してる! 賊対策は大丈夫だ! 明かりも出入口に松明を置いているからな!」

「徒歩は?」

「はっ?」

「いや、利用する人には徒歩の人もいるでしょ? そういう人が利用した場合はどんな感じなんで? 馬で数時間ですよね? 徒歩なら更に時間が……」

「あっ……あー……」


 ヘルドは顔を押さえる……

 それは考えてなかったって顔だ……


「出入口に貸出用の馬と馬車を用意したらどうです? トンネル用の」

「ああ、そうだな! 手配しておく!」


 そしてその問題はすぐに解決した

 うんうん、そうやって意見を出すのは重要だな


「それでヘルド、もう1つの報告は?」

俺は聞いてみる

「あ、はい! ベル……サルリラがもうすぐ出産するのでその報告と名前を聞きに」

「そうか……そうだな、そろそろそんな時期か……」


 ヘルドとサルリラの子供……その子が女の子なら俺の考えた名前を付ける約束だ

 なるほど、子供が産まれて忙しくなる前に、俺から名前を聞かせてもらおうって考えか

 そうだよな、名前を貰うために出産直後の妻と産まれたばかりの子供の側を離れるのは嫌だもんな


「レリス、あれを!」

「はい……」


 レリスは5枚の紙を取り出す

 そしてヘルドの側に行き、紙を渡す


「5つ程考えておいた……その中から決めてくれ、もしどれも嫌だったら言ってくれ」


 俺は紙を受け取るヘルドに言う


「こんなに……ありがとうございます!!」


 嬉しそうなヘルド

 喜んでくれたなら、俺も考えて良かったよ


「それで……ヘルドはもうヘイナスに帰るのか?」

「いえ、今日はオーシャンの宿に泊まろうかと」

「なんだ? それだったら城の空き部屋使っていいんだぞ?」

「そうですか! では使わせてもらいます!」


 そうか……ヘルドは今日はオーシャンで過ごすんだな……


「なぁ、ルーツも今日は泊まるんだよな?」

「そうですね、もう夕方ですし……朝に出発した方が都合がいいですね」

「そうか! よし、ちょうどいいな!」


 俺は玉座から立ち上がる


「だいぶ遅くなったが……戦勝会をしよう!」


 ・・・・・・・・・


 そんな訳でオルベリンも誘ってこうなった

 運良く個室も1つ空いてたから良かった

 まあ、前みたいに泊まりはしないがな


「正直、いまだに夢を見てるんじゃないかって思う時があります」


 ルーツが呟く


「何がだ?」


 オルベリンが聞く


「いえ、4年……正確には3年と数ヶ月ですが……滅亡寸前だったのに、今では東方を制圧したって言うのがまだ実感できてないんですよ……」


 ルーツはそう言うとワインの瓶に口を付けて……グイッ! っと飲み干す

 ……ペース早いな



「ああ、あの時は本当に危なかったな!」


 ヘルドは肉を囓りながら言う


「今だから言うけど、兵達が不安がっていて……脱走者が出てくる直前って感じだったな」


 あー、やっぱり士気が低かったからなぁ

 本当にギリギリだったな


「しかし勝てた……坊っちゃんの策がナルール達を見事に打ち倒しましたな!」

「違うぞオルベリン、俺の策じゃない……お前達"将"や"民"……オーシャンの人間が力を合わせたから勝てたんだ……本当に皆のお蔭だ」


 ヘイナスに暮らす民の顔が浮かぶ

 ……久し振りに会ってみたいな


「坊っちゃん!!」

「オルベリン座れ! 抱き締めようとするな!」


 お前のハグはマジで死ねる!!


「……ジャックス達は今は何してるのか……」


 ふと、レリスが呟いた


「……そうだな……レルガとボゾゾが帰ってきたんだ……アイツらも帰ってきてくれないかな……」


 俺はかつてのオーシャンの将を思い出す


『ジャックス』

 斧を豪快に振る姿はカイトの記憶にしっかりと残っている

 よくヘルドと喧嘩してたな……


『モールモー』

 棒術を得意としていたな……彼の突きは木を揺らして実っていた林檎を全て落とすほどだ


『メシルーク』

 物作りが好きで、良く棚とか作ってくれてたな……訓練用の人形を作ったりもしてたな


「……探してみるかな」

「捜索するので?」


 ルーツが聞いてくる


「ああ、今何してるのか気になるし」

「呼び戻すつもりですか? レルガやボゾゾと違って……今も姿を見せない彼等を」


 ……ルーツ……怒ってる?


「呼び戻す……ってのは見つけてから決めるさ……今は生きてるのか、問題なく暮らせているのか……それが気になる」


 俺はルーツの目を見る


「彼等が今を楽しく生きてるなら、そのままにしておくさ……もし生活に困ってるようなら……」

「そうですか……再雇用するなら一兵士からにしてくださいね、役職を与えたら流石に兵からの不満を抑えきれませんから」

「ああ、わかったよ」


 そんな風に話ながら酒を飲む……

 ……んっ? ちょっとまて……


「ルーツ……それ何本目?」


 俺はルーツの足下にある酒瓶を見る


「えっと……13から数えてませんね」

「そ、そうか……」


 飲み過ぎじゃね?


「ふむ……話題を変えるとしますか」


 オルベリンが言う


「そう言えばヘルド……サルリラとの初めてはサルリラから攻められたらしいな!」

「ごふっ!?」


 オルベリンが言うとヘルドは吹き出す


「あ、それ俺も聞いたぞ」


 俺もヘルドを見る


「ちょ、ちょっとまってくれ……だ、誰から聞いたので?」


 ヘルドが俺とオルベリンを交互に見ながら聞く


「俺はヤンユから聞いたぞ?」

「ワシはメイド達が話していたのを聞いたぞ」

「…………待ってくれ……本当に待って!!」


 ヘルドは頭を抱える……うん、多分お前が考えてる通りだ


「多分、メイド達は知ってるだろうな……」


 ルーツが言った


「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫ぶヘルド

 わかる……恥ずかしいよな


「それで? 実際のところどうなんです?」


 レリスがオーバーキルする


「ぐっ……じ、事実だ……いや仕方ないだろ? ベルは幼少の頃の事もあるから、トラウマになってるかもと考えたらなかなかいけない訳で……」

「そして痺れを切らしたサルリラに押し倒されたと……成る程な」

「戦場では強いヘルドも、夜は弱いと……いだだだだだ!?」


 俺とルーツが言う

 ルーツはヘルドに頭を掴まれた


「そういうてめえはどうなんだよ! 浮いた話は無いのか!!」

「ぐわっ! ちょ! 揺らすな!?」


 ルーツの頭をブンブン動かすヘルド

 少ししてからヘルドが手を離す


「いたた……生憎、私にはそんな話はありませんよ」

「そうなのか?」


 俺は意外そうにルーツを見る

 お前モテるだろうに……


「私はレーメルが居ますからね、彼女が自立するまでは独身でいるつもりですよ」

「レーメルも、もう子供じゃないんだから気にしなくていいんじゃないか?」

「いえ! あの子には確実に幸せになってもらわないといけないので!!」


 こいつもシスコンだよなぁ……


「レリスはどうなんだ? そろそろ誰かと結婚しようって考えはあるんじゃないのか?」


 俺はレリスを見る


「そうですね……東方も統一されましたし……落ち着いてきたら検討してみますよ」

「ほほぉ、これはまだまだ生きないといかんな!」


 オルベリンは笑う


 こうして俺達は談笑しながら酒を飲んだ

 この宴は、外に人気(ひとけ)が無くなる深夜まで続いたのだった



 ……翌日、俺とルーツは二日酔いで苦しんだのはここだけの話だ























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