第146話 東方統一 1
何も考えていなかった
何も感じていなかった
ただ、父の言うとおりにすれば良かった
そう思っていた
その頃は……間違いなく人形だった
・・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「…………」
レリスが謀叛を起こした
オーシャンから駆けつけた兵が告げた事実
本当にレリスが?
そんな筈は無い! 俺はレリスを信頼してる……誰よりも!
レリスだって俺に忠誠を誓ってくれて……
何かの間違いじゃないのか?
でも、この兵士はボロボロの状態でやって来た……オーシャンで何かがあったのは間違いない
ティンクは? ミルムは?
皆は無事なのか?
オーシャンは今どうなっているんだ?
「カイト様! カイト様!!」
「はっ!?」
「大丈夫ですか?」
ルーツが俺の肩を揺すった
「あ、悪い……考え込んでた……」
「気持ちはわかります」
ルーツは兵を見る
「レリスが本当に謀叛を起こしたのか?」
「間違いありません!!」
「何があったのか……話してくれるかい?」
「はっ!!」
そして兵は語り出す
この兵はムルクと言う名前らしい
・・・・・・・・・
ーーームルク視点ーーー
オーシャンを勝利を伝えるために休まずに馬で駆ける
その甲斐があって1週間程でオーシャンに到着した
オーシャンの様子はいつも通り、活気に満ちている
「止まれ!」
城にたどり着いたら門番に止められる
「ムルクと申します! パストーレとの戦での勝利を報告しに参りました!!」
馬から降りて門番に伝える
「なに! 勝ったのか! カイト様は勝ったんだな!!」
門番は嬉しそうに言う
「はい! 見事に勝利しました!」
「わかった! 通れ!」
門番が道を譲る
自分は馬を預けてから走って城内に入る
城内の見廻りの兵にレリス様の居場所を聞く
今は執務室に居るそうだ
執務室に向かい……警護をしていた兵に話を通す
「ちょっと待ってろ」
警護兵が扉をノックする
『入れ』
レリス様の声
「失礼します」
警護兵が中に入る
1分くらいか? 待っていたら
「入れ」
警護兵が扉を開けて、手招く
「失礼します!」
自分は執務室に入る
レリス様は机に向かいながら大量の羊皮紙を読んでいた……
「緊急の報告らしいな? 用件は?」
レリス様は羊皮紙を読みながら聞いてくる
「はっ! 此度のパストーレとの戦にて、カイト様が無事に勝利した事を報告しに参りました!!」
「!!」
レリス様が自分を見る
「そうか! カイト様は勝利したか!」
嬉しそうに立ち上がるレリス様
「はい! 頑なに降伏を拒否するパストーレを見事に説得しました!」
「そうか! そうか……」
ほっとしたように椅子に座り直すレリス様
「わかった、後は私が伝えとくから、君はゆっくりと休みなさい」
「はっ! 失礼しました!」
自分は執務室を退室する
その後は同僚と会ったり、家族と過ごしたりしました
そして翌朝
起きたら妙に外が騒がしい事に気付きました
着替えをして外に出ると……
「ぐぁ!」
ドサッ!
「……えっ?」
目の前で見廻りの兵が男に斬られてました
「おっ! ここにもいたか!!」
「っ!?」
男が斬りかかって来ましたが、何とか返り討ちにすることができました
「がはっ!」
ドサッ!
「はぁ! はぁ! ど、どうなってるんだ!?」
「ムルク!」
「!?」
同僚の兵士が駆け付けてくれました
何が起こったのか詳しく聞いたら……
「内乱!?」
「ああ、間違いない、ずっと前から準備してたみたいで……街中で傭兵が暴れてる」
「だ、誰が主犯なんだ!?」
「まだわからない! これから調べに行くから手伝え!」
「わかった!」
自分は同僚と一緒に走り回りました
街中では傭兵と兵士が戦ってました
兵士は民を避難させながらだったので、数が多くても苦戦していました
兵の援護をして、情報を集めていたら……
「おい、あれは……」
「?」
見覚えのない鎧を着た兵達がやって来ました
「あれは何者だ?」
知ってそうな同僚に聞いたら
「貴族の私兵だな、複数の貴族が兵を動かしたみたいだ……鎧の種類がバラバラだ」
「彼等も助太刀に来てくれたみたいだな!」
自分は浮かれました、援軍が来たのだと思いましたから
「……いや、そんな雰囲気じゃないぞ?」
「えっ?」
同僚が構えた時……
「かかれ!!」
『うぉぉぉぉぉ!!』
私兵達が突撃を始めました
目標は……自分達みたいでした
道中の傭兵を無視してましたから
「!?」
「くっ! 多すぎる! 皆逃げるぞ!」
民と一緒に逃げる
情けないですが、とても勝ち目はありませんでした
必死に逃げていたら、馬小屋が見えました
「ムルク!? 何処に行く!?」
「この事をレリス様に報告する! あの方ならば何とかしてくれる!!」
自分は馬小屋に駆け込み、1頭の馬に跨がり走らせます
鞍も手綱も無いので、振り落とされないように必死でした
そして傭兵や私兵の間を抜けて、城に向かい
城に到着しました
「!? レリス様!」
レリス様は既に城門の前に立っていました
既に事態に気づいて、動いていたのだと……この時は思ったのですが
「レリス様! 内乱です! 傭兵達が暴れており! 貴族達も同調して兵を動かしてます!」
自分は必死に伝えました
「ああ、動き出したか」
レリス様は冷たく言いました
「レリス……様?」
「なんだ?」
「な、何故そんなに落ち着いてるんですか!? ま、まるで……」
「まるで……私が起こしたみたい……かい?」
「!!」
言い方、態度……そして表情
全てが語りました……レリス様が起こした事だと
「何処に行く気だ?」
馬の向きを変えたらレリス様が言いました
「っ!?」
数人の兵士が駆けつけて、自分を囲もうとしました
「走れ!!」
完全に包囲される前に馬を走らせます
「つ、伝えなくては!!」
自分は必死に馬を走らせました
・・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「そして今に至ります!!」
「…………」
ムルクの話を聞いて頭が更に混乱する
彼の話が本当なら……主犯とは言わずとも、レリスが関わっているのは確かだ
「カイト様……どうしますか?」
ルーツが聞いてくる
「……悪い、混乱してて何も浮かばない……落ち着く時間が欲しい」
取り敢えず、もう少しでオーシャン領だ
「急いで帰るぞ……皆が心配だ……」
「わかりました、皆に伝えます……カイト様、気をしっかりもってください」
ルーツはそう言うと数名の兵に事情を全員に伝えるように指示を出した
「…………」
ムルクを疑うわけでは無いが……やっぱりレリスが謀叛を起こしたとは信じられない……信じたくない
「…………」
馬を走らせながらもずっと考える
何でレリスが謀叛を起こしたのか?
ティンク達は無事なのか?
オーシャンの都は今どうなっている?
オルベリンは無茶してないだろうな?
「ああ! くそっ!」
頭の中がぐちゃぐちゃだ!
・・・・・・・・・
更に数日が経過した
俺達はようやく、マルスヒ平原に到着した
ここまで来たらオーシャンの都まであと少しだ
ずっと走れば1週間くらいで着く
「カイト様」
「なんだ?」
ルーツが並走してくる
「急ぐ気持ちはわかります……しかし1度休まれた方がよろしいかと……皆も疲労しきっています」
「そんな暇は……」
「カイト様、貴方も顔色が真っ青ですよ、休まれるべきです……」
「…………」
ルーツが強く言ってくる
そして俺は周りを見渡す
「あっ……」
そしてやっと気付く
兵達の疲れきった表情……下がりまくった士気
「全軍止まれ!!」
指示を出す
「ここまで来たら、オーシャンまでもう少しだ! 今夜はここで休むぞ!」
『はっ!!』
兵達が安心した様子で野営の準備を始めた
・・・・・・・
「兄さん! やっと話せる!」
アルスがやって来た
「アルス……」
「レリスが謀叛を起こしたって本当!?」
「みたいだ……俺も聞いただけだからな……」
「なんで! なんでレリスが!」
「…………」
それは俺が聞きたい……
「これからどうするの?」
「……取り敢えずオーシャンに帰る……都の様子を確認しないとな」
敵の規模も把握しないといけない
「……ミルム達は?」
「多分、人質にされてるだろうな……」
俺の中ではこうだ
1、レリスが謀叛を起こした
2、ティンクやミルムは人質にされている
3、オルベリン達はそれが理由で動けない
「……どうしよう」
「……どうするかね」
下手な事は出来ない
ティンク達に何かあったら……俺は……
さて……いきなりだが、『泣きっ面に蜂』って諺はご存知だろうか?
簡単に言うと、嫌な事の後に追い討ちが起きるって事だ
「カイト様!」
兵が駆けつけてくる
「なんだ! 何か嫌な予感がするんだが!?」
「ガガルガの方から伝令が! 貴族が兵をあげて、内乱を!」
「っ!」
ガガルガの方でもか!
「カイト様!」
更に別の兵が……やだ! 聞きたくない!
「カイナスの方で貴族が」
「内乱か!」
「はい!」
ちくしょう!
「カイト様! ヘイナスから伝令が!」
「貴族が内乱を起こしたんだろ?」
「はい!!」
もう頭が痛い!!
「偶然……じゃないよね?」
アルスが言う
「ああ、絶対に狙ってやってるな……俺達の戦力を分散させるつもりだな」
レリス……敵に回すと恐ろしい相手だな!!
「どうするの?」
「放っておく訳にはいかない……ガガルガにはバルセ達を、ヘイナスにはゲルド達を、カイナスはブルムン達に任せよう……」
もう……本当に泣きたい……
・・・・・・・・
ーーーレリス視点ーーー
「ふぅ……」
廊下を歩く私……
事を起こして数日……
そろそろカイト様に伝わった筈だ
「……貴族を利用して、本隊の戦力を分散……疲弊させ、追い詰める」
さて、カイト様はこれをどう乗り越える?
「やめてください!」
「んっ?」
曲がり角から叫び声
廊下を曲がる
「いいだろ? その為のメイドだろうが!」
「いや!」
傭兵の1人がメイドの腕を掴んでいた
……ワールが雇った傭兵だな
「逆らっていいのか? ぶっ殺してもいいんだぜ?」
「ひっ!?」
傭兵が剣を少し抜いて刃を見せる
メイドは完全に怯える
「そうだ、大人しくしてろよ?」
「…………」
真っ青なメイド
「そこまでにしろ」
私は傭兵を止める
「よぉ、軍師殿じゃねえか、なんだよ? メイドなんて利用してなんぼだろうが!」
「その為に雇ってる訳ではない」
「ああ? んじゃ何の為のメイドだ!」
「城内の清掃とかをする為のメイドだが?」
「それじゃ奉仕も追加しとけ!」
「その必要はない」
全く……これだから傭兵は嫌なんだ……
ヤる事しか頭に無いのか?
話していても埒があかない
「……1人くらいなら問題ないか」
「おっ! 理解したか!」
私の発言に傭兵が嬉しそうに言う……何か勘違いしてないか?
私は傭兵の足を払う
「うぉ!?」
倒れる傭兵
ゴスッ!
「ぐえっ!?」
傭兵の首を踏んで押さえつける
「君、城内の治安が悪いから、行動するときは兵と一緒に居なさい」
「は、はい!!」
メイドは返事をして離れていく
「がっ! でめぇ!」
傭兵が足下で暴れる
「はぁ……」
私は踏む力を強める
「がっ! がが!」
苦しむ傭兵
そして……
「……………」
泡を吹いて気絶する
ここまでで充分かもしれないが……
「また暴れられるのも面倒ですしね……」
私はナイフを取り出して、傭兵の首に突き刺す
「…………!?」
身体を痙攣させて、傭兵は絶命した
「死体の処理は兵に任せますか……」
私は再び廊下を歩く
「……ヤンユは上手くやってるだろうか」
どうか、無事にカイト様と合流して欲しい……
私はそう願いながら廊下を歩く