第138話 パストーレとの激闘 21
時間は少し前
ゲルドがガイルクを倒した頃
ーーーアルス視点ーーー
「ほらほらどうした若造! その程度か!」
「ぐっ!」
マーレスの剣が僕の右肩を掠める
マーレスの剣は僕の身体を少しずつ傷つけていく
かろうじて致命傷は避けてるけど……
「痛っ……」
身体中がズキズキ痛む
「もう実力の違いがわかったんじゃないのか? お前じゃ俺には勝てない、大人しく降伏したらどうだ?」
マーレスは剣をクルクル回しながら言う
わざと隙を見せてくる……完っ全に嘗められてる
「断る!」
僕は槍を構えながら答える
「全く……諦めが悪い奴だな」
「っ!?」
まただ! 一瞬でマーレスが僕の目の前に移動した
「くっ!」
僕は後退しながらマーレスの剣を受け止めるために構える
「はぁ!」
槍が砕ける
「なっ!?」
マーレスの剣を受け止めた所から砕けた
「チェックメイトだ!」
マーレスは更に踏み込んで剣を振り上げながら斬りかかる
「くっ! りゃぁ!!」
僕は思いっきり後ろに跳んで、バク転をして避ける
「おっと、器用な事するなぁ……」
マーレスは愉快そうに言う
「はぁ、はぁ……」
あっぶな!! シャルスのサマーソルトだっけ? あれを咄嗟に思い出して避けてみたけど……
み、見てて良かった……
「……」
どうしよう……槍が壊れて使えなくなった……
剣は持ってないし……あるとしたら……
「これか……」
僕は腰に差してる刀を見る
まだ使いこなせるとは言えない武器
……いや使いこなさないと!
じゃないと殺られる!!
刀を抜く
構える
「……へぇ、カタナか……珍しい物を持ってるな」
「なに? 刀を知ってるの?」
「ああ、それを使ってる奴と戦った事がある……弱かったがな!」
「っ!」
マーレスが突っ込んでくる
剣と刀がぶつかる
「そんな細い刃で獲物が斬れるのか疑問だな!」
「斬れる!」
僕は見たんだ! オルベリンが刀で訓練用の人形を真っ二つにしたのを!!
・・・・・・・
シャルスやって来た頃
『あれ? オルベリン、それ何?』
訓練場を歩いていたらオルベリンが立っていた
『アルス様、これは刀という物です……シャンバルが持ってきておりましてな……買いました』
『……細いね……簡単に折れそうだよ?』
『そうですね、割りと柔軟ですが……剣と比べたら横の衝撃には弱そうです……しかし……』
オルベリンが人形に向かって構える
『……………ふっ!』
ヒュン!
そんな音が耳に届いた
『……えっ?』
何が起きたのかよくわからなかった……オルベリンが剣を振った?
『ふぅ……』
オルベリンが剣を仕舞う
『何をしたの?』
僕はオルベリンに近付く
『斬ったのですよ……人形を』
オルベリンが人形を見る
『?』
僕も人形を見る
何もおかしいところは……
風が吹く
落ちる音
『うぇ!?』
人形の上半身……胴から上の部分が地面に落ちた
『斬れ味は抜群ですな』
『……つるつるしてる』
僕は断面を触った
剣とは全然違う……剣で斬った場合は……何て言うのかな?
斬るっていうより……割るって感じの断面になるんだ
でもこれは間違いなく斬ったって断面だ
……………
パストーレとの戦に出発する前にオルベリンに会った
『アルス様も行かれるのですね』
『うん、カイナスの時とは違う……本当の戦に行くよ』
無事に帰れる保障は無い
もしかしたら死ぬかもしれない
それでも僕は行くんだ
兄さんを支えるために!
『それでしたら……アルス様、これを……』
『これって……刀!? えっ!? いいの!?』
『はい、ワシはもう使う事はありませんからね……アルス様には以前、使うところも見せてますから……使いこなせるかと』
『あっ、えっ……でも……僕、剣とかあまり強くないよ? 皆と模擬戦した時も槍じゃないと勝てないし……』
『大丈夫です、アルス様なら使いこなせます』
『……断言するね……なんで?』
『貴方には様々な武器を使いこなす才能があります、いずれ、全ての武器を巧みに使いこなせるようになるでしょう』
『……そ、そうかな? 自分じゃよくわからないけど……』
『ワシの目に狂いはありません』
『……そ、そうだね!! じゃあ、うん、貰うよ……ありがとう、オルベリン』
『いえいえ、ご無事をお祈りしておりますぞ!』
・・・・・・・・・
そうだ!
オルベリンだって言ってくれたんだ!
僕には才能があるって!
オルベリンが信じてくれてるんだ……兄さんだって……
なのに……僕が僕を信じなくてどうする!!
斬れる斬れないじゃない……斬るんだ!!
「じゃあ、斬ってみろよ!!」
マーレスがまた目の前に移動した
「っ!」
マーレスはもう剣を振ってきている
僕から見て、右から左に向けて
狙いは僕の右の脇腹!
刀で受け止める?
……いや、ここは……
「はぁ!」
刀を右に振る
避けるでも受けるでもない!
挑む!!
「へぇ!」
マーレスは剣から右手を離して
僕にパンチを放つ
僕は身体をずらす
左肩に当たる
その衝撃を利用して後退する
「はぁ、はぁ……」
くそ、あの一瞬で移動してくるのを何とかしないと……
僕はマーレスを見る
「~~♪」
勝利を確信しているのか鼻歌を歌ってる……
でも目はしっかりと僕を捉えている
油断はしてないか……
僕は刀を構えながら考える……
多分次も一瞬で移動してくるのをやる
どうやって目の前に?
数歩は離れてるのに……
「…………んっ?」
僕はマーレスの後方を見て気付く
さっきまでマーレスの居た地面が抉れてる……
……まさか、えっ? そんな単純な事なの?
僕はマーレスを見る
「さてと……次で決めるとするか」
マーレスはそう言って構える
まだだ……マーレスを良く見るんだ……
マーレスは剣を振りかぶる
上段で斬ってくるつもりか……
マーレスの足が地面にめり込む
まだ……まだだ
マーレスの足下の地面が抉れた
今だ!!
刀を目の前に振る
「ぬぅぉぉぉ!?」
マーレスが刀の先端部分に現れた
そして後方に跳んで僕との距離を離す
「くっ!」
刀がマーレスの鼻先を掠めたのか……鼻先から血を流すマーレス
「若造! お前……見えたのか!?」
「どう思う?」
マーレスの瞬間移動……
その正体は跳躍だ
つまり跳んで来てたんだ……
凄く単純な事だけど……瞬間的な速さがとんでもない……
消えたように見えるくらいに速いんだ……
並大抵の脚力じゃない……どれだけ鍛えたら出来るようになるんだ?
でももう驚異じゃない……タネがわかったんだ
さっきみたいに足下を見ていれば……地面が抉れた瞬間……跳んだ瞬間に攻撃すればいい
さっきは避けられたけど……今度は踏み込んで斬る
そうすれば……今度は届く!!
・・・・・・・・・
ーーーマーレス視点ーーー
奴を少し見くびってたか……
こんな若造に見破られるとはな……
「くっ!」
生意気な眼で俺を睨む
身体中ボロボロな癖に……一向に戦意を失わない……
「何がそこまでお前を動かすんだ?」
口から出た疑問
「はっ?」
アルス・オーシャンは目を丸くする
何を聞いてんだコイツ? って顔だ
・・・・・・・・・・
ーーーアルス視点ーーー
何を聞いてんだコイツ?
「そんなボロボロになってでも尽くす相手か? カイト・オーシャンは……」
そんな事を聞いてくる
「当たり前だろ! 僕にとってはたった1人の兄さんなんだ!」
後はたった1人の妹もいるけどね!!
「ふん、本人は本陣に居て戦いもせず……武力も無いと……そんな弱いやつなんかさっさと見捨てればいいのにな!」
……弱い?
「……取り消せよ……何も知らない奴が、兄さんを侮辱するな!!」
頭に血が上ってくる
「あん?」
「兄さんは強いんだ! 僕なんかよりも……お前よりもな!!」
武力の話じゃない……兄さんの強さは武力じゃない
「カイト・オーシャンが強い? お前の目は節穴か? いつも誰かに守られないといけない様な男だぞ?」
「それが僕達の役目だ! 僕達は兄さんの剣や盾になって戦うんだ!」
「はっ! ただの妄信じゃないのか?」
コイツは知らないんだ……わからないんだ
兄さんの強さが……
・・・・・・・・
レルガやボゾゾ達がオーシャンを……兄さんを見捨ててオーシャンを去った日だ
『…………』
まだ幼くて現状を理解しきれてなかった僕は……眠れずに夜の廊下を歩いていた
『……あ、そうだ……兄さんに何かお話ししてもらおう……』
兄さんは寝付けない僕やミルムによく話を聞かせてくれた
その日起きた愉快の出来事や、本に描かれた物語
僕やミルムが眠るまで……話してくれた
『そのまま兄さんと一緒に寝かせてもらおうかな……』
そう決めて僕は兄さんの部屋に向かう
兄さんの部屋の前に着く
扉を少し開くと……
『うっ……ぐす、くそ……くそ……』
『…………』
扉の隙間から中を覗く
『レルガ……ボゾゾ……ジャックス……モールモー……メシルーク……なんで……私はそんなに頼りなかったのか?』
兄さんは椅子に座って泣いていた
『……』
兄さんが泣いたのを見たのはこれで3度目だった
最初は僕とミルムの母上が死んだとき
2度目は父上が死んだとき
それだけだった……僕が兄さんが泣いてるのを今まで見たのは
だって次の日には元気になってたんだから……
『……』
僕は見てはいけないものを見た気がして……コッソリと自室に戻った
翌日、兄さんの姿を探した
兄さんは玉座でレリスに指示を出していた
『んっ? アルス? どうしたんだい?』
兄さんが僕に微笑みながら話し掛けてきた
いつも通りの笑顔……安心させるかのような笑顔
それを見て僕は気づいたんだ
兄さんは弱さを見せない様にしている
僕やミルム……民や兵が不安にならないように……
それはとても大変な事だ……
大人になった今ならよくわかる
それを兄さんはずっとしてきたんだ
今も……多分これからも
・・・・・・・・
そんな兄さんが……
『勝ってこいよ! 期待している!』
僕を頼ってくれたんだ!!
「妄信、結構! 勝手に言ってろ! 直ぐにそれが間違いだって思い知らせてやる!!」
僕は刀を構える
どこから来ても……どう来ても……斬る!!
ーーーマーレス視点ーーー
少しは動揺するかと思ったが……全くブレないか……
厄介だな……
「兄の為か……」
あーあ、熱い眼をしちゃって……
ああいう奴が、倒すのに手間取るんだよな……
跳躍はもう使えない……俺が跳んだ瞬間に斬ってくるだろうからな
どうするかな……
挑発はダメ
脅迫も無理だろうな……材料ねえし
俺が今出来ることで……奴を動揺させられる事は……
……あるにはあるが……
いや、躊躇うな……使えるものは全て使え
それが勝利に繋がる!!
俺は剣を構えて走る
「はぁ!」
「ふっ!」
剣と刀がぶつかる
「おい若造! お前の覚悟はわかった……だから、俺もその覚悟に答えて、俺の秘密を話してやるよ!」
「何!?」
剣を受け止めながらアルスが俺を見る
「俺の名前はマーレスじゃないんだ」
「?」
「正しくはマイルス……マイルス・パストーレだ!」
「なっ!?」
一瞬だが、驚くアルス
一瞬……それで充分だ!
「とった!!」
「しまっ!」
俺の剣がアルスの左肩を切り裂く
「がっ!」
アルスは咄嗟に俺を蹴る
「ぐっ!」
「勝負あったな……」
俺は勝利を確信した
・・・・・・・・・
ーーーテリアンヌ視点ーーー
「…………」
ブライとマーレス以外は捕らわれた……
「……すまない、皆」
私は誰にも聞こえない謝罪を呟く
「……ブライは戻ってきたけど……」
貴方は……戻ってきてくれますよね?
マーレス……マイルス兄様