第141話 パストーレとの激闘 24
ーーーアルス視点ーーー
パストーレ軍と交戦した翌日
僕は兄さんに呼び出された
兄さんのテントに入る
「兄さん来たよ? ……あれ? まだ鎧を着てないの?」
「ああ」
兄さんを見ると平時の時の格好だ……
戦の時は寝る時と水浴びの時以外は鎧を着てるのに……珍しいね
「アルス、そこに座れ」
「?」
僕は兄さんの目の前の木箱に座る
椅子の代わりだ
「なあアルス、お前は領主はどうあるべきだと思ってる?」
「へっ?」
いきなり何を言ってるんだろ?
まさか兄さんは自分のやり方に不安を感じたとか?
いやいや、もう4年も領主をやってるんだからそれは無いか
……あ、ひょっとしてテリアンヌ・パストーレの事かな?
説得する方法を考えるために聞いてるのかも!
取り敢えず、自分の意見を言うのが1番だよね?
「うーん、やっぱり民を1番に考えるべきかな? 兄さんもよく言うでしょ? 民が居ないと国は成り立たないって」
「ああ、人は城、人は石垣、人は堀ってな」
「なにそれ?」
聞き覚えのない事を言う兄さん
「あ~人を大切にしないと酷い目にあうってやつな」
「ケーミストみたいに?」
「そうだな」
頭に浮かぶのは火炙りで処刑されるケーミストの姿
磔にされてる間も民から石を投げられていたなぁ……
「それで? 急にどうしたの?」
「その……だな…………コホン」
兄さんは咳払いをする
「俺はこれから単独にパルンに向かう」
「……単独で?」
「ああ、装備も持たずにな、そうすれば中に入れるだろう?」
「何言ってんの!? そんなの捕まるだけだよ!?」
兄さんは領主だよ!? 総大将だよ!?
パストーレからしたら最高の人質だよ!?
「兄さんを人質にして捕虜の解放を求めてくるよ!? 場合によっては停戦とか奪った領土の返還とか求められるよ!?」
つまり今回の戦が無駄に終わるって事だよ!?
「そうだな……それは俺がそれだけの価値があればの話だ」
「……えっ? どういう事?」
「アルス、もし俺が捕まったら……俺を見捨てろ」
「っ!? 何言ってるんだよ!!」
思わず叫ぶ
「ど、どうしたんですか!?」
レムレがテントに駆け込んできた
「あー、気にするな、後で将を集合させててくれ」
兄さんはレムレに言う
レムレは了承してテントを出ていった
「兄さんはこれからのオーシャンに必要なんだよ? パストーレを倒したら、この東方地方を統一出来るんだよ? それなのに何言ってんの!」
「落ち着けアルス」
「落ち着けないって!」
木箱から立ち上がって兄さんに近寄る
「それにティンクさんはどうするの? 兄さんに何かあったらティンクさんは耐えられないよ?」
ティンクさんはハッキリ言って兄さんに依存してる……
兄さんが死んだら……後を追うんじゃないの?
「ティンクはもうそこまで弱くはない……必ず立ち直ってくれるさ」
「……」
兄さんは確信してる眼で見てくる
「でも、必ず生きて帰るって約束したんでしょ? 破る気?」
「……いや、まだ死ぬって決まった訳じゃないからな?」
「決まってるようなものだって!! 今からでも考え直して!」
兄さんに怒鳴る
「……全く、仕方ないな……あの3人の説得で済むと思ってたが」
兄さんが立ち上がる
「アルス、なら討論だ、俺を説得してみろ」
「……望むところだ!」
兄さんを睨み付ける
「さっきも言ったけど、パストーレからしたら兄さんは最高の人質でしかないよ、兄さんの命だけで今回の敗北を覆せるんだから」
手にいれた領土や都
捕まえた捕虜
全てを奪われる
場合によっては更に領土を要求されるかもしれない
兄さんが昔、ナルールを人質にしてパストーレから領土を奪ったようにね
「そうだな、先ずはそこだ……それは俺が領主として存在してるから成立する」
兄さんはそう言うと僕の右肩に手を置く
「そこで、お前だアルス」
「僕?」
「俺が捕まって人質になったら……さっきも言ったが見捨てろ」
「だから!」
「最後まで聞け!」
「っ!」
黙って兄さんを見る
「俺が人質になったら、お前がこの軍の総大将になるんだ……そうすれば少なくとも戦は続けられる」
「そ、そうだけど……」
「これで俺を人質にする理由が無くなるな? 停戦も出来ないし領土も取り戻せないんだ、意味がない」
「でも、それだと兄さんを躊躇いなく殺すんじゃ?」
価値の無い人質なんて必要ない
解放する可能性もあるけど……パストーレは兄さんを恨んでいる……だから間違いなく処刑する
「だから、俺は奴等にこう言うんだよ……『俺を殺したら、お前らは皆殺しにされるぞ?』ってな」
「……えっ? あれ?」
待って? 人質にされてるのに脅迫してる?
「今、俺達が出来るのは俺が単独で行くか、総攻撃するかだ……俺は出来れば総攻撃は最後の手段にしたい」
「なんで? 手っ取り早いのに?」
「オーシャンとパストーレ……双方の被害がデカいからな……それはパストーレも理解してるだろ? 総攻撃が始まったらパストーレに勝ち目が無いのもな」
兄さんは椅子に座る
「不思議だろ? 人質が脅迫の材料になるんだぜ?」
「……」
納得できないような……できるような……
でも、確かにパストーレを脅せる……
「俺はそれを武器にするつもりだ……さっきも言ったが……死ぬのが決まった訳じゃない」
僕を見る兄さん
「だから、今、お前にこの話をしているのは、もしもの為だ……俺が失敗して捕まった時の保険だ」
「……うう」
兄さんが考えてることはわかった
そして、それは不可能ではないって事も……
「俺も死ぬつもりじゃない、持てる力全てを使って生き残るつもりだ」
「……なんで? なんでそこまでするの? 被害は出るかもしれないけど……確実な総攻撃の方が兄さんの危険は少ないのに?」
僕は兄さんを見る
「そこの所だが……まあ、俺もよくわからん」
「えっ?」
「被害を大きくしたくない、敵国とはいえ民を犠牲にしたくない、復興がめんどくさい……まあ色々理由は浮かんだり考えたりした……だが、どれもなんか違うんだよな」
兄さんはそう言って思案する……そして
「あ、もしかしたら……本当の意味で戦を終わらせたいのかもしれないな」
「……意味がわからないよ」
「俺もだ」
なんだよそれ……
「はぁ……もう……兄さんを説得するつもりだったのに……僕が説得されたよ」
「計画通りだ!」
お互いに笑う
「さてと、そろそろ将達も集合したか……行くぞアルス」
「うん」
兄さんがテントを出るために僕の横に行く
そして……
「そう言えば……背、伸びたな」
僕を見て言う
「そう? あんまり意識してないや」
「ちょっと前は俺の胸元くらいだったのに……もう首のところまで伸びてるじゃないか……あと2、3年くらいで追い越されそうだ」
「追い越したらもっと頼もしくなるね!」
「そうだな……追い越される俺は複雑だが……もう伸びないんだよな……」
そう話しながらテントを出た
・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
集合した将達に全てを話して俺は馬に乗ってパルンに向かう
ルーツ達があらかじめ説得してくれたのか、反対する者はいなかった
いや、本当は反対するつもりだったのかもしれない
だが、納得しているアルスを見て諦めたのだろう
実の弟で駄目だったんだ……他人が説得して止める筈がないからな
さて、そう話してる間にパルンの門にたどり着いた
「たのもー!! パストーレの兵達! ここを開けてくれー!!」
少しふざけた感じで叫ぶ
こうする事で、良くも悪くも何かが違うと感じてもらえるだろう
『なぁ、あれってカイト・オーシャンだよな?』
『……丸腰か? てか1人?』
『替え玉じゃないのか? 本人が来るわけないだろ』
そんな話し声が僅かに聞こえる
1人の兵が外壁の上から顔を出す
「なんのようだ!!」
「交渉に来た! テリアンヌ・パストーレに会わせてくれ! この通り、俺は丸腰だ!!」
「…………」
兵は周りを見渡す
『どうする?』
『怪しいよな……』
『交渉って何の?』
『お前聞けよ!』
「……何の交渉だ!」
「降伏をさせるための交渉だ!」
『だってよ?』
『どうするよ?』
『追い返す……訳にはいかないよな?』
『ブライ様かテリアンヌ様に話を通してみるか?』
『何て言う?』
『カイト・オーシャンを名乗る変人が来たって言おうぜ』
……失礼だなおい
少ししてからブライが外壁の上から現れた
「むぅ……間違いなくカイト・オーシャンじゃな」
そう呟く
「替え玉では?」
「いや、あの立ち方、気配……そして憎たらしい眼は本人だ」
憎たらしい眼って……
「……開けますか?」
「……ふむ」
ゴゴゴゴゴ!!
門が開いた
「お邪魔しまーす!」
敢えてふざける
いや、内心は緊張で震えてるからね、それを隠すためにね?
中に入ると門が閉められた
馬から降りる
すると兵がやって来て手綱を手に取った
そして、馬を少し離れた木に連れていった繋いだ
馬が木に繋がれた瞬間に
「今だ!」
「捕らえろ!」
「うおっ!? って!」
数人の兵に押さえつけられた
いやいや! 重い! 重いから!!
「……なんのつもりだ?」
「よぉ、テリアンヌ」
目の前にテリアンヌが立っていた
俺を見下ろしている
「何故1人で来た?」
「お前と話すため」
「何故丸腰だ?」
「話すのに武器がいるか?」
「……お前を人質にする可能性を考えなかったのか?」
「そうしたらどうなるか……わかってるみたいだけど聞くか?」
「…………」
「俺に何かあったら……見捨てるように命じてきた……マーレス達がお前に言ったようにな」
「っ! 気付いていたのか……」
「まあな……さてと……いい加減重いから何とかしてくれない? 本気で限界なんだけど……」
内蔵が潰れる!!
「……離してやれ」
「よ、よろしいのですか?」
「どうせ何もできん……」
兵達が俺から離れる
あーキツかった
「ふぅ……死ぬかと思った……」
死因は圧死とか嫌だぞ?
「着いてこい……ここでは話しにくい」
「そうだな」
テリアンヌが歩き出す
俺はテリアンヌの後ろをついていく
テリアンヌの隣にはブライ
俺の周りには兵が数人
「あれがカイト・オーシャン……」
「くそ、嘗められてる!」
「…………」
パストーレの民が睨んでくる
そりゃあ、俺は侵略してきた領主だ……恨まれて当然だな
ゴッ!
「いっ!?」
右の肩甲骨辺りに痛みが走る
後ろを見ると少し大きな石がコンコンっと落ちた所だった
投石されたな……投げたのは
俺は投石された方向を見る
そこには怒った顔の子供と……子供も押さえて青ざめてる女の人が居た
あの子が投げたのか……
「…………」
前を向いたらテリアンヌが立ち止まって俺を見ていた
「なんだ?」
「いや、怒らないのか?」
「別に……恨まれる事をしてるからな……それにこの程度で怒るほど器が小さいわけでもない」
俺を狙ったんなら許すさ
……これがティンクやミルムに向けてだったらぶちギレたがな
「……そうか」
テリアンヌはそう言うと歩くのを再開した
俺はテリアンヌに着いていきながら
この世界の子供はコントロールがいいなっと思っていた