第132話 パストーレとの激闘 15
ーーールミル視点ーーー
「レスト! 参ります!!」
レストと名乗った女性が走ってくる
うん、私も相手も馬から降りてるからね、歩兵戦になるよね
「はぁ!」
レストは剣を振ってくる
「えい!」
ガキィン!!
私は斧でレストの剣を受け止める
「この!」
レストは更に剣を振ってくる
「…………」
ギィン!
ギィン!
う、うーん……なんだろ
彼女の剣を受け止めたり受け流したりするんだけど
……うん、間違いない
……彼女は弱い!!
まだユリウスの方が強いね
……なんで将になってるんだろ?
いや、待って!! いけないいけない!
これは私を油断させる為の作戦かもしれない!
「この! はぁぁぁ!!」
「……」
剣で突こうとしてくる
私は刃を縦にして、斧の側面で受け止める
キィン!
「やりますね!!」
「あ、うん……」
後ろに跳んで距離を離すレスト
……えっ? まさか本気なの?
本当に……その程度なの?
嘘だよね?
「……あ、あのさ、レストだっけ?」
「なんですか? 降参しますか?」
「……いや、そんなつもりは無いけど……えっと……」
言うべき?
それで本気なの? って言うべき?
「はぁぁぁ!」
レストが突っ込んでくる
「ふっ!」
「きゃあ!?」
私は身体をそらして、レストの脚に私の脚を引っかける
転けるレスト
あ、でも直ぐに立ち上がった、受け身はちゃんと取れたんだね
「やりますね!!」
「…………」
うわぁ、なに?
私の初めての一騎討ちの相手がこれなの?
勘弁してよ……もっと強い相手と戦いたかったよ……
「もう、終わらせよう……」
私は斧を構える
さっさと倒して次にいこう
「決着をつけるんですね!! 挑むところです!!」
目を輝かせるレスト
……はぁ、やる気は凄いんだけどね
「はぁぁぁぁ!!」
走ってくるレスト
その走り方も隙だらけ……嫌になる
「ふっ!」
ギィン!
「きゃあ!」
私はレストの剣を弾き飛ばす
「はぁ!」
そして斧の背で殴る
バキィ!
「ぎゃう!?」
ドサッ!
これで終わった
アッサリ気絶した
「はぁ……外れだったなぁ……」
近くの兵3人が駆け寄ってくる
彼等に捕縛は任せて、私は他の将を探そう
ルミルVSレスト
勝者 ルミル
「ぎゃあ!?」
「!?」
兵士の叫び
そして私の真横を飛んでいく兵士
兵士は地面を転がり、止まった……気絶してるようだ
「な、なに?」
私は振り返る
「がはっ!」
「ぐぅ……」
残りの2人の兵もやられていた
誰にって?
1人しかいない
「…………」
「レスト……」
レストが立っていた
だけど……なに? さっきと雰囲気が……
「……」
「!?」
一瞬……ほんの一瞬でレストが目の前に移動した
彼女の拳が私の顔に向かってくる
ゴン!!
咄嗟に斧で防ぐ
「ぐぅ!?」
しかし、衝撃が強すぎて、私の身体は後ろに吹っ飛ばされた
ドサッ!
「くっ!」
背中から倒れる私
直ぐに体勢を立て直す
「…………」
「嘘!?」
レストがまた目の前に立っていた
振るわれる拳
今度はしっかりと避ける
「いったいどうなってるのよ!?」
やっぱり実力を隠していたの?
私はレストをよく見てみる
「…………」
「……意識が……ない?」
彼女の目に光は無かった
間違いなく気絶してる
……どういうこと? 気絶したら強くなるってやつなの?
デタラメすぎない?
頭が混乱する
けど、これだけは事実だ
「私がこいつを倒さないといけないわけね!」
やってやろうじゃないの!!
今度はアッサリ倒せそうにないけど!
相手にとって不足はないわ!!
私は斧を構えた
・・・・・・・・・・
ーーーレスト視点ーーー
『お前には才能が無い、やめとけ』
ペンクル伯父さんからはそう言われていた
『鍛えてほしい? 構わんが……無理はするんじゃないぞ?』
ブライお祖父様はそう言った
『お前には期待してない』
お父さんはそう言って私を見なかった
いつからだろう?
軍に入りたいと思ったのは……
子供の頃だったのは覚えてる
何故だろう?
軍に入りたいと思うようになったのは
将だった伯父さんやお祖父様に憧れたからだったかな?
自分で自分がわからない
周りの反対を押しきって、私は軍に入った
周りの兵士に負けないように必死に鍛えた
それでも勝てない……
何故だろう?
身体はちゃんと動くのに……
戦闘の理屈も理解してるのに……
結果がついてこない……
なのに……
『レスト、君を将に任命する』
『……えっ!?』
テリアンヌ様が領主を継いだ時
私を将に任命した
周りの兵も驚いていた
伯父さんやお祖父様も驚いていた
なにより自分が1番驚いていた
『あの、テリアンヌ様……なんで私を将に?』
『んっ?』
自室で寛いでいたテリアンヌ様に呼び出されて、パッスルの相手をしている時に私は問いかけた
『その、私はマトモな戦果も挙げてません……実力だって……それなのに』
『戦果なんて後から挙げればいい、私は知ってるよ? 君が誰よりも努力してるのを……暗くなっても訓練してるし』
そう言ってテリアンヌ様は歩兵の駒を動かす
私は弓兵の駒を動かす
『弓も訓練だと的に良く命中してる』
テリアンヌ様が騎馬兵の駒に触れる
『乗馬だって上手いじゃないか、チェック』
『でも、訓練してても私は……』
私は王様を逃がす
『レストは本番に弱いんだと思う……だから私は君に何回でも本番に挑んでほしいと思ったんだ……そうしたら、いつか君は強くなれる……そう思ったんだ、チェック』
テリアンヌ様が弓兵の駒を動かす
『…………』
私は歩兵の駒で王様を守る
『自信が無さそうだね……レスト』
『はい……』
私はテリアンヌ様を見る
テリアンヌ様は微笑んでいた……
窓からの光で口元しか見えなかったけど……間違いなく微笑んでいた
そしてテリアンヌ様は言った
私が……言われたかった言葉を
『私は君に期待している……一緒に戦ってくれ』
『……っ!! ……はい!』
『よし!』
テリアンヌ様は私の返事に満足したのかパッスルに集中する
歩兵を動かすテリアンヌ様
『テリアンヌ様……』
『んっ?』
私は騎馬兵を動かす
『チェックです』
『あっ!?』
・・・・・・・・・
なんだろう……身体が軽い
世界がゆっくり動いてるように見える
えっと……あ、ルミル居た
先ずは彼女を倒さないと……剣は……弾き飛ばされたんでした!
じゃあ素手でやるしかないですよね!
仕方ないですよね!!
ビュン!
「っ!」
私はルミルに近寄って拳を振る
ルミルはギリギリな様子で拳を避ける
「なんでさっきはこの実力を発揮しなかったの!?」
なんで?
そんなの私が知りたいです
あ、もしかしてルミルに殴られたから、私の隠された実力が発揮されたって事では?
それなら彼女に感謝ですね!!
ダン!
私は一気に踏み込み
ブォン!
拳を振るう
ゴスッ!
「かっ!?」
私の拳がルミルのお腹に命中、鎧越しですけど! 効いてますね!!
……拳が痛いです!!
でも、このままいけば勝てそうですね!!
テリアンヌ様の為にも、勝ってみせます!!
・・・・・・・・
ーーールミル視点ーーー
「ぐっ!」
お腹にレストの拳がはいった!
鎧で防いだのに……響いた……
どうやったらこんな威力になるのよ!?
「はぁ……はぁ……」
「…………」
嫌な汗が出てきた……
どうしよう、ちょっと危ない……
今のレストは異常だ
鎧を殴るなんて普通じゃない
拳から血が出てるのに……彼女はそんなの気にしてない
「くっ!」
そう言えば……オルベリンさんが言っていたなぁ
『戦っている時……急に周りが静かになるときがあった』
『なに言ってんだ?』
休憩の時に不意に呟いたオルベリンさん
ユリウスが反応した
『ワシも何を言っておるか……よくわからん、ふと思い出してな』
『周りが静かになる……オルベリンを見て怯んだんじゃないのか?』
アルス様が言う
『いや、周りは周りで戦っていた……ワシだけは周りの音が聞こえてなかったのだ』
『わかった! 耳が遠くなったんだ! いって!?』
ユリウスが言う
私はユリウスを蹴る
『そうかもしれんな!』
笑うオルベリンさん
『しかし、あの時はいつもよりも戦えた、それは確かだ』
『…………』
……ひょっとして……今のレストって
オルベリンさんが言っていた状態なの?
「…………」
「……よし」
私は斧を仕舞う
戦いを止めた? ううん、そんなつもりはない
私は拳を構える
「来いレスト!」
素手で……挑む!
斧を持って苦戦したのに、素手で勝てるのかって?
わからない!!
でも……斧をつかうよりも、こっちの方が勝てる気がした!
それに、素手の方がやりやすい事もあるんだよ!
「…………」
またレストが目の前に現れて、拳を振るう
「ここ!」
ゴスッ!
パン!
「!?」
レストの拳が私の右脇腹に
私の掌底がレストの顔に当たる
「!!」
レストは怯まずに拳を振る
「はぁ!」
パン!
チッ!
「!!?」
私の掌底が再びレストの顔に当たる
レストの拳が私の左頬を掠めた
掌底を放った左手に生温い感触が伝わる
左頬からも温かい感触が伝わる
レストは鼻血が出て
私は左頬が切れたみたい
「はぁ!」
パン!
パン!
「っ!?」
右、左
2回掌底をレストの顔に叩き込む
流石に効いたのかふらつくレスト
「今!」
ガッ!
「!?」
ガッ!
ブン!
ドゴォ!
レストの脚を引っかけて、身体を持ち上げて、勢いをつけてレストを地面に叩きつける
「がっ!?」
レストの口から呻き声が出た
まだ! このまま休まずに!
私はレストの両腕を手で押さえる
そして両足をレストの首に当てて、一気に押さえつける
「かっ! あっ!?」
首を押さえられて、苦しそうに呻くレスト
まだあの状態? それとも戻った?
どっちでもいい! このまま絞め落とす!!
グッ!
両足に力を込める
もがくレスト
「かっ! …………ごふっ!」
ガクッ! っとレストの身体から力が抜けた
「…………」
私は立ち上がってレストの様子を確認する
呼吸は……うん、弱いけどしてる……勢いで殺しちゃったかと思ったけど……
「いっ……ぐぅ……」
さっき飛ばされた兵士が鼻から血を流しながら、やってきた
「縄貸して」
「は、はい……」
兵士から縄を受け取り、私が自分でレストを縛る
……また起きられたら厄介だからね
「このまま陣まで連行するわ! ついてきて!」
「はい!」
牢に入れるまでは安心できない……1度本陣に戻ろう
ルミルVSレスト
勝者 ルミル
レスト捕縛
ルミル、レストを牢に入れる為に撤退