第140話 パストーレとの激闘 23
パストーレの将が全滅した
俺はそう判断して軍を本陣まで撤退させた
パストーレの兵達も壊滅状態だったな
オーシャン軍の撤退を見るや否や、すぐにパルンに逃げていった
結果的に言うなら、今回の交戦は大勝利だな
こっちの被害は軽微……パストーレの被害は甚大
「運が良かった……って言うのは違うよな」
俺は目の前を見る
俺の前では将や兵達が戦いの勝利を祝っていた
彼等の活躍があったからこその結果だ
本当に頼もしい奴等だ
「カイト様」
「ルーツ……あれ? お前は飲んでないのか?」
「ええ、私は遠慮しております」
「そうか……それで? どうしたんだ?」
俺はルーツの用件を問う
「ちょっと確認をしておこうかと……明朝、捕虜達を連れてパストーレに降伏を呼び掛ける……それでよろしいですか?」
「ああ、ゲルドを始めとした数人の将と兵達を連れて行ってな……外壁に向けて呼び掛ける……マーレスを始めとした将……捕虜を見たら奴等も話は聞くだろう……」
それに……パストーレの将はもうブライしかいない
そのブライは負傷で全力を出せない
こっちには元気な将達がいっぱいだ
兵の士気も高い……普通に考えても決着はついただろう
「そうですね……しかし、念には念を……気を付けてくださいよ? 矢とか矢とか矢とか!」
「わかってるって! 矢とか矢とか槍とか気を付ける!」
そんな風に言い合って笑い合う
・・・・・・・・・
翌日
「さてと、準備はいいか?」
俺は兵達を見る
『はい!!』
兵達が答えて縄を引く
「……っ!」
縄に繋がれてるのはレストだ
ルミルに敗北した後に捕縛されたパストーレの女の将だな
確か……ブライの孫でもあったな
なんで彼女を縄で引いてるのかって?
これからパルンに向かう時に連れていくからだ
理由は2つ
1つは将を捕縛してるのは事実だとパストーレに証明するためだ
全員を連れていくのは骨が折れるからな、彼女だけにした
もう1つは投石器を使われないようにするためだ
俺たちだけだと岩を飛ばしてくるかもしれないし……
遠くからでも、縄に縛られた何者かの姿を見たら
投石器を使うのを躊躇うだろうと思った
えっ? 彼女を選んだ理由?
単純に捕縛した将で1番弱かったからだ
他の将は隙をついて逃げ出しそうだからな
彼女なら……逃げようとしても捕まえられると判断した
そんな訳で、俺とゲルドとマリアットの3人と
数百人の兵を連れてパルンの側に移動する
・・・・・・・・
俺の予想通りなのか、単純に弾切れなのか、投石は無かった
パルンの門前に到着した
「……さてと……ゲルド」
「はっ!」
ゲルドが俺の隣に立つ
これで俺の守りは大丈夫だな
「パストーレの者共よ! 聞こえるか?!」
俺は叫ぶ
少ししてから外壁の上に兵達が集まってきた
ざわざわと何かを話しているが……よく聞こえない……
縛られたレストを見て動揺してるみたいだ
「パストーレの将をレストを始めとした6人を捕らえた! もうお前達に勝ち目はない! 今すぐ降伏せよ!!」
『あれ、レスト様だよな?』
『捕まったのは本当だったんだ……』
『ちくしょう……ちくしょう!』
パストーレ軍の士気は最低まで下がったな
このまま戦意を完全になくして、門を開けてくれたら楽なんだけどね……
「狼狽えるな」
そう、上手くはいかないよな
「よぉ、テリアンヌ」
俺は外壁の上に現れたテリアンヌを見る
「……カイト・オーシャン」
テリアンヌも俺を見る……冑で視線はわからんが……見てるよな?
「テリアンヌ! もう勝敗は決した! 大人しく降伏せよ!!」
「断る!!」
意外! それは拒否!
いや、予想はしてたけどさ……
「いいのか? 捕虜の命が危ういぞ?」
軽く脅してみる
これならどうだ?
「すきにしろ……弱者は必要ない」
やだ冷たい……
おいおい、そんな事言ったらレストも傷付くぞ?
俺はレストを見る
「…………」
……?
なんだ? コイツ……ホッとしている?
いや、今はテリアンヌとの会話だ
「なんだよ、随分と部下に冷たいんだな?」
「…………」
だんまりか……
「本当に良いのか? 捕虜にした将達を、全員殺すのは容易いんだぞ?」
「……っ」
お、今、拳を握ったか?
「降伏しろテリアンヌ! 今ならまだ間に合うぞ?」
「…………」
震えてるな……
悩んでいるのか?
「テリアンヌ様……」
あ、ブライが出てきた
「……わかっている」
テリアンヌの震えが止まった
そしてテリアンヌは俺を見る
「捕虜の身柄は貴様の好きにしろ、私達は降伏などしない!! ブライ!」
「はっ!」
ブライが前に出て、俺に向けて矢を放つ
「ふっ!」
飛んでくる矢をゲルドが槍で叩き落とす
お見事!!
「それが……お前の答えなんだな?」
俺はテリアンヌに言う
「……」
テリアンヌは俺に背を向けて、外壁から姿を消した
「…………」
交渉は決裂だな
「戻るぞ」
俺はそう言って撤退を開始する
・・・・・・・・
「妙に強気でしたね」
道中でゲルドが言う
「そうだな……」
「何か切り札があるのでしょうか?」
「どうだろうな……」
俺はそれよりも気になる事がある
レストの事だ
テリアンヌはレストの目の前で捕虜を見捨てた
本来ならショックを受けたりして悲壮感が溢れる表情になるんだが
「……奴はホッと安心していたな」
普通とは真逆の反応……
「…………」
テリアンヌの様子……レストの様子……
そこから1つの仮説を思い浮かべた
「試してみるか……」
俺はそう呟いて本陣に戻った
本陣にたどり着いて直ぐに移動する
向かうのは牢だ
「よお! 気分はどうだ?」
「最悪だ!」
叫んだのはナルールだ
「だろうな」
俺はそう言ってナルールを見る
「な、なんだ?」
戸惑うナルール
そんなナルールに俺は一言つぶやいた
「テリアンヌが降伏したぞ」
「っ!! そんな馬鹿な!! 嘘だろ!!」
「ああ、嘘だ」
「なっ!?」
ナルールの反応で俺は確信する
コイツら……自分達を見捨てるようにテリアンヌに言い聞かせたな……
・・・・・・・・・
「ヒヒ、つまり? アイツらは自分達が敗北したら見捨てるようにしていたと?」
俺の考えを聞いたブルムンが言う
他にはバルセとルーツが居る
「ああ、レストとナルールの反応で間違いないと確信した」
俺は自信満々に答える
「ふむ……そうなると弱りましたな」
バルセが口を開く
「人質を利用しての降伏が無駄だとわかった今、我々に残された手は総攻撃しかありませんな」
「こっちも被害は軽くない……総攻撃を仕掛けたら更に被害が出るでしょうね」
ルーツがバルセに続いて話す
「それなんだよな……」
俺は頭を抱える
総攻撃……数に頼った最終手段だ
行えば間違いなくパルンを落とせる
でも……俺達もパルンも被害はでかくなる……復興とか大変だぞ
「はぁ……」
俺はため息を吐く
「ヒヒ、それにしても奴等も酷な事をさせますね」
「えっ?」
ブルムンが言う
「自分達を見殺しにしろって事ですからね、残酷な事ですよ、ヒヒヒ!」
「……見殺しか」
俺はブルムンの話を聞いて考える
自分や領の為に戦った部下を見捨てる……
…………俺で言うならヘルドとルーツとオルベリンとかを見捨てるって感じか?
………………あ、ヤバい、想像しただけでツラい
「カイト様? どうしました?」
ルーツが俺に話しかける
「あ、いや……ルーツ、頼むから死ぬなよ?」
「はい?」
ルーツは首を傾げるが……直ぐにブルムンやバルセとの話し合いに戻る
3人が話してるのを聞きながら、俺は考える
そして思った、このまま総攻撃を仕掛けたら……辛い結果になると……
でも、他に打つ手が無い……
…………いや、あるな
あーだけどこれは反対されそうだな……
危険だしな……でもなぁ……
「…………」
俺はバルセを見る
しかし、頭に浮かぶのはユリウスの事だ
ユリウスは死にかけてでも必死に戦った、そしてブライに勝利した
アルスだって死に物狂いで戦った……そしてマーレスに勝利した
皆、必死に戦ってくれたんだ……
今度は、俺が戦う番だ!!
「3人共、ちょっといいか?」
俺は意を決して話す
テリアンヌを説得する方法を
正直説得出来るかはわからないけど……交渉は確実に出来る
それを俺は話した
俺の話を聞いて、三者三様の反応が返ってきた
「駄目です! 危険です!」
反対するルーツ
「確かに……それなら交渉は出来るでしょうが……」
驚くバルセ
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! イカれてる!! 」
爆笑するブルムン
取り敢えず、3人を説得するか……
この3人を説得出来ないで、テリアンヌを説得出来るわけないからな