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第137話 パストーレとの激闘 20

 ーーーカイト視点ーーー


『わぁぁぁぁ!!』


 そんな叫び声が陣まで届く



「交戦したか……」


 俺は本陣の軍議をしていた場所で叫び声を聞いていた


「……俺は俺のやるべきことをやるかな」


 俺はそう呟いて紙を拡げる


 そこには色々と書き込んでいた


『ナユル』

『ヒルデ』

『セラリア』

『ヘイル』


 うん? 何かわからないって?

 名前だよ名前、ヘルドの子供が女の子だった時のね


 そんな事をしている場合かって?

 これしかやることが無いんだよ

 戦況が動いたら他にやるべきことが出るかもしれないが

 今はどうしようもないからな


 それなら、手が空いてるうちに名前を考えておこうとね

 この戦が終わる頃には産まれてる可能性が高いし


 因みに、この名前の候補は『サーリスト戦記』で産まれる子供に自動で名前を決めたらつけられる名前だ


 あれ便利な機能だったな……


「いや……流石にこれで決めるのは無しか」


 これはゲームとは違う

 ヘルドは俺に名前をつけてほしいんだ

 楽に決めるんじゃなくて……やっぱり悩むべきだな


 そんな感じで俺は名前の思案を続けた


 ・・・・・・・


 どれくらい時間が経った?

 それはわからないが……


 戦況が動いた


 最初に陣に戻ってきたのはティールだった


「ティール!? おい大丈夫か!?」

「えぇ、意識はしっかりしてますよ」


 ティールは左の脇腹を負傷していた

 兵士に運ばれながらティールは俺を見る


「ペンクルを捕らえました、拘束して牢に入れています」


 ティールが言う


「ペンクルを倒したのか!? 凄いじゃないか!!」


 俺は驚いた

 ペンクルはパストーレでも強い方の将だからだ

 3番目か4番目……まあ、それくらいだ

 ペンクルを失ったのはパストーレには大きな痛手だろうな


 因みに、牢は木で作られている

 結構頑丈なんだぜ?


「よし、ティールは直ぐに治療を受けて休んでくれ」

「はい……そうします」


 ティールは軍医の所まで連れていかれた


「えっ? ちょ! そんな太いので縫うんですか!?」


 そんな声が聞こえたので俺はその場を離れた


 痛そうな声が聞こえるがスルーだ!!

 俺は! 何も! 聞こえてない!!



 ・・・・・・・・


 次にルミルがレストを連行してきた


「レストを捕らえました!!」


 誇らしげなルミル

 将になって初めてのまともな戦いだ、武功をあげれて嬉しいんだろうな


「おお! ルミルも敵将を捕らえたか!! 良くやった!!」


 少し大袈裟に褒める


「へへ……」


 照れくさそうなルミル

 成果を挙げたら褒める! これは大切な事だ


「状況はどうなってるんですか?」


 ルミルが聞いてくる


「うん? ティールがペンクルを捕縛したぞ、それで治療を……お、終わったみたいだな」


 真っ青なティールが兵士に支えられながら軍医のテントから出てきた


「ティ、ティール? 大丈夫か?」


 治療前より顔色が悪いぞ?


「だ、大丈夫……じゃないですね……あんな、あんな太いので……し、死ぬかと思いましたよ……」


 顔を右手で押さえるティール……トラウマになったか?


「歩ける?」


 ルミルがティールの右腕を掴んで支える


「歩けます……けど……暫く針とかは見たくないですね……」


 トラウマになってるな!!


「取り敢えず、休め、なっ?」

「はい……失礼します」


 ティールはルミルに支えられて行った

 本当にお疲れ様です!!


 俺はティールに敬礼していた



 ・・・・・・・・・

 

 それから少ししてからメビルトが運ばれてきた

 ……メビルトはボロボロだった


「メビルト!?」


 俺はメビルトに駆け寄る


「メビルト様は意識はありませんが、呼吸はしています、とにかく医者に診てもらいたいのですが」


 メビルトを背負っていた兵が言う


「あ、ああ……頼む」


 メビルトは軍医のテントに運ばれていった


 メビルトが治療を受けてる間に、一緒に戻ってきた兵から事情を聞く


「そうか! ユルクルを捕らえたか!!」


 でかしたメビルト!!

 ユルクルは厄介な策を仕掛けてくるタイプだ!

 そのユルクルが本領を発揮する前に捕縛出来た!

 これは大きなアドバンテージだ!

 ボーナスは期待していてくれ!!

 ……いや、ボーナス制度無いけどさ!

 ほ、報酬! それはたっぷり出すからな!!



 そう考えていたら


「失礼しますカイト様!」


 兵士が駆けつけてきた


「んっ? どうした?」

「ゲルド様がガイルクに勝利しました!」


 ガイルクかぁ……まあ、ゲルドだったら勝てて当たり前だな

 実力の差がありすぎるし


 おっと、だけど褒めない訳ではないぞ?

 ゲルドだってしっかり手柄をたてたんだ

 なら、褒めるべきだ


「ところでゲルドは?」

「戦況を確認すると言って馬に乗って走っていきました」


 てことは、ゲルドはまだ戦場か……

 確認は大事だしな!

 それに……うん、ゲルドが戦場に残ってくれたのは助かる


 ・・・・・・・・・


 テントでルーツとこれからどうするかを話していた時だ


「失礼しまぁぁぁす!!」

『!?』


 シャルスが駆け込んできた


「戻ってきたかシャルス! どうしたんだ?」


 俺はシャルスを見る


「はい! ナルールを捕縛した事をカイトの旦那に報告に来ました!!」

「ナルールを捕らえたのか!?」


 皆どうしたんだ!?

 全員がパストーレの将を捕縛してるじゃないか!


「オイラだけ大手柄だと思って牢に運んだら、皆捕まえてたんっすね……」

「いや、敵将を捕らえたんだ……大手柄だぞ?」

「っですよね!!」


 一気に元気になるシャルス


「それじゃオイラは戦場に戻ります!!」


 そう言って走っていった……本当に足が速いな


 ・・・・・・・・

 ーーーテントの中ーーー


「……」


 状況を整理しよう……


 パストーレの将はペンクルを始めとして、レスト、ユルクル……ガイルクにナルール


 残りの敵将はブライとマーレスか

 この2人も捕縛できたら……俺達の……オーシャンの勝利だ!

 パストーレには、戦える将がいなくなるからな!


「ゲルドがどっちかと戦ってくれたら安心なんだがな……」


 ブライもマーレスも強敵だ

 アルスが交戦してないように俺は祈る



「カイト様!」


 ルーツが俺のテントに駆け込む


「どうした!」

「レムレとユリウスが戻ってきました! ブライと交戦し、撃退したそうです!」

「本当か!?」


 大金星じゃないか!!?


「それで? なんでそんなに慌ててるんだ? 吉報じゃないのか?」

「ユリウスがブライとの交戦で重傷です! 来て下さい! 見た方が早いです!!」

「!?」


 俺はルーツと一緒に軍医のテントに向かう


 テントに入ると……


「カイト様!!」


 レムレが俺を見る……泣いていたのか目が赤い


「レムレ、大丈夫か?」

「ぼ、僕は大丈夫です……でも、ユリウスが……」

「ユリウス……」


 ユリウスは軍医の治療を受けている

 顔色が真っ青だ……てか動いてない……

 気絶してるだけだよな? これ死んでないよな?


「……不味いですね」


 軍医が呟く


「治らないのか?」

「傷は治せます、止血も出来ました……しかし、血を流しすぎましたね……もうどうしようもありません」

「そんな!?」


 レムレが叫ぶ


「助からないんですか!? これからなんです!! ユリウスはこれから活躍していくんです!!」


 レムレが軍医を揺さぶる


「血が! 足りない! のです! これは! どうしようも! ありません! ええい! 揺するのやめい!!」


 軍医がレムレを引き剥がす


「いいですか? 貧血になるくらいの出血なら、止血して数日休めば新たに血を作って助かります……しかし、彼は明らかに多量な出血をしています! もう身体に生きるための力が無いんですよ!!」


「そんな……嘘だ……」


 レムレが崩れ落ちるように座り込む


「…………」


 俺はユリウスを見る

 眠ったように動かないが……僅かに呼吸をしているのはわかる


「……」


 ユリウスが死ぬ……

 それを伝えられて俺は少しショックを受けていた


 付き合いが長いわけではない……4年くらいだ……いや、結構長いか?

 かなり親しい訳でもない

 それでも…………やはりショックだな、うん


 レムレが言ったようにユリウスはこれからだ……まだ17だぞ?


「血が……足りないんだよな?」

「えっ? あ、はいそうです」

「…………」


 俺の頭に1つの単語が浮かぶ


『輸血』


 他人の血をユリウスに投与する

 ……血が足りないなら補充すればいいって考えだ


 でも問題がある

 てか問題だらけだ


 先ずは器具だ

 今までオーシャンでの医療は薬草などを煎じた物を塗るか飲むかとかだった……あと縫うね

 つい最近、シャンバルが持ってきた注射器でやっと医学が少し進歩した


 血管に直接薬を入れる

 それが最近オーシャンに広まった


 そんな訳で……輸血に使う本来の器具である『点滴』は無い

 注射器だけだ……不可能では無いだろうが……万全とは言えない



 他の問題は血液型だ

 他人の血を入れるんだ……同じ血液型じゃないと赤血球が溶血して最悪死ぬ

 なら同じ血液型にすればいいって?

 どうやって血液型を調べるんだ?

 調べる器具が無いし方法も無い


 キャラのプロフィールにも設定されて無かったから、ゲームをやりこんだ俺にもわからない


 更に感染症のリスクもある……


 そんな事を考えていたらとても提案出来なかった……


 俺はこのままユリウスを見殺しにするのか?


「ユリウス様!!」


 ティールがテントにやって来た


「ティール……」

「カイト様! ユリウス様は!!」

「……正直危ない……死ぬかもしれない」

「そんな……」


 ティールが真っ青になる


「バルセ様になんと言えば……」


 呟くティール


 そうだな……バルセになんと言うべきか……言葉が浮かばない



「私がどうしましたか?」

『!?』


 バルセがテントに入ってきた

 えっ? なんでここに?


「バルセ? ボゾゾと一緒にメイデル港に行ったんじゃ?」

「胸騒ぎがしましてな……ボゾゾに任せて私も下船したのですよ……」


 バルセは歩いてユリウスの側に行く


「陣に着いたら、兵にユリウスの危篤を伝えられました……」


 バルセはユリウスの頭を撫でる


「ユリウスも……私を置いて逝くのか」


 バルセの手が震えている

 落ち着いてるように見せてるが……かなり動揺している


「バルセ……」

「ユリウスは……私の全てなんです……私の……」


 バルセの目から涙が流れる


 ……っ!


「バルセ! 一か八か……賭けてみるか?」

「カイト殿?」



 俺は輸血を提案する

 方法と……リスクもしっかりと



「血を……」

「確かにそれなら可能性がありますね」


 軍医が頷く


「しかし、血がユリウスと合わないと」

「最悪……苦しんで死ぬ」

「…………」


 バルセは考える……そして


「ユリウス……聞こえてるか?」


 ユリウスに語りかける


「輸血と言うのをやれば、お前は助かるかもしれない……しかし、上手くいかなければ苦しんで死ぬそうだ……どうする? やるか?」


 ピクッ!


 ユリウスの左手の指が僅かに動いた


「……(コク」


 そしてゆっくりとだが……頷いた……俺にはそう見えた


「ふむ、カイト殿……輸血を試してみましょう! このまま何もしなくても死ぬのです……ならば賭ける!!」


「わかった……軍医、頼む!」

「はっ!」


 軍医が早速準備を始める


 そして…………


 ・・・・・・・・・


 ーーーユリウス視点ーーー


 あれ?

 ここはどこだ?



『ユリウス』


 えっ?


 父……上?


『ユリウス』


 あれ? 母上?


 なんで? 死んだはずの2人が?

 いや、そんなのどうでもいいか……また会えたんだ!


 思いっきり抱きつこう!!


 僕は走る

 けれど2人に近寄れない


 あれ? なんでだ?


『ユリウス……まだ早い』


 父上が言う

 早い?


『帰りなさい、貴方の居るべき場所に』


 母上が言う

 居るべき……場所?



「あっ……」


 そうだ……僕は……


「僕は……まだ……」


 生きなきゃ!!


 ・・・・・・・


「んっ……」


 目が覚めた……視界がちょっとボヤけるけど……うん、問題ない


「ユリウス……目が覚めたか?」

「……あれ? 叔父上?」


 なんで叔父上が隣のベッドで寝かされてるの?


「その様子なら、大丈夫そうだな」


 安心している叔父上


「何があったんです?」


 僕は叔父上から事情を聞く


 輸血っていうのをしたらしい

 叔父上の血を僕の身体に入れたそうだ


「叔父上の血を……」

「ああ……これからは血を分けた息子って言えそうだ」


 文字通りね


「息子……あの、叔父上」

「なんだい?」

「その……これからは……『父上』と……呼んでも?」

「!? ああ! 呼んでくれ! 何度でも呼んでくれ!」


 嬉しそうな叔父……父上


「ええ、じゃあ……これからもよろしくお願いします……父上」


 あ、眠くなってきた……


 ・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー



 奇跡としか言いようがない

 ユリウスへの輸血が成功した


 本当に奇跡としか言えない


「良かった……」


 自然と口から出た


 輸血の成功だけじゃない

 バルセが船を降りてこっちに向かった事

 シャンバルから注射器を買っていた事

 ユリウスが耐え抜いた事


 全てが上手く重なったからユリウスは助かった


「でも、毎回そう都合良くならないよな」


 また今回みたいな事になったら……次は助かるとは限らない


「医療の発展……大きな課題だな」


 必ず成し遂げないとな……



 俺がそう決意した時だ


「申し上げますカイト様!!」


 ボロボロの兵士がテントに駆け込んできた


「どうした!」


 俺は兵士を見る


「アルス様が……アルス様が!!」

「っ!?」



 俺は兵士からの報告を聞いて、テントを飛び出した































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