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第150話 世界の動き

 焔歴147年 1月


 新年である



 ーーーカイト視点ーーー



「あー……つ、疲れた……」


「お疲れ様です」


 新しい玉座でぐったりしてる俺にレリスが微笑む


「流石に挨拶に来る奴が多すぎないか?」


 俺は窓を見る

 すっかり暗くなっている

 朝から夜までずっと挨拶を聞いていた


「去年の間にカイナスとパストーレを手に入れましたからね、必然的に繋がりを持とうと思う者は増えます……それにカイト様のご機嫌を取りたい者も居ますからね」

「貴族連中な」


 内乱を起こした貴族達は処刑された……いや、処刑したが正解か?

 しかし、貴族達の家は潰していない

 後継者達がそれぞれ家を継いだのだ


「まさか子供世代の方は俺に協力するとはね……」


 レリスから聞いたのだが、貴族の子供達は親を裏切り、俺の帰還に合わせて兵を動かしたらしい

 親と子での争いだ……そのお蔭で内乱に参戦した私兵は想定よりも少なく済んだ


「傭兵は?」

「今頃は都を出ている頃かと」


 内乱に参戦した傭兵達の処罰は棒叩きと半年の追放処分だ

 処罰としては軽いかもしれないが……彼等も生きるために……金の為にやった事だしな……

 まぁ、仕事は選べよと思ったが……

 あまり重くすると、また面倒な事になるからな

 程々にな


「ワールは?」

「ペラペラと情報を吐いてますね、痛め付けられたのが効いたのか……今では早く殺してくれと泣いてるそうです」

「そっか……まあ自業自得だよな……処刑の予定はいつ頃だ?」

「この調子でいけば……今月の中頃には処刑を決行するかと」

「メビルトに任せないとな」

「約束ですからね」


 俺は身体を伸ばす


「お疲れですよね? 休まれては?」

「ああ、そうする……レリスも休めよ? 腕の怪我もあるし」

「ええ、そうします」


 俺は玉座の間を出て、部屋に向かう


「食事は部屋で食べるかな……」


 気分的には酒も飲みたい

 ティンクと一緒に飲もうかな……なんて思いながら歩く


「んっ?」


 ふと、廊下から外を見ると……兵達が夜の訓練をしていた


 アルスの指示で、兵達が素振りをしている


「張り切ってるな……」


 昇進させたからかな?


 アルスを始めとした数人の将は恩賞を渡すと同時に昇進させた


 アルスは部隊長に

 レムレは小隊長に

 ルミルも小隊長に

 メビルトは軍団長に

 ユリウスは部隊長に

 シャルスは小隊長に

 レルガは軍団長に


 レルガは昇進を渋っていたが、俺の命を救ってくれたんだ、充分な活躍だと思った


 もうレルガの事を裏切り者だとか言う奴は居ない

 まだ言う奴が居たら、俺が怒る


「東方を……統一したんだな」


 最近になってようやく実感が湧いてきた

 やっと……一区切りついたというか……

 長かったな……ゲームなら2時間くらいなのに……


「3年……どうなんだろう……早いのか遅いのか……よくわからんな……」


 日本で例えるなら……うーん……1つの地方を統一した感じなのか?

 四国とか九州とか……


「まあ、まだまだこれからなんだよな……」


 今のところ……最大の脅威はヤークレンだが

 いつ他の大陸が攻めてくるかわからない……場合によっては……ヤークレンとの共闘も考えておかないといけない


「……ご機嫌取りでもしておくべきか?」


 でもなぁ……あまり媚びへつらうとメルセデスからの評価も下がりそうだし……

 部下にも示しがつかないよな……


「まあ、ゆっくり考えていくか……」


 今は東方の内政を整えないとな……

 安定させないと後で泣くことになる


「取り敢えず今は……ティンクとイチャつきますかね」


 俺はそう呟いてから自室に向かった



 ・・・・・・・・・


 数日後


 ーーーワール視点ーーー


 牢の中


「これは何かの間違いだ……何故儂がこんな目に……」


 身体中が痛い

 寒い、冷たい

 早く……早く解放してくれ!



「ワール様、随分とやつれましたな」


 背後から声をかけられる

 儂は振り返る


「おお! 『シャドウ』! 助けに来てくれたか!!」


 そこには骸骨を被った男が立っていた

 暗殺ギルドの者だ

 儂が長く愛用したギルドの者だ!!


「お久し振りです」


 シャドウは儂に礼をする

 礼儀をわきまえておるな!


「早く! 儂をここから出してくれ!」

「ワール様、静かに……兵に気付かれますぞ?」

「!?」


 そうだな!

 声を出さないようにしなくては!


「では、ワール様……マスターからの伝言です」

「むっ?」


 シャドウはそう言うと小さな紙を取り出し、読み上げる


「『ワール殿へ、貴殿との付き合いは決して悪いものではなかった……しかし、最早貴殿には利用する価値は無いと判断した……それゆえ……貴殿を"解放"する事にする』……だそうです」

「むっ? つまり儂を牢から解放してくれるのだろう?」


 儂がそう言うと


「ええ、"解放"します」


 シャドウはそう言った


 ・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


「……どうなってる?」


 俺は兵士に呼び出されてレリスと一緒に牢に来た

 ワールを捕らえていた牢だ


「はっ! 夜の見回りをしていたら……この様に……」

「…………」


 俺は牢の中を見る


 そこには()()()は居なかった

 そこには()()があった


 両目が抉られ、四肢を千切られ

 口を裂けられた肉の塊だ……


「……今すぐ城内の警備を増やせ!! まだ犯人は城内に潜んでるかもしれない!」

「はっ!!」


 俺は冷や汗を流す


「なぁ、レリス……俺はこれからはこんな事をする奴に狙われるんだよな?」

「必ず……お守りします」

「ああ……頼む……ティンク達の護衛も増やそう……」


 俺は肉の塊を見ながら……恐怖心を必死に抑えるのだった



 ・・・・・・・・・・


 オーシャンが東方を統一して1ヶ月


 その頃にはノースブリード大陸中にオーシャンが東方を制した話は拡がった



 ーーー南方地方ーーー


 ベスス



「姉上、カイトが東方を統一したそうだ」


 ゼルナは執務室で仕事をしていたナリストに伝える


「そうかい! とうとうやったんだね!!」


 ナリストは嬉しそうに答える


「私達も負けていられないね!! ゼルナ! 竜の準備は?」

「まだまだって所だな……漸く乗るのに慣れてきた……連携どころか戦闘も厳しい」

「いつ仕上がるかわかるかい?」

「……早くて2年だ、それまではいつも通りにいくしかないな」

「そうかい……まあオーシャンも領を安定させるのに時間がいるだろうしね……」

「問題はリールだな……」

「そうだね……あの『戦姫(せんき)』がいつ仕掛けてくるか……それが課題だねぇ……」


 ナリストとゼルナは頭を抱える


「まあ、兎に角、今日は友の勝利を祝おうじゃないか!」

「……そうだな」


 そう言って2人は笑い合うのだった




 リール


 ベススとは長年に渡り何度も戦をしていた領

 そこにもオーシャンの話は伝わってきた


「以上が東方の現状となります」


 ゴルグッドは己の主に報告する


「…………」


 リールの領主……『フラン・リップ・リール』は静かに報告を聞いていた


「それで……終わりか?」


 フランは口を開く


「…………」


「ゴルグッド……余はそなたに期待して軍を任せたのだぞ? それがこの結果か?」

「申し訳ありません!!」


 土下座するゴルグッド


「ふむ……言い訳はせぬのだな」

「……ベススとオーシャンからの援軍……それを予測していなかった自分に非がありますゆえ!」

「では……どの様な罰も受けるのだな?」

「はっ! どの様な処罰も!!」


 ゴルグッドは頭を上げない

 否、上げられないのだ

 彼は目の前の主に怯えているのだ


「そうか……」


 コツコツ……そんな足音を立てながらフランはゴルグッドに近寄る


(おもて)を上げよ、ゴルグッド」

「………」


 ゴルグッドは頭を上げる

 そして……フランを見る

 彼の瞳に映ったのは少女だ

 成人したばかりの少女だ


 その少女はニヤリと笑い……


 パシン!


 ゴルグッドの額にデコピンした


「っ! あっ……えっ?」


 訳がわからないゴルグッド


「今のが罰だ、そなたのその潔い態度……余は好きだぞ?」


 そう言って玉座に戻るフラン


「ゴルグッド、他の者と話し合い……軍を立て直すがよい、次こそ、勝利を掴んでもらおう……期待しておるぞ?」

「……はっ……はは!!」


 ゴルグッドはフランに頭を下げてから玉座の間を出ていった


「……ふむ、カイト・オーシャンか……どの様な人物か……いつか戦場で(まみ)えたいものだな」


 そう言うとフランは玉座の横に立て掛けていた剣を取り……抜く

 そして剣を振る


 ブォン!!


 そんな音がした後に、風が玉座の間に吹き荒れた

 戦姫(せんき)フラン……彼女がカイトと出会うのは……そう遠くはない未来である




 ーーー西方地方ーーー


 シルテン


「へぇ……東方はオーシャンが統一したんだぁ」


 シルテンの領主……『パルシット・シルテン』は報告を聞いていた


「オーシャンってオルベリンが居るところだよね? 化物の力に頼った感じぃ?」

「いえ、どうやらオルベリンは既に隠居してるそうで……」


 報告をしていた兵が紙を見ながら言う


「えっ? そうなの? 残念だねカルスト……隠居したんじゃ戦えないね」

「……他にも強者は居ますゆえ」

「そっか……本音は?」

「……挑みたかったですね」

「だろうね……手から血が出るくらい力んでるもん」


 パルシットはそう言いながらメイドが淹れたコーヒーを見る

 そして一口飲む


「…………砂糖とミルクいれて」

「あ、申し訳ありません!」


 パルシット・シルテン……まだ10歳の男の子

 しかし、他の領主と対等に接する事が出来る力を持っている


 カルストはそんな幼い主を見ながら、化物と戦えないことを惜しんでいた



 ロンヌール


 西方の領の1つである


「ねえねえ、『パキラ』聞いたかい?」

「なになに? 『ポムラ』、なんの話だい?」


 このロンヌールは2人の領主が存在する

『パキラ・ロンヌール』

『ポムラ・ロンヌール』

 双子の領主である


「東方が統一されたらしいよ? パキラ」

「へぇ、どこがやったんだい? ポムラ」

「オーシャンだってよ、パキラ」

「えっ? あの弱小領が? ポムラ」

「うん、あの弱小領が! 不思議だね、パキラ」

「気になるね、ポムラ」

「調べようか? パキラ」

「調べちゃおう、ポムラ」


 この領も動き始めた


 サタヌルス


「なんと言う事でしょう! 滅亡寸前だった領は3年と半年で東方を制したのです!」


 そう報告しているのはサタヌルスの将『ケイロス』である


「一体どんな物語があったのか……是非とも知りたいですな!!」


 それに反応して楽しそうにしてるのはサタヌルスの将『パルスール』


「オーシャン、全く興味なかったけど……調べるしかないな」


 その2人を見ているのは、サタヌルスの領主『カンルス・サタヌルス』である


「…………」


 1人の兵がケイロスとパルスールを見て呆気に取られていた


「んっ? 君は新人かい?」


 カンルスが話しかける


「は、はい!」

「家の将はこんなのばかりだから、早く慣れた方がいいよ」

「はぁ……」

「慣れたら楽しめるから」


 そう言ってカンルスは2人の報告を聞くのを再開した





 ーーー北方地方ーーー


 ヤークレンにもオーシャンが東方を統一した話は伝わった


「なんだ、やっとか」


 メルセデスは玉座で報告を聞いた


「メルセデス様の予想ではどれくらいの時間がかかると思っていました?」


 報告していた兵が聞く


「2年だな、予想よりも1年以上遅い」


 そう言ってメルセデスは横に置いていたワインを飲む


 そこで……


 ドォン!


 玉座の間の扉がぶっ飛んだ


「うひゃあ!?」


 報告していた兵は飛んできた扉を避ける

 扉はメルセデスの足下の階段にぶつかる


「オヤジィィィ!!」


 そして1人の人間が剣を抜いて飛び込んできた

 銀色の髪、赤い瞳の女性だ


 女性は走る

 止めようとした兵や将の間をすり抜け、先ほどぶっ飛ばした扉を踏み台に跳ぶ


 そしてメルセデスに向けて剣を振る


「はぁ……騒がしいな」


 パシッ!


「くぅ!」


 メルセデスは左手の人差し指と中指で女性の剣を止めた


「何の用だ? インフェリ」


 メルセデスは女性の名を呼ぶ

 彼女はメルセデスの娘であるインフェリ・ヤークレンだ


「てめぇまたオレの結婚相手を勝手に決めようとしたなぁぁぁ!!」


 インフェリは剣を掴む力だけで身体を空中に浮かせる

 彼女の体重も乗って、剣はとても重い筈だがメルセデスは平気そうだ


「お前に相応しい相手を用意した筈だが?」

「何度も言わせるな!! オレの相手はオレが決める!! あんな雑魚なんかいらねえよ!!」

「ならさっさと相手を連れてこい、行き遅れるぞ?」

「うるせぇ!!」


 親子喧嘩……いや、一方的にぶちギレるインフェリ

 そこに……


「インフェリ様、本当に勘弁してくださいよ~」


 オーディンがやって来た


「オーディン、相手はどうなった?」


 メルセデスは用意した婚約者がどうなったか聞く


「いつも通りです、半殺し……いや殆んど死んでましたねアレは……男の急所が再起不能です」

「そうか、それは残念だな」

「のわっ!」


 メルセデスは指を振り、インフェリを投げる

 投げられたインフェリをオーディンは受け止める


「スッキリしました? なら帰りますよ」

「ちくしょう!! 親父! 次はぶった斬るからなぁぁぁぁ!!」


 インフェリはオーディンに引き摺られていった


「さて、カイトには誰か使者を送れ……いやオーディンに行かせるか、祝ってやらんとな」


 何事も無かったかの様に話を続けるメルセデス

 それを見て、周りの将達は思った


(これで扉を壊されたの何回目だ?)


 ・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


 1ヶ月経過した

 城内を調べたが、侵入者は見つからなかった

 暗殺ギルドの者ではないか? ってレリスが言うからファルに肉塊を見せたら


 ・・・・・・・・・・


「……これは……師匠の仕業ですね」

「師匠?」

「シャドウって名前の人です……凄く強くて、彼に出来ない暗殺は無いって言われてました」

「そんな奴がね……」


 俺はファルを見て、ふとした疑問を呟く


「俺への襲撃はなんでファルだったんだ? そんな凄腕がいるなら」

「師匠は忙しいですから……あの時は確か別大陸に出てましたし」


 あ、そうなのね……


「師匠なら、もうオーシャンから出ていると思います、あの人……仕事が終わったらすぐに帰りますから」

「直行直帰なタイプか」


 仕事は出来そうだな


 ・・・・・・・


「はぁ……」


 俺はため息を吐く


「メビルトとの約束……守れなかったな」


 メビルトは気にしないと言ってくれたが……

 自分の手で始末したかっただろうに……


「カイト様、そろそろ時間です」


 レリスに呼ばれる


「あ? もうか?」


 俺は玉座に座り直す


「さて、それじゃ……これからの事を話すか」


 課題は多いが……

 取り敢えず、今は目の前の事を片付けていこう

 皆の期待に答えるために……





 東方制圧編 完

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